
工場が火災や自然災害で停止すると、建物・設備の復旧費用だけでなく、操業停止中に失われる粗利益と、休業中も発生し続ける固定費が経営を圧迫します。利益保険(企業費用・利益総合保険)は、対象事故による生産停止で減少した粗利益や、営業を継続するための増加費用を、てん補期間と保険金額の範囲で補う損害保険です。てん補期間は修理完了までではなく、試運転・品質承認・受注回復までを見込んで設計するのが要点です。まずは現行証券のてん補期間・保険金額・粗利益の算定基礎を確認しましょう。
Summaryこの記事のポイント
- ボトルネック工程の停止期間を先に置くと、てん補期間の過不足が見えます。
- 粗利益は全社平均ではなく、製品別・ライン別の利益率まで確認します。
- 代替生産・外注・急送・仮設は「増加費用」として設計し、資料化します。
- 請求時は事故と売上減少の因果関係を、工程表・売上台帳・復旧見積で説明します。
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工場停止は修理完了でなく生産・品質・受注回復まで見る
工場の被害を評価するとき、多くの現場は「建物・設備がいつ直るか」に目が向きます。しかし事業への影響は、修理が終わってから試運転・品質承認・顧客への納入再開・受注回復までを含めて考える必要があります。同じ火災でも、代替の効く汎用設備と、専用ライン・長納期部品・品質承認に時間がかかる工程では、停止が事業に効く期間がまったく違います。まずボトルネック工程を特定し、そこから復旧に要する期間を逆算することが、てん補期間設計の出発点になります。
実務で見落とされやすいのは、復旧のスケジュールが自社の努力だけでは決まらないという点です。長納期の専用機を海外から取り寄せる場合、発注から据付・調整までに半年以上かかることは珍しくありません。据付が終わっても、量産品質を安定させる試運転、顧客の初品検査や工程監査(PPAP・初物承認)を経て、ようやく正規の受注に戻ります。自動車部品や食品、医薬・化粧品のように品質承認の重い分野では、この「設備は直ったのに売上が戻らない」期間が数カ月単位で残ります。てん補期間を修理完了に合わせて短く設定すると、まさにこの回復途上の粗利益が補償の枠外に落ちます。
さらに、停止が長引くほど失注が固定化するリスクが高まります。納入が止まった間に顧客が代替サプライヤーへ発注を切り替えると、工場が復旧しても数量が元に戻らない、あるいは価格を下げないと戻せないという事態が起こります。利益保険はてん補期間内の粗利益減少を補うものであり、期間満了後に残る売上の目減りは原則として対象外です。だからこそ、復旧の技術的な期間だけでなく、商流を取り戻すまでの期間を織り込んでおくことが重要になります。
火災は事業中断の代表的な起点です。総務省消防庁「令和7年(1〜12月)における火災の概要(概数)」(令和8年5月28日公表)によると、2025年の総出火件数は40,783件、うち建物火災は22,345件、火災による損害額は1,053億9,503万円にのぼります。建物・設備・在庫の物的損害だけでなく、その裏側で生じる操業停止中の固定費負担と売上回復までの遅れを、同じ視野で見積もっておく必要があります。
下表は、工場停止時に「どの損失を、誰が、どの資料で説明するか」を先に決めるためのチェック表です。
| 確認軸 | 見る内容 | 準備しておく資料 |
|---|---|---|
| ボトルネック工程 | 止まると全体に波及する設備・工程 | 設備台帳、納期・保守契約、交換部品の入手先 |
| 粗利益 | 製品別・ライン別の利益率と季節変動 | 製品別損益、月次試算表、受注残 |
| 固定費 | 休業中も発生し続ける費用 | 給与、リース料、地代家賃、外注基本契約 |
| 増加費用 | 代替生産・外注・急送・仮設の追加コスト | 見積、発注書、輸送費の記録 |
| 回復期間 | 試運転・品質承認・受注回復までの想定 | 復旧工程表、試運転記録、顧客通知 |
この表は「保険に入るかどうか」ではなく、事故時にどの損失をどう立証するかを早く決めるための整理です。対象範囲や支払可否は、必ず現行証券と約款で確認してください。自社の生産構成のうち、どの一台・どの一工程が止まると全体が止まるのかを言語化しておくと、次章以降の補償設計の精度が大きく変わります。
利益保険と財物保険の違い
利益保険は、火災・爆発・自然災害などで事業用の建物・設備・機械が損害を受け、操業が停止または縮小した場合に、喪失した粗利益(営業利益+経常費)を補償する保険です。財物保険(火災保険など)が「モノの損害」を補償するのに対し、利益保険は「モノの損害に起因する収益の減少」を補償する点が異なります。次の表は、両者の補償対象と算定の考え方を比較したものです。
| 比較項目 | 財物保険(火災保険等) | 利益保険(企業費用・利益総合保険等) |
|---|---|---|
| 補償対象 | 建物・設備・機械・在庫などの物的損害 | 操業停止・縮小による粗利益の減少、営業継続のための増加費用 |
| 保険金の算定基礎 | 再調達価額または時価額 | 喪失粗利益(売上減少額−変動費削減額)+増加費用 |
| 補償期間の考え方 | 事故時点の損害額 | てん補期間(復旧完了までの設定期間)内の損失 |
| 主な対象事故 | 火災・落雷・爆発・風災・水災など | 左記の事故に起因する操業停止(約款に定める事故が対象) |
この二つを分けて理解しておくべき理由は、片方だけでは「復旧はできても事業が続かない」隙間が残るからです。仮に火災保険で建物と機械の再調達費用が満額支払われても、その保険金は原則としてモノを元に戻すための費用です。停止中に払い続ける給与・リース料・借入金の返済原資までは、財物保険の枠組みでは説明が届きません。逆に利益保険だけでは、焼けた設備そのものを買い直せません。両者は代替関係ではなく補完関係にあり、どちらが欠けても復旧の資金繰りに穴が空きます。
もう一つ実務で重要なのが、利益保険の起点が「財物損害の発生」に結び付いている点です。多くの企業向け利益保険は、約款が定める対象事故によって保険の目的(建物・設備等)に損害が生じ、その結果として操業が止まったことを支払の前提にしています。つまり、財物損害の認定と利益損害の認定は連動しており、財物保険側で事故や損害の評価が固まらないと、利益保険側の請求も進みにくくなります。財物と利益を別々の代理店・別々の証券でばらばらに持っていると、事故時に窓口が分かれ、因果関係の説明が二重手間になりやすいという実務上の弱点も生じます。
火災保険は市場としても支払としても大きな規模です。日本損害保険協会「保険種目別データ」(2025年4月〜2026年3月)によると、火災保険の元受正味保険料は2,181,091百万円(約2.18兆円)、正味支払保険金は799,604百万円(約7,996億円)に達します。それでも財物保険は「物の損害」のてん補が中心であり、停止中の粗利益・固定費・増加費用は財物保険だけでは説明が漏れやすい領域です。だからこそ、財物保険と利益保険の役割分担を意識した設計が欠かせません。
補償対象と対象外になりやすいケース
利益保険は万能ではなく、約款上の要件を満たす場合に限り補償の対象となります。ここで押さえておきたいのは、保険金は事故が起きれば自動的に支払われるものではないという点です。被保険者の側が、対象事故に該当すること、財物損害が生じたこと、その損害によって操業が止まったこと、売上・粗利益がどれだけ減ったこと、そしてその減少と事故の因果関係を、証拠に基づいて説明する責任を負います。免責事由や限度額、通知義務に触れれば、同じ被害でも支払の結論は変わり得ます。代表的なケースを整理します。
補償対象になりやすいケース
- 自社工場が火災で焼損し、復旧までの数カ月間、生産が全面停止した場合の粗利益の減少
- 爆発事故で製造ラインの一部が損壊し、生産量が大幅に減少した場合
- 台風・水害で設備が浸水し、乾燥・修理期間中に操業を縮小せざるを得なかった場合
- 復旧を早めるための仮設工場の賃借や外注委託などの増加費用(約款・特約の条件による)
対象外になりやすいケース
- 財物損害を伴わない操業停止:感染症による出勤停止、取引先都合の受注減、法令による操業規制など(特約で一部対応できる場合あり)
- 約款に定めのない事故原因:経年劣化による機械故障、サイバー攻撃によるシステム停止など(機械保険・サイバー保険等での対応が必要)
- てん補期間を超過した損失:設定期間を超えて停止が続いた場合、超過分は補償されない
- 間接的な仕入先被害:自社に財物損害がなく、仕入先の被災で原材料が入手困難になった場合(仕入先利益保険・営業継続費用保険等の特約で対応するケースあり)
対象・対象外の判断で特に争点になりやすいのが、地震・噴火・津波を原因とする損害です。企業向けの火災・利益保険では、これらが基本の補償から除外され、地震危険補償特約などを別途付帯していなければ支払対象にならないことが一般的です。海沿いや活断層近くの工場で、地震・津波の特約を付けていないまま「火災保険に入っているから大丈夫」と考えていると、被災してから初めて対象外だったと気づく典型パターンになります。付帯の有無は証券の特約欄を見れば分かりますが、自社で判断がつきにくいところであり、代理店に証券を見せて確認する価値が大きい箇所です。
もう一つの盲点が、休業に直接寄与しない停止と、限度額・縮小の扱いです。たとえば設備は一部損傷にとどまり、代替運転や在庫出荷で売上への影響を小さく抑えられた場合、実際の粗利益減少が小さくなり、支払も想定より小さくなります。逆に、被害を放置して損失を拡大させたと見なされると、損害拡大防止義務の観点から一部が争点化することもあります。「事故が起きた=満額出る」ではなく、「立証できた損害のうち、免責・限度額・付保割合を通した後に残る金額が出る」という構造を理解しておくことが、過不足のない設計につながります。
これらは一般的な整理であり、実際の補償範囲は約款・特約・個別の引受条件によって異なります。自社のケースが対象になるか迷う段階でも、まずは保険代理店へご相談ください。保険証券と約款の確認も、ご相談のなかで一緒に進められます。
てん補期間と粗利益の設定
利益保険の補償設計で最も重要なのが、てん補期間(補償対象となる休業期間の上限)と粗利益(保険金算定の基礎となる金額)の設定です。まずはてん補期間の考え方を表で整理します。
| 設定のポイント | 内容 |
|---|---|
| てん補期間とは | 事故発生から復旧完了(または約定期間の満了)までの期間で、この期間内に生じた粗利益の減少が補償対象となる |
| 設定の目安 | 建物・設備の復旧見込み期間+試運転・生産立ち上げ・品質承認・受注回復の期間。一般的に6カ月〜24カ月の範囲で設定されることが多い |
| 短すぎる場合のリスク | 実際の復旧が設定期間を超えた場合、超過分の損失は補償されない |
| 長すぎる場合の注意 | 期間を長く設定すると保険料が増加する傾向がある。復旧計画とのバランスが重要 |
表のとおり、てん補期間は修理完了だけを見ると不足しがちです。ボトルネック工程の復旧と受注回復までを含めて逆算するのが安全側の設計です。実務では、最悪の被害(主要棟の全焼や基幹設備の全損)を想定し、そこから設備調達・据付・試運転・品質承認・受注回復までを月単位で並べた「復旧タイムライン」を一枚作ると、必要な期間が具体的に見えてきます。この一枚は、そのまま後述する保険金請求時の因果関係の説明資料にもなります。
粗利益の算定
利益保険における粗利益は、一般的に「売上高−変動費」で算出されます。営業利益に加えて人件費・地代家賃・リース料などの経常費(固定費)を含む金額です。設定にあたっては次の点に注意します。
- 過去実績と将来見通し:直近12カ月の売上実績を基礎としつつ、成長率や季節変動も考慮する
- 変動費と固定費の区分:原材料費・外注加工費などの変動費は停止時に削減されるため補償対象から除かれる。固定費の内訳を正確に把握する
- 製品別・ライン別の利益率:全社平均だけで置くと、高採算製品や特定ラインの損失が見えにくい。製品別損益で補正する
- 約定付保割合:粗利益に対する保険金額の割合。付保割合が低いと損害額の全額が支払われない場合がある(比例てん補)
ここで実務上もっとも金額に効いてくるのが、変動費の区分と約定付保割合です。会計上「変動費」と呼んでいても、停止しても実際には削減できない費用(最低数量契約のある外注、止められない用役費、解約できないリース等)は、保険上の変動費として一律に控除すると粗利益を過少に見積もる原因になります。逆に、保険上の粗利益を実態より高く申告すると、保険料は上がる一方で、事故時には実際に減った利益しか支払われません。粗利益は「高すぎず低すぎず」、決算書と製品別損益から積み上げて設定するのが基本です。
約定付保割合による比例てん補も見落とされやすい論点です。多くの利益保険は、契約時に申告した粗利益(保険価額)に対して、実際の粗利益がどの割合まで付保されているかを見ます。申告額が実態より低かった場合、支払時にその割合分だけ按分され、損害額の全額が出ないことがあります。「保険金額を小さくして保険料を節約したつもりが、事故時に按分で目減りする」という結果になりかねないため、粗利益の設定は決算のたびに見直すのが望ましい箇所です。ここは証券の数字だけでは判断が難しく、直近の試算表と突き合わせて確認する価値が大きい部分です。
増加費用と代替調達をどう資料化するか
利益保険では、損失の拡大を防ぐための合理的な費用(増加費用)も補償対象となる場合があります。代表例は次のとおりです。
- 仮設工場の賃借費用
- 外注先への製造委託費用の増加分
- 代替原材料の調達費用や急送費用の増加分
- 復旧を早めるための突貫工事費用
ただし増加費用には上限額が設定されていることが多く、事前承認や費用対効果が問われる場合もあります。事故発生時にあわてないよう、外注切替時の見積・発注書、輸送費、仮設の賃貸契約など「通常より増えた差額」を示せる資料を、平時から残しておくことが重要です。増加費用は「かかった費用」ではなく「損失を減らすためにかかった合理的な差額」として整理すると、後の請求で説明しやすくなります。
増加費用の考え方の核心は、「その費用を使った結果、失われる粗利益がいくら減ったか」という費用対効果の比較にあります。多くの約款では、増加費用は減少を免れた粗利益の額を上限に補償する、といった枠組み(いわゆる特別費用・収益減少防止費用の考え方)が採られます。たとえば、外注に切り替えて月2,000万円の粗利益を守るために、外注費が通常より月800万円多くかかったのであれば、その差額は「守った利益の範囲内の合理的な費用」として説明しやすくなります。逆に、守れる利益を大きく超える費用を投じてしまうと、超過分は自己負担になり得ます。事故直後に代替手段へ踏み切る前に、代理店と保険会社へ一報を入れ、費用の枠と承認の要否を確認しておくと、後の争点を減らせます。
資料化の実務では、「通常時の費用」と「事故後に増えた費用」を対比できる形で残すことが決め手になります。平時の外注単価・輸送便・在庫水準が分かる資料(発注履歴、運送契約、標準原価表)を手元に整えておき、事故後は切替の見積・発注書・請求書・輸送伝票を紐づけて保管します。この対比があると、増加費用の「差額」を客観的に示せ、査定での押し戻しが減ります。ここは事故が起きてから急に整えるのが難しい領域であり、平時のうちに代理店と一緒に「どの費用をどの証憑で説明するか」を決めておく実益が大きい部分です。
保険金請求時に必要な工場資料
万が一の事故時に円滑に保険金を請求するには、日常的な記録の整備が欠かせません。請求時に求められる主な資料を整理します。
| 区分 | 主な必要資料 | 備考 |
|---|---|---|
| 財物損害 | 被害写真、修理見積書、復旧工事契約書、罹災証明書 | 被害直後の現場保全・写真撮影が重要 |
| 休業損害(粗利益の減少) | 事故前後の月別売上データ、生産量の推移、固定費の支払記録 | 事故がなければ得られたであろう売上の立証が必要 |
| 代替調達・増加費用 | 外注先への発注書・請求書、仮設工場の賃貸契約書、代替材料の購入記録 | 通常より増加した費用の差額を明確にする |
| その他 | 事故の経緯報告書、復旧スケジュール、保険会社への事故通知の記録 | 事故発生後すみやかに保険会社・代理店へ連絡する |
休業損害の立証で中心になるのは、「事故がなければ得られたはずの粗利益」をどう合理的に推計するかです。ここは実額がそのまま存在しない金額を推計する作業のため、被保険者側の資料の厚みがそのまま支払額の説得力になります。直近1〜3年の月別売上と製品別損益、受注残・内示・契約書、季節指数の分かる過去データを揃えると、停止期間中に本来上げられたはずの売上を根拠づけられます。逆に、これらが手元になく「例年並みに売れたはず」と口頭で主張するだけでは、査定で減額の対象になりやすくなります。
手続き面で結論を左右するのが、事故通知の期限と証拠保全です。多くの約款は、事故発生を知ったら遅滞なく保険会社へ通知する義務を定めており、通知が遅れると必要な調査ができず、支払に影響することがあります。また、被害現場を片付けてしまう前の写真・動画、焼損した設備や部品の保存、消防・警察の調査結果や罹災証明の取得は、事故の原因や範囲を示す一次証拠になります。復旧を急ぐあまり現場を早く撤去すると、後から損害の範囲や原因を立証できず、財物・利益の双方で不利になりかねません。復旧と証拠保全のどちらを優先すべきかは判断が難しく、事故直後の早い段階で代理店に相談する意義が大きい局面です。
請求に必要な資料は保険会社や契約内容によって異なります。支払は自動ではなく、事故が対象事故か・停止期間が妥当か・売上減少との因果関係があるかが確認されます。事故発生時は速やかに保険代理店・保険会社へ連絡し、具体的な指示を受けてください。
火災保険の見直しとあわせた補償設計
利益保険は、火災保険と連動して設計するのが基本です。火災保険の補償範囲や保険金額が実態と合っていなければ、利益保険の補償にも影響が出ます。あわせて、財物・利益・休業・BCP(事業継続計画)を一つの絵として確認しましょう。
- 火災保険の保険金額が実態と乖離していないか(再調達価額の見直し)
- 地震・噴火・津波による損害への対応(火災保険では免責となるケースが多く、別途検討が必要)
- 電気的・機械的事故への補償拡張(機械保険・動産総合保険との組み合わせ)
- 復旧優先順位・代替生産先を定めたBCPとの整合(てん補期間の根拠づけにも使える)
財物保険で「物の復旧」を、利益保険で「停止中の粗利益と増加費用」を担い、BCPで「復旧の順序と代替手段」を定める——この三点を接続すると、てん補期間と保険金額の設定に根拠が生まれます。
設計を社内で通す段階では、決裁に必要な数字を先に用意しておくと話が早く進みます。ボトルネック設備の復旧タイムライン、製品別・ライン別の粗利益、停止シナリオ別の月次損失見込み、必要なてん補期間と保険金額、それに対する保険料の増減——この一式が揃うと、CFOや総務の稟議で「なぜこの期間・この金額が必要か」を説明できます。中小企業庁の事業継続力強化計画や中小機構のBCPの枠組みを使って復旧優先順位を整理しておくと、てん補期間の根拠にもなり、保険設計とBCPを二度手間なく結び付けられます。
これらの論点は、証券の数字を眺めるだけでは自社に当てはめにくく、地震特約の有無、付保割合、変動費の線引き、てん補期間の妥当性といった判断がどうしても残ります。資料がそろっていない段階でも、手元にある証券や決算資料から、どこに補償の穴があり、どの費目を証憑で説明できるようにしておくべきかを一緒に洗い出せます。当社の補償設計支援では、この洗い出しと数字づくりを同じ場で進められるため、事故が起きる前に過不足を潰しておく合理性があります。工場側の防火対策と保険条件の関係は、工場の防火管理と保険料で整理しています。
よくある質問(FAQ)
利益保険は火災以外の原因による工場停止も補償されますか?
補償対象となる事故は、約款に定められた事由(火災・爆発・風災・水災など)に限られます。感染症やサイバー攻撃など、財物損害を伴わない操業停止は原則として対象外です。特約で補償範囲を拡張できる場合があるため、具体的な条件は保険代理店へご確認ください。
てん補期間は修理完了までで足りますか?
足りないことがあります。てん補期間は、建物・設備の復旧見込み期間に、試運転・品質承認・顧客への納入再開・受注回復までを加えた長さを目安にします。製造業では6カ月〜24カ月で設定されるケースが多く見られますが、工場の規模や設備の特殊性によって大きく異なります。
粗利益は全社平均で計算してよいですか?
全社平均だけでは、高採算ラインや季節変動による損失が見えにくくなります。製品別売上・ライン別原価・受注残などの資料で補正し、実態に近い粗利益を基礎に置くことをおすすめします。
代替生産の費用は補償対象ですか?
営業継続や損失軽減のための増加費用として扱われる場合があります。ただし上限額や事前承認、費用対効果の合理性が問われることが多いため、外注・急送・仮設の見積や発注記録を残しておくことが重要です。
仕入先が被災して原材料が調達できなくなった場合も対象ですか?
自社に財物損害がなく、仕入先の被災が原因で操業が停止した場合は、基本契約では対象外となることが一般的です。仕入先利益保険や営業継続費用保険などの特約・別商品で対応できる場合があるため、サプライチェーンの依存度が高い場合はご相談ください。
利益保険と火災保険は別々に加入する必要がありますか?
利益保険は火災保険とは別の契約として加入するのが一般的です。ただし保険会社によっては火災保険の特約として利益補償を付帯できる商品もあります。補償内容や保険金額の設定方法が異なるため、それぞれの約款を確認してください。
工場停止中の従業員の給与は利益保険で補償されますか?
従業員の給与は経常費(固定費)として粗利益に含まれるため、てん補期間内の喪失粗利益の一部として補償対象に含まれる場合があります。ただし約款上の経常費の定義や約定付保割合の設定によって取り扱いが異なるため、保険証券・約款でご確認ください。
上記のFAQは一般的な解説であり、実際の補償内容は個別の契約条件によって異なります。具体的なご質問は保険代理店へお問い合わせください。
那由他保険テクノロジーズによるてん補期間・約定付保割合の照合支援
ここまでの整理を進めても、会社ごとに残る論点が三つあります。第一に、地震・噴火・津波を原因とする損害について、地震危険補償特約が現行証券の特約欄に付帯されているかどうか。第二に、契約時に申告した粗利益が直近期の実績とどれだけ離れており、約定付保割合による比例てん補で支払が按分される余地があるか。第三に、ボトルネック設備の調達・据付・試運転・品質承認・受注回復を月単位で並べた期間が、証券のてん補期間に収まっているか。いずれも証券の数字を眺めるだけでは自社の答えが出ず、決算資料と生産側の情報を突き合わせて初めて判断できます。
那由他保険テクノロジーズは、財物・事業中断領域のリスク構造分析と補償ギャップ分析、事業実態と契約条件に沿った保険調達支援を行っています。利益保険では、火災保険証券・利益保険証券・約款・特約条項と、直近期の決算書、製品別/ライン別損益、月次試算表、受注残と内示、主要設備の納期と保守契約、復旧工程表を並べ、対象事故の範囲、地震危険補償特約の有無、保険上の変動費として控除している費目、申告粗利益と実績粗利益の差、てん補期間の月数、増加費用の上限額と事前承認の要否を項目ごとに突き合わせます。財物と利益を別々の証券で保有している場合は、証券番号・更新月・事故時の受付窓口を並べ、事故通知と因果関係の説明が二重手間にならない形へ整理します。
この照合を経ると、「地震危険補償特約を付帯するか自己保有にとどめるか」「次回更改で申告粗利益をいくらに置き直すか」「てん補期間を何カ月へ延ばし、その保険料増分をいくら見込むか」「外注・急送・仮設のどの費用を、どの見積・発注書・輸送伝票で説明できるようにしておくか」が、金額と月数を伴った比較として残ります。社内で先に進められる作業(復旧工程表の作成、製品別損益の抽出、標準原価表と外注単価の整理)と、保険会社へ照会が必要な事項(特約の引受可否、付保割合の変更条件、増加費用の事前承認の手続)も分けてお示しします。現状の補償で足りると判断できれば、更改時期まで契約を動かさない選択も含めて検討できます。
なお、変動費と固定費の会計上の区分や、保険料・受取保険金の税務処理は顧問税理士・会計士の判断領域として切り分け、当社は保険条件側の分析・比較・設計と調達支援に絞って進めます。保険料の削減余地は比較の対象であり、削減や補償の適正化を保証するものではなく、最終的な支払可否は約款と個別の引受条件によります。ご相談は、てん補期間や粗利益の設定をどこから手を付けるか決まっていない段階からで問題ありません。まずはボトルネック工程や停止中に負担が残る費目をうかがい、現行の火災保険・利益保険の証券、直近期の決算書と製品別損益、主要設備の納期のどれをどの順で確認するかは、当社が一緒に整理してお伝えします。
参考一次情報・公的資料
- 総務省消防庁「消防統計(火災統計)」
- 総務省消防庁「令和7年(1〜12月)における火災の概要(概数)」
- 日本損害保険協会「保険種目別データ」
- 日本損害保険協会「保険種目別データ(2025年4月〜2026年3月)」
- 日本損害保険協会「損害保険とは?」
- 日本損害保険協会「企業のための保険ナビ」
- 金融庁「保険に関する情報」
- 中小企業庁「事業継続力強化計画」
- 中小機構「BCPはじめの一歩」
情報確認日:2026年7月3日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月3日
本記事は公開時点の一般的な情報であり、特定の商品・契約の補償、引受、保険料、保険金支払を保証するものではありません。実際の補償範囲、免責、支払可否は商品、約款、契約条件、事故状況、個別事情により異なります。法務・税務・労務・会計に関わる判断は、必要に応じて専門家にもご確認ください。