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産休・育休のないフリーランスの出産。使える制度と収入の備え

公開 / 著者 中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社)

この記事の要点

  • 会社員の健康保険にある出産手当金(産前42日・産後56日、給与の約3分の2)は国民健康保険にはなく、育児休業給付も雇用保険の被保険者だけの制度です。フリーランスには、出産で休む期間の収入を補う公的給付が原則ありません。
  • 国民健康保険でも使えるのは、出産育児一時金、医療費の高額療養費、そして国民年金保険料の産前産後免除(出産予定月の前月から4か月間、多胎は3か月前から6か月間。免除期間は納付済みとして年金額に反映)です。
  • 備えの出発点は「休む期間×固定費」の計算。収入が止まる期間を貯蓄で持てるか、万一のとき子どもと家族の生活をどう守るかを、出産前に整理しておきます。

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会社員なら、出産の前後には産休・育休があり、休んでいる間も健康保険と雇用保険から給付を受け取れます。フリーランスには、その「休む制度」も「休んでいる間の給付」もありません。フリーランス白書2026では、独立前に出産手当金が出ないことを知らなかった人が56.5%にのぼります。この記事では、会社員との差、国民健康保険でも使える制度、休む期間の収入の計算、パートナーの扶養の考え方、出産前に整えておきたい備えを整理します。

会社員の産休・育休で受け取れるもの

まず、会社員が出産で受け取る給付を確認します。差を知るための基準になります。

  • 出産手当金(健康保険):被保険者本人が出産で会社を休み給与が支払われないとき、出産日以前42日(多胎妊娠は98日)から出産日の翌日以後56日の範囲で、給与(標準報酬日額)の約3分の2が支給されます。
  • 育児休業給付(雇用保険):育児休業中に、休業開始時の賃金の67%(181日目以降は50%)が支給されます。要件を満たせば出生後休業支援給付として13%が上乗せされ、手取りに近い水準になる期間があります。
  • 社会保険料の免除:産休・育休中は健康保険・厚生年金の保険料が本人・会社とも免除されます。

つまり会社員は、産前産後の約3か月は給与の約3分の2、その後の育休期間は賃金の67%から50%を、働かずに受け取れます。

フリーランスの出産で「ない」もの

フリーランス・個人事業主の多くが加入する国民健康保険と、雇用保険に入っていない働き方では、次のようになります。

会社員(健康保険・雇用保険)フリーランス(国保・雇用保険なし)
出産手当金産前42日・産後56日、給与の約2/3なし
育児休業給付賃金の67%(181日目以降50%)+出生後休業支援給付13%なし(雇用保険の被保険者のみ)
出産育児一時金ありあり
高額療養費医療費の自己負担上限ありあり
産前産後の年金保険料免除あり(厚生年金・健保)あり(国民年金)
休業中の収入給付でつなぐ貯蓄・パートナーの収入でつなぐ

出産手当金は、健康保険の被保険者本人だけが対象の給付です。国民健康保険では法律上の任意給付で、国民健康保険法第58条が原則として支給を定めているのは出産育児一時金と葬祭費です。育児休業給付は雇用保険の制度で、被保険者は雇用される労働者に限られるため、フリーランス本人は対象になりません。

「産休・育休がない」とよく言われますが、正確には「休むかどうかは自分で決められるが、休んでいる間の収入を補う給付がない」ということです。出産そのものの費用には出産育児一時金と高額療養費があり、差が出るのは休む期間の収入です。

国民健康保険でも使える制度:出産育児一時金・高額療養費・国民年金保険料の産前産後免除

出産育児一時金

国民健康保険の加入者が出産したときに支給される一時金で、健康保険の場合は被保険者の被扶養者の出産でも支給されます。医療機関に直接支払う制度を使えば、出産費用のうち一時金の額までは窓口での立て替えが不要です。金額と手続きは、お住まいの市区町村の国民健康保険窓口でご確認ください。

高額療養費

正常分娩は病気ではないため医療保険の対象外ですが、帝王切開や切迫早産の入院など医療行為にあたる部分は保険診療となり、1か月の自己負担には所得に応じた上限があります。

国民年金保険料の産前産後免除

国民年金の第1号被保険者は、出産予定日(または出産日)が属する月の前月から4か月間、国民年金保険料が免除されます。多胎妊娠の場合は出産予定月の3か月前から6か月間です。一般の免除制度と違い、免除された期間は保険料を納めた期間として扱われ、将来の老齢基礎年金額に反映されます。届出は出産予定日の6か月前から市区町村の国民年金窓口でできます(出産後の届出も可)。所得にかかわらず使える制度なので、該当する方は届出をお忘れなく。

休む期間の収入と固定費を計算する

フリーランスの出産で備えるべき額は、「休む期間」と「固定費」を掛け合わせれば出ます。次の順で書き出してみてください。

  1. 休む期間を決める:会社員の産休にあたる産前6週〜産後8週をひとつの目安に、自分の仕事と体調でどれだけ休むかを決めます。完全に休む期間と、仕事を減らす期間を分けると実態に近くなります。
  2. 固定費を出す:家賃・住宅ローン、光熱費、通信費、国民健康保険料・国民年金保険料(産前産後の免除分を除く)、各種の保険料、事業の固定費(事務所・ツール・外注費)を月単位で合計します。
  3. 減る収入を出す:休む期間は売上がゼロになる前提で、仕事を減らす期間は減らす割合で見積もります。
  4. 一時的な支出を足す:出産費用のうち出産育児一時金で賄えない分、ベビー用品、里帰りの費用などです。
  5. 貯蓄とパートナーの収入で引く:残った額が、出産前に用意しておきたい貯蓄の目安です。

もうひとつ、フリーランスならではの項目として、休んでいる間に止まる取引があります。休業中に取引先が別の発注先へ移ると、復帰後の売上がすぐには戻らないことがあります。復帰後の数か月も、収入が減る期間として見込んでおくと安全です。

パートナーが会社員の場合の扶養の考え方

パートナーが会社員で、出産を機に自分の収入が一定以下になる場合、パートナーの健康保険の被扶養者になり、年金も国民年金の第3号被保険者になる選択肢があります。被扶養者になれば、国民健康保険料と国民年金保険料の負担がなくなります。収入の要件(年収の見込み額の基準)は加入先の健康保険によって運用が異なるため、パートナーの勤務先の健康保険窓口でご確認ください。

ただし、扶養に入っても出産手当金は受け取れません。出産手当金は被保険者本人だけの給付で、被扶養者は対象外です。扶養に入るメリットは保険料の負担がなくなることであり、休んでいる間の収入が補われるわけではない点を区別してください。出産育児一時金は、被扶養者の出産でも支給されます。

また、扶養に入るかどうかは、事業を続けながら収入が回復した時点で扶養から外れる手続きが必要になることや、所得税の配偶者控除・配偶者特別控除の扱いにも関係します。税務上の取り扱いは税務署または税理士にご確認ください。

出産前に整えておきたい備え:貯蓄と、万一のときの家族の保障

出産前後のフリーランスの備えは、2つに分けて考えます。

休む期間の収入=貯蓄で持つ

出産で休む期間は、始まりと終わりがある程度読めます。病気やケガと違って「いつまで続くか分からない」ものではないため、前の章で出した金額を貯蓄で用意するのが基本です。保険で備える対象ではありません。

万一のとき=子どもが生まれると保障の必要性が変わる

子どもが生まれると、万一のときに遺される家族の生活費と教育費が、備えの対象に加わります。国民年金の遺族基礎年金は「子のある配偶者または子」が対象なので、子どもが生まれて初めて受け取れる形になりますが、金額には上限があり、フリーランスには会社員の遺族厚生年金がありません。フリーランス白書2026では、独立前に遺族基礎年金の要件を知らなかった人が74.8%でした。

遺族基礎年金で足りない分を、子どもが独立するまでの期間に限って備えるのが、収入保障保険(万一のとき家族が毎月一定額を受け取る保険)の考え方です。出産を機に見直す保険があるとすれば、医療保険よりもこちらが先になることが多いです。

医療保険は「商品により異なる」が前提

妊娠が分かってから医療保険に入れるかどうか、今回の出産に関する入院・手術が保障されるかどうかは、商品によって異なり、妊娠の経過や週数で条件がつくこともあります。正常分娩は医療保険の対象外で、帝王切開などは高額療養費の対象になるため、出産費用そのものに保険で備える優先度は高くありません。

出産は、フリーランスにとって「収入が止まる期間が事前に分かっている」数少ない出来事です。だからこそ、保険より先に計算と貯蓄で備えられます。相談では、休む期間・収入・固定費・貯蓄・家族構成から必要な額を出し、出産を機に増やす保障と、入らなくてよい保険を仕分けします。

よくある質問

Q1国保組合(文芸美術国保やIT系の国保組合など)なら出産手当金はありますか?

国民健康保険法上、出産手当金は任意給付で、組合によって独自の給付を設けている場合があります。水準や条件は組合ごとに異なるため、加入している組合の規約でご確認ください。

Q2パートナー(会社員)の健康保険の扶養に入れば、出産手当金はもらえますか?

出産手当金は健康保険の被保険者本人だけが対象で、被扶養者は対象外です。扶養に入ると国保・国民年金の保険料負担はなくなりますが、出産手当金は受け取れません。出産育児一時金は被扶養者の出産でも支給されます。

Q3産前産後の国民年金保険料免除は、申請しないと受けられませんか?

届出が必要です。出産予定日の6か月前から、お住まいの市区町村の国民年金窓口に届け出ることができ、出産後の届出も可能です。免除された期間は保険料を納めた期間として扱われ、将来の老齢基礎年金額に反映されます。

Q4妊娠中でも医療保険に入れますか?

妊娠中の加入可否や、今回の出産に関する入院・手術が保障の対象になるかどうかは、商品によって異なります。妊娠の経過や週数によって条件がつくこともあるため、加入を検討する場合は告知内容をもとに個別に確認してください。出産前の備えとしては、まず貯蓄と高額療養費で賄える範囲を確認することをすすめています。

Q5出産後、しばらく仕事を減らす間の収入はどう考えればいいですか?

フリーランスには育児休業給付がないため、収入を減らす期間は貯蓄か、パートナーの収入で賄うことになります。休む期間と減らす期間を分けて、それぞれの月数と固定費を掛け合わせ、必要な貯蓄額を出すところから始めてください。

出典

本記事は公的制度の一般的な説明であり、特定の保険商品の内容を説明したものではありません。制度の詳細はお住まいの市区町村・加入先により異なります。税務上の取り扱いは税務署または税理士にご確認ください。

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