
外航貨物海上保険は、保険証券に書いた対象貨物と輸送区間について、輸送中に起きた偶然な損害を補償する保険です。加入しているかどうかだけでは、自社の船積みに合っているかは決まりません。売買契約に書いたIncotermsの規則と、手元の証券に書かれた被保険者、補償区間、補償条件を読み合わせるところが出発点になります。事故が起きたときも、保険会社・代理店への事故通知と、契約上の運送人へ出すClaim Notice(損害通知)は別の作業です。
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外航貨物海上保険の定義と補償の範囲
外航貨物海上保険とは、保険証券で定めた対象貨物、輸送区間、補償条件のもとで、輸送中に生じた偶然な損害に備える損害保険です。補償されるかどうかは、貨物が国際輸送に乗っていたという事実ではなく、証券に書いた貨物、区間、条件に当てはまるかで決まります。補償の対象になる主な場合と、支払われない主な場合は、保険会社が条件ごとに公表しています(東京海上日動「外航貨物海上保険 補償内容」)。
支払いの対象にならない主な例として、貨物そのものが持つ欠陥や性質による腐敗、変質、錆、目減り、梱包が十分でなかったことによる損害、輸送の遅延によって生じた損害などが挙げられています。これらは代表的な例です。逆にいえば、擦り傷や汚れといった見た目の損傷が、条件を問わず一律に対象外になるわけではありません。実際に支払われるかどうかは、個別の保険証券、約款、付帯した特約、事故の状況によって変わります。自社の貨物にどこまで当てはまるかは、証券と約款の該当条項を保険会社・代理店に示して聞くのが確実です。
法人が入る損害保険の中でこの保険がどの役割を担うのかを見ておきたい場合は、法人向け損害保険の種類もあわせて読むと、賠償責任や火災、休業といったほかの種目との違いが分かります。
Incoterms 2020の危険移転と保険手配義務
Incotermsは、売主と買主のどちらが何をするかを規則ごとに定めたものです。読むときは、危険(貨物の滅失・損傷の負担)が移る時点、費用をどちらが持つか、運送契約を誰が結ぶか、保険を手配する義務が誰にあるかを、それぞれ別の項目として押さえます。この四つは同じ時点や同じ当事者にそろうとは限りません。
FOB・CFR・CIFは海上および内陸水路輸送向けの規則で、いずれも指定船積港で貨物が本船の船上に置かれた時に引渡しと危険移転が起こります。CFRとCIFでは売主が指定仕向港までの運送契約を結び、CIFではさらに売主が保険を手配します(ICC Digital Library「Rules for Sea and Inland Waterway Transport」)。CIP・DAP・DDPは輸送手段を問わない規則です。CIPは売主が指定した運送人へ貨物を引き渡した時に危険が移り、売主が運送契約と保険手配を負います。DAPは指定仕向地での引渡し、DDPは輸入通関を済ませたうえでの引渡しです(ICC Digital Library「Rules for Any Mode or Modes of Transport」)。
代表的な六つの規則について、引渡しと危険移転の時点、売主が結ぶ運送契約、売主の保険手配義務を並べます。
| 規則 | 引渡し・危険移転 | 売主の運送契約 | 売主の保険手配義務 |
|---|---|---|---|
| FOB | 指定船積港で本船の船上 | なし | なし |
| CFR | 指定船積港で本船の船上 | 指定仕向港まで | なし |
| CIF | 指定船積港で本船の船上 | 指定仕向港まで | あり(ICC(C)または同等) |
| CIP | 指定地で運送人へ引渡し | 指定仕向地まで | あり(ICC(A)または同等) |
| DAP | 指定仕向地で買主の処分に委ねた時 | 指定仕向地まで | 規則上の定めなし |
| DDP | 指定仕向地で買主の処分に委ねた時(輸入通関済み) | 指定仕向地まで | 規則上の定めなし |
表の「あり」は、別の合意がない場合の既定の水準を指します。CIFでは保険金額を契約価額の110%とし、契約の通貨で付保したうえで、売主が保険証券または保険証明を買主へ渡します。CIPの既定はICC(A)または同等です。いずれも当事者の合意で変えられるため、規則名だけで補償の中身は決まりません。契約書に規則名、指定場所・港・点、採用版(Incoterms 2020など)が書かれているかを読み取り、そのうえで実際に発行された証券またはCertificateの条件欄と突き合わせてください。
保険証券の確認項目:被保険者・区間・条件・免責
証券が届いたら、売買契約書と船積書類を横に置き、欄ごとに読み合わせます。次の項目は、Invoice、Packing List、B/LまたはWaybill、CIF取引で受け取るCertificateと突き合わせられます。
- 対象貨物の品名、数量、荷姿がInvoiceとPacking Listの記載と合っているか
- 被保険者の名義が、保険金を請求する会社と同じか
- 保険金額と通貨が、Invoice金額および契約通貨と対応しているか
- 補償区間の始点と終点が、B/LまたはWaybillの積地・揚地と自社の輸送経路に対応しているか
- 保険期間と適用条項で、通常の輸送過程を外れた保管や国内区間がどう扱われるか
- ICCの適用版と条件(A・B・Cの別)、追加や修正のある条項
- 免責事由と免責金額
- War、Strikes、S.R.C.C.などの特約の有無
- 事故が起きたときの通知先と通知条件
食い違いが出た欄は、聞く相手が分かれます。品名や金額の違いは自社の営業・購買と輸出入担当へ、積地・揚地や積替港の違いはフォワーダーへ、条件や特約、通知条件の違いは保険会社・代理店へ回します。CIF取引でCertificateしか手元にない場合は、売主に元の証券条件の提示を求めてください。
ICC(A)(B)(C)の補償条件と免責・特約
ICC(A)(B)(C)は、補償される事故原因の広さが異なる条件です。(A)がもっとも広く、(B)と(C)は保険金を支払う場合として挙げられた原因に絞られます。あわせて、条件の別にかかわらず支払われない主な場合が定められ、戦争危険やストライキ・暴動・騒じょう(S.R.C.C.)は本体条件とは別の個別条件として扱われます(東京海上日動「外航貨物海上保険 補償内容」)。
ここで注意したいのは、条件名だけを見ても支払いの結果までは読み取れない点です。同じ(A)条件でも、証券に書かれた適用版、追加や修正のある条項、免責事由、付帯した特約の組み合わせで補償の内容は変わります。保険会社の案内でも、免責は特別約款などによって異なる旨が示されています。自社の貨物と航路に照らしてどこまで対応できるかは、証券の条件欄と約款の条項、そして起きた事故の内容を並べて、保険会社・代理店に個別に聞くことになります。
コンテナ荷動き量・貿易額の統計と自社輸送データ
国際輸送と日本の貿易がどのくらいの規模で動いているかは、公的機関や業界団体の集計から読み取れます。以下に挙げるのは、コンテナ荷動き量が年間の値、貿易統計が月ごとの速報値です。貿易統計は毎月更新されるため、最新の数字は出典元で確認してください。
日本海事センターの集計では、2025年の世界地域間コンテナ荷動き量は世界合計で1億9,133万TEUでした(日本海事センター「世界のコンテナ荷動き量」)。
財務省が2026年7月22日に公表した令和8年6月分貿易統計(速報)の概要では、2026年6月の輸出は10兆9,290億円、輸入は11兆3,359億円です(財務省「令和8年6月分貿易統計(速報)の概要」)。
いずれも規模を示す背景の数字であり、自社の事故の起こりやすさ、補償の過不足、必要な保険金額を導くものではありません。
自社の話に移すときは、手元の書類から次の値を書き出します。直近のB/LまたはWaybillの番号と本数、積地・揚地と経路、積替港、途中の保管地点と保管日数、1件当たりの貨物価額、同じ船や同じ倉庫に同時に載る金額、年間の累積付保額、月あたりの輸送頻度です。多くはInvoice、Packing List、B/L、フォワーダーからの輸送手配書に載っています。書き出した値を証券の補償区間、保険期間、保険金額の欄と並べ、対応していない箇所を保険会社・代理店とフォワーダーへ照会してください。
貨物事故発生時の安全確保・連絡・記録・必要書類の区分
火災、漏えい、荷崩れなど現場に危険がある場合は、人身と現場の安全を貨物保険の手続きより先に置きます。写真も書類も、人の安全が確保できてからです。危険物や漏えいをともなう事故では、適用される法令と、消防、警察、港湾管理者などの公的機関の指示が優先します。どの法令や届出が関わるかは貨物、事故が起きた場所、輸送手段によって違うため、自社の管理部門や現地の担当者へ個別に当たってください。
安全が確保できたら、貨物はできる限り事故発見時の状態のまま保管します。ただし濡れなどで損害が広がるおそれがある場合は、貨物と梱包の写真を撮ったうえで仕分けや手直しを行える例が、保険会社の案内にも示されています(東京海上日動「事故発生時の必要書類」)。開梱や移動をどの場面でも止めなければならないわけではありません。どこまで手を付けてよいかは貨物の性質、損害の広がり方、保険会社・代理店の指示によります。
事故発見時の状態は、到着時のリマーク、事故報告、入庫報告書やDevanning Report、Delivery Report、EIR(機器受渡書)などの受渡記録に残します(AIG損害保険「外航貨物海上保険の保険金請求」)。写真は貨物全体、損傷部位、梱包材、コンテナ、温度チャートなど、後から状態を説明できる範囲で撮ります。ただし記録がそろっても、それだけで事故の原因、責任の所在、支払いの可否が決まるわけではありません。
保険会社・代理店へは事故の発生を連絡し、サーベイ(損害調査)の要否、損傷した貨物の取扱い、そろえる書類を聞きます。連絡した時点で補償の可否や支払額が決まるものではなく、その後の調査と書類のやり取りが続きます。
これとは別に、契約上の運送人へClaim Noticeを出す作業があります。宛先はB/LまたはWaybillの相手方となる船会社やフォワーダーで、保険会社への事故通知とは目的も宛先も違います。損保ジャパンの案内では、この通知が運送人への求償権の保全と結び付けて説明されています(損保ジャパン「保険金請求に必要な書類」)。送った書面、宛先、送付日時、配達の受領記録、運送人からの返信は、まとめて保存してください。いつまでに出すかはB/L・Waybillの条項、約款、保険会社・代理店の個別の指示で異なります。すべての契約に共通する日数や、期限を過ぎた場合の効果を一律に決めることはできないため、契約ごとに条項を読み取ります。
請求の場面で求められる書類は、何がいつどこで起きて損害がどこまで及んだのかを、後から第三者へ説明するために使います。何をどこまで求められるかは、事故の内容、貨物の性質、締結した契約、保険会社によって変わります。次に挙げるのは、その代表例です。
- 保険証券またはCertificate
- Invoice、Packing List
- B/L、Waybill、AWB
- 損傷した貨物、梱包材、コンテナの写真
- 入庫報告書、Devanning Report、Delivery Report、EIRなどの受渡記録
- 運送人へのClaim Noticeの写しと運送人からの返信
- 事故報告書、Claim Note
温度チャートや事故現認書のように、貨物と事故の形態に応じて追加を求められる資料もあります。手元にない書類は、フォワーダー、倉庫会社、船会社、海外の売主のうち誰が持っているかを先に割り出しておくと、依頼が一度で済みます。法人契約全般の事故対応の進め方は法人保険の事故対応にまとめています。
なお、この記事が引用している保険会社の補償・事故対応資料は、補償の範囲と保険金請求の手続きを説明するものです。現場での具体的な安全手順や、法令上の義務そのものの直接の根拠にはなりません。危険をともなう事故では、自社の管理部門、現地の担当者、公的機関の指示に従ってください。
条件の照合に使う契約・証券・記録
貨物名と保険料だけを伝えても、条件の食い違いは見つかりません。条件のずれは、次の契約・証券・記録を突き合わせると見えてきます。どこから確認すればよいか分からない段階でも、状況をうかがいながら一緒に照合を進められます。
- 売買契約書、注文書(Incotermsの規則、指定場所・港、採用版が分かるもの)
- Invoice、Packing List
- B/LまたはWaybill
- 保険証券またはCertificate、約款、特約条項
- 船積み通知(Shipping Advice)
- 事故記録(事故報告書、写真)
- 受渡記録(入庫報告書、Devanning Report、EIRなど)
- 通知記録(保険会社への事故連絡、運送人へのClaim Noticeと返信)
すべてが手元になくても相談は始められます。むしろ、どの書類が欠けていて、誰に依頼すれば出てくるのかを書き添えておくと、初回の打ち合わせで照会先を決められます。相談する相手を選ぶ段階なら保険代理店の選び方を、貨物保険以外の契約も含めて点検するなら法人保険見直しチェックリストを参考にしてください。
那由他保険テクノロジーズの契約・証券・事故資料の照合支援
売買契約に書いたIncotermsの規則と、実際に発行された証券の条件が対応しているか。事故が起きたとき、保険会社への連絡と運送人へのClaim Noticeを誰がどの書面で出すのか。この二つは、書類が売主、フォワーダー、保険会社に分かれて存在するため、自社だけでは詰め切れないことがあります。
那由他保険テクノロジーズでは、売買契約書、保険証券またはCertificate、Invoice、Packing List、B/LまたはWaybill、船積み記録、事故記録の記載を論点ごとに並べ、対象貨物、補償区間、限度、免責、除外、War・Strikesなどの特約、通知と更新の条件を照合します。あわせて、契約書類だけでは分からない項目と、保険会社・代理店へ聞く事項を項目ごとに書き出します。
相談の場では、書類の間で一致した項目、食い違った項目、まだ誰にも聞けていない項目と、その照会先(保険会社・代理店、フォワーダー、海外の売主、社内の購買・輸出入担当)を一緒に見ていきます。特定の形式の資料をお渡しすることをお約束するものではなく、保険料の水準や保険金の支払いを保証するものでもありません。
よくある質問
外航貨物海上保険は誰が手配しますか?
売買契約で採用したIncotermsの規則によって変わります。CIFとCIPでは売主に保険手配の義務があり、FOBとCFRでは規則上の義務がありません。まず契約書で規則名、指定場所・港、採用版を読み取り、実際に発行された保険証券またはCertificateの写しを取り寄せてください。
CIF条件なら買主は保険を見なくてよいですか?
見る必要があります。CIFで売主が手配する保険は、別の合意がなければICC(C)または同等の条件、保険金額は契約価額の110%が既定です。その条件で自社の貨物に対応できるかは、証券またはCertificateの条件欄と自社の貨物・輸送経路を突き合わせたうえで、保険会社・代理店に聞いてください。
ICC(A)ならすべての損害が補償されますか?
条件名だけでは決まりません。ICC(A)は補償される事故原因がもっとも広い条件ですが、支払われない主な場合が定められており、戦争危険やストライキ・暴動などは別の個別条件で扱われます。実際の支払いの可否は、証券に書かれた条件、約款、付帯した特約、事故の状況によって個別に決まります。
事故のときは保険会社へ連絡すれば足りますか?
保険会社・代理店への事故通知と、契約上の運送人へ出すClaim Noticeは別の作業です。保険会社へはサーベイの要否、損傷貨物の取扱い、必要書類を聞き、運送人へは書面でClaim Noticeを出して、宛先、送付日時、配達の受領記録、返信を保存します。提出の期限や方法はB/L・Waybillの条項、約款、保険会社の個別の指示によって異なります。
包括契約と個別契約はどちらを選べばよいですか?
輸送の頻度、貨物の種類、保険会社の引受方針によって扱いが変わるため、どちらが有利かを一般論で決めることはできません。年間の輸送回数、1件当たりの貨物価額、仕向国、輸送手段を書き出したうえで、適用できる契約方式と手続きを保険会社・代理店に聞いてください。
相談では何から整理していきますか?
まずは、どの取引のどこが不安かをうかがい、状況や論点を那由他が一緒に整理します。そのうえで、売買契約書、Invoice、Packing List、B/LまたはWaybill、保険証券またはCertificate、船積み通知、事故記録、受渡記録、通知記録を順に確認しながら、証券の条件と実際の取引の対応関係を突き合わせていきます。
参考一次情報・公的資料
- ICC Digital Library「Incoterms 2020 Rules for Sea and Inland Waterway Transport」
- ICC Digital Library「Incoterms 2020 Rules for Any Mode or Modes of Transport」
- 東京海上日動「外航貨物海上保険 補償内容」
- AIG損害保険「外航貨物海上保険の保険金請求」
- 東京海上日動「事故発生時の必要書類」
- 損保ジャパン「保険金請求に必要な書類」
- 日本海事センター「世界のコンテナ荷動き量」
- 財務省「令和8年6月分貿易統計(速報)の概要」
情報確認日:2026年7月29日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月29日
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