
「御社の製品を使っていた人がけがをした」「置いてあった製品の近くで火が出て、周りの物が焼けた」。取引先や消費者からこうした連絡が入ると、原因も責任の所在もまだ分からないまま、担当者はその場で次の一手を求められます。専任の担当を置いていない中小の製造・輸入・販売やOEM・PBの事業者では、なおさら手が止まりがちです。この記事では、原因や補償の可否がはっきりしない段階でも動き出せる初動を、安全確保、事故品や記録の保全、保険会社・代理店への第一報、そしてPL保険請求の準備という順で追っていきます。
Summaryこの記事のポイント
- 製品事故の一報では、まず人の安全と二次被害の防止を最優先にします。
- 原因や補償の可否が分からなくても、判明している事故の情報で保険会社・代理店へ早めに一報を入れます。
- 危険な事故品は無理に手元へ残そうとせず、消防や警察などの指示に沿って安全な範囲で保全します。
- 行政への報告、民事上の賠償責任、保険契約の補償は、別のものとして切り分けて動きます。
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一報を受けた最初の数時間ですること
最初にすべきは、被害を受けた人の救護と、これ以上被害を広げないための手当てです。けがや健康被害があれば救護と受診を促し、火や煙、漏電、破片などの危険が残っているなら、その場から人を遠ざけて消防や警察へ連絡します。同じ製品が現場に他にも置かれているなら、通電や使用を止めてもらうよう伝えます。
被害の受け止め方には幅があります。独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が原因究明調査を実施した重大・非重大の製品事故のうち、放火などや事故の発生年度が分からないものを除いて2025年度に発生した件数を被害区分でまとめると、人がけがなどを負った人的被害が15.3%、物が壊れるなどの物的被害が84.4%でした(2026年5月公表、2026年4月30日集計。NITE「2025年度事故情報収集報告書」図6)。複数の被害が及んだ事故は重いほうの被害で数え、人的被害と物的被害が重なるものは人的被害として数えます。物的被害には周囲へ広がった被害と製品自体の破損が入り、被害なしや不明には、まだ確認中の不詳のものも含まれます。調査中・審議中のものや後日集めた情報、分類の見直しで数字は動き得ます。この割合は、救護や受診など人身の記録と、周辺の財物や事故品の記録とを、起きた直後から別々に残す判断に使うもので、事故率や製品の欠陥率、リコール率、保険金の支払率へ読み替えることはできません。
原因の分かり方にも幅があります。同じ報告書で、NITEの原因究明調査が終わった2025年度発生分から調査の終わっていないものを除いて原因区分でまとめると、製品に起因する事故が531件、製品に起因しない事故が285件、原因が分からない事故が462件でした(2026年5月公表、2026年4月30日集計。NITE「2025年度事故情報収集報告書」図5)。原因が分からない事故には、著しく焼けて調べきれないものや使用の状況が分からないものが含まれ、2022年度から2025年度は調査の終わっていない情報が多く残っています。図5と図6は集計の条件が異なるため、二つを足したり互いに換算したりはできません。この件数から新たな割合を作らず、初報の段階で製品のせいだ・責任がある・回収が要ると決めつけないでください。事故品や焼けた跡、周辺の状況、使用の状況、写真、記録を安全にできる範囲で残し、原因の調査と保険会社・代理店への第一報を同時に進める判断に使ってください。
安全の手当てと並行して、社内では品質保証、法務、総務、保険担当、事業責任者へ一報を回し、誰が窓口になるかを早い段階で決めます。被害者や取引先への連絡口を一つにしておくと、話が食い違わずに済みます。
事故品・現場・記録をどう残すか
事故の原因や、後の保険のやり取りでは、事故品そのものや現場の状態が手がかりになります。ただし、燃えた製品や発熱している製品を手元に残すことを優先して、人が危険にさらされては本末転倒です。危険がある事故品は、安全にできる範囲だけで残し、消防や警察、行政、メーカーなど関係機関の指示に沿って保全してください。安全境界を越えてまで保存させない、という順番を守ります。
火災がからむ事故もあります。だからこそ、消防による火災の確認、人への被害、周囲の財物、焼けた範囲、そして事故品や写真は、一報の段階から別々の項目として押さえておきます。どれか一つにまとめてしまうと、後で原因や被害の広がりを確かめるときに切り分けにくくなります。
残しておきたい記録には、発生した日時と場所、被害の状況、消防や警察が入ったかどうか、製品の型式やロット番号、いつどの経路で流通したか、現場や事故品の写真などがあります。これらは原因を調べるためのものであり、そのまま保険金の請求書類になるわけではありません。原因を調べる資料と、保険会社へ出す請求の資料は、はじめから別の束として扱うと後の手戻りが減ります。
資料がそろう前に、保険会社・代理店へ一報を入れる
ここで迷いやすいのが、保険会社への連絡をいつ入れるかです。原因も補償されるかどうかも分からないから、資料がそろってから、と後回しにしたくなります。しかし、一報は早いほうが得策です。保険法は、損害の発生を知ったときに遅滞なく保険会社へ通知することを定めています。これは第一報で出すべき項目や請求書類、提出期限、後から足す資料までを一律に決めた条文ではありません。だからこそ、資料の完成を待たず、その時点で分かっている事故の情報をできるだけ早く保険会社・代理店へ伝えてください。第一報に必要な項目、提出の期限、追加で求められる資料は、契約の約款と保険会社・代理店への問い合わせで一つずつ確かめます。条文は保険法(e-Gov法令検索)で、通知義務の考え方は日本損害保険協会「損害保険の基礎」で読めます。
通知が遅れた場合や、保険会社の承認を得ずに被害者と示談した場合の扱いは、契約によって異なります。連絡が遅れたら必ず不払いになる、あるいは自分の判断で示談すれば当然に対象外になる、と一律に思い込む必要はありません。保険金が支払われるかどうかは、契約の内容、補償の対象かどうか、請求の中身を保険会社が見たうえでの条件次第です。だからこそ、被害者への賠償や示談の約束を独断で進める前に、保険会社・代理店へ相談する流れにしておきます。
行政報告・民事責任・保険の補償は別のもの
製品事故の対応では、性格の異なる三つの話が同時に押し寄せます。行政への報告、民事上の賠償責任、そして保険契約の補償です。これらを一つにまとめて考えると、行政へ報告したから保険も済んだ、といった誤解が生まれます。次の表は、三つの区分でそれぞれ何を扱い、どんな問いから確かめ始めるかを並べたものです。
| 区分 | 扱う内容 | 確かめ始める問い |
|---|---|---|
| 行政への報告 | 重大な製品事故を知った製造・輸入事業者の報告制度 | 自社は製造・輸入事業者にあたるか、報告の対象となる事故か |
| 民事上の賠償責任 | 欠陥によって人身や他の財物へ生じた損害の賠償 | 欠陥、因果関係、責任を負う主体はどうなっているか |
| 保険契約の補償 | 法律上の賠償責任を負った場合に生じる損害 | 対象の製品や仕事か、事故の原因、被保険者、免責はどうか |
三つの列は、それぞれ別の窓口と別の根拠で動くと読んでください。行政への報告は、消費生活用製品の製造・輸入事業者が重大な製品事故を知ったときの制度で、知った日を含めて10日以内に消費者庁へ報告します。原因が分からなくても対象になり得る一方、製品の欠陥でないことが明らかな事故は対象外で、該当するかどうか迷うときは早めに相談します。販売事業者などが製造・輸入事業者へ通知する責務とは分けて考えます。報告したことが、欠陥や賠償責任を認めたことにも、回収を自動的に決めたことにも、保険金の請求を終えたことにもなりません。10日という報告の期限を、そのまま回収の期限や保険への通知期限、責任の成立や請求の完了に置き換えることもできません。制度の中身は消費者庁「事故情報の一元化」で確かめられます。また、安全上の問題が生じる可能性があるときは、事業者が自主的にリコールを実施し、その内容を届け出ることがありますが、事故が起きたことだけで回収の要否や範囲、方法が決まるわけではありません(経済産業省「消費生活用製品の自主的なリコール」)。
民事の賠償責任にはいくつかの根拠があり、その一つが製造物責任法です。この法律は、製造物の欠陥によって生命や身体、あるいは欠陥のある製品以外の財産へ損害が生じた場合を扱います。品質上の不具合と法律上の欠陥は同じではなく、因果関係や責任を負う主体もそれぞれ別に確かめる必要があります。製品そのものだけが壊れた損害を、そのまま製造物責任法上の責任と決めつけることもできません。法律の本文は製造物責任法(e-Gov法令検索)、かみ砕いた説明は消費者庁「製造物責任法(PL法)Q&A」にあります。
PL保険で何が補償されるかを取り違えない
PL保険は、製造・販売した製品や仕事の結果が原因で第三者に人身の被害や物の損害を与え、事業者が法律上の賠償責任を負った場合の損害賠償金や争訟費用などを扱う保険です。ここで気をつけたいのが、二つの方向への思い込みです。PL保険を製造物責任法上の「欠陥」責任だけを補償する保険だと狭くとらえるのも、逆にすべての製品事故や契約上の責任まで補償されると広げてとらえるのも、どちらも実態とずれます。賠償責任の根拠は製造物責任法だけとは限らない一方で、あらゆる事故が当然に補償されるわけでもありません。
実際に補償されるかどうかは、対象となる製品や仕事、事故の原因、被保険者、対象となる地域や期間、支払いの限度額、免責金額、除外される事由、通知や事前承認の条件など、個別の契約ごとに決まります。一般的な説明では、製品そのものの損害や、回収・修理・交換にかかる費用は対象外とされることが多いのですが、これも特約や契約の条件で扱いが変わり得ます。自社の契約でどこまでが対象なのかは、約款と保険会社・代理店への確認を省かずに一つずつ押さえてください。PL保険の基本的な説明は日本損害保険協会「PL保険(Q94)」が参考になります。
請求の準備では、原因を調べるための資料と、保険会社へ出す請求の資料を混ぜないことが肝心です。危険な事故品は人の安全と二次被害の防止を先に置き、安全にできる範囲で関係機関の指示に沿って残します。請求のために何をそろえるかは思い込みで並べず、判明している事故の情報を保険会社・代理店へ伝えながら、必要な書類と期限を約款に照らして固めていきます。
那由他保険テクノロジーズが整理できること
初動を進めても、多くの担当者に一つの不安が残ります。今回の事故が自社の保険で補償される事故なのか、そもそも自社の補償に抜けがないのか、という点です。原因や責任の所在が分からない段階では、この見立てだけで手が止まりがちです。
那由他保険テクノロジーズは、この見立ての部分で直接お手伝いできます。一つは、どんな賠償リスクを負っていて、いまの契約でどこに補償の抜けがあるかを構造として洗い出す、賠償リスクの構造分析と補償ギャップ分析です。もう一つは、事業のリスクや契約の条件に沿って保険のプログラムを組み直し、調達を進める設計・調達の支援です。事故そのものの対応や被害者対応、示談、原因の調査、行政への報告、回収、保険金の請求、書類の作成、損害額の確定、法務の判断を代わりに行うものではありません。
そのうえで、判明している事故の情報と契約の条件を照らし合わせ、どこが補償の対象になり得て、どこが抜けや確認待ちなのかを、相談者へ返せる材料としてまとめます。担当や連絡先、残すべき記録、未確認の論点を切り分ける手がかりとして使っていただけます。
よくある質問
原因や責任がはっきりしないうちに保険会社へ連絡してよいですか?
はい。原因や補償の可否が確定していなくても、判明している事故の情報をできるだけ早く保険会社や代理店へ伝えてください。保険法は損害の発生を知ったときの遅滞ない通知を定めています。第一報で必要な項目や提出期限、後から足す資料は、約款と保険会社・代理店への照会で確かめます。
行政へ報告すれば保険金の請求も済んだことになりますか?
いいえ。行政への報告と保険金の請求は別の手続きです。重大な製品事故の報告は、消費生活用製品の製造・輸入事業者が対象の制度で、報告したことが欠陥や賠償責任を認めたことにも、保険金の支払いが決まったことにもなりません。それぞれ分けて進めます。
燃えたり壊れたりした事故品は必ず手元に保存しておくべきですか?
危険がある事故品は、無理に手元へ残すことを優先しないでください。まず人の安全と二次被害の防止を優先し、消防や警察、行政、メーカーなどの指示に沿って、安全にできる範囲で保全します。型式やロット、写真などの記録もあわせて残しておくと後の確認に役立ちます。
製品そのものが壊れた費用や回収の費用はPL保険で支払われますか?
個別の契約によります。一般的な説明では、製品自体の損害や回収・修理・交換にかかる費用はPL保険の対象外とされることが多いですが、特約や契約条件によって扱いが変わります。対象になるかどうかは、約款と保険会社・代理店への確認で確かめてください。
参考一次情報・公的資料
- NITE「2025年度事故情報収集報告書」
- 消費者庁「事故情報の一元化」
- 経済産業省「消費生活用製品の自主的なリコール」
- 製造物責任法(e-Gov法令検索)
- 消費者庁「製造物責任法(PL法)Q&A」
- 日本損害保険協会「PL保険(Q94)」
- 保険法(e-Gov法令検索)
- 日本損害保険協会「損害保険の基礎」
情報確認日:2026年7月22日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月22日
本記事は一般的な情報提供であり、補償の範囲、引受の可否、保険料、保険金の支払いは個別の約款や契約条件によって異なります。法務・税務・労務・会計にかかわる点は、必要に応じて弁護士、税理士、社会保険労務士、公認会計士などの専門家へお確かめください。