ランサムウェア被害範囲の調べ方。復旧前に残す証拠と費用

ランサムウェア被害で最初に聞かれるのは「いつ復旧できるか」です。しかし、復旧を急ぐほど、侵入経路、情報窃取の有無、バックアップの安全性、休業損害、そしてサイバー保険の対象費用を説明するための証拠が消えていきます。被害範囲の確認とは、暗号化された端末の数を数える作業ではありません。復旧してよい領域と、まだ触ってはいけない領域を、証拠が残っているうちに切り分ける作業です。この記事では、復旧・初期化の前に何を保全し、個人情報保護委員会・警察・保険会社・フォレンジック会社へどう連絡して何を確認していくか、事業中断損害をどう記録するかを、実務の順番に沿って整理します。状況が整理できていない段階でも、相談は始められます。

Summaryこの記事のポイント

  • 復旧前に切り分けるべき線は、システム、アカウント、データ、業務、費用の5つです。台数ではなく、この5線で被害範囲を1枚の地図にします。
  • JPCERT/CC「侵入型ランサムウェア攻撃を受けたら読むFAQ」は、被害範囲の把握、侵入経路の封鎖、攻撃者の要求に応じずバックアップから復旧する方針を示しています。暗号化端末の初期化を急ぐと、この初動と衝突します。
  • 個人情報漏えいのおそれは、暗号化されたかどうかだけでは判断しません。第三者アクセス、外部送信の痕跡、暴露予告を含めて、個人情報保護委員会への報告対象事態を検討します。
  • サイバー保険の保険金は自動では出ず、事故・損害・金額・因果関係・発生時期を被保険者側が資料で説明して初めて支払いにつながります。何をどこまでそろえるかは本文で扱います。身代金の取り扱いは商品・約款・法令・制裁・保険会社承認を含む個別確認事項で、この記事で対象性を断定はしません。

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結論:復旧前に5つの線を引く

ランサムウェア被害範囲の確認とは、暗号化された端末数を数える作業ではなく、侵入経路、影響システム、情報窃取のおそれ、業務停止、保険対象費用を、復旧前に切り分ける作業です。ここを飛ばして復旧だけを急ぐと、後から必ず説明が詰まります。

現場では、それぞれの立場が別の方向を向きます。システム担当者は一刻も早く戻したい。営業は受注を再開したい。経理は請求書を出したい。経営者は取引先や顧客への説明を求められる。この圧力の中で、証拠保全をしないまま端末を初期化し、バックアップを上書きし、ログを消してしまうと、原因が残ったまま復旧して再侵入を招き、漏えい判断も休業損害の説明も弱くなります。だからこそ、復旧に着手する前に、次の5つの線を引きます。

表1:ランサムウェア被害範囲の5分類
見るもの復旧前に残す証拠
システム暗号化端末、サーバー、クラウド、バックアップ画面写真、ホスト名、ログ、バックアップの世代と保護状態
アカウント管理者権限、VPN、RDP、IDaaS、メール認証ログ、権限変更履歴、不審なセッションと発行時刻
データ個人情報、機密情報、共有フォルダ、データベースアクセスログ、外部送信の痕跡、対象ファイル一覧
業務受注、出荷、製造、請求、予約、顧客対応停止時間、売上台帳、遅延リスト、代替作業の記録
費用調査、復旧、通知、広報、法律相談、追加人件費見積書、発注承認、作業報告、請求書

この表の目的は、復旧を遅らせることではありません。触ってよい場所と、まだ証拠保全が必要な場所を分け、業務再開と保険請求・法令対応を両立させることです。5線を1枚の被害地図にしておくと、後から加わる保険会社・フォレンジック会社・弁護士が、同じ前提で話を始められます。逆に、この地図がないまま各所へ個別に連絡すると、同じ質問に別々の答えを返してしまい、報告や請求のたびに前提の食い違いを埋め直すことになります。

課題は「何台やられたか」ではない

ランサムウェアで暗号化された端末の数は、画面を見れば分かります。しかし、保険請求、個人情報対応、そして安全な復旧の判断で本当に効いてくるのは、台数ではありません。攻撃者がどこから入り、どの権限を奪い、どのデータに触れ、どの業務を止めたか。被害範囲と請求範囲は、この因果でつながります。

警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、令和7年に警察へ報告されたランサムウェアの被害は226件でした(出典:警察庁/令和7年/単位:件)。ここで問われるのは台数の多さではなく、事故として認識してから損害に至るまでの筋道を、記録として残せているかどうかです。自社が報告・請求の側に回る前提で、消える前の記録を先に確保しておくと、後の説明が崩れにくくなります。

同じ警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」では、被害に遭った組織を対象としたアンケートで、調査・復旧に要した費用の総額が1,000万円以上だったと回答した組織が全体の5割を超えたことも示されています(出典:警察庁/令和7年/単位:%)。ただし、これは警察へ報告された226件そのものではなく、アンケートに回答した組織を母集団とする数値です。両者は同じ集計対象ではなく、被害を受けたすべての組織や、回答しなかった組織の実態を反映しているわけでもありません。この限界を踏まえてもなお読み取れるのは、金額の大小そのものより、調査と復旧を分けても総額が高額になりやすいという実態です。だからこそ、被害範囲を5線で切り分ける段階から費用台帳を作り、どの費用がどの線に紐づくのかを早めに記録しておくと、後で総額を説明するときに、費目と事故との因果を一つずつ示せます。総額が固まってから台帳を起こそうとすると、消えた見積書や曖昧な発注時期が、そのまま説明の穴になります。

ここで押さえたいのが、「被害範囲」と「保険の請求範囲」は同じではない、という点です。被害範囲は、技術的にどこまで侵害が及んだかという事実の広がりです。請求範囲は、その事実のうち、契約したサイバー保険の約款で対象になり得る費用・損害の範囲です。台数を数えるだけでは、この二つのどちらも説明できません。1台しか暗号化されていなくても、そこが管理者端末で、VPN経由で全社に横展開されていれば被害範囲は全社に及びます。逆に、多数の端末が暗号化されていても、証拠が残っていなければ、事故と休業損害の因果を保険会社へ示せません。

ここで、保険代理店の立場から一つ補っておきます。サイバー保険の保険金は、事故が起きれば自動的に振り込まれるものではありません。被保険者である会社の側が、事故が起きたこと、どのような損害がいくら生じたか、その損害が今回の事故と因果でつながっていること、損害の発生した時期が保険期間内であることを、自ら資料で説明します。免責事由に当たるかどうかは、約款の定めと個別事情に沿って保険会社が判断する領域で、会社側はその判断に必要な事実をそろえて示す立場です。暗号化された端末の台数は、これらのどれ一つも単独では満たしません。台数の多さではなく、事故から損害までの筋道を示せる記録があるかどうかで、支払われる金額は変わります。証拠が薄いまま台数だけを大きく申告しても、因果と金額の裏づけがなければ、その差は自己負担として残ります。

さらに、被害範囲が広いことと、保険で回収できる金額が大きいことも別の話です。サイバー保険には、費用ごとの支払限度額、1事故あたりや保険期間中の通算支払限度額、自己負担額、そして補償対象外として除かれる費用が定められています。被害地図を広げた結果、限度額を超える部分や、そもそも対象外の費用が見えてくることもあります。どこまでを保険で、どこからを自社の資金で担うのかは、被害の全容が固まる前から効いてくる論点です。だからこそ、台数を数える前に、自社の証券で何がどこまで対象になるのかを確認しておくと、復旧に投じる費用の優先順位そのものが変わります。

IPA「情報セキュリティ10大脅威」でも、組織向けの脅威としてランサム攻撃による被害、そしてサプライチェーンや委託先を狙った攻撃が継続して上位に挙げられています。自社の端末だけを見ていると、委託先の保守回線や共有システムを経由した被害を見落とします。被害範囲を見るときは、最初から「自社で完結しない被害」を前提に置きます。委託先が起点だった場合、責任の所在や求償、そして自社の保険と委託先の保険のどちらで対応するかという整理も、早い段階から絡んできます。

隔離とログ保全を復旧判断より前に置く

JPCERT/CC「侵入型ランサムウェア攻撃を受けたら読むFAQ」は、侵入型ランサムウェア攻撃の初動として、被害範囲の把握、侵入経路の封鎖、そして攻撃者の要求に応じずバックアップから復旧する方針を示しています。実務では、侵害が確認されたシステムの切り離し、侵害アカウントへの対応、予防的なアクセス制御、そして被害を免れたバックアップの保護が問題になります。ここで大切なのは順番です。隔離とログ保全を、復旧判断より前に置きます。

前掲の警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」では、侵入経路が判明した事案の多くがVPN機器やリモートデスクトップを経由しており、判明分ではこの二つでおよそ8割を占めています(出典:警察庁/令和7年/単位:%)。これは経路を特定できた事案に限った内訳で、原因不明の事案を含む全体の割合ではありません。それでも、暗号化された端末を初期化する前にVPN・RDPを閉じ、認証情報を見直すという判断を裏づける数字です。入口を残したまま戻せば、同じ経路からまた侵入されます。

もっとも起こしやすい誤りが、暗号化された端末だけを見て、それを初期化して復旧させてしまうことです。管理者アカウント、VPN、RDP、外部公開サーバー、委託先の保守回線のいずれかに攻撃者の足がかりが残っていれば、復旧後にまた入られます。初期化やバックアップからの復元は、証拠保全と侵入経路の封鎖を確認してから行います。再侵入は、技術的な手戻りであると同時に、保険の面でも重い意味を持ちます。一度目の事故と二度目の事故が別々の事故として扱われるのか、同一原因による一連の事故として一つの限度額の中で処理されるのかによって、支払われる金額が変わることがあるためです。原因を残したまま急いで戻すことは、この判断を自社に不利な側へ動かしかねません。

バックアップも「あれば安心」ではありません。バックアップ自体が暗号化・削除されていないか、攻撃者が事前に触っていないか、そして復元後に同じ侵入経路から再侵入されないかを確認します。復元は証拠の上書きでもあります。復元を実行する前に、対象端末のログ、メモリ、ディスクの状態、攻撃者の脅迫文やファイル拡張子を保全しておくと、後の侵入経路特定と損害範囲の説明が保てます。現実的には、「原因に触れて調べるチーム」と「業務を再開させるチーム」を分け、どの端末を証拠として凍結し、どの端末を先に戻すかを合意してから動きます。証拠として凍結した端末は、いつ、誰が、どのような状態で保全したかを記録しておくと、後にフォレンジック会社や保険会社へ引き継ぐときに、その記録がそのまま裏づけになります。

漏えいのおそれは暗号化だけで判断しない

ファイルが暗号化されただけに見えても、侵入型ランサムウェア攻撃では、暗号化の前に情報を窃取し、公開をちらつかせて二重に脅す手口が伴うことがあります。したがって、個人情報漏えいのおそれを「データが外に出たと確定したかどうか」だけで判断するのは危険です。

個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」は、不正アクセスやランサムウェア等により個人データが暗号化され復元できなくなった場合や、不正な目的による行為のおそれがある場合などを、報告対象事態として案内しています。つまり、漏えいが確定していなくても、おそれの段階で報告と本人通知の要否を検討する必要があります。報告対象事態に当たると判断した場合、個人情報保護委員会への速報は事態を知った時点から速やかに、具体的には概ね3〜5日以内が目安とされ、確報は30日以内に提出します。不正の目的をもって行われたおそれがある行為に起因する場合、確報の期限は60日以内です。この時計は調査の完了を待ってくれないため、5線の被害地図を作りながら、確定していない部分は「調査中」と記したまま速報を出し、確報までに埋めていく順番で動きます。確認すべきは、第三者が閲覧した可能性、外部送信の痕跡、暴露サイトへの掲載、本人への被害のおそれ、そして対象となり得る人数です。

この漏えい判断は、保険の面でも軸になります。個人情報の漏えいやそのおそれに関する調査費用、通知・お詫び費用、コールセンター費用、見舞金や損害賠償への備えは、サイバー保険で対象になり得る一方、いずれも「漏えい等が起きた、またはそのおそれがある」という判断を前提に動きます。この判断の根拠を残さないまま費用だけが先行すると、後から事故との結びつきを説明できず、対象費用としての整理が難しくなります。逆に、報告対象事態を検討した過程を記録しておけば、それが保険会社への説明でもそのまま使えます。

調査は数日から数週間かかることがあります。その間、事実を「確定」「推定」「調査中」に分けたメモを作り、更新のたびに時刻を記録します。この整理は、個人情報保護委員会への報告、本人通知の文面、そして後の賠償・費用の説明で、そのまま土台になります。関連する初動の時間軸は個人情報漏えいの初動72時間でも整理しています。

事業中断損害を「止まった」だけで説明しない

サイバー保険で休業損害や追加費用を検討するとき、「業務が止まった」という事実だけでは足りません。どの業務が、何時から何時まで止まり、それが売上、粗利、追加人件費、外注費、キャンセルにどう影響したか。事故と損害の因果を、数字と記録でつなぎます。停止そのものではなく、停止と減収の関係を証明する資料が請求の中身になります。

表2:休業・追加費用で残す資料
影響残す資料保険請求上の論点
製造・出荷停止停止時間、製造計画、出荷遅延リスト、代替作業記録事故と売上減少の因果関係
EC・予約停止アクセスログ、注文キャンセル、復旧時刻、広告停止記録通常の需要変動との区別
外部専門費用見積書、発注承認、作業報告、請求書事前承認と対象費用の範囲
顧客・本人対応通知件数、窓口履歴、FAQ、発送費用漏えい判断と通知費用の対象性

休業損害の補償には、多くの商品で待機時間と復旧期間という二つの時間の考え方があります。待機時間は、事故発生から一定時間までの損害を対象外とする区切りで、これを下回る短時間の停止は補償の対象にならないことがあります。復旧期間は、いつからいつまでの利益減少を見るかという範囲で、システムが技術的に復旧した後も、受注や生産が事故前の水準に戻るまでの期間をどう扱うかが論点になります。停止時刻と復旧時刻を分単位で残しておかないと、この二つの区切りに自社の損害を当てはめられません。昼過ぎに止まって翌日には戻った、といった記憶ベースの説明では、待機時間を超えた部分がどれだけあったかを示せず、対象になり得た損害まで落としてしまいます。

この資料は、復旧担当だけでは残りません。停止時間はシステム担当、売上影響は経理と営業、キャンセルはカスタマーサポート、通知費用は広報や法務が握っています。事故対応の初日から、経理・営業・カスタマーサポート・広報・保険担当が同じ費用台帳と時系列を見る体制をつくると、後から記憶で再構成する無理がなくなります。製造業では工場・拠点・委託先をまたぐため、停止範囲の記録が特に複雑になります。業種特有の論点は製造業を狙うサイバー攻撃と保険の備え方で補足しています。

フォレンジック・復旧・広報・法務費用の承認

ランサムウェア対応で自己負担が膨らむのは、復旧費用そのものだけが理由ではありません。原因が残ったまま復旧して再停止する、外部調査を二重に発注する、保険会社の承認前に高額な費用を発注してしまう、休業損害の資料が残らない。こうした初動のズレが、後から対象外費用を積み上げます。経済合理性の要は、再侵入と対象外費用をどれだけ減らせるかにあります。

緊急の復旧と証拠保全は、どちらかを捨てる関係ではなく、チームと手順を分ければ同時に進められます。原因に触れて調べる作業と、業務を戻す作業を並行させながら、消える前の証拠を先に凍結しておく。一方で、発注前の連絡や承認、指定・推奨ベンダーの利用が対象費用の条件になるかどうかは、商品によって扱いが分かれます。事前承認や指定ベンダーを条件とする商品もあれば、そうした定めを置かない商品もあり、一律ではありません。フォレンジック、復旧、広報、法務といった外部専門費用が契約したサイバー保険で対象になり得るとしても、その条件は自社の証券・約款・事故受付窓口で確かめるほかありません。急ぎたい場面ほど、発注の前に事故受付窓口へ連絡し、対象費用と承認手順を確認する一手間が効きます。事前承認を条件とする商品では、承認を得ずに自社の判断だけで進めた費用が、金額は妥当でも手続き上の条件を満たさないという理由で対象外になり得るからです。

見落としやすいのが、事故が起きたときの通知義務です。多くの約款は、事故を知ったら遅滞なく保険会社へ通知することを求めており、通知が遅れると、その遅れによって拡大した損害が支払いの対象から外れることがあります。復旧を優先して数日間連絡を後回しにすると、証拠だけでなく、この通知の起点も曖昧になります。事故を認識した日時、最初に取った対応、誰がいつ何を判断したかを時系列で残すことは、通知義務を果たした事実を示すことにもつながります。加えて、費用ごとの支払限度額や自己負担額を事前に把握しておくと、どの費用にどこまで保険が効き、どこからが持ち出しになるのかを、発注のたびに見積もりながら進められます。

保険代理店が対応に入る意味は、専門ベンダーの代わりに技術調査をすることではありません。保険証券上の対象費用、事前承認、免責、事故通知、休業損害の資料整理を、技術対応と同じタイムラインに乗せることです。技術・法令・保険の三つの時計を別々に回さず、費用台帳という一つの土台に合わせます。無料の相談段階で、自社の証券がどの費用をどこまで見るのか、承認や通知の手順はどうなっているのかを先に確認しておくと、いざ事故が起きたときに、対象になり得た費用を手続きの不備で落とす事態を避けられます。サイバー保険そのものの仕組みはサイバー保険とはで解説しています。

連絡先ごとに持参する資料を分ける

ランサムウェア対応では、個人情報保護委員会、警察、保険会社・代理店、フォレンジック会社という複数の相手に、ほぼ同時に連絡することになります。それぞれ目的が違うため、一つの連絡を待って他を止めるのではなく、並行して進め、持参する資料を相手ごとに分けます。順番に迷ったら、証拠保全を最優先にしつつ、速報・確報の期限が先に動き出す個人情報対応と、承認の要る保険連絡を早めに動かします。速報の期限は事態を知った時点から数えるため、連絡の順番を決めるうえでも、この起点をいつに置くかを社内で共有しておきます。

表3:連絡先ごとの目的と持参資料
連絡先主な目的持っていく資料
個人情報保護委員会漏えい等報告と本人通知の要否整理対象データの種類、件数の推計、外部送信の痕跡、調査状況(確定・推定・調査中)
警察被害相談、捜査への協力、注意喚起情報の取得脅迫文、ファイル拡張子、攻撃者からの連絡、保全済みログ、被害の時系列
保険会社・代理店事故通知、対象費用と事前承認の確認保険証券・約款、見積書、復旧計画、費用台帳、停止業務と売上影響
フォレンジック会社侵入経路・被害範囲の特定と再発防止保全済みログ、ネットワーク構成図、権限・アカウント一覧、バックアップ状態

同じ「被害範囲」でも、報告対象事態の判断には個人情報の所在と件数が、保険請求には費用台帳と停止時間が、フォレンジックには保全済みログと権限一覧が要になります。表1で作った被害地図を、この4方向に切り分けて渡すイメージです。相手ごとに提出物を分けておくと、後から矛盾した数字を各所に伝えてしまう事態も防げます。特に、警察へ提出した被害の時系列と、保険会社へ示す停止時間や損害の起点は、同じ事故を別の言葉で語るものです。ここが食い違うと、事故の説明そのものへの信頼が揺らぎます。

相談後に一緒に確認する観点

初回相談で見るのは、完璧な調査報告書ではありません。復旧してよい場所と、保険・報告に使う「消える前の証拠」の扱いです。全容が固まっていない段階でも、まずご相談いただければ、次の項目を確定と未確定に分けながら那由他と一緒に確認していきます。

  • 発覚日時と、最初に見つかった端末・サーバー・アカウント
  • 暗号化画面、脅迫文、ファイル拡張子、暴露予告、攻撃者からの連絡
  • ネットワーク構成、VPN・RDP・外部公開サーバー、委託先接続
  • バックアップの場所・世代・時点、復元テストの有無と保護状態
  • 個人情報・機密情報の所在、外部送信ログ、対象人数の仮説
  • サイバー保険証券、約款、事故受付窓口、すでに発注した費用
  • 停止した業務、停止時間、売上影響、追加費用、顧客対応の記録

これらの多くは、時間が経つほど再現が難しくなります。ログは保持期間を過ぎれば消え、停止時間や対応の判断は記憶が薄れ、発注済みの費用は請求書が届くまで金額が曖昧なままになります。だからこそ、整理が途中の段階でも早めにご相談いただき、何から手をつけるかを一緒に決めるのが合理的です。ここまで見てきたとおり、証券・約款・事故連絡先の中身は商品ごとに違うため、補償の境界は契約内容と事故状況に沿って個別に確かめることになります。那由他保険テクノロジーズにご相談いただく場合は、技術調査、個人情報対応、保険対象費用、休業損害の資料を切り分け、どこまでが自社の証券で対象になり得て、どこに事前承認や通知の手続きが要るのかを踏まえて、保険会社へ説明できる初動メモに落とし込みます。復旧を止めるためではなく、復旧と請求・報告を同時に進めるための整理です。

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FAQ

暗号化された端末だけ初期化して復旧してよいですか?

すぐに初期化すると、侵入経路、横展開、情報窃取、保険請求に必要な証拠が失われることがあります。業務継続のために復旧する端末と、証拠として保全する端末を分け、管理者アカウントやVPN・RDPなど侵入経路の封鎖を確認してから復旧に進みます。

バックアップがあれば安心ですか?

バックアップが暗号化・削除されていないか、攻撃者が事前に触っていないか、復元後に同じ侵入経路から再侵入されないかを確認します。復元は証拠の上書きでもあるため、復旧前にバックアップの保護と侵入経路の封鎖、対象端末の状態保全を確認します。

個人情報漏えいは、データ流出が確定してから考えればよいですか?

不正アクセス、外部送信の痕跡、暴露予告、個人データの暗号化などがあれば、確定を待たず、おそれの段階で個人情報保護委員会への報告対象事態と本人通知の要否を検討します。事実は確定・推定・調査中に分けて整理し、更新のたびに時刻を残します。

サイバー保険でフォレンジック費用は出ますか?

商品、約款、事故内容、事前承認や指定・推奨ベンダーの定めの有無によって扱いが変わり、これらを条件とする商品もあれば、置かない商品もあります。発注前に保険会社または代理店へ連絡し、自社の証券で対象費用と承認手順がどうなっているかを確認します。事前承認を条件とする商品では、承認前の高額な発注が対象外となることがあります。

休業損害はどう証明しますか?

停止した業務、停止時間、通常売上、キャンセル、出荷遅延、代替作業、追加人件費を部門別に記録します。「止まった」という事実だけでなく、システム停止と売上減少の因果関係を、売上台帳や業務ログで説明できる形にします。待機時間や復旧期間の考え方があるため、停止時刻と復旧時刻は分単位で残します。

身代金はサイバー保険で支払われますか?

身代金の取り扱いは、商品・約款によって定めが分かれるうえ、関係法令や制裁措置、保険会社の承認などが関わる個別確認事項です。この記事で対象・対象外を断定することはできません。JPCERT/CCは攻撃者の要求に応じずバックアップから復旧する方針を示しており、支払いの是非と保険の取り扱いは、必ず約款と保険会社・代理店、必要に応じて専門家へ確認してください。

参考一次情報・公的資料

情報確認日:2026年7月17日

執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月17日

本記事は一般的な情報提供であり、特定のサイバー事故対応、法令報告、保険金の支払い、損害賠償責任、復旧結果を保証するものではありません。補償・引受・保険料・保険金の支払は、免責、対象費用、必要書類、身代金の取り扱いを含め、保険商品・約款・契約条件・事故状況・関係法令・個別事情によって決まり、同種の商品でも扱いが分かれます。法務・税務・労務・会計にわたる判断は専門家の確認が要ることがあり、保険の適用は保険会社・代理店へご確認ください。