運送・倉庫会社でWMSや配車システムが止まったときに生じる損害を、荷主・届け先への賠償、自社の調査・通知・復旧の費用、自社の逸失利益の3つに分け、サイバー保険で対象になりやすいものと対象外になりやすいものを整理した図

2026年7月13日、ニチレイは不正アクセスによるシステム障害で、ニチレイロジグループ各社の冷蔵倉庫の入出庫業務と、ニチレイフーズの冷凍食品の出荷業務を止めました。順次再開が7月17日、全拠点が通常稼働に戻ったのが7月24日です。

同社が8月7日に公表した決算説明会資料には、売上高で50億円、営業利益で8億円のマイナス影響と、対応費用10億円の特別損失が示されています。入出庫が止まれば荷主の商品は倉庫から出ず、配車が止まればトラックに積む荷物が決まりません。同じことが自社で起きたとき、荷主に対する責任はどこまでで、止まっていた間の売上と復旧の費用は誰が持つのか。

この記事では、2025年から2026年にかけて公表された3件の事故を手がかりに、運送・倉庫・3PLに固有のサイバーリスクを整理し、サイバー保険で対象になりやすい損害と、対象外になりやすい損害を一般論として解説します。

結論を先に言うと、保険が見るのは「荷主や届け先に対する法律上の賠償責任」「自社の調査・通知・復旧の費用」、そして任意で追加する補償を付けていれば「自社のシステム停止による利益の減少」の3つです。納期遅れの違約金と、寄託品そのものの損害は、別の枠組みで考える必要があります。

なお、本記事は特定の保険会社、保険商品、保険契約や特約の内容を説明するものではなく、一般的な考え方の整理です。個別の保険金請求の可否は、ご契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。

Summaryこの記事のポイント

  • 損害は、荷主や届け先への賠償、自社の調査・通知・復旧の費用、自社の逸失利益の3つに分かれる。サイバー保険の基本の対象は前の2つで、3つ目は任意で追加する補償で対応する商品がある。
  • 送り状データや届け先情報は荷主から預かった他人の情報で、漏えいすれば委託先として責任を問われる。原因が不正アクセスでも誤送付でも、多くのサイバー保険で対象事由になるのが一般的。
  • 納期遅延の違約金、契約で上乗せした責任、寄託品そのものの滅失・毀損は、サイバー保険では対象外か別の保険の領域とされるのが一般的で、契約と受託者側の保険で手当てする。
  • 出荷停止で荷主に生じた損害と自社の利益損害の切り分け、寄託品がサイバー起因で傷んだ場合、傭車先の端末が侵入経路だった場合は商品により扱いが分かれるため、契約時に確認する。

サイバーセキュリティ保険の専用ページで資料請求・お見積もりを受け付けています

資料請求・お見積もりは無料、入力は約1分です

専用ページで資料請求・お見積もり

運送・倉庫で実際に起きた3つの事故

運送・倉庫の事故は、情報が漏れたこと以上に「荷物が動かなくなったこと」が荷主に見える形で表に出ます。経過を自社で公表した3件を公表文の範囲で整理します。原因の巧拙や会社の対応への評価は行いません。

表1:運送・倉庫で公表されたサイバー事故(公表文ベース、2026年10月28日時点)
項目ニチレイ(2026年7月)佐川急便(2026年9〜10月)NRS株式会社(2025年5月)
公表した会社株式会社ニチレイ(低温物流・食品のグループ持株会社)佐川急便株式会社NRS株式会社(物流・倉庫業)
起点と公表7月13日に不正アクセスによるシステム障害を公表。7月15日にサーバがサイバー攻撃を受けたことを確認(詳細は非開示)9月30日に「お荷物問い合わせサービス」への第三者による不正アクセスを確認し同日公表。10月1日に個人情報流出の可能性を公表5月3日にサーバへの外部の第三者からの不正アクセスを確認し、5月7日に公表
止まった業務グループ各社の冷蔵倉庫の入出庫業務と冷凍食品出荷業務(国内)。データ保護を優先してグループのシステムを遮断外部アクセスを遮断し、お荷物問い合わせ、問い合わせAPI、飛脚宅配便受付など9つのWebサービスを停止。集荷・配達は通常どおりネットワーク遮断等の緊急措置。停止した業務の範囲は公表文に記載なし
荷主・顧客側への影響受発注を一部制限して7月17日から順次再開。決算説明会資料では、冷蔵倉庫の入出庫業務停止による低温物流事業の影響額を営業利益で4億円と試算送り状データ(6月21日〜9月30日の約100日分)の依頼主・届け先の氏名・住所・電話番号、運賃契約者情報、会員情報が対象。個人情報保護委員会への確報は出荷人との連名で報告する方向5月19日の第二報で、情報漏えいの事実と二次被害の報告は確認されていないと公表
復旧までの経過7月17日順次再開、7月24日に受発注制限を解除し全拠点で通常稼働10月23日にお荷物問い合わせを再開。問い合わせAPIなど8サービスは同日時点で停止を継続5月26日の第三報で、全IT環境の除染、全PCのスキャン、社員と外部ユーザIDのパスワード変更、ホワイトリスト登録を経て業務を復旧したと公表
漏えいの確定内容と金額影響第7報(9月18日)で配送先のお客さま3,308件、取引先の役職員6,849件、グループ従業員・求職者43,709件の漏えいを確認。決算説明会資料で売上高50億円減、営業利益8億円減、対応費用の特別損失10億円を開示第5報(10月23日)で重複を含む最大約5,323万件と公表。実人数ではなく重複の整理を継続。二次被害は確認されていない公表文の範囲では漏えいの事実は確認されていない

3件に共通する点が3つあります。1つ目は、止まったのが「荷物を動かすための情報」だったことです。荷物も車両も庫内の作業員もいるのに、どこに何があり、どこへ出すかの情報が使えず出荷できない状態は、運送・倉庫に特有です。2つ目は、漏えいした情報の大半が「荷主と届け先の情報」だったことです。

佐川急便が確報を出荷人との連名で行う方向と公表しているのは、荷主から委託を受けて個人データを扱う立場だからです。3つ目は、復旧までの時間です。ニチレイで通常稼働まで11日、佐川急便で主要サービスの再開まで23日。その間、荷主は代替の運送会社や倉庫を探し、自社は紙と電話で回せる範囲の業務を続けることになります。

運送・倉庫に固有の6つのサイバーリスク

運送・倉庫のサイバーリスクは、一般の会社と同じ情報漏えいに加えて、荷主の荷物と情報を預かり、傭車先や協力会社と日々データをやり取りする業態ならではの損害があります。相談で挙がることが多い6つを、誰が損をするかで整理します。

  1. WMS・配車・運行管理システムの停止。損害を受けるのは荷主(納期、欠品)と自社(保管料・荷役料・運賃の減少、代替手配の費用)
  2. 荷主から預かった送り状・届け先データの漏えい。損害を受けるのは届け先と依頼主の本人、情報を預けた荷主
  3. 温度・在庫管理の停止による寄託品への影響。損害を受けるのは荷主(寄託品の滅失・毀損、出荷できない在庫)
  4. 傭車先・協力会社・海外拠点の端末からの侵入。損害を受けるのは自社(起点が社外でも止まるのは自社)と荷主
  5. ドライバー・従業員情報(免許証の写し、健康診断・適性診断、点呼記録、給与)の漏えい。損害を受けるのは従業員本人と退職者
  6. 荷主や協力会社になりすました請求書・口座変更。損害を受けるのは自社(預金そのもの)

1のシステム停止は、運送・倉庫では「情報漏えいより先に来る損害」です。WMSが止まれば入荷検品もピッキングも出荷指示も出せず、配車システムが止まれば翌日の便組みができません。2の送り状データは、運送会社には日常業務のデータですが、法律上は荷主から委託を受けて取り扱う個人データで、荷主から見れば運送会社は漏えいの責任を問う相手です。

運送会社が決済サービスを通じてEC加盟店の購入者情報を預かる例として、ヤマト運輸が2026年9月に公表した「クロネコ代金後払いサービス」への不正アクセスの事案があり、第4報(10月16日)で利用者情報約526万件などの持ち出しが確認されています。

3の寄託品は、荷主の損害が情報ではなく「物」の損害になる点で、サイバー保険が中心に見ている情報と電子データの損害とは性質が異なります。後の章で契約時の確認点として取り上げます。

4の社外起点の侵入は、傭車先や協力会社と日常的にデータをやり取りする運送業で見落とされがちな経路です。警察庁の調査では、2026年上半期にランサムウェアの感染経路を回答した36件のうち、VPN機器が18件、リモートデスクトップが9件で、外部から遠隔でつながる入口が4分の3を占めています(出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」2026年9月)。

傭車先に配車情報を見せるための共有ID、協力会社の端末からのVPN接続、荷主から支給された端末。入口が自社の管理外にあっても、止まるのは自社のシステムです。海外拠点も同じで、近鉄エクスプレスは2026年5月、シンガポール法人の一部サーバへの不正アクセスで、現地の航空輸出業務と倉庫業務の一部に影響が出たことを公表しています。

5のドライバー情報は、運送会社が業として保有せざるを得ない情報です。運転免許証の写し、適性診断や健康診断の結果、点呼記録は要配慮個人情報を含むことがあります。ニチレイの第7報では、漏えいが確認された約5.4万件のうち43,709件がグループ従業員(退職者とその家族を含む)と求職者の情報で、給与・賞与情報や在留資格を含むと公表されています。

6のなりすましは、傭車先や協力会社への支払いが多い運送業で現実的な手口です。「振込口座が変わった」という傭車先を名乗るメール、荷主の経理を名乗る請求書の差し替え依頼。サイバー攻撃を伴わず、担当者が自分の手で送金してしまう被害で、基本の補償ではなく任意で追加する補償で対応する商品があります。

損害は3つに分かれる

現場では「システム障害の損害」と一言で呼ばれますが、保険で検討するには3つに分ける必要があります。誰に生じた損害で、どの補償で見るのかが、それぞれ違うからです。

1. 荷主・届け先に対する賠償

出荷が止まり、荷主の店舗で欠品が出た。荷主が代替の運送会社を手配して割増運賃を払った。送り状データが漏えいし、荷主が自社の顧客に通知とお詫びをした。これらは荷主に生じた損害で、荷主は運送会社に「システム管理に過失があった」として損害賠償を求めます。運送会社がこの請求に法律上の責任を負う場合、その賠償金と争訟費用はサイバー保険の賠償責任の補償で対象になり得ます。

ただし、対象になるのは法律上の損害賠償責任に基づく金額だけです。運送契約や寄託契約で定めた納期遅延の違約金、法律上の責任を超えて約束した補償、運賃や保管料の返還・値引きは、対象外とされるのが一般的です。また、出荷停止で荷主に生じた損害を賠償する場合と、自社の利益損害として見る場合の切り分けは、商品や契約条件で扱いが分かれます。後の章で契約時の確認点として整理します。

2. 自社の調査・通知・復旧の費用

侵入経路の調査、暗号化されたサーバの復旧、荷主と届け先への通知、問い合わせ窓口の設置、弁護士への相談、再発防止のためのシステム対応。これらは事故が起きた会社自身の費用で、サイバー保険の費用補償の典型的な対象です。漏えいが確認できず「おそれ」の段階であっても、調査と通知の費用は対象になる商品が多くあります。

NRSの事例のように漏えいの事実が確認されなかった場合でも、調査費用は発生しています。警察庁の調査では、2026年上半期にランサムウェア被害の調査・復旧費用を回答した35件のうち、1,000万円以上を要したものが21件で6割を占めました(出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」2026年9月)。

保険会社の事前承認が必要な費目があるので、支出する前に連絡するのが原則です。運送・倉庫で特に大きくなるのは通知の費用で、送り状データの漏えいでは対象者が依頼主と届け先の両方に及びます。自社が直接通知する費用は費用補償で、荷主が通知してその費用を請求してきた場合は賠償責任の補償で、それぞれ検討します。

3. 自社の逸失利益

入出庫が止まっていた間の保管料と荷役料、配車できず走れなかった便の運賃、傭車や他社倉庫へ振り替えた費用。これらは自社の売上の減少と営業継続のための追加費用で、サイバー保険の基本の補償には含まれないのが一般的です。

自社が所有・使用・管理するシステムやクラウドサービスの停止による喪失利益と営業継続費用を、任意で追加する補償で対象にする商品があります。一定時間以上の停止が条件になり、補償される期間に上限があり、国内の営業が対象という条件が付くのが一般的です。運送業・倉庫業は、この追加補償を付けられることが多い業種です。

ニチレイが開示した営業利益8億円減はこの3つ目に当たり、特別損失10億円の「システム障害対応費用」は2つ目に当たります。1つの事故で両方が別の規模で発生し、追加補償を付けていなければ3つ目は自社で抱えることになります。

サイバー保険で対象になりやすいもの、なりにくいもの

6つのリスクについて、一般的なサイバー保険での扱いを整理します。商品によって条件が異なるため、個別の契約では約款の確認が必要です。

表2:運送・倉庫の6つのリスクとサイバー保険の対応(一般論)
リスク対象になり得るもの対象外になりやすいもの
1. WMS・配車・運行管理の停止荷主の業務が止まったことについて自社が法律上の賠償責任を負う部分。侵入経路の調査と復旧の費用。任意で追加する補償を付けている場合、自社のシステム停止による喪失利益と営業継続費用(一定時間以上の停止、補償期間の上限、国内の営業が条件)納期遅延の違約金、契約で上乗せした責任、運賃・保管料の返還や値引き、業務のやり直しの費用。回線や電力など自社の管理下にないインフラの障害による停止
2. 送り状・届け先データの漏えい届け先・依頼主本人と荷主への賠償。調査、通知、問い合わせ窓口、法律相談、見舞金・見舞品(条件あり)の費用。漏えいの「おそれ」の段階の対応費用。原因が不正アクセスでも誤送付や端末紛失でも、原因を問わず対象事由になるのが一般的荷主との契約で上乗せした責任、違約金、罰金・課徴金
3. 温度・在庫管理の停止による寄託品への影響在庫データやロット情報が使えなくなったことによる荷主の損害について、自社が法律上の賠償責任を負う部分(商品による)寄託品そのものの滅失・毀損は、受託者としての賠償責任保険や倉庫の保険の領域とされるのが一般的。サイバー起因の場合の境界は商品により扱いが分かれる
4. 傭車先・協力会社・海外拠点起点の侵入自社のシステムが侵入を受けたことによる自社の費用と荷主への賠償。荷主から預かった情報を傭車先に渡し、そこで漏えいした場合の、荷主から自社への賠償請求傭車先・協力会社自身の損害と対応費用(被保険者ではない)。海外子会社は同じ契約の被保険者にできないのが一般的。傭車先の端末が侵入経路だった場合の扱いは商品により分かれる
5. ドライバー・従業員情報の漏えい従業員・退職者・求職者への賠償と、通知・窓口・見舞金の費用。「他人の情報」として顧客情報と同じ扱い罰金・課徴金。従業員自身の故意による持ち出しは商品により分かれる
6. なりすましによる誤送金任意で追加する補償で、取引先や自社役職員になりすましたメールで錯誤させられた送金や、法人口座への不正送金に対応する商品がある。警察と金融機関への届出が条件カード・電子マネーの不正利用、従業員や契約関係者の犯罪、脅迫による送金、社内の送金規程に著しく違反した場合、売掛金の回収不能

2の情報漏えいは、運送・倉庫で最も件数が積み上がる損害です。預かっている情報の大半が荷主の顧客の情報で、荷主ごとに件数が増えます。これらは原因を問わず「他人の情報の漏えいまたはそのおそれ」として対象事由になるのが一般的で、不正アクセスだけでなく、送り状の誤貼付、出荷データの誤送信、営業所の端末の紛失も同じ扱いです。

なお、同じ原因で多数の荷主から請求を受けた場合は、一連の請求として最初の請求時にまとめて1回の事故として扱われるのが一般的で、荷主の数だけ別々に扱われるわけではありません。

4の社外起点は、2つに分けて考えます。1つは、荷主から預かった情報を傭車先に渡し、そこで漏えいした場合です。荷主から見た責任の相手は元請である自社で、自社が管理を委託した他人の情報の漏えいとして、自社の賠償責任は対象になり得ます。傭車先自身の責任や対応費用は、傭車先が被保険者でないため、自社の保険では対象外になるのが一般的です。

もう1つは、傭車先の端末や協力会社に渡したIDが侵入の起点となり、自社のシステムが止まった場合です。この扱いは商品や契約条件で分かれるため、契約時に保険会社へ確認する項目です。

3の寄託品は、最も線引きが難しい領域です。倉庫業者が寄託品について負う責任は、受託者としての賠償責任保険や寄託約款に基づく火災保険で手当てするのが通常です。サイバー攻撃を原因とする寄託品の損害が、受託者の賠償責任保険で対象になるのか、サイバー保険で拾えるのか、どちらからも外れるのかは、両方の約款を並べて確認しないと分かりません。

保険より先に効く実務対策

公表事例と警察庁の調査で共通して見えるのは、入口が外部からの遠隔接続で、止まると長いことです。費用をかけずにできる対策から順に挙げます。保険の引受時に申告する体制の内容にもなります。

  • VPN機器とリモートデスクトップの棚卸しをする。営業所から本社のWMSにつなぐVPN、傭車先に配車表を見せるための外部公開、保守ベンダーのリモート接続。どれが今も必要で、誰のIDが生きていて、機器の修正プログラムがいつ当たったかを一覧にします。退職したドライバーや契約の切れた傭車先のIDが残っていないかも確認します。
  • 紙と電話で回す手順を決めて、1日だけ試す。WMSが止まったとき、手書きの送り状と在庫表、電話とFAXの配車で、どの荷主のどの荷物までなら動かせるか。佐川急便の事例では、Webサービスを停止しても集荷・配達は通常どおり行われていました。止まっても動く範囲を決めておくと、荷主への説明が「全部止まります」から「この荷主のこの便は手作業で出します」に変わります。
  • バックアップをネットワークから切り離し、戻せるか試す。ランサムウェアはバックアップも物色し、暗号化します。WMSと配車のデータを隔離した場所に世代管理で保管し、実際に復元できることを確認します。復元に何日かかるかが、自社の逸失利益と荷主への影響の長さを決めます。
  • 傭車先・協力会社との情報の渡し方を決める。配車情報や届け先情報を傭車先に渡す方法が、個人端末へのメッセージ送信や共有IDでの画面閲覧になっていないかを見直します。渡す情報は便に必要な最小限にし、IDは個人ごとに発行し、契約終了時に止めます。

荷主・協力会社との契約で注意したい点

サイバー事故の後、荷主との間で問題になるのは「止まった分と漏れた分を誰が持つか」です。運送契約・寄託契約に何が書いてあるかで、保険で見られる範囲が広くも狭くもなります。

1つ目は、個人情報の取扱いに関する条項です。荷主から届け先情報を受け取って配送する以上、運送会社は個人データの取扱いの委託先です。漏えい時の通知を誰が行うか、個人情報保護委員会への報告をどちらが主体で行うか、通知と窓口の費用をどちらが負担するかが契約に書かれているかを確認します。定めがないと、事故後に荷主ごとに交渉することになります。

2つ目は、納期遅延と違約金の条項です。「遅延1日につき運賃の何%」「欠品1件につき定額」という条項に基づく支払いは、法律上の損害賠償ではなく契約上の違約金として、サイバー保険では対象外になりやすい典型です。荷主に安心してもらうために手厚い補償条項を受け入れるほど、保険で見られない自己負担が増える、という逆転が起きます。サイバー攻撃による停止を不可抗力として扱うか、違約金に上限があるかを、契約交渉の段階で確認します。

3つ目は、傭車契約と協力会社との契約です。元請として荷主に負う責任と、傭車先に求める責任が対応していないと、事故時に差額が自社に残ります。傭車先に渡す情報の範囲、漏えい時の通知義務と期限、保険加入の有無を契約に書いておきます。

改正貨物自動車運送事業法により、2026年4月からはすべての貨物利用運送事業者に荷主・委託先との書面交付義務が及び、元請としてトラックを利用する事業者には実運送体制管理簿の作成も求められています。委託構造を書面で整理するこの機会に、情報の渡し方も決めるのが現実的です。

4つ目は、共同配送や中継輸送で他社とシステムを共有する場面です。物流効率化法への対応で、荷主や他の運送会社と出荷情報・配車情報を共有する機会が増えています。共同で使うシステムが止まったとき、共有した情報が漏れたとき、責任の所在と保険の対象がどうなるかは、施策を始める前に決めておく論点です。物流効率化法で企業に生じるリスクを区間別に整理した記事もご覧ください。

そして、事故が起きたら荷主に責任を認める前に保険会社へ連絡することです。保険会社の同意なく賠償責任を承認したり、運賃の減額や補償を約束したりすると、その分が保険金から差し引かれる場合があります。荷主には調査の状況と見通しを伝えるにとどめ、補償の約束は保険会社への事故通知のあとに回します。

運送・倉庫会社がサイバー保険を検討するときに確認する点

日本損害保険協会の調査では、中小企業のサイバー保険加入率は8.8%にとどまります(出典:日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」2025年12月)。運送・倉庫で検討時に確認しておきたい点を挙げます。

  • 利益損害の追加補償の有無と条件。システム停止による自社の減収は基本の補償に含まれないことが多く、任意で追加する形になります。何時間以上の停止から対象になるか、補償される期間の上限、荷主側のEDIやクラウドの障害を含むかを確認します。
  • 出荷停止で荷主に生じた損害の扱い。荷主が代替手配した費用や欠品の損害を賠償する場合に賠償責任の補償で見るのか、自社の利益損害と区別するのか。商品や契約条件で分かれるため、荷主構成を伝えたうえで確認します。
  • 寄託品の損害とサイバー保険の境界。温度管理や在庫管理の停止で寄託品が傷んだ場合、受託者の賠償責任保険とサイバー保険のどちらで、どこまで見るのか。どちらからも外れる領域がないかを見ます。
  • 傭車先・協力会社・海外拠点の扱い。傭車先で漏えいが起きた場合に荷主からの請求が対象になるか、傭車先の端末が侵入の起点だった場合の扱い、国内子会社を同じ契約に含められるか、海外子会社は別契約になるかを確認します。
  • セキュリティ体制と事故歴の告知。VPN機器の管理、バックアップの取得方法、多要素認証、権限管理、過去の事故歴は告知の対象です。申告した内容と実態が違えば事故の際に問題になるので、実務対策を先に整えてから申告します。

那由他保険テクノロジーズが運送・倉庫会社のサイバーリスクでご支援できること

ここまでの整理は一般論です。実際には、荷主との契約条項が保険の対象を狭めていないか、WMSや配車システムの構成と傭車先への情報の渡し方のどこに穴があるか、寄託品の損害をどちらの保険で見るか、といった会社固有の論点で結論が変わります。

那由他保険テクノロジーズは、運送会社・営業倉庫・3PLについて、預かっている情報、システムの構成と外部接続、傭車先の構成、主要荷主との契約条項を起点にリスク構造を分析し、現在のご契約や検討中の商品の補償条件と突き合わせて、対象になる損害と対象外になる損害を切り分けます。そのうえで、運送契約・寄託契約・傭車契約の個人情報条項と違約金条項を保険の約款に照らして点検します。

相談の結果として手元に残るのは、「WMSが止まったとき、どの損害が保険で、どの損害が契約で、どの損害が自社負担か」を荷主にも説明できる形にした一覧です。加入の有無しか答えられない状態から、「この損害はこう備えている」と答えられる状態にすることが目的です。システム構成や契約内容が整理できていない段階でも、分かっていることと困っていることを起点に必要な確認事項を一緒に整理しますので、まずはお問い合わせください。

ご相談はこちら

WMS・配車システム停止時の備えを相談する

専用ページで資料請求・お見積もり

資料請求・お見積もりは無料、入力は約1分です。お電話(050-1725-4773/受付:平日9:00〜19:00)でも承ります。

よくある質問

荷主から「サイバー保険に入っているか」と聞かれました。何を確認して答えればよいですか?

荷主が知りたいのは加入の有無ではなく、情報が漏れたときに通知と対応の費用を運送会社が持てるか、出荷が止まったときに荷主の損害を賠償する資力があるか、の2点です。預かった情報の漏えいに関する賠償と費用、荷主の業務停止に関する賠償が対象かを証券と保険会社に確認しておきます。

WMSが止まって出荷できなかった分の売上は、サイバー保険で戻りますか?

基本の補償には含まれないのが一般的で、自社のシステム停止による喪失利益と営業継続費用を任意で追加する補償で対象にする商品があります。一定時間以上の停止が条件になり、補償される期間に上限があり、国内の営業が対象という条件が付くのが通常です。追加しているかどうかを証券で確認してください。

温度管理システムが止まって冷凍倉庫の寄託品が傷みました。サイバー保険の対象ですか?

寄託品そのものの滅失・毀損は「物」の損害で、多くのサイバー保険が中心に見ている情報と電子データの損害とは性質が異なります。受託者としての賠償責任保険や倉庫の保険の領域とされるのが一般的ですが、原因がサイバー攻撃である場合にどちらの保険でどこまで対象になるかは、商品により扱いが分かれます。両方の約款を並べて確認しておきます。

傭車先のドライバーの端末から侵入され、自社のシステムが止まりました。自社の保険は使えますか?

止まったのが自社のシステムで、生じたのが自社の費用と荷主への賠償責任であれば、自社の保険で検討する対象です。ただし、侵入の起点が社外の端末であることをどう扱うかは、商品や契約条件で分かれます。傭車先自身の損害や対応費用は、傭車先が被保険者でないため、自社の保険では対象外になるのが一般的です。傭車先への情報の渡し方とIDの管理方法は、契約時に保険会社へ伝えて確認しておきます。

荷主から預かった届け先データが漏えいしました。本人への通知は誰が行い、費用は誰が持ちますか?

法律上は荷主が個人データの取扱いの委託元で、運送会社は委託先です。通知と個人情報保護委員会への報告をどちらが主体で行うかは、荷主との契約と事故の内容で決まります。自社が直接通知する費用は費用補償で、荷主が通知してその費用を請求してきた場合は賠償責任の補償で、それぞれ検討します。契約で費用負担を定めておくと、事故後の交渉が短くなります。

参考一次情報

本記事は、運送・倉庫・3PLの担当者向けにサイバーリスクと保険の一般的な考え方を整理したもので、特定の保険会社、保険商品、保険契約、特約の内容を説明することを目的としたものではありません。記事中の「対象になり得る」「対象外になりやすい」といった記述は一般的な傾向を示すもので、実際に保険金が支払われるかどうかは、個々の保険契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。ご契約内容の詳細や個別の事故については、ご契約の保険会社または取扱代理店にお問い合わせください。