個人事業主に保険はいらない?不要な人と必要な人の分かれ目
この記事の要点
- 個人事業主に保険がいらないのは、扶養する家族がおらず、生活費と事業の固定費の12か月分以上の貯蓄があり、休んでも入る収入がある人。この条件に当てはまれば、公的制度と貯蓄で足ります。
- 保険が必要になるのは、扶養する家族がいる・貯蓄が固定費の6か月分に満たない・借入や事業の固定費が重い、の3つの状況。会社員と違い、休業中の収入を補う公的制度が原則ないためです。
- 会社員時代に入った保険は、死亡保障が厚く働けないときの保障が薄い設計になりがち。独立後は「働けないとき」を最優先に組み替え、足りているものはやめてかまいません。
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「個人事業主に保険はいらない」という意見は、半分は正しいと考えています。貯蓄と公的制度で足りる人にとって、保険は不要です。問題は、足りているかどうかを確認しないまま「入っていない」状態になっていることです。フリーランス白書2026では、障害年金の受給要件を独立前に知らなかった人が75.3%、遺族基礎年金の要件を知らなかった人が74.8%でした。この記事では、保険がいらない人の条件、必要になる3つの状況、会社員時代の保険の見直し方、最低限の優先順位を、公的制度の数値をもとに整理します。
個人事業主に保険がいらない人の条件:貯蓄と家族構成
保険は、貯蓄で受け止められない出来事に備える手段です。次の3つがそろっている人は、民間の保険がなくても公的制度と貯蓄で対応できます。
- 扶養する家族がいない:自分が亡くなったときに生活に困る人がいなければ、家族のための死亡保障は不要です。
- 生活費と事業の固定費の12か月分以上の貯蓄がある:1年程度働けなくても固定費を払い続けられます。事業の運転資金や納税資金は別に確保したうえでの金額です。
- 休んでも入る収入がある:配偶者の収入、家賃収入、継続課金の売上などで固定費の大半を賄えるなら、休業の影響は限定的です。
特に2つ目の「12か月分」は、傷病手当金がないフリーランスにとっての基準です。会社員は給与の約3分の2が通算1年6か月支給されるため、貯蓄が少なくても1年程度の休業に耐えられます。フリーランスはその分を自分の貯蓄で用意することになります。
公的制度で守られている範囲を先に確認する
「保険に入っていない」ことが問題になるのは、公的制度の穴に該当する出来事が起きたときです。フリーランス(国民健康保険・国民年金)が公的制度でどこまで守られているかを、会社員と比べて整理します。
| 出来事 | 会社員 | フリーランス |
|---|---|---|
| 治療費 | 高額療養費で上限あり | 高額療養費で上限ありここは同じ |
| 休業中の収入 | 傷病手当金(給与の約2/3・通算1年6か月) | 原則なし |
| 重い障害が残った | 障害基礎年金+障害厚生年金(3級まで) | 障害基礎年金のみ1級・2級に限る |
| 亡くなった | 遺族基礎年金+遺族厚生年金 | 遺族基礎年金のみ子のある配偶者または子に限る |
| 老後 | 老齢基礎年金+老齢厚生年金 | 老齢基礎年金のみ満額で月70,608円 |
年金額は2026年4月分からの金額で、老齢基礎年金の満額は月70,608円、厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)は月237,279円です。障害基礎年金は1級が年1,059,125円、2級が年847,300円で、2級は月額換算で約70,600円です。遺族基礎年金は、子のある配偶者または子が受け取る制度で、子のいない配偶者は対象になりません。
個人事業主に保険が必要になる3つの状況
1. 扶養する家族がいる
配偶者や子どもの生活費を自分の収入で支えている場合、自分が働けなくなったときも、亡くなったときも、家族の生活費が止まります。遺族基礎年金は子のある配偶者または子が対象で、会社員のような報酬比例の遺族厚生年金はありません。家族の生活費から遺族基礎年金と配偶者の収入を引いた残りが、保険で備える部分です。
2. 貯蓄が固定費の6か月分に満たない
半年の休業で貯蓄が底をつく状態です。生命保険文化センターの調査では、直近の入院で収入が減った人の逸失収入は平均27.3万円、入院の自己負担は平均18.7万円でした。これは会社員も含めた平均であり、傷病手当金のないフリーランスでは休んだ分がそのまま減収になります。独立直後で貯蓄が薄い時期は、働けないときの備えの優先度がもっとも高くなります。
3. 借入や事業の固定費が重い
事務所の家賃、機材のリース、従業員の人件費、事業資金の借入返済など、売上が止まっても出ていく固定費が大きい人は、同じ貯蓄額でも持つ月数が短くなります。固定費の合計で持ち月数を計算し直すと、貯蓄が十分だと思っていた人でも6か月に満たないことがあります。
会社員時代に入った保険の見直し方
会社員のときに入った保険をそのまま続けている人は多いのですが、会社員向けの設計はフリーランスの穴に合っていないことがあります。見直しのポイントは3つです。
- 死亡保障が厚く、働けないときの保障が薄くないか:会社員は傷病手当金と障害厚生年金があるため、働けないときの備えは手薄でも成り立ちます。フリーランスはその前提が崩れるので、死亡保障を減らして就業不能の保障に組み替える余地があります。
- 勤務先の団体保険が退職で終わっていないか:会社の団体保険や福利厚生としての保障は、退職とともに終わるのが一般的です。「入っているつもり」になっていないか確認してください。
- 医療保険が高額療養費と重複していないか:治療費は高額療養費で上限があります。貯蓄で自己負担を出せるなら、医療保険の保障額や保険料を見直せます。
なお、事業主本人の生命保険料は経費にはなりません。生命保険料控除の対象で、所得税の控除額はそれぞれ上限4万円、合計で12万円です。控除のために保険を続ける必要はありません。税務上の取り扱いは税務署または税理士にご確認ください。
フリーランスが保険に入っていないなら、最低限の優先順位
「何も入っていない」状態から考えるなら、順番は次のとおりです。上から順に、足りているものは飛ばしてかまいません。
- 貯蓄を固定費の6か月分まで積む:保険より先に、短期の休業を受け止める貯蓄です。これがないと、どの保険に入っても短期の穴が残ります。
- 働けなくなったときの月額(就業不能保険):貯蓄で持つ期間を超えて働けなくなったときに、毎月一定額を受け取る保障。固定費から休んでも入る収入を引いた額が上限の目安です。独身でも必要になり得る、フリーランスの最優先の保障です。
- 扶養する家族がいれば、万一のときの収入(収入保障保険):家族の生活費から遺族基礎年金と配偶者の収入を引いた残りを、末子が独立するまでの期間で備えます。扶養する家族がいなければ不要です。
- 老後は制度を優先し、足りない分を個人年金保険で:老齢基礎年金の満額は月70,608円です。生命保険文化センターの調査では、公的年金だけでは老後の生活費に不十分と考える人が79.8%でした。まず小規模企業共済やiDeCoなど所得控除のある制度を使い、それでも足りない分を個人年金保険で補う順番です。
医療保険は、高額療養費があるため、この優先順位では最後になります。貯蓄で入院の自己負担を出せる人は、入らない選択も合理的です。
「入っていない」ことより、「知らずにいる」ことが問題
保険に入っていないこと自体は問題ではありません。公的制度でどこまで守られているかを知ったうえで、貯蓄と家族の収入で受け止められると判断したなら、それは正しい選択です。問題は、傷病手当金がないことを独立前に知らなかった人が48.0%いるように、穴の存在を知らないまま「たぶん大丈夫」で過ごしている状態です。
相談では、収入・固定費・貯蓄・家族構成から必要な額を出し、必要な備えと不要な保険を仕分けします。結果として「保険はいらない」という結論になることもあり、その場合はそのままお伝えします。
よくある質問
Q1貯蓄があれば医療保険はいらないですか?
治療費は国民健康保険の高額療養費制度で月ごとの自己負担に上限があるため、入院の自己負担(平均18.7万円)を貯蓄から出せるなら、医療保険の優先度は低くなります。フリーランスで優先すべきは治療費よりも、休んでいる間の収入です。
Q2独身なら本当に何も要らないですか?
亡くなったときに家族が受け取る保障(収入保障保険など)は不要と考えてかまいません。ただし、自分が働けなくなったときの収入は自分で守る必要があります。貯蓄が固定費の12か月分以上あれば不要、6か月分に満たなければ就業不能保険を検討する、という線引きが目安です。
Q3保険料は経費になるから入ったほうが得ですか?
事業主本人の生命保険料は経費にはなりません。生命保険料控除の対象で、所得税の控除額は3つの区分でそれぞれ上限4万円、合計12万円です。控除のために保険に入る必要はなく、必要な保障を入ったうえで控除を受けるのが順番です。税務上の取り扱いは税務署または税理士にご確認ください。
Q4掛け捨ての保険はもったいなくないですか?
働けなくなったときや万一のときの備えは、必要な期間だけ保障を買う掛け捨て型のほうが保険料を抑えられます。貯蓄を兼ねた保険は保険料が重くなりやすく、独立直後で収入が安定しない時期には負担になることがあります。貯蓄は貯蓄、保障は保障で分けて考えるのが基本です。
出典
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
- 国民健康保険法 第58条(e-Gov法令検索)
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」(老齢基礎年金 月70,608円、厚生年金モデル世帯 月237,279円、障害基礎年金 1級1,059,125円・2級847,300円(年額))
- 生命保険文化センター「2025年度 生活保障に関する調査」(入院の自己負担平均18.7万円、逸失収入平均27.3万円、公的年金だけでは不十分79.8%)
- フリーランス協会「フリーランス白書2026」(独立前に知らなかった: 傷病手当金48.0%・遺族基礎年金の要件74.8%・障害年金の要件75.3%)
- 国税庁 タックスアンサー No.1140「生命保険料控除」
本記事は公的制度の一般的な説明であり、特定の保険商品の内容を説明したものではありません。制度の詳細はお住まいの市区町村・加入先により異なります。税務上の取り扱いは税務署または税理士にご確認ください。
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