
取引先から「PL保険の加入証明書を提出してほしい」と求められた場合、まず確認すべきは①現在の保険証券の補償範囲と支払限度額、②取引先が指定する条件(追加被保険者・最低支払限度額など)、③証明書の発行手続きの3点です。取引先の要求内容と自社の契約条件にズレがあるケースも多く、契約前に保険代理店へ相談し、条件の過不足を整理することが重要です。
- 取引先が求めるPL保険の条件(証明書・支払限度額・追加被保険者)を正確に把握する方法がわかる
- 対象になるケースと対象外になりやすいケースを整理し、自社に必要な補償を見極められる
- 相談前に準備すべき資料リストで、スムーズな問い合わせができる
保険証券の診断・見直しのご相談を受け付けています
初回のご相談・現契約の診断は無料です
PL保険証明書とは何か──取引先が求める理由
PL保険証明書(付保証明書)とは、製造物責任(PL)に関する賠償責任保険に加入していることを第三者に証明する書類です。保険会社または保険代理店が発行し、保険契約者名、被保険者、補償対象、支払限度額、保険期間などが記載されます。
取引先がこの証明書を求める主な理由は以下のとおりです。
| 取引先が求める理由 | 具体的な場面 |
|---|---|
| 取引基本契約の締結条件 | 製品供給契約・OEM契約で「PL保険加入」が契約書に明記されている |
| 元請企業のリスク管理 | サプライチェーン全体の賠償リスクを管理するため、取引先にも保険加入を要求 |
| 海外バイヤーからの要求 | 輸出先の流通業者が製品事故時の賠償原資確認を目的に証明書を要求 |
| 入札・プロポーザルの参加要件 | 公共工事や大手企業の入札で保険加入が参加要件になっている |
製造物責任法(PL法)は製品の欠陥による損害に対してメーカー等に無過失責任を課す法律です。詳しくは消費者庁のPL法逐条解説をご確認ください。取引先はこの法的リスクに備えるため、サプライヤーに対してPL保険の加入とその証明を求めます。
取引先要求で確認すべき5つの項目
取引先からPL保険証明書の提出を求められたら、以下の5項目を最初に確認してください。
| 確認項目 | 確認内容 | よくあるトラブル |
|---|---|---|
| ①支払限度額 | 取引先が指定する最低限度額と自社契約の限度額を比較 | 取引先要求が1億円だが自社契約は5,000万円で不足 |
| ②追加被保険者 | 取引先を追加被保険者(Additional Insured)に加える必要があるか | 英文証明書で追加被保険者の記載漏れ |
| ③補償対象製品 | 自社のどの製品・部品が補償対象に含まれているか | 新製品が既存契約の対象品目に含まれていない |
| ④保険期間 | 証明書の有効期間と取引契約期間の整合性 | 証明書の期限切れに気づかず契約更新時に問題化 |
| ⑤免責事項・除外条項 | リコール費用やサイバーリスクなど除外されている範囲 | リコール費用が補償対象外であることを取引先に説明できない |
これらの項目にズレがある場合は、保険契約の条件変更や特約の追加が必要になることがあります。条件変更には保険会社の引受審査が伴うため、取引先への回答期限に余裕をもって対応を始めましょう。
PL保険の対象になるケースと対象外になりやすいケース
対象になる主なケース
PL保険は、製造・販売した製品や、行った仕事の結果に起因して第三者に身体障害または財物損壊が生じた場合の賠償責任を補償する保険です。一般的に以下のケースが対象になります。
- 自社が製造した製品の欠陥により消費者がけがをした場合の損害賠償金・争訟費用
- 自社ブランドで販売した製品(OEM含む)に起因する事故
- 輸入販売した海外製品の欠陥による事故(輸入者としての責任)
- 飲食店が提供した食品による食中毒事故
- 建設・設備工事の完成物の瑕疵に起因する事故
対象外になりやすいケース
以下は一般的なPL保険の基本契約では補償されにくいケースです。ただし、特約や保険会社により対応が異なるため、個別の確認が必要です。
- リコール費用(製品回収・修理・交換にかかる費用)──リコール費用特約や別途リコール保険で対応
- 製品自体の損害(不良品の交換・修理費用)──製品そのものは対象外が一般的
- 純粋な経済的損失(身体障害・財物損壊を伴わない逸失利益)
- 故意または法令違反が原因の事故
- 契約で明示的に除外された製品カテゴリー
- サイバーインシデントに起因するソフトウェア・IoT製品の事故(サイバー保険で別途対応が必要な場合あり)
対象・対象外の線引きは保険約款や個別の引受条件により異なります。自社製品が対象に含まれるか不明な場合は、保険証券と約款を手元に用意のうえ、保険代理店に確認してください。保険商品の基本的な仕組みについては日本損害保険協会のサイトも参考になります。
国内PL保険と海外PL保険の違い
取引先が海外企業の場合、国内PL保険では対応できないケースがあります。主な違いを整理します。
| 比較項目 | 国内PL保険 | 海外PL保険 |
|---|---|---|
| 補償対象地域 | 日本国内で発生した事故 | 海外(指定地域)で発生した事故 |
| 適用法令 | 日本の製造物責任法 | 販売地の現地法(米国なら各州法など) |
| 支払限度額の水準 | 数千万円〜数億円が一般的 | 米国向けは100万ドル以上を求められることが多い |
| 証明書の言語 | 日本語 | 英文(Certificate of Insurance) |
| 追加被保険者 | 特約で対応可能 | 英文証明書への記載と現地法対応が必要 |
| 争訟費用 | 支払限度額の内枠が多い | 外枠(Defense Cost Outside Limits)の場合あり |
海外PL保険は販売地域によって引受条件が大きく変わります。特に米国・カナダ向けは訴訟リスクが高いため、支払限度額や免責金額の設定について保険代理店と十分に協議する必要があります。PL保険の保険料に影響する要素についてはPL保険の保険料に関する記事もご参照ください。
取引先への証明書提出──手続きの流れ
PL保険証明書の取得から提出までの一般的な流れは以下のとおりです。
- 取引先から求められている条件(支払限度額、追加被保険者、証明書の言語・書式など)を書面で確認する
- 自社の保険証券・約款と取引先の要求条件を突き合わせ、過不足を確認する
- 条件に不足がある場合は、保険代理店に契約条件の変更・特約追加を相談する
- 保険会社または代理店に証明書の発行を依頼する(発行まで数日〜数週間)
- 証明書の記載内容が取引先の要求と合致しているか最終確認のうえ提出する
証明書の発行期間は保険会社や内容によって異なります。英文証明書や追加被保険者の設定を伴う場合は時間がかかることがあるため、取引先への回答期限から逆算して早めに動くことが大切です。
相談前に用意するとよい資料チェックリスト
保険代理店への相談をスムーズに進めるために、以下の資料を事前に準備しておくと効率的です。
- 現在のPL保険の保険証券(写し)
- 保険約款・特約条項一覧
- 取引先から受領した契約書・覚書(保険条件に関する条項が記載された部分)
- 取引先が指定する証明書のフォーマット(ある場合)
- 自社の製品カタログまたは製品仕様書(補償対象品目の確認用)
- 過去の製品事故・クレームの記録(あれば)
- 輸出先の国・地域リスト(海外PL保険が必要な場合)
- 取引先への回答期限がわかる書類
これらの資料がそろっていると、保険代理店が補償条件の過不足を迅速に判断でき、取引先への回答も早くなります。事故対応の流れについては法人保険の事故対応に関する記事もあわせてご確認ください。
支払限度額の設定で押さえるべきポイント
取引先から支払限度額の指定がある場合、以下の点を確認してください。
1事故あたりの限度額と保険期間中の限度額
PL保険には「1事故あたりの支払限度額」と「保険期間中の総支払限度額(期間中総額)」の2種類があります。取引先が指定しているのがどちらか、または両方かを正確に把握する必要があります。
限度額の妥当性を検討する視点
- 製品の用途・使用者(一般消費者向けか業務用か)
- 想定される最大損害額(身体障害・財物損壊の規模感)
- 取引先が属する業界の慣行(大手メーカーは1億円以上を求めることが多い)
- 海外向けの場合は現地の訴訟水準(米国は高額判決のリスクが高い)
支払限度額の引き上げには追加保険料が発生します。コストと補償のバランスは、取引規模やリスクの大きさを踏まえて保険代理店と相談しながら決定してください。
追加被保険者(Additional Insured)の設定
取引先を追加被保険者として保険契約に加えるよう求められることがあります。これは、取引先が自社製品に起因する事故で訴えられた場合にも、自社のPL保険で取引先の賠償責任をカバーする仕組みです。
追加被保険者を設定する場合の注意点
- 追加被保険者を設定すると、保険会社がカバーする範囲が広がるため、引受審査や追加保険料が発生する場合がある
- 追加被保険者の範囲(取引先本体のみか、そのグループ会社も含むか)を明確にする
- 証明書に追加被保険者の名称を正確に記載する必要がある(英文の場合は法人名の表記に注意)
- 追加被保険者の設定は保険契約の変更にあたるため、保険会社の承認が必要
追加被保険者の要求は海外取引で多く見られますが、国内取引でも大手企業との取引基本契約に含まれていることがあります。
よくある質問(FAQ)
Q1. PL保険の証明書はどこに依頼すれば発行してもらえますか?
PL保険証明書は、契約先の保険会社または保険代理店に依頼して発行してもらいます。英文証明書や追加被保険者の記載が必要な場合は、通常の証明書より発行に時間がかかることがあるため、早めに依頼してください。
Q2. 取引先が求める支払限度額が現在の契約より高い場合、どうすればよいですか?
保険代理店に相談し、支払限度額の引き上げを検討します。限度額の変更には保険会社の引受審査と追加保険料が必要です。取引先への回答期限を踏まえ、早めに相談することをおすすめします。
Q3. 追加被保険者とは何ですか?なぜ取引先から求められるのですか?
追加被保険者(Additional Insured)とは、保険契約の被保険者として取引先などの第三者を追加することです。取引先は自社製品に起因する事故で訴えられた際に、サプライヤーの保険で防御費用や賠償金をカバーしてもらうために求めます。設定には保険会社の承認と追加保険料が必要になる場合があります。
Q4. 国内PL保険に加入していれば、海外での事故もカバーされますか?
一般的な国内PL保険は日本国内で発生した事故を対象としており、海外での事故は補償対象外となることが多いです。海外に製品を輸出する場合は、海外PL保険への加入や、国内PL保険に海外危険担保特約を付帯することを検討する必要があります。販売先の国・地域によって引受条件が異なるため、保険代理店に相談してください。
Q5. PL保険の証明書に有効期限はありますか?
PL保険証明書には保険期間が記載されており、その保険期間が実質的な有効期限となります。保険契約を更新した場合は、新しい保険期間の証明書を再度発行・提出する必要があります。取引先との契約更新時に証明書の期限切れがないか確認してください。
Q6. リコール費用はPL保険で補償されますか?
一般的な基本契約のPL保険ではリコール費用(製品回収・修理・交換にかかる費用)は補償対象外です。リコール費用をカバーするには、リコール費用特約の付帯や、別途リコール保険への加入を検討する必要があります。対応可否や条件は保険会社・契約内容により異なるため、個別に確認してください。
Q7. 相談する際に最低限必要な資料は何ですか?
最低限、①現在のPL保険証券(写し)、②取引先からの要求条件が記載された契約書・覚書、③自社の製品概要がわかる資料の3点があれば、保険代理店は補償条件の過不足を判断できます。海外取引の場合は輸出先の国・地域リストも用意してください。
保険に関する基本的な情報は金融庁の保険に関するページでもご確認いただけます。
那由他保険テクノロジーズによる取引先要求条件とPL保険証券の突合支援
本記事の5項目を自社で確認しても、取引先ごとに要求が異なる場合、次の点は社内資料だけでは判断が固まりません。取引基本契約書・OEM契約書の保険条項が求めているのが1事故あたりの限度額か保険期間中の総額か、追加被保険者の範囲が取引先本体だけかグループ会社・販売代理店まで含むか、新製品や新たに輸出を始めた地域が現行証券の対象品目・対象地域に入っているか、の3点です。
那由他保険テクノロジーズは、法人の賠償リスク構造の分析と補償ギャップ分析、保険プログラムの設計・調達支援を行っています。PL保険の取引先要求については、取引先から受領した契約書・覚書の保険条項と指定の証明書フォーマット、現行のPL保険証券・約款・特約条項一覧、製品カタログまたは仕様書、輸出先の国・地域リストを並べ、次を整理します。
- 取引先が指定する支払限度額(1事故あたり・期間中総額)と現行証券の限度額・免責金額の差分、および争訟費用が支払限度額の内枠か外枠かの別
- 追加被保険者として記載を求められている法人の正式名称(英文表記を含む)と対象範囲、保険会社の承認が必要となる契約変更事項
- 証券記載の補償対象品目・対象地域と、実際の製造品目・輸出先との差。海外危険担保特約または海外PL保険で埋める必要がある範囲
- リコール費用や製品自体の損害など基本契約で対象外となる項目のうち、取引先へ説明が必要なものと、特約付帯を検討すべきもの
- 証券の保険期間と取引契約期間・更新月のずれ、証明書を再発行して提出し直すべき時期
そのうえで、限度額の引上げや追加被保険者設定にかかる引受審査・追加保険料・英文証明書の発行所要日数など保険会社へ照会する事項と、購買・法務担当が保有する契約書の保険条項、営業担当が把握している取引先の回答期限など社内で確認する事項を分けてお伝えします。現行契約のままで要求条件を満たせる場合は、条件を変更せず証明書の発行手続きだけを進める選択肢も含めて比較します。なお引受の可否と条件は保険会社の審査により決まるため、限度額の引上げや追加被保険者の設定が承認されることをお約束するものではなく、取引基本契約書の賠償条項の法的解釈や取引先との責任分担の交渉は顧問弁護士等へご確認ください。
ご相談時に、現行のPL保険証券(写し)、取引先から受領した契約書・覚書の保険条項部分、指定の証明書フォーマットの3点をご用意いただけると、要求条件と現行契約の差分と、回答期限までに着手すべき手続きの順序を具体的に確認できます。
執筆:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部
監修:中村 祐太朗(損害保険・生命保険募集人)
最終更新日:2026年7月3日
参考一次情報・公的資料
- 金融庁「保険に関する情報」
- 日本損害保険協会「企業のための保険ナビ」
- 日本損害保険協会「損害保険とは?」
- 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」
- 金融庁「保険募集管理態勢」
- 日本損害保険協会「損害保険代理店とは」
- IPA「情報セキュリティ10大脅威」
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」
情報確認日:2026年7月3日