フリーランスに傷病手当金がない理由と、休んだ月の収入の守り方
この記事の要点
- 国民健康保険の傷病手当金は法律上の「任意給付」で、通常の病気・ケガで支給している市区町村は原則ありません。
- 会社員の健康保険では、給与(標準報酬日額)の約3分の2が通算1年6か月支給されます。この差がフリーランスの収入の穴です。
- 休んだ月にあてにできるのは高額療養費(医療費の上限)と貯蓄。収入そのものを補う公的制度は原則なく、必要なら民間の保障で備えます。
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会社員からフリーランスになって、いちばん気づきにくい変化が「傷病手当金がなくなる」ことです。フリーランス協会の調査では、独立前にこのことを知らなかった人が48.0%にのぼります。病気やケガで休んだ月に、収入がどうなるのか。この記事では、制度上の理由と、休んだ月にあてにできるもの・できないものを整理します。
傷病手当金とは何か
傷病手当金は、会社員などが加入する健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の給付です。業務外の病気やケガで働けず、連続3日休んだあとの4日目から、給与(標準報酬日額)の約3分の2が支給されます。支給期間は同じ病気・ケガについて通算1年6か月です。
たとえば月給30万円の会社員が3か月休んだ場合、概算で60万円前後を健康保険から受け取れます。給与が止まっても、生活費の大半をこの給付でつなげる仕組みです。
国民健康保険に傷病手当金が「原則ない」理由
フリーランス・個人事業主の多くが加入する国民健康保険では、傷病手当金は法律上の「任意給付」です。国民健康保険法第58条第2項は、市町村や国保組合が「条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる」と定めています。「行わなければならない」ではなく「行うことができる」。つまり、支給するかどうかは各市区町村の判断に委ねられています。
そして実際には、通常の病気・ケガを対象に傷病手当金を支給している市区町村は原則ありません。2020年以降の新型コロナウイルス感染症に限った特例支給はありましたが、対象は給与を受ける被用者で、事業主本人は含まれず、特例自体も終了しています。
会社員とフリーランスの差を表にすると
| 会社員(健康保険) | フリーランス(国民健康保険) | |
|---|---|---|
| 傷病手当金 | 給与の約2/3、通算1年6か月 | 原則なし |
| 高額療養費医療費の自己負担上限 | あり | あり |
| 出産手当金 | あり | なし |
| 保険料の負担 | 会社と折半 | 全額自己負担 |
医療費については、国民健康保険にも高額療養費制度があり、1か月の自己負担には上限があります。つまり「治療費」の面では会社員と大きな差はありません。差が出るのは「休んでいる間の収入」です。
任意継続・国保組合・副業の場合はどうなるか
退職後の任意継続
会社の健康保険を退職後も最長2年続ける「任意継続」を選んでも、任意継続中に新たに発生した病気・ケガについて傷病手当金は支給されません。退職前から受給していた分を引き続き受け取れる場合に限られます。
国保組合
文芸美術国民健康保険組合やIT系の国保組合など、職種別の国保組合には、独自の給付を設けているところがあります。ただし水準や条件は組合ごとに異なり、会社員の健康保険と同等ではないことが多いため、加入している組合の規約で確認してください。
副業の会社員
会社員が副業で収入を得ている場合、傷病手当金は本業の標準報酬月額をもとに計算され、副業収入は含まれません。副業収入で家計の固定費を組んでいる場合、その部分には公的な補てんがありません。
休んだ月に、あてにできるもの・できないもの
- 高額療養費:医療費の自己負担は月ごとの上限まで。治療費の面ではあてにできます。
- 障害年金:1級・2級に該当する重い障害が残った場合の制度で、数か月の休業には使えません。受給までに時間もかかります。
- 労災保険の特別加入:仕事中のケガが対象で、加入している場合に限ります。業務外の病気は対象外です。
- 貯蓄:休んでいる間の生活費は、まず貯蓄で賄うことになります。固定費の何か月分あるかが、備えの必要性を決めます。
生命保険文化センターの調査では、直近の入院で収入が減った人の逸失収入は平均27.3万円でした。これは会社員も含めた平均で、傷病手当金のないフリーランスでは、休んだ分がそのまま減収になります。
休んだ月の家計を、数字で見てみる
イメージしやすいように、仮の例で計算します。月の手取り35万円、固定費22万円、すぐ使える貯蓄150万円のフリーランスが、3か月働けなくなったとします。
- 失う収入:35万円×3か月=105万円
- 固定費の支出:22万円×3か月=66万円(貯蓄150万円から取り崩し)
- 会社員なら受け取れていた傷病手当金(概算):35万円×2/3×3か月=約70万円
この例では貯蓄で3か月は持ちますが、復帰後に案件がすぐ戻らなければ、減収はさらに続きます。貯蓄が固定費の何か月分あるか、そして休む期間がその月数を超えたときにどうするかが、備えの要否を決める分かれ目です。厚生労働省の患者調査では、35〜64歳の平均在院日数は20.2日で、退院後の療養期間はこれに含まれません。
備え方の考え方
備えの順番は「貯蓄で何か月持つか」を先に確認することです。固定費の6か月分以上の貯蓄があり、扶養する家族がいなければ、短期の休業は貯蓄で乗り切れる場合があります。
貯蓄で持つ期間を超えて働けなくなったときに備えるのが、毎月一定額を受け取る民間の保障(就業不能保険など)です。どのくらいの期間・いくらの保障が必要かは、収入・固定費・貯蓄・家族構成で変わります。相談では、その数字をもとに必要な額と不要な保険を仕分けします。
よくある質問
Q1任意継続なら傷病手当金はもらえますか?
退職後に会社の健康保険を任意継続しても、任意継続中に新たに発生した病気・ケガについては傷病手当金は支給されません。退職前から受給していた分を引き続き受け取れる場合はあります。
Q2国保組合(文芸美術国保・IT系の国保組合など)には傷病手当金がありますか?
組合によって独自の給付を設けている場合があります。加入している組合の規約をご確認ください。多くの組合では会社員の健康保険ほどの水準ではありません。
Q3新型コロナのときは国保でも傷病手当金が出たと聞きました。
2020年以降、新型コロナウイルス感染症に限って、被用者(給与を受ける人)を対象に多くの市区町村が特例で支給しました。通常の病気・ケガや事業主本人は対象外で、特例も終了しています。
Q4副業の会社員です。副業の収入は傷病手当金に含まれますか?
含まれません。会社の健康保険の傷病手当金は、本業の標準報酬月額をもとに計算されます。副業収入で家計の固定費を組んでいる場合、その部分には公的な補てんがありません。
出典
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」
- 国民健康保険法 第58条(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省 事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る国民健康保険の傷病手当金について」(2020年3月)
- フリーランス協会「フリーランス白書2026」(独立前に「傷病手当金が出ない」ことを知らなかった48.0%)
- 生命保険文化センター「2025年度 生活保障に関する調査」(入院時の逸失収入の平均27.3万円)
- 厚生労働省「令和5年患者調査の概況」(35〜64歳の平均在院日数20.2日)
本記事は公的制度の一般的な説明であり、特定の保険商品の内容を説明したものではありません。制度の詳細はお住まいの市区町村・加入先により異なります。税務上の取り扱いは税務署または税理士にご確認ください。
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