
船便から航空便へ切り替えるとき、現行の外航貨物保険がそのまま航空区間へ及ぶかは、証券に記された輸送手段・補償区間・ICC条件で決まります。運送人責任の限度、AWBの性質、混載時の書類階層、空港保管の終期、継搬費用と代替品の緊急輸送費の境界は、船便条件とは別に照合します。InvoiceとAWB案、既存証券を並べ、出荷前に保険会社と運送契約先へ差分を照会する材料をここで整えます。
Summaryこの記事のポイント
- 証券名が外航貨物海上保険でも、航空区間を補償するかは輸送手段・補償区間・ICC条件の記載で決まり、名称だけでは判断できません。
- モントリオール条約が適用され荷送人の特別な申告がない場合の運送人責任限度は1kg当たり26 SDRで、これは貨物の保険金額でもInvoice価額の補償でもありません。
- AWBは貨物の受領証・運送契約の証拠であり、B/Lのような有価証券・引換証ではなく、混載ではMAWBとHAWBの階層で契約相手と事故窓口を照合します。
- 継搬費用は、事故で運送が打ち切られた当該貨物を運び続けるための費用です。別に手配した代替品の緊急航空運賃や納期遅延・違約金とは別項目のため、証券・特約でそれぞれの扱いを確認します。
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船便から航空便へ変える前に契約差分を一覧化する
航空便への変更でまず見るのは、輸送時間ではなく契約と書類の差分です。海上輸送を前提に手配した証券・約款・運送書類は、輸送手段や補償区間、適用条項が航空便とかみ合わず、船便のICC(A)やB/Lの扱いをそのまま持ち込むと補償の空白が生じます。現行証券とAWB案を並べ、書き換わる欄を先に抜き出します。
差は名称の置き換えにとどまりません。補償の始点と終点、混載・積替えの扱い、空港での一時保管、費用補償の条項が、海上と航空でそれぞれ別の前提に立っています。外航貨物海上保険の全体像や海上での補償区間の考え方は既存の解説記事が担い、本記事は船便から航空便へ移す際に変わる欄へ絞ります。海上保険そのものの構造を先に押さえたい場合は外航貨物海上保険とは何かを整理した記事を土台にしてください。
次の表は、変更で書き換わる契約・書類の欄を抜き出す用途です。
| 項目 | 船便(変更前) | 航空便(変更後) | 出荷前に戻す先 |
|---|---|---|---|
| ICC条件 | ICC(A)などの海上約款 | ICC(Air)など航空約款 | 証券の担保条件欄 |
| 運送書類 | B/L(船荷証券) | AWB・MAWB・HAWB | フォワーダー発行書類 |
| 運送人責任 | 海上運送人の約款・条約 | モントリオール条約適用時は26 SDR/kg(特別な申告なし) | 運送約款・AWB申告欄 |
| 積替え・混載 | 船積み・コンテナ単位 | 混載・積替空港でのハンドリング | ルート・AWB階層 |
| 保管 | 港湾・保税蔵置 | 空港上屋での一時保管 | 証券の輸送過程・終期条項 |
| 費用補償 | 海上の共同海損・救助料等 | ICC(Air)の継搬費用ほか | 証券・特約の費用条項 |
各欄について、証券記載とAWB案の内容が整合するか、差分を誰へ確認するかを保険担当とフォワーダーへ同時に照会し、空白の欄を相談リストへ移します。
航空運送人の責任限度と貨物保険を分ける
モントリオール条約の26 SDR/kgは、条約が適用される国際航空運送で荷送人の特別な申告がない場合の運送人責任の上限であり、貨物の保険金額でも最低支払額でもありません。国土交通省とICAOは、貨物の破壊・紛失・損傷・延着に関するこの限度が2024年12月28日に22 SDR/kgから26 SDR/kgへ引き上げられたと案内しています。日本貨物航空の国際運送約款も、申告がない場合の責任限度を26 SDR/kgとし、AWB面の荷送人申告価額を超えない旨を示します。
ここで見落としがちなのは、重量ベースの上限とInvoice価額が別物だという点です。高付加価値で軽量の貨物では、重量に26 SDRを掛けた額がInvoice価額を大きく下回ることが起こり得ます。運送人責任はあくまで運送契約上の賠償の枠であり、貨物そのものの価額を保険する仕組みではありません。この差を埋めるのが貨物保険であり、AWBでの申告価額はまた別の追加料金・条件を伴います。
国土交通省が示す1 SDR約201円は2024年11月27日時点の参考換算で、本記事では現在の円額へ換算しません。適用条約・路線、申告価額、追加料金、運送約款、事故原因で結論は動くため、数字だけで補償額を決めない前提で入力欄を埋めます。
次の入力表は、重量ベースの責任限度とInvoice価額・貨物保険金額を並べ、混同を避ける用途です。
| 入力項目 | 記入内容 | 確認する差 |
|---|---|---|
| 貨物総重量(kg) | AWB記載の重量 | 責任限度の算定基礎 |
| 運送人責任限度 | 26 SDR/kg(申告なし時) | 賠償の上限であり保険金額ではない |
| 重量×26 SDRの概算 | 重量×26(SDR建て) | 円換算・支払見込みは固定しない |
| Invoice価額 | 取引通貨での価額 | 責任限度との開き |
| AWB申告価額 | 申告の有無と額 | 追加料金・条件の要否 |
| 貨物保険金額 | 証券・Open Policyの金額 | 差を埋める補償の有無 |
重量×26 SDRとInvoice価額の開きが大きい貨物ほど、貨物保険と申告価額の扱いを保険会社・フォワーダーへ個別に確認します。
AWB・HAWB・MAWBで契約相手と貨物を照合する
AWB(航空運送状)は貨物の受領証であり運送契約の証拠となる書類ですが、B/Lのような有価証券・引換証ではありません。JETROの解説でも、AWBは船荷証券と違い流通・引換の機能を持たない点が示されています。B/Lの航空版と単純化すると、引渡しや事故窓口の理解がずれます。混載貨物では、フォワーダーが実荷主へ発行するHAWBと、航空会社がフォワーダーへ発行するMAWBの二階層になり、どちらか一方だけで契約相手や事故窓口を断定できません。
国土交通省の国際航空貨物動態調査の用語でも、混載におけるMAWBとHAWBの発行関係が公的に整理されています。事故が起きたとき、賠償請求の相手方や保険金請求の窓口は、AWB・約款・手配契約をたどって特定します。荷送人・荷受人・申告欄・番号を書類ごとに突き合わせ、自社が誰に対して何を主張できるかを出荷前に把握します。
次の表は、書類ごとの発行者と契約の相手方、照合する欄をそろえる用途です。
| 書類 | 発行者 | 契約の相手方 | 照合する欄 |
|---|---|---|---|
| AWB(直送) | 航空会社・代理店 | 荷送人 | 番号・申告価額・荷受人 |
| MAWB(混載) | 航空会社 | フォワーダー(混載業者) | マスター番号・総重量 |
| HAWB(混載) | フォワーダー | 荷送人(実荷主) | ハウス番号・貨物明細・申告 |
混載ではHAWBとMAWBの双方を控え、賠償請求と保険金請求それぞれの相手方を自社書類で確認してから発送します。
ICC(Air)と空港保管の責任期間を確認する
海上のICC(A)を航空便でそのまま流用せず、ICC(Air)の通常の輸送過程・積替え・保管の扱いと補償の終期を証券へ戻して確認します。貨物保険の担保区間は、集荷から最終倉庫までの通常の輸送過程を単位に定められ、途中の積替えや空港での一時保管が輸送過程に含まれるかは条項次第です。空港倉庫という場所の名前だけで補償が続くとは限りません。
AIGの一般案内では、最終倉庫へ到着する前でも、航空機からの荷卸し完了後30日で担保が終わる例が示されています。これはAIGの一般案内であって、全社・全契約に共通する自動補償期間ではありません。通常の輸送過程を外れた保管や、貨物の分配・保管目的での蔵置では、より前に担保が終わる同社説明も併記されています。30日という数字を一律の自動補償とは扱わず、自社の証券条項で終期を確かめます。
次のタイムライン表は、航空便の集荷から最終倉庫までの各区間を証券と照合する用途です。
| 区間 | 積替え・保管 | 管理者 | 証券で見る点 |
|---|---|---|---|
| 集荷〜出発空港 | 内陸輸送 | フォワーダー・陸運 | 始点・輸送過程の開始 |
| 出発空港ハンドリング | 上屋での一時保管 | 航空会社・上屋業者 | 保管が輸送過程に含まれるか |
| 混載・積替え | 積替空港でのハンドリング | 混載業者 | 積替えの担保 |
| 到着空港荷卸し・保管 | 荷卸し後の蔵置 | 航空会社・上屋業者 | 荷卸し後の終期条項 |
| 到着後配送〜最終倉庫 | 内陸輸送 | 陸運 | 終点・保管目的の蔵置 |
各区間の管理者と補償の終期を証券条項へ照らし、空港保管を追加するときは担保が続くかを保険会社へ照会します。
高額・壊れやすい貨物は梱包と申告を分ける
精密機器や壊れやすい貨物では、梱包の一般論を繰り返すよりも、航空便のハンドリング区間と申告資料へ絞って確認します。航空輸送では、上屋での積み降ろし、混載・積替え、機体への搭載といった航空便固有の拠点・工程を通ります。梱包仕様と取扱指示、価額の申告資料をそろえ、どの区間で何が起こり得るかを証券・約款と突き合わせます。
精密機器の梱包・輸送そのものの詳細は既存の専門記事が担い、本記事は船便から航空便へ移す際の申告とハンドリング区間へ限定します。梱包基準や輸送中の取扱いを掘り下げたい場合は海外向け機械・精密機器輸送の保険を扱った記事を参照し、本記事の申告・区間確認と役割を分けて使ってください。
次の確認表には、航空ハンドリングと価額申告の説明に使う資料を書き出します。
| 確認項目 | 記入内容 | 用途 |
|---|---|---|
| 貨物名・数量 | 品目・個数 | Invoice・Packing Listとの一致 |
| 梱包仕様 | 外装・緩衝・固定 | ハンドリング耐性の説明 |
| 重量・寸法 | 実重量・容積 | AWB記載・責任限度の基礎 |
| 価額・通貨 | 取引価額 | 申告価額・保険金額の根拠 |
| 取扱指示 | 天地無用・温度等 | 上屋・搭載での取扱い |
これらの資料を申告価額と保険金額の根拠としてそろえ、ハンドリング区間ごとの取扱指示をフォワーダーへ共有します。
継搬費用と代替品の緊急輸送費を混同しない
事故で運送が打ち切られた当該貨物を仕向地へ運ぶ継搬費用と、別に手配した代替品を急いで送る航空運賃、そして納期遅延・違約金は、それぞれ別の項目です。東京海上日動の公開概要では、ICC(Air)第10条の継搬費用は、貨物または輸送用具の事故で運送が途中で打ち切られた場合に、当該貨物を仕向地へ輸送するため適切かつ合理的に支出された費用と説明されています。ここに、事故貨物とは別に用意した代替品の緊急航空運賃や、物損を伴わない納期遅延、売買契約上の違約金を読み込むと、対象がずれます。
費用ごとに、発生原因、対象となる貨物、証券・特約での扱い、支出前の連絡・承認、契約上の負担者を別々に確認します。継搬費用が当該貨物の運送継続を対象とする一方、代替品の緊急輸送は事故貨物ではなく代わりの貨物に関する費用であり、遅延損害や違約金は物損の有無や売買条件に左右されます。名称や条番号だけで同じ財布から出ると考えず、証券条項へ戻します。
次の比較表は、四つの費用を原因・対象・負担者で切り分け、証券確認へつなぐ用途です。
| 費用項目 | 発生原因 | 対象貨物 | 確認先・負担の起点 | 確認する条項 |
|---|---|---|---|---|
| 継搬費用 | 事故による運送打切り | 当該貨物 | 貨物保険の費用条項 | ICC(Air)第10条・特約 |
| 代替品の緊急航空輸送費 | 欠品・代替品発送 | 代わりの貨物 | 荷主・売買当事者 | 証券の対象外か特約か |
| 納期遅延損害 | 延着(物損なし含む) | 取引全体 | 契約・約款で判断 | 免責・除外条項 |
| 売買契約上の違約金 | 契約不履行 | 取引全体 | 売買当事者 | 売買契約・免責 |
各費用の負担者と支出前承認の要否を、証券・特約と売買契約の双方で確認してから手配します。
航空便へ切り替える前の資料を一つにまとめる
ここまでの差分・責任限度・書類階層・責任期間・費用区分の確認は、出荷前に一つの確認資料へ束ねると抜けが見えます。営業・生産管理が納期と代替可否、物流がAWB案・ルート・積替え・空港保管、貿易がInvoice・Packing List・売買条件、保険担当が証券・Open Policy・Certificateを持ち寄り、社内承認の不足も同じ表で洗い出します。
次のチェック表は、航空便への切替で確認する資料を手元の有無で点検し、社内承認に足りない欄を洗い出す用途です。
| 資料 | 内容 | 手元の有無 |
|---|---|---|
| Invoice | 品目・価額・通貨 | 確認欄 |
| Packing List | 個数・重量・寸法 | 確認欄 |
| AWB/HAWB/MAWB案 | 発行者・申告価額 | 確認欄 |
| ルート・積替空港 | 経由地・積替え | 確認欄 |
| 空港保管 | 保管の有無・目的 | 確認欄 |
| 梱包仕様 | 外装・取扱指示 | 確認欄 |
| 希望納期 | 到着予定日・緊急度 | 確認欄 |
| 申告価額 | AWB申告の有無 | 確認欄 |
| 既存証券・Open Policy・Certificate | 担保条件・区間 | 確認欄 |
| 売買条件 | Incoterms・負担区分 | 確認欄 |
空欄が残る項目を相談リストの先頭へ置き、保険会社・フォワーダー・社内承認者への確認事項として振り分けます。
那由他保険テクノロジーズでは、何が気がかりなのか整理できていない段階からお話をうかがい、船便から航空便で変わる欄のどこを確かめればよいかを最初から一緒に整理します。まずは気になっている点を一つ挙げていただくところから始められます。
よくある質問
外航貨物海上保険という名称でも航空貨物を補償できますか
名称だけでは決まりません。証券に記された輸送手段・補償区間・担保条件に航空区間が含まれるか、ICC(Air)などの航空約款が付帯されているかで判断します。海上専用の条件のままだと航空区間が対象外となることもあるため、証券とAWB案を保険会社へ示して確認します。
26 SDR/kgはすべての航空貨物に適用され、Invoice価額まで支払われますか
26 SDR/kgは、モントリオール条約が適用され荷送人の特別な申告がない場合の運送人責任の上限で、全貨物一律の支払額でもInvoice価額の補償でもありません。適用条約・路線や申告価額、事故原因で結論は動き、重量ベースの上限がInvoice価額を下回ることも起こり得ます。差は貨物保険と申告価額で別に確認します。
AWBとB/Lは何が違いますか
AWBは貨物の受領証・運送契約の証拠ですが、B/Lのような有価証券・引換証ではなく、流通や引換の機能を持ちません。B/Lの航空版と単純化すると引渡しや事故窓口の理解がずれるため、AWBの性質を前提に手配と請求の流れを確認します。
混載貨物ではHAWBとMAWBのどちらを確認しますか
双方を確認します。フォワーダーが実荷主へ発行するHAWBと、航空会社が混載業者へ発行するMAWBは契約の階層が違い、賠償請求の相手方や保険金請求の窓口は両方をたどって特定します。片方だけで事故窓口を断定しません。
空港倉庫なら荷卸し後30日まで自動的に補償されますか
荷卸し完了後30日はAIGの一般案内で示された例であり、全社・全契約に共通する自動補償期間ではありません。通常の輸送過程を外れた保管や分配・保管目的の蔵置では、より前に担保が終わる説明もあります。自社の証券条項で終期を確認します。
代替品の緊急航空輸送費や遅延損害は貨物保険から支払われますか
当然に支払われるとは限りません。事故貨物の運送を継続する継搬費用と、別に手配した代替品の緊急運賃、物損を伴わない遅延損害・違約金は別項目で、対象・原因・負担者が異なります。証券・特約と売買契約で費用ごとに扱いを確認します。
参考一次情報・公的資料
- 国土交通省「モントリオール条約に係る責任限度額の改正について」
- ICAO「International air travel liability limits set to increase」
- 東京海上日動「外航貨物海上保険 保険金の概要」
- 日本貨物航空「国際運送約款」
- JETRO「航空貨物運送状と船荷証券の違い」
- 国土交通省「国際航空貨物動態調査を利用するにあたっての参考情報」
- AIG「外航貨物海上保険 保険金請求のご案内」
情報確認日:2026年7月16日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月16日
本記事は一般的な情報提供であり、特定の保険商品の推奨や個別の引受・補償を保証するものではありません。運送人の責任、補償の適用、引受、保険料、保険金の支払は、適用される条約、運送約款、商品・約款・契約条件、路線、申告内容、個別の事故状況によって決まります。貿易・運送契約・法務・会計・税務にかかわる判断は、それぞれの専門家への確認が必要になり得ます。条約の限度額、運送約款、保険のサービス条件は改定されるため、手配前に最新の適用情報をご確認ください。