
SCS評価制度とは、サプライチェーンを構成する企業のIT基盤について、共通の要求事項でセキュリティ対策の状況を可視化する任意制度です。★3・★4は2027年3月頃に運用開始が予定されています。サイバー保険はSCSの取得要件でも代替でもありませんが、対策を実装した後に自社へ残る財務負担を点検する意味があります。発注元から求められる水準、自社が扱う情報、事業が止まったときの影響によって、想定すべき水準と準備の順序は変わります。
Summaryこの記事のポイント
- SCS評価制度は、経済産業省が2026年3月27日に方針を公表し、IPAが運営する任意の可視化制度で、★3・★4は2027年3月頃の運用開始が予定されています。
- 対象になり得るのは主に2社間契約の受注者側であるサプライチェーン企業で、自社のIT基盤・公開サーバ・端末・クラウドの責任共有範囲が評価対象の中心になります。
- 要求事項は7大分類に整理でき、既存の規程・資産台帳・委託先台帳・ログ・復旧手順をこの分類へマッピングして不足を洗い出すのが準備の起点です。
- SCSは対策状況の可視化、サイバー保険は事故後に残る損失の一部を契約範囲で移すための手段で、代替関係にありません。対策後の残余リスクを証券の限度額や免責と突き合わせて点検します。
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先に結論
SCS評価制度とは、サプライチェーン企業のIT基盤を対象に、共通の要求事項でセキュリティ対策状況を可視化する任意制度である。2026年7月16日時点で確定しているのは、経済産業省による方針公表とIPAの運営、★3・★4という水準の枠組み、2027年3月頃の運用開始予定までです。開始日・費用・申請方法など未確定の部分も残るため、確定した要求事項を使って台帳・規程・実施記録を整えつつ、公表を待つ事項と分けて進めるのが現実的です。
あわせて押さえたいのが、SCSとサイバー保険の関係です。SCSの取得は保険加入を求めるものではなく、保険もSCSの代替や公的認証ではありません。ただしSCS準備で作る資産台帳・委託先台帳・復旧目標・事故対応手順は、そのままサイバー保険証券の対象事故や限度額と照合できる材料になります。対策を実装しても残る損失を、自社で負担するか保険で移すかを判断する土台として活用できます。
SCS評価制度とは?2027年3月頃の開始に向けて何が決まっているか
SCS評価制度は、サプライチェーンを構成する企業のセキュリティ対策状況を、共通のものさしで可視化する任意制度です。正式名称は「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」で、SCSはSupply Chain Securityの略称です。目的は、取引に連なる企業の対策水準を発注元と受注者が同じ基準で確認できるようにし、供給網全体のセキュリティを底上げすることにあります。
制度面で確定しているのは次の点です。経済産業省が2026年3月27日に制度の方針を公表し、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が運営主体となること、参加は義務ではなく任意であること、そして評価水準として★3・★4が2027年3月頃に運用開始を予定していることです。制度の位置づけは経済産業省の公表資料(経済産業省 2026年3月27日公表)と、運営主体であるIPAの解説ページ(IPA SCS制度詳細)で確認できます。
一方で、開始日は「2027年3月頃」という予定であり、申請・登録費用や詳細な運用は2026年7月16日時点で未公表です。ここを確定事項として扱うと予算計画や社内合意がずれるため、方針として決まった枠組みと、これから公表される運用詳細を切り分けて読むのが安全です。制度の骨格は変わりにくい一方、日程と費用は更新の対象になり得ると考えて準備を進めます。
自社はSCS評価制度の対象になり得るか
SCS評価制度で対策を実施する主体として主に想定されているのは、2社間契約の受注者側にあたるサプライチェーン企業です。発注元から部品・役務・システムを受託し、その過程で発注元の情報やシステムに接する立場が中心になります。ただし発注者の側にも、取引先へ求める水準を提示し、対応状況を確認する役割があり得るため、「発注する側だから無関係」とは限りません。
評価の単位は、原則として法人または個人事業主です。妥当性の確認を経たうえで、事業部単位やグループ単位で範囲を設定する運用もあり得ると整理されています。対象になるのは自社のIT基盤、すなわちインターネットに公開しているサーバ、業務で使う端末、クラウドサービスの責任共有範囲、社外との通信が通るネットワーク境界などです。ここを台帳ベースで押さえると、どこまでが評価の視界に入るかが見えてきます。
逆に、一般にIT基盤に含まれない工場の制御系(OT)システムや、発注元へ納める製品そのものは、SCSが直接対象とする範囲ではないと整理されています。ただしこれは「対策不要」を意味しません。制御系や製品セキュリティは別のガイドラインや制度が扱う領域であり、SCSの対象外だからといってリスクが消えるわけではないためです。境界を明文化し、SCSで見る範囲と他制度で見る範囲を分けて記録しておくと、後の議論が混乱しません。
最初の実務は、適用範囲を図や一覧で描き、経営層・情報システム・事業部の三者で合意することです。対象になり得るかどうかを個人の解釈で止めず、範囲図を共有物にしておくと、水準の選定や予算の議論に進みやすくなります。範囲の考え方はIPAの解説(IPA SCS制度詳細)を一次情報として確認してください。
★3と★4は何が違い、どちらを想定するか
SCSの★3と★4は、想定する脅威の広さと評価の厳しさが違います。結論を先に言うと、一般的なサイバー攻撃への備えを確認するのが★3、取引先のデータやシステムを守り供給網の強靭化まで踏み込むのが★4です。発注元の要求水準、重要情報、供給停止時の影響、第三者評価の要否を並べ、想定水準を仮置きします。この仮置きは発注元との協議で更新します。
| 観点 | ★3 | ★4 |
|---|---|---|
| 想定する脅威 | 一般的なサイバー脅威への基本的な備え | 被害の拡大防止、取引先データ・システムの保護、供給網の強靭化 |
| 評価方法 | 専門家の確認を伴う自己評価 | 第三者評価と技術的な検証を伴う評価 |
| 要求事項数 | 26項目 | 43項目 |
| 有効期間 | 1年 | 3年 |
| 準備資料の重さ | 規程・台帳・記録の整備と自己確認 | 上記に加え第三者評価に耐える証跡・技術検証の準備 |
ここで押さえたいのは、★3を先に取得しないと★4に進めない、という前後関係は前提になっていない点です。自社が求められる水準が★4であれば、★3を経ずに★4を想定して準備を組み立てても差し支えありません。段階を踏むか一気に狙うかは、コストと社内の成熟度で決める運用上の判断です。
どちらを想定するかは、自社の判断だけで確定させず、複数の材料を並べて仮置きするのが安全です。判断材料は、発注元から実際に提示された水準、自社が扱う情報の重要度、自社が止まったときに供給が止まる度合い、そして第三者評価まで求められるかどうかです。公的に「この業種は★4」といった一律の選定基準が示されているわけではないため、取引の実態から逆算して仮の水準を置き、発注元との対話で確定させます。要求事項の詳細はIPAの解説(IPA SCS制度詳細)と要求事項・評価基準(IPA 要求事項・評価基準)を参照してください。
要求事項の7大分類を社内資料に落とし込む
SCSの要求事項は、大きく7つの分類に整理できます。準備の実務は、この7分類に対して「担当はどこか」「既にどの資料があるか」「足りない場合に何を確認するか」を一枚の表に落とすことから始まります。抽象的な要求を自社の台帳・規程・記録に翻訳し、部署名と更新頻度まで決めます。表の空欄が追加対策の候補です。
| 7大分類 | 主な担当 | 再利用できる既存資料 | 不足時に確認する事項 |
|---|---|---|---|
| ガバナンスの整備 | 経営層・情報システム | セキュリティ方針、責任分担表 | 承認者・改定日・経営層の関与記録が残るか |
| 取引先管理 | 調達・法務 | 取引先・委託先台帳、契約書 | 委託先の対策確認と再委託の把握手順があるか |
| リスクの特定 | 情報システム | 資産台帳、アクセス権一覧 | 資産と権限の棚卸が定期更新されているか |
| 攻撃等の防御 | 情報システム | 更新記録、設定基準 | パッチ適用・多要素認証の運用記録が残るか |
| 攻撃等の検知 | 情報システム | ログ・監視記録 | ログの取得範囲と確認頻度が定められているか |
| インシデントへの対応 | 情報システム・法務・総務 | インシデント対応手順、連絡網 | 通報・報告の判断基準と連絡先が最新か |
| インシデントからの復旧 | 情報システム・事業部 | バックアップ試験、復旧手順、RTO/RPO資料 | 復旧目標が業務単位で定義され試験されているか |
ここで注意したいのは、ISMS(ISO/IEC 27001)、プライバシーマーク、SECURITY ACTIONで作った資料には再利用の余地があるものの、それらがあればSCSへ自動的に適合する、とはならない点です。制度ごとに要求の粒度や証跡の求め方が違うため、既存資料をSCSの7分類へ一つずつマッピングし、埋まる箇所と空く箇所を可視化する作業が要ります。「認証を持っている=対応済み」で止めると、評価の段になって記録の不足が表面化します。
もう一段深掘りすると、規程を作った事実より、規程が運用されている痕跡が問われます。文書に更新日・承認者があるか、実施記録が残っているか、例外を認めた際の処理が記録されているか。この「動いている証拠」が7分類のどこで薄いかを先に把握しておくと、対策実装の優先順位が付けやすくなります。分類ごとの評価基準はIPAの要求事項・評価基準(IPA 要求事項・評価基準)で確認してください。
2027年3月頃の運用開始へ準備を5段階で進める
準備は、立場の確認から始めて証跡運用の定着まで、5段階に分けると迷いにくくなります。各段階で「誰が」「何を成果物にするか」を先に決め、前段の成果物を次段へ引き渡す形にします。承認待ちの箇所と予算根拠が見えるため、担当のあいだで作業が宙に浮きません。各成果物に承認者と更新期限を記録し、次工程の入口にします。
- 受注/発注の立場と取引先要求を確認する。 担当は営業・調達。成果物は、主要取引先ごとに求められている(または求められそうな)水準と確認事項を一覧化したメモです。ここで自社が受注者側か発注者側かを整理します。
- 適用範囲を確定する。 担当は情報システム・経営層。成果物は、法人・事業部・グループのいずれで評価を受けるかを示した適用範囲図と、対象となるIT基盤の一覧です。
- 既存資料と7分類のギャップを洗い出す。 担当は情報システム・法務・総務。成果物は、7分類ごとに既存資料と不足を並べたギャップ表です。ここが後の予算と工数の根拠になります。
- 対策を実装し、継続的な証跡運用を作る。 担当は情報システム・事業部。成果物は、更新される台帳、ログの確認記録、バックアップ試験記録、復旧手順です。一度作って終わりにせず、運用が回る形にします。
- 専門家の助言と最新ガイドを反映する。 担当は経営層・情報システム。成果物は、公表された解説書・取得ガイドに沿って見直した準備表と、次回更新の担当・期日です。
時間軸として押さえておきたいのは、申請方法・取得ガイド・要求事項の解説書が2026年10月頃に公表予定であり、費用は未公表という点です。ここで運用開始まで待つと準備期間を失います。既に確定している要求事項だけでも、台帳・規程・実施記録の整備は着手できます。公表を待つ事項と、今動かせる事項を分けて走らせるのが得策です。制度運用の想定はIPAのよくある質問(IPA SCSに関するFAQ)も手がかりになります。
任意制度でも準備を始める意味はあるか
任意である以上、着手を後回しにする判断もあり得ます。それでも準備を始める意味を測るには、取引の現場で対策確認がどう作用しているかを示す調査を手がかりにします。制度の任意性だけでなく、事故の取引先波及、費用負担、契約条件、社内体制の4点を並べて着手時期を決めます。数値は着手の優先順位を決める材料に限定します。
IPAの2024年度中小企業の情報セキュリティ対策に関する実態調査(Webアンケート4,191件、2024年度実施)では、発注元からセキュリティ対策の要請を受けた企業が挙げた課題として、対策費用・費用負担が51.3%、契約内容の明確化が47.0%を占めました(該当設問n=511)。つまり、取引先からの確認が来たときに最初に詰まるのは、技術そのものより「誰がいくら負担し、契約でどう定めるか」だという含意が読み取れます。準備を営業・法務・経営と一緒に進めるべき理由がここにあります。出典はIPA 2024年度中小企業実態調査です。
同じ調査からは、体制の有無が取引結果と相関することも読み取れます。専門部署・担当者がある企業では59.8%が「要請への対応が取引につながった」と回答した一方、体制が未整備の企業では24.2%にとどまりました。体制を整えて確認に応えられる状態は、取引の維持・獲得と結びつきやすいという含意です。
経済産業省が2025年に公表した資料(経済産業省 2025年公表)でも、過去3年間に被害を経験した中小企業の約7割で取引先にも影響が及び、普段からセキュリティ対策に投資している中小企業の約5割が「対策が取引につながった」と実感したとされています。被害は自社にとどまらず供給網へ波及し、平時の投資が取引面で報われた実感がある、という二つの含意が読めます。
ただし、これらはいずれもSCS取得の効果そのものを測った調査ではありません。あくまで対策や体制整備と取引の関係を示すデータであり、SCSを取れば受注が増えると読み替えることはできません。将来の義務化、すべての企業での取引条件化、取得による受注増を断定できる根拠にもなりません。示せるのは、対策と体制が取引の場面で作用しているという傾向までです。技術部門だけで進めず、費用負担と契約条件を経営・営業・法務の共同議題にする根拠として使います。
SCS評価制度でサイバー保険への加入は必須か
2026年7月16日時点の公開要求事項・評価基準を確認した範囲では、サイバー保険への加入を求める項目は見当たりません。したがって「保険に入っていないとSCSを取得できない」とは言えず、公開基準上は加入が取得要件として示されていません。公開基準と個別の取引条件を分け、契約書と制度基準を別々に照合します。
| 軸 | SCS評価制度 | サイバー保険 |
|---|---|---|
| 主な役割 | セキュリティ対策状況の可視化 | 事故後に生じる損失のうち契約で定めた範囲の財務リスク移転を検討する手段 |
| 関係 | 代替関係ではない。可視化と財務移転はそれぞれ別の目的を担う | |
整理すると、SCSは「どこまで守れているか」を外から見えるようにする仕組みで、サイバー保険は「守っても事故が起きたときの損失の一部」を契約範囲で移す仕組みです。片方がもう片方の代わりにはなりません。なお、取引先がSCS取得とは別に、契約条件として保険加入を求めてくることはあり得ます。これはSCSの要件とは切り離した、取引上の別問題として扱ってください。両者の役割の違いをもう一段細かく確認したいときは、可視化と補償の境界を対応づけて説明したSCSとサイバー保険の役割の違いを参照すると、自社の判断材料を分けて置けます。評価基準の一次情報はIPAの要求事項・評価基準(IPA 要求事項・評価基準)で確認できます。
SCS対策後の残余リスクをサイバー保険でどう点検するか
SCSの準備を進めても、事故が起きればゼロにできない損失が残ります。SCS準備で特定した残余リスクを、自社で負担するか保険で移転を検討するかの観点で点検します。IPAのプラクティス・ナビでも、インシデント時の財務面のリスクヘッジの一つとしてサイバー保険の活用検討が紹介されています(IPA プラクティス・ナビ)。保険は対策の代わりではなく、対策後に残る財務リスクへ備える選択肢という位置づけです。
損失の全体像は、日本損害保険協会が示す3区分で捉えると整理しやすくなります。事故対応費用、損害賠償費用、利益損害・営業継続費用の3つです(日本損害保険協会 サイバー保険)。ここで前提として置きたいのは、この3区分すべてが自動的に補償されるわけではないという点です。何がどこまで対象かは、個々の証券と約款で定まります。だからこそ、SCS準備で把握した残余リスクを、証券の確認欄へ一つずつ突き合わせる作業が要ります。
| 損失区分 | SCS準備で把握できる資料 | 証券・約款で見る欄 | 自己負担かの判断視点 |
|---|---|---|---|
| 事故対応費用 | インシデント対応手順、連絡網、ログ | 対象事故、被保険者、免責、指定業者、通知・事前承認 | 初動費用を自社で立て替えられるか、事前承認の手順に無理がないか |
| 損害賠償費用 | 取引先・委託先台帳、契約書、資産台帳 | 支払限度額、サブリミット、補償地域、被保険者の範囲 | 取引先への賠償想定額が限度額・サブリミットに収まるか |
| 利益損害・営業継続費用 | RTO/RPO資料、復旧手順、バックアップ試験記録 | 利益損害の待機期間、保険期間、支払限度額 | 復旧目標時間が待機期間を超える停止に耐えられるか |
証券と約款で具体的に見る項目は、対象事故、被保険者、支払限度額、サブリミット、免責、利益損害の待機期間、補償地域、保険期間、通知・事前承認の条件、指定業者の有無です。SCS準備で作った資産台帳や委託先台帳、復旧目標は、これらの欄が自社の実態に合っているかを検証する材料になります。たとえば復旧目標が待機期間より長ければ、その空白の停止損失は自己負担として残る、という具合に読み解けます。
誤解を避けたいのは、SCSを取得すれば保険料が下がる、加入できる、保険金が出る、といったことは保証されないという点です。保険の引受や支払は、見積時の申告内容と実際の事実の整合を前提に、商品・約款・契約条件で決まります。SCSの証跡と申告内容が食い違えば、引受時の事実確認や追加説明に時間を要します。可視化した事実と申告内容を一致させることが、点検の前提になります。
補償区分の全体像を先に押さえたいときは、事故から補償までの流れを解説したサイバー保険とは何かの解説が次の資料になります。
初動でかかる費用の内訳と補償の境界を詰めたいときは、調査・通知・復旧の費用を分けたインシデント対応費用の内訳を確認すると、証券照合の対象を具体化できます。
経営会議に出す資料と相談前チェックリスト
ここまでの検討を経営会議にかけるには、判断に使う資料を一式そろえておくと議論が進みます。資料ごとに決める会議事項を付け、担当・期限・不足情報を同じ表で管理します。保険の検討は最後へ回さず、事故費用を整理した段階で証券との照合を始めます。取得要否と保険手配は別の議案にし、議事録にも分けて記載します。
- 主要取引と発注元からの要求水準 … 対象になり得るかと、想定★水準の仮置きに使う。
- 希望する★水準(★3/★4) … 評価方法・要求事項数・準備工数の見積りに使う。
- 適用範囲図 … 法人・事業部・グループのどこで受けるかの合意に使う。
- 7分類のギャップ表 … 不足対策の優先順位と予算配分の根拠に使う。
- 担当・期限・概算予算 … 実装スケジュールと費用負担の分担決定に使う。
- 重要業務とRTO/RPO … 復旧目標の妥当性と停止損失の見積りに使う。
- 事故費用の想定(3区分) … 自己負担か保険移転かの線引きに使う。
- 現行の保険証券と約款 … 残余リスクと補償範囲の照合に使う。
- 過去の事故・改善記録 … 申告内容の裏付けと再発防止の説明に使う。
このうち保険証券と事故費用の想定は、そのまま見積りの前提資料になります。補償範囲を自社の残余リスクに合わせて設計するには、限度額や被保険者の範囲を証券と突き合わせる材料が要るためです。見積りに進む際にどの書類を用意するかは、サイバー保険の見積りに必要な書類で確認しておくと、相談がスムーズになります。
那由他保険テクノロジーズによるSCS準備資料とサイバー保険証券の照合支援
ここまでの手順を進めても、会社ごとに残るのは次の3点です。第一に、適用範囲を法人・事業部・グループのどれで設定するか決めても、現行のサイバー保険証券で被保険者がその単位と一致しているかは別に確認しないと分かりません。第二に、事故対応費用・損害賠償費用・利益損害の3区分で想定額を置いても、対象事故・免責・サブリミットの定めによってどこまでが自己負担として残るかは証券ごとに違います。第三に、重要業務ごとにRTO/RPOを定義しても、利益損害の待機期間との差が停止損失としていくら残るかは、両者を並べないと数字になりません。
那由他保険テクノロジーズでは、サイバー領域の補償ギャップ分析と、事業リスク・契約条件に沿った保険調達支援を行っています。SCS準備で作成した適用範囲図、7分類のギャップ表、委託先と再委託先の一覧、復旧目標(RTO/RPO)と復旧手順、バックアップ試験記録、過去の事故・改善記録を、現行のサイバー保険証券・約款・申込書控えと並べ、対象事故、被保険者の範囲、支払限度額、サブリミット、免責、利益損害の待機期間、補償地域、保険期間、通知・事前承認の条件、指定業者の有無を欄ごとに突き合わせます。あわせて、自己負担のまま残る残余リスクの大きさに対して、補償が重複している欄や限度額が見合っていない欄がないかを、同じ表で確認します。
証券の記載だけでは判断できない項目、たとえばグループ会社や特定事業部が被保険者に含まれるか、委託先・再委託先の過失に起因する賠償が対象になるか、指定業者以外に依頼した初動調査費用が対象になるかは、引受保険会社への照会事項として文面に起こし、情報システム・調達・法務のどの担当が回答の根拠を持つかを併記します。この作業の結果として、自己負担のまま残る損失区分と金額帯、補償条件の追加や限度額の見直しを検討すべき箇所、次回更新まで据え置いてよい箇所を、経営会議の議案として分けて示せます。
なお、委託先契約の賠償条項の解釈や再委託時の責任範囲は法務の判断領域であり、顧問弁護士等への確認が必要になり得ます。SCSの取得や★水準の達成によって保険料や引受条件が有利になることは保証されず、引受と支払は商品・約款・契約条件と申告内容の整合で決まります。申請費用や取得ガイドが未公表の段階では補償を急いで変更せず、SCS準備で確定した事項だけを反映し、残りを次回更新時期に合わせて設計する進め方も選べます。現行のサイバー保険証券と約款、事故費用の想定(3区分)、適用範囲図をご用意いただければ、どの欄が自社の準備状況と合っていないかを一緒に確認できます。
今すぐ着手できることと公表待ちの事項を分ける
準備を止めないコツは、確定した要求事項で動かせることと、公表を待つべきことを一枚で分けておくことです。同じ表で更新担当・確認日・仮予算を設定すれば、未公表事項を推測で埋めずに作業を進められます。未公表事項は暫定値で固定せず、予算枠も分け、確定後に再承認します。差し替え履歴を残せば、古い前提による判断を避けられます。
| 今すぐ着手できる確定事項 | 公表を待つ事項 |
|---|---|
| 適用範囲の設定と合意 | 2026年10月頃の解説書・取得ガイド・申請方法 |
| 資産・委託先台帳の整備 | 申請・登録費用 |
| 既存規程の見直しと証跡運用 | 専門家・評価機関のリストや詳細 |
| 復旧目標(RTO/RPO)の定義と試験 | 細部の運用手順 |
| 保険証券との照合 | 現時点で特になし |
公表待ちの事項が更新されたときに準備表を差し替える担当と、次回の更新確認日を先に決めておきます。担当と更新日が空欄のままだと、10月頃の公表を取りこぼしがちです。更新の当番を割り当て、公式ページを定点で確認する体制にしておくと、確定情報が出たその日から準備表を最新化できます。
よくある質問
SCS評価制度は義務ですか
2026年7月16日時点の公開情報では、SCS評価制度は任意の制度であり、制度そのものへの参加は法令上の一律義務として示されていません。ただし発注元が取引条件として対策確認を求めることはあり得るため、取引の実態に応じて準備の要否を判断するのが実務的です。将来の義務化を断定できる根拠は現時点でありません。
★3を取らないと★4を取得できませんか
★3の事前取得は★4取得の前提として示されていません。自社が求められる水準が★4であれば、★3を経ずに★4を想定して準備を組むことができます。段階的に進めるか一気に狙うかは、コストや社内の成熟度で決める運用上の判断であり、公的に前後関係が定められているわけではありません。
ISMSやPマークがあればSCS対応は不要ですか
ISMSやプライバシーマークで作った資料には再利用の余地がありますが、それらがあればSCSへ自動的に適合するわけではありません。制度ごとに要求の粒度や証跡の求め方が違うため、既存資料を7分類へマッピングし、埋まる箇所と不足する箇所を確認する作業が要ります。認証の保有と対応済みは同じではない点に注意してください。
SCS評価を取得すればサイバー保険料は下がりますか
SCSの取得で保険料が下がると保証されているわけではありません。保険料や引受は、見積時の申告内容と実際の事実の整合を前提に、商品・約款・契約条件で決まります。SCSの証跡は対策状況を説明する材料になり得ますが、料率への反映は個々の保険会社の判断であり、一律の割引を約束するものではありません。
SCS対応をすればサイバー保険は不要ですか
SCS対応と保険は代替関係にありません。SCSは対策状況を可視化する制度、保険は事故後に残る損失の一部を契約範囲で移す手段で、目的が違います。対策を尽くしても残る財務リスクをどう扱うかは別の判断であり、自己負担で持つか保険で移すかを、証券の限度額や免責と突き合わせて点検してください。
申請費用と取得までの期間は決まっていますか
2026年7月16日時点で、申請・登録費用は未公表です。申請方法や取得ガイドは2026年10月頃の公表が予定されており、取得までの期間も現時点で断定できません。費用や日程を確定事項として計画に組み込むと後でずれるため、公表待ちの事項として分けて管理し、確定した要求事項から準備を進めるのが安全です。
参考一次情報・公的資料
- 経済産業省 SCS評価制度の方針公表(2026年3月27日)
- IPA サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度 制度詳細
- IPA SCS評価制度 要求事項・評価基準
- IPA SCS評価制度 よくある質問
- IPA 2024年度中小企業の情報セキュリティ対策に関する実態調査
- 経済産業省 中小企業のサイバーセキュリティに関する公表資料(2025年)
- IPA プラクティス・ナビ サイバー保険の活用検討
- 日本損害保険協会 サイバー保険の解説
情報確認日:2026年7月16日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月16日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。補償・引受・保険料・保険金の支払は商品・約款・契約条件・個別事情によって決まり、法務・税務・労務・会計の取扱いは専門家への確認が必要になり得ます。