生成AIの賠償責任トレンド|米国事例で読み解く責任の所在と保険の境界

生成AIで事故が起きたとき、責任が開発者にあるのか利用企業にあるのかは一律には決まりません。用途、当事者の立場、請求原因、生じた損害の型によって分かれます。この記事では、2026年10月時点の米国事例を「係争中/和解・同意命令/個別記録に基づく裁判所判断」という手続段階で区別したうえで、著作権、誤回答、プライバシー、差別、契約という請求原因ごとに、契約でどこまで責任が移転され、E&O、サイバー、メディア賠償、EPL、D&Oのどの証券を最初に確認すべきかを、事故シナリオ単位で整理します。

Summaryこの記事のポイント

  • 生成AIの責任を「AI」というラベルではなく、責任主体・損害の型・事故シナリオへ分解する方法
  • 著作権、誤回答、プライバシー、差別、契約の各領域で、米国では何が決着し何が未決着か
  • 事故シナリオごとに最初に開くべき保険と、その境界・重複の確認点
  • 導入前後にAI台帳・契約・保険証券を照合していく順序

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生成AIの責任は「AI」ではなく事故シナリオで分かれる

「生成AIの賠償責任」という問いは、そのままでは答えが出ません。同じモデルを使っていても、誰が入力し、何を出力し、誰がその出力を使い、どんな損害が生じたかによって、成立し得る請求原因も、開くべき保険証券も変わるためです。最初にやるべきなのは、技術の議論ではなく分解です。

責任主体を5層に分ける

生成AIをめぐる関係者は、少なくとも次の5層に分かれます。自社がどの層に立つのかで、負う義務と請求のされ方が変わります。

層 主な担当領域 問われやすい点
開発者 学習データ取得、モデル設計、安全評価、表示、アップデート、ログ・監視 データ取得経路、性能・安全性の表示、既知の不具合への対応
提供者・組込事業者 ユースケース設計、RAG・データ連携、UI上の表示、アクセス制御、顧客への説明、契約 提供したサービスの誤り、説明・表示、顧客契約上の責任
導入企業 入力データの権限、用途制限、人の確認・承認、顧客・従業員への影響、事故対応 入力する権利があったか、最終判断に人が関与したか
利用担当者・専門職 出力検証、根拠資料の照合、最終判断、訂正・報告 職業上の検証義務、成果物の正確性
委託先・データ提供者 権利保証、秘密保持、再委託、セキュリティ、事故通知 提供データの権利、漏えい時の責任分担

多くの企業は同時に複数の層に立ちます。SaaS事業者がAI機能を提供しつつ、自社の採用にも生成AIを使えば、提供者としての責任と導入企業としての責任を並行して負います。層ごとに分けて考えないと、保険の被保険業務の範囲も定まりません。

損害の型を分ける

次に、想定される損害を型で分けます。保険の適用は「AIが原因かどうか」ではなく、どの型の損害が、どの請求原因で来たかで決まるためです。

  • 純粋経済損失:AI機能の誤りで顧客の業務が止まった、誤った出力に基づく処理で損失が出た
  • 権利侵害:出力が第三者の著作権を侵害した、名誉を毀損した、商標を侵害した
  • 情報漏えい:入力した個人情報・機密情報が外部へ流出した、不正アクセスを受けた
  • 差別:採用・人事・与信などの選別で、法が禁じる属性による不利益が生じた
  • 契約不履行:性能保証、納期、サービス水準、補償義務の不履行

この5つは、それぞれ主に対応する保険が異なります。ひとつの証券でまとめて手当てできる前提を置かないことが、後の確認作業の前提になります。

米国事例の読み方——手続段階を混同しない

そのうえで、米国事例を読むときの最も重要な作法が、手続の段階を区別することです。

  • 係争中:訴え却下申立てへの判断などが出ていても、主要争点は未決着。結論を先取りできない。
  • 和解・同意命令:当事者間の解決であり、裁判所が全面的に責任を認定した判決ではない。
  • 個別記録に基づく裁判所判断:サマリージャッジメント等の判断。当該原告・当該証拠記録に限られ、命令自身がその射程を明示している場合もある。

「米国では生成AIの学習は適法(違法)と決着した」という要約は、この区別を飛ばしたときに生まれます。以下では、この3区分を各事例に付けて整理します。

著作権・学習データ

生成AIをめぐる米国訴訟で最も件数が多い領域ですが、2026年10月時点で、学習と出力の適法性が一般ルールとして確定したとはいえない状態です。

Bartz v. Anthropic【一部サマリージャッジメント+和解】

カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所(No. 3:24-cv-05417)の2025年6月23日の部分的サマリージャッジメントは、行為を分けて判断しました。原告書籍をLLMの訓練に用いた複製と、購入した紙の書籍を社内の中央ライブラリ用にデジタル化した行為についてはフェアユースと判断された一方、海賊版ライブラリから大量に取得して中央ライブラリを構築した行為は、少なくともその審理記録上フェアユースではないとされています。

その後、2026年の最終承認命令は、海賊版ライブラリ由来の対象作品に関する15億ドルのクラス和解を承認しました。ただし、過去のAI出力に関する請求や2025年8月25日以降の将来行為に関する請求は放棄の対象とされていません。

実務上の示唆は明確です。「学習だから常に適法」でも「学習だから常に侵害」でもなく、データの取得経路と利用行為を分けて評価される。そして15億ドルという金額は全論点の最終判決ではなく、特定範囲のクラス和解です。

Kadrey v. Meta【個別記録に基づく判断】

同じくカリフォルニア州北部地区(No. 3:23-cv-03417)で、2025年6月25日、裁判所は当該13人の著者の記録においてMetaにサマリージャッジメントを認めました。

注目すべきは、命令自身が「これはMetaによる著作物の学習が一般に適法だと判断したものではなく、当該原告の主張・証拠記録に限られる」と明示している点です。フェアユースは事実依存であり、変形的利用であることだけで自動的に免責されるわけではないとも説明されています。勝訴の見出しだけを根拠に、自社の学習データ運用を正当化することはできません。

The New York Times v. Microsoft/OpenAI【係争中】

ニューヨーク州南部地区(No. 1:23-cv-11195)では、2025年4月4日の訴え却下申立てへの判断で、コモンロー上の不正競争の一部等が棄却され、DMCA請求も当事者・条項ごとに一部棄却・一部維持となりました。

これは著作権侵害全体についての最終的な責任判断ではありません。2026年9月4日には統合事件(MDL No. 25-md-3143)で当事者双方がフェアユース等についてサマリージャッジメントを申し立てましたが、2026年10月時点で判断は出ておらず、残る主要争点は係争中として扱うのが正確です。

米国著作権局の報告書は行政の見解

米国著作権局のAI報告は、Part 2(2025年1月29日)がAI生成物の著作物性、Part 3のpre-publication版(2025年5月9日)が生成AIの学習を扱っています。ただしPart 3は公開ページ上、最終版ではなくpre-publication版とされています。いずれも行政機関の見解であり、裁判所の判決ではありません。引用する際に位置づけを明示しておくと、社内資料の誤読を防げます。

実務の分岐点

自社で確認すべきは、判例の勝敗そのものよりも次の3点です。

  1. データ取得経路:学習・チューニング・RAGに使うデータをどこから、どの権限で取得したか
  2. 入力データの権利:顧客から預かったデータ、社内資料、第三者コンテンツを入力する権限があるか
  3. 出力の改変・配布:生成物をそのまま外部公開するのか、改変・組み合わせて商用利用するのか

この3点は、後述するベンダーのIP補償の適用範囲とも、メディア賠償責任保険の確認項目とも直結します。

誤回答・専門業務責任・表示

「AIが間違えた」ことそのものより、その出力を誰が検証し、誰の名前で外に出したかが問われる領域です。

Mata v. Avianca【制裁決定】

ニューヨーク州南部地区(No. 1:22-cv-01461)で2023年6月22日、ChatGPTが生成した架空の判例を裁判所へ提出し、指摘を受けた後も適切に訂正しなかった弁護士らと法律事務所に対し、Rule 11等に基づき5,000ドルの制裁が科されました。

ここで裁判所が問題にしたのは、AIの利用そのものではなく、提出内容を検証するという既存の職業上・手続上の義務の違反です。生成AIを使うか否かではなく、成果物を出す前の検証プロセスが設計されているかが分かれ目になります。

FTC v. DoNotPay【最終命令=和解】

FTCは、人間の弁護士の代替になるという表示に十分な裏付けがなかった等として申立てを行い、2025年1月16日に最終命令が承認されました。内容には193,000ドルの金銭的救済、対象購読者への通知、専門サービスを代替する性能の表示に根拠を求めることが含まれます。

これは和解命令であり、民事裁判で損害賠償責任が全面的に確定した判決ではありません。ただし、AIサービスの性能表示に裏付けを求める行政の姿勢は、自社の広告・製品説明を点検する材料になります。

Walters v. OpenAI【個別記録に基づく判断】

ChatGPTが原告について虚偽の横領関与を出力したとされる名誉毀損訴訟(ジョージア州上位裁判所、No. 23-A-04860-2)で、2025年5月19日、裁判所はOpenAIにサマリージャッジメントを認めました。

判断の基礎は、当該受領者が警告表示や文脈を踏まえて出力を事実として合理的に理解したか、故意・過失があったか、損害が立証されたかといった個別の記録です。AIの誤出力が一般に免責されるという判決ではありません。受領者の理解や損害の立証が異なれば、結論も変わり得ます。

実務の分岐点

  • 誰が専門サービスを提供したか:AIツールの提供者なのか、その出力を使って助言・診断・審査を行った自社なのか
  • 人の承認を経たか:出力をそのまま顧客へ渡したのか、担当者が根拠資料と照合し、承認記録を残したのか

この2点は、専門業務賠償責任保険の適用可否を検討するときの起点になります。日本国内の商品の考え方は業務過誤賠償責任保険とは?専門サービス業が確認すべき補償でも整理しています。

プライバシー・データ取扱い

入力・ログ・学習利用・外部転送はサービス設定と契約で決まる

生成AIに入力した個人情報や顧客の秘密情報が、どこに保存され、学習に使われるか、外部へ転送されるかは、サービスの設定と契約・プライバシー通知に依存します。「クラウドのAIに入れたら学習される」「業務向けプランなら学習されない」といった一般論で判断できる領域ではありません。

確認すべきは、入力内容の保存期間、学習利用の有無と切り替え方法、管理者による設定範囲、データ処理者・管理者としての役割分担、そして外部連携時の送信先です。

外部アプリ連携は「共通仕様」ではない

たとえばOpenAIの2026年10月16日更新のService Termsは、Appを有効にすると一部のContentや所在情報等が外部のApplicationへ送信され、送信後は当該Applicationの条件に従う旨を示しています。

これは当該サービスの規約上の取り扱いであり、すべての生成AIサービスに共通する仕様ではありません。自社が使うサービスごとに、外部連携機能を有効にしたときのデータの流れを個別に確認する必要があります。社内で「AIツールへの入力ルール」を作る際は、ツール単位で条件が違う前提に立ってください。

FTCのAI companion 6(b)調査【調査中】

FTCは2025年、AI companionを提供する企業に対して、収益化、年齢制限、安全性、入力・出力、データ処理等に関する6(b)調査命令を発出しました。

6(b)調査は事実の調査であり、違反の認定でも損害賠償の判断でもありません。規制当局の関心領域を示す材料として読むのが適切です。

情報漏えいが起きた場合の初動費用や賠償の考え方は、情報漏えい保険とは?初動費用と賠償、対象外になる境界を解説で扱っています。

差別・重要判断と州法

EEOC v. iTutorGroup【同意判決】

EEOCは、応募者選別ソフトが女性55歳以上、男性60歳以上を自動的に拒否するよう設定され、200人を超える応募者が年齢に基づき拒否されたと主張しました。この事件(ニューヨーク州東部地区、No. 1:22-cv-02565)は2023年、365,000ドルの支払と非金銭的措置を含む同意判決で解決しています。

これは生成AI固有の事件ではなく、自動意思決定の事例です。それでも押さえておく価値があるのは、選別を自動化しても雇用主の既存の差別禁止義務は消えないという構造を示している点にあります。生成AIを書類選考の要約や候補者評価に組み込む場合も、同じ構造で考える必要があります。

コロラド州の州法【2027年1月1日施行予定・規則策定中】

2026年の改正後のAutomated Decision-Making Technology Actは2027年1月1日の施行予定で、重要判断に用いる開発者・導入者の要件や消費者の訂正権等を含みます。Chatbot Safety Actも同日の施行予定で、未成年保護、AIとの対話であることの開示、専門サービス相当との表示制限等を含みます。2026年10月時点でも規則策定中です(司法長官が2026年8月に規則案を公表し、10月に修正案を公表)。

いずれも施行済みではなく、また全米統一の法律でもありません。米国で事業を行う場合は、州ごとに要件と施行時期が異なる前提で確認してください。

日本国内で採用・人事の判断に関わる請求へ備える保険の考え方は、雇用慣行賠償責任保険とは?ハラスメント・不当解雇リスクへの備えで解説しています。

契約による責任配分

保険を見る前に、契約でどこまで責任が移転されているかを把握します。ここが空白のままだと、保険で埋めるべき範囲も決まりません。

ベンダーのIP補償は「範囲」で決まる

一部のベンダーは、出力の利用・配布に関する第三者からの知的財産請求について、一定範囲の補償を掲げています。これはすべてのベンダーに共通する取り扱いではなく、範囲も条件も各社の規約によって異なります。以下は一社の例です。OpenAIのService Terms(2026年10月16日更新)は、API・Enterprise顧客の出力利用・配布に関する第三者IP請求を一定範囲で補償対象に含める一方、侵害の認識、安全機能の無効化、出力の変更・組合せ、入力に関する権限の欠如、商標の利用、第三者提供物等の例外を置いています。

つまり、「ベンダーがIP補償を掲げている」ことと「自社の損失が補償される」ことは別の話です。とくに、出力を編集・合成して自社コンテンツとして公開する運用や、権利関係が確認できていないデータを入力する運用は、規約上の例外に該当し得るため、実際の運用内容と規約の例外条項を突き合わせて条件を確認する必要があります。

利用者側の義務も確認が必要です。OpenAIの個人向けTerms of Use(2026年1月1日発効)は、出力の正確性を評価し人によるレビューを行うこと、重要な判断に人物に関する出力を用いないこと等を利用者へ課しています。

契約ごとに照合する項目

確認項目 見るポイント
補償の対象と例外 対象サービス、除外事由、出力の改変・組合せ、入力データの権利
責任上限 上限額の水準、上限の対象外となる項目
性能保証 精度・可用性の保証の有無、サービスクレジットの扱い
事故通知・防御権 通知期限、誰が防御を主導するか、和解への同意
準拠法・裁判管轄 適用される法域と、保険の補償地域との整合

契約の連鎖を追う

見落とされやすいのが、ベンダー契約・顧客契約・委託契約の連鎖です。ベンダーから受けられる補償は限定的である一方、自社が顧客契約で広い補償義務を引き受けていれば、その差分は自社が負います。「自社が誰に対して、どこまでの補償を約束しているか」を先に棚卸ししてください。

事故シナリオ別に最初に確認する保険

ここまでの整理を、保険へ接続します。前提として、保険の対象は「AI」というラベルでは決まりません。事故原因、請求原因、損害類型、被保険業務、補償地域、請求時期、免責、サブリミット、自己負担額で変わります。

事故シナリオ 最初に確認する保険 境界・重複の確認点
AI製品・API・組込機能の誤りで顧客に純粋経済損失 Tech E&O/専門業務賠償 被保険業務にAI開発・提供が入るか、契約違反・性能保証・返金の扱い、下請先、責任上限
顧客対応・法務・医療等の誤回答で第三者損害 専門業務賠償/Tech E&O 誰が専門サービスを提供したか、人の承認、身体障害、専門職免責
出力による著作権侵害・名誉毀損 メディア賠償/Tech E&O/一部サイバー 対象メディア活動、権利の種別、故意行為、差止め・再制作費、補償地域
個人情報・機密情報の入力・漏えい サイバー保険 セキュリティ事故かプライバシー違反か、委託先事故、規制調査、通知費用
AI採用・人事判断による差別請求 EPL(雇用慣行賠償) 応募者を含むか、規制手続、故意・既知事情
経営陣のAI監督不備を理由とする請求 D&O Entity coverage、専門業務・サイバー等の除外、調査費用、他保険条項
AI出力を使った広告表示・消費者契約 メディア賠償/E&O/CGL広告傷害 虚偽表示、性能保証、行政上の金銭の扱い、契約責任

各行を、もう少し具体的に見ていきます。

AI製品・API・組込機能の誤りによる顧客の経済損失

まずTech E&O(テクノロジー業務過誤)を確認します。ポイントは、被保険業務の定義にAIの開発・提供が含まれているかです。既存のシステム開発を前提に定義された被保険業務のままだと、新たに始めたAI機能の提供が範囲外になっている可能性があります。あわせて、契約違反・性能保証・遅延・返金やサービスクレジットの扱い、下請先の行為、責任上限を確認します。

顧客対応・法務・医療等の誤回答による第三者損害

専門業務賠償の領域です。前述のとおり、誰が専門サービスを提供したのか、人の承認を経たのかが判断の軸になります。医療・士業など身体や資格が絡む領域では、身体障害の扱いや専門職免責の条項も確認対象です。

出力による著作権侵害・名誉毀損

メディア賠償責任の領域です。対象となるメディア活動の定義、著作権・商標・営業秘密・特許のどこまでを扱うか、入力データに起因する場合の扱い、故意行為の除外、差止めや回収・再制作費用、そして補償地域を確認します。米国での配信・公開がある場合、補償地域の設定は特に重要です。

個人情報・機密情報の入力や漏えい

サイバー保険の領域です。事案がセキュリティ事故なのかプライバシー違反なのかで適用条項が分かれること、委託先で起きた事故の扱い、規制調査対応、通知費用、データ復旧の範囲を確認します。生成AIサービスへの入力に伴う情報の流出は、外部からの不正アクセスとは事故の型が異なるため、条項の当てはめを丁寧に行う必要があります。補償範囲の全体像はサイバー保険の補償範囲|賠償・事故対応費用・休業損害の境界を参照してください。

AI採用・人事判断による差別請求

EPL(雇用慣行賠償責任保険)の領域です。応募者が被保険者の対象に含まれるか、行政手続や規制上の請求が対象か、賃金・給付に関する請求の扱いを確認します。サイバー保険だけでEPL相当の補償を代替できるとは限らないため、両証券の対象となる請求原因と被保険者の範囲を照合してください。

経営陣のAI監督不備を理由とする請求

D&Oの領域です。会社補償・個人補償・Entity coverageの構成、専門業務・サイバー・身体障害等の除外、調査費用の扱い、他保険条項を確認します。AIガバナンスの整備状況が争点になる局面では、防御費用の手当てが実務的な焦点になります。基本的な考え方はD&O保険とは?|役員賠償責任・株主代表訴訟・会社訴訟担保の基本で整理しています。

AI出力を使った広告表示・消費者契約

メディア賠償、E&O、CGLの広告傷害の該当部分が候補になります。虚偽表示、性能保証、価格・返金に関する請求の扱いに加えて、行政命令に基づく金銭の支払や返金は保険の対象とは限らない点を確認してください。

前提として押さえること

どれか一つの保険で生成AIのリスクを包括的に補償することはできません。また、米国の保険会社が公表する商品概要は市場共通の約款ではなく、日本国内で締結する保険契約も米国の商品説明と同一ではありません。最終的な判断は、実際の保険証券と特約の内容で行ってください。

導入前後に踏む確認順

ここまでの内容を、実際に回せる手順に落とします。

1. AI台帳を「モデル名」ではなく用途で作る

台帳の列は、モデル名やツール名ではなく、用途/対象者/入力するデータ/出力の使われ方/最終判断者/想定される損害で設計します。同じモデルでも、社内文書の要約と顧客への回答文の自動生成では、リスクの型がまったく違うためです。

2. 事故シナリオごとに請求原因を仮置きする

台帳の各行について、「事故が起きたらどの請求原因で来そうか」を仮置きします。著作権侵害、名誉毀損、過失・業務過誤、プライバシー、差別、契約違反——この仮置きが、次の契約・保険の照合の入口になります。

3. 契約を照合する

ベンダー契約・顧客契約・委託契約の3方向について、補償、責任上限、性能保証、事故通知、防御権、準拠法を並べます。自社が引き受けた補償義務と、上流から受けられる補償の差分が、保険で検討すべき範囲です。

4. 保険証券を横断する

E&O、サイバー、メディア賠償、EPL、D&O、CGLを一覧にして、空白・重複・他保険条項を確認します。複数の証券が同じ事故に反応し得る場合、どの証券が先に立つかは、各証券の他保険条項と実際の事実関係を踏まえた調整が必要です。証券が複数あること自体は、隙間がないことを意味しません。

5. 運用を保険条件と結び付ける

人による検証、禁止用途、アクセス制御、ログの保存、訂正・停止の手順、事故発生時の通知先——これらの社内運用は、保険の引受条件や事故通知義務と結び付けて設計します。事故時に「誰が、いつ、どこへ通知するか」が決まっていないことが、実務では最も多い落とし穴です。

那由他保険テクノロジーズが生成AIの事故シナリオ整理と補償ギャップの確認でご支援できること

ここまでの手順のうち、那由他保険テクノロジーズがご一緒できるのは、「生成AIの使い方を、事故シナリオと保険・契約の言葉へ翻訳する」部分です。具体的には次の内容をお手伝いしています。

  • リスク構造分析:どの部署が、どの業務で、何を入力し、出力を誰がどう使っているかを実態から洗い出し、責任主体(開発者・提供者・導入企業・利用担当者・委託先)と損害の型(純粋経済損失・権利侵害・情報漏えい・差別・契約不履行)へ分解します。用途ベースのAI台帳を、保険の確認に使える粒度で形にします。
  • 契約条件の確認項目整理:保険設計に影響する条件——ベンダーのIP補償の対象と例外、責任上限、補償義務、事故通知・防御権、準拠法——を確認項目として整理し、顧客契約・委託契約で自社が引き受けている補償義務との差分を洗い出します。契約書のリーガルチェックや条項の法的解釈は行わず、その部分は法務部門・顧問弁護士と連携して進めます。
  • 補償ギャップ分析:Tech E&O、専門業務賠償、サイバー、メディア賠償、EPL、D&O、CGLの補償条件を横断して比較し、被保険業務の定義、補償地域、他保険条項まで含めて、空白と重複を可視化します。
  • 保険プログラム設計と保険調達支援:埋めるべき範囲について、補償条件の比較、証券の組み替え、自己保有との切り分けを含めて検討し、実際の調達までご支援します。

ご相談いただいた後には、次の判断材料が手元に残ります。

  1. 自社の生成AI利用のうち、どの用途が優先的に手当てを要するか
  2. 事故が起きたとき、どの損失をベンダー・自社・顧客のどこが負う構造になっているか
  3. 現在の保険証券のどこに空白があり、どこが重複しているか
  4. その結果として、契約の見直しと保険の追加・変更のどちらが必要か

なお、当社は法律上の判断や訴訟の見通しを示すものではありません。契約書のリーガルチェックや個別事案の法的評価は弁護士の領域であり、保険金の支払は約款と保険会社の判断によります。那由他は、保険とリスクの側面から、法務部門や顧問弁護士の検討と噛み合う材料をご用意する役割を担います。

「生成AIをどこで使っているか、まだ全社では把握できていない」「AIを組み込んだサービスを出したが、いまの保険が対応しているか分からない」——その段階で問題ありません。 資料が整理できていなくても、把握できている利用場面と気になっていることをうかがうところから、一緒に確認事項を組み立てていきます。まずはお気軽にお問い合わせください。

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参考一次情報・公的資料

  1. Bartz v. Anthropic PBC(N.D. Cal. No. 3:24-cv-05417)最終承認命令 — https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/california/candce/4%3A2024cv05417/434709/680/
  2. Bartz v. Anthropic PBC(N.D. Cal. No. 3:24-cv-05417)和解の予備承認命令 — https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/california/candce/3%3A2024cv05417/434709/437/
  3. Kadrey v. Meta Platforms, Inc.(N.D. Cal. No. 3:23-cv-03417)サマリージャッジメント命令 — https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/california/candce/3%3A2023cv03417/415175/598/
  4. The New York Times Co. v. Microsoft Corp.(S.D.N.Y. No. 1:23-cv-11195)訴え却下申立てに関する判断 — https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/new-york/nysdce/1%3A2023cv11195/612697/514/
  5. U.S. Copyright Office「Copyright and Artificial Intelligence」(Part 2、Part 3 pre-publication版) — https://copyright.gov/ai/
  6. Mata v. Avianca, Inc.(S.D.N.Y. No. 1:22-cv-01461)制裁に関する命令 — https://law.justia.com/cases/federal/district-courts/new-york/nysdce/1%3A2022cv01461/575368/54/
  7. FTC「FTC Finalizes Order with DoNotPay」 — https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2025/02/ftc-finalizes-order-donotpay-prohibits-deceptive-ai-lawyer-claims-imposes-monetary-relief-requires
  8. FTC「DoNotPay Decision and Order」 — https://www.ftc.gov/system/files/ftc_gov/pdf/2323042_donotpay_decision_and_order_0.pdf
  9. Walters v. OpenAI, LLC(Georgia Superior Court No. 23-A-04860-2)サマリージャッジメント命令 — https://reason.com/wp-content/uploads/2025/05/WaltersvOpenAISJOrder.pdf
  10. EEOC「iTutorGroup to Pay $365,000 to Settle EEOC Discriminatory Hiring Suit」 — https://www.eeoc.gov/newsroom/itutorgroup-pay-365000-settle-eeoc-discriminatory-hiring-suit
  11. Colorado Attorney General「Artificial Intelligence」 — https://coag.gov/ai/
  12. FTC「AI Companion Chatbot 6(b) Order」 — https://www.ftc.gov/system/files/ftc_gov/pdf/AICompanionChatbot6%28b%29Order.pdf
  13. OpenAI「Service Terms」(2026年10月16日更新) — https://openai.com/policies/service-terms/
  14. OpenAI「Terms of Use」(2026年1月1日発効) — https://openai.com/policies/terms-of-use/
  15. Chubb「Cyber Insurance Products」(Technology E&O・サイバー・メディア賠償の区分に関する一社の商品概要) — https://www.chubb.com/us-en/business-insurance/products/cyber-insurance/cyber-insurance-products.html

情報確認日:2026年10月26日。米国の訴訟は手続の進行により状況が変わります。本記事は上記の公表資料にもとづく2026年10月時点の整理であり、補償の範囲、引受、保険金の支払は、商品・約款・契約条件および個別の事情によって決まります。