
「法人保険の30万円特例」は独立した節税制度ではなく、定期保険・第三分野保険(医療保険・がん保険など)を短期払いした保険料の損金算入時期を判定する通称です。30万円を数える取扱いは二つあり、解約返戻金相当額のない短期払いは「当期に実際に支払った保険料」、最高解約返戻率50%超70%以下の契約は「年換算保険料相当額」を、いずれも同一被保険者ごとに合算して判定します。合算して30万円を超えると、その被保険者の対象契約はすべて原則どおり保険期間(終身なら116歳まで)の経過に応じた損金算入に戻ります。適用されるのは令和元年10月8日以後に契約した解約返戻金のない短期払い契約です。
Summaryこの記事のポイント
- 「30万円特例」は税負担を減らす枠ではなく、支払った保険料を損金算入する「時期」を判定するための通称です。
- 解約返戻金相当額のない短期払いは「その事業年度に実際に支払った保険料」、最高解約返戻率50%超70%以下の契約は「年換算保険料相当額」を、同一被保険者ごとに合算します。
- 判定単位は契約1件ごとではなく同一被保険者です。保険会社や加入時期が違っても合算し、合算後の金額が30万円を超えると、その被保険者の対象契約はすべて保険期間に応じた損金算入に戻ります。
- 解約返戻金相当額のない短期払いの取扱いは、令和元年10月8日以後に契約した保険に適用されます。それより前の契約は改正前の取扱いによります。
- 給付金・解約返戻金・名義変更という出口まで見ないと後年度の処理を取りこぼします。最終判断は顧問税理士の確認が前提です。
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法人保険の30万円特例とは?独立した節税特例ではない
法人保険の30万円特例とは、法人が契約者となって役員・使用人を被保険者とする第三分野保険(医療保険・がん保険・介護保険など)や定期保険を短期払いしたときに、一の被保険者について当該事業年度に支払った保険料が30万円以下であれば、保険期間にわたって按分せずに支払った事業年度の損金に算入してよいとする、法人税基本通達9-3-5(注)2の簡便的な取扱いの通称である。金額が30万円以下に収まるかどうかは費用計上のタイミングを決めるだけで、支払った保険料の総額が増減するわけでも、納める税金そのものが消えるわけでもありません。
この通称が広まる過程で、いくつかの読み違いが起こりやすくなっています。
- 「30万円以下なら支払った年にまとめて費用にできるから有利」という理解。損金算入は費用をいつ計上するかの話で、それ自体が利益を生む仕組みではありません。前倒しで費用化しても、保障期間全体で見た負担は変わりません。
- 「契約を小さく分ければ判定に収まる」という理解。後述のとおり判定は同一被保険者単位で合算するため、契約を分けても同じ被保険者なら合算後の金額で区分されます。
- 「小口に収まること自体が目的」という理解。給付金の受取や解約、名義変更という出口の処理まで含めて全体で見る論点で、入口の損金算入だけで有利・不利は決まりません。
通達の趣旨に沿った読み方は、金額の大小で商品を選ぶのではなく、契約の性質を確かめたうえで、支払った保険料をどの年度の費用にするかを正しく割り当てることです。判断のよりどころは国税庁 No.5364とNo.5364-2、およびその根拠となる法人税基本通達 第3節 保険料等の9-3-5・9-3-5の2です。国税庁はこの改正に合わせて定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQも公表しており、合算の仕方や途中加入の扱いなど実務の細部はこのFAQで確認できます。
第三分野の短期払いと年換算保険料相当額を確認する
第三分野保険は、生命保険(第一分野)にも損害保険(第二分野)にも属さず、医療・がん・介護・傷害などを保障する保険の総称です。短期払いは、保障が続く保険期間より短い期間で払込みを終える形態で、保障が終身でも払込みを10年払や全期前納で完了させます。この払込みの前倒しにより、各年度に費用化する保険料と実際の保障期間との間にずれが生じ、そのずれの扱い方で処理が枝分かれします。
「年換算保険料相当額」は、その保険の保険料の総額を保険期間の年数で割った、一年あたりの保険料相当額です。注意したいのは、この年換算保険料相当額を30万円判定に使うのは最高解約返戻率が50%超70%以下の契約(9-3-5の2ただし書)であって、解約返戻金相当額のない短期払い契約ではない点です。後者は年換算した金額ではなく、その事業年度に実際に支払った保険料の額で判定します。同じ「30万円」でも物差しが違うため、まず自社の契約がどちらの取扱いに当たるかを、証券の保険種類・保険期間・払込期間欄と、交付資料に記載された解約返戻金の有無・最高解約返戻率で確かめます。
金額の出所は自己計算ではなく交付資料の実数に一本化するのが安全です。払込期間の取り方が一年ずれるだけでも、年換算保険料相当額やその年度の支払額は変わり、区分の当落が動きます。交付資料が手元になく古い設計書しか残っていない場合は、現行契約の交付資料を保険会社へ請求するところから始めます。
背景として市場規模に触れておくと、生命保険協会「2025年版 生命保険の動向」(2025年公表)では、2024年度の個人保険の新契約が1,243万件、うち医療保険が296万件、がん保険が159万件とされています。ただしこれは個人保険を中心とした契約動向であり、法人が短期払いした第三分野契約の件数や税務処理を示す統計ではありません。件数の多寡は判定に関係せず、処理は契約ごとに通達へ当てはめて確かめます。
30万円特例はいつから?令和元年10月8日以後の契約に適用される
解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険についての30万円の取扱いは、令和元年(2019年)10月8日以後に契約した保険の保険料に適用されます。同じ令和元年の通達改正でも、最高解約返戻率による区分(9-3-5の2)など他の取扱いは令和元年7月8日以後の契約が対象で、適用開始日が3か月ずれています(国税庁 経過的取扱い・趣旨説明)。日付が分かれているのは、解約返戻金のない短期払いの取扱いが意見公募の後に追加されたため、周知の期間を置いたからです。
令和元年10月8日より前に契約した解約返戻金のない短期払い契約の保険料は、改正前の法人税基本通達と、廃止前の個別通達(いわゆる「がん保険通達」など)の取扱いの例によります。したがって、同じ被保険者に新旧の契約が混在している会社では、契約日で取扱いを切り分けたうえで、30万円の判定にも適用日前の契約の保険料は含めません(国税庁FAQ Q17③)。契約日は証券の「契約日」欄で確認します。更新や特約の付加があった場合の扱いは個別性が高いため、FAQのQ13・Q14を参照のうえ税理士に確認します。
なお「30万円特例は廃止されたのか」という検索も見られますが、2026年11月2日時点で、国税庁タックスアンサーNo.5364(令和8年4月1日現在の法令等に基づく)には注3として解約返戻金相当額のない短期払い契約の30万円の取扱いが掲載されています。将来の改正の有無はここでは扱いません。
同一被保険者の契約を合算して30万円以下か判定する
30万円以下かどうかは、契約1件ごとではなく、同一被保険者を単位に合算して判定します。ある被保険者について複数の対象契約があるときは、その被保険者分をまとめた金額で区分を見ます。契約を形式的に分けても、被保険者が同じなら合算後の金額で判断されるため、分割して判定に収める発想は成り立たない前提で見ておくのが安全です。
合算する範囲は「保険会社やそれぞれの保険契約への加入時期の違いにかかわらず、その全ての保険」です(国税庁FAQ Q17①)。医療保険はA社、がん保険はB社というように契約先が分かれていても、同じ被保険者であれば合計します。FAQには、年払保険料20万円の無解約返戻金型終身医療保険(払込期間30年)と年払保険料100万円の無解約返戻金型終身がん保険(払込期間5年)に同じ被保険者で加入した例が挙げられ、合計120万円となるため、どちらの保険料についても30万円の取扱いは認められず、それぞれの保険期間(116歳まで)の経過に応じて損金算入すると説明されています。
合算するときに数える金額は、契約の類型で変わります。次の表で、二つの「30万円」取扱いを取り違えないように並べます。
| 項目 | 解約返戻金相当額のない短期払い(9-3-5(注)2) | 最高解約返戻率50%超70%以下の小口契約(9-3-5の2ただし書) |
|---|---|---|
| 対象契約 | 保険期間を通じて解約返戻金相当額のない(ごく少額の払戻金を含む)短期払いの定期保険・第三分野保険 | 保険期間3年以上で最高解約返戻率が50%超70%以下の定期保険・第三分野保険 |
| 判定する金額 | 当該事業年度に実際に支払った保険料 | 年換算保険料相当額(保険料総額÷保険期間の年数) |
| 集計単位 | 一の被保険者につき、この類型の全契約を合算 | 一の被保険者につき、この類型の全契約を合算 |
| 30万円以下のとき | 支払った日の属する事業年度に損金算入 | 資産計上を要さず9-3-5の例(期間の経過に応じて損金算入) |
| 30万円を超えるとき | 保険期間の経過に応じて損金算入(前払部分を資産計上・取崩し) | 最高解約返戻率の区分に応じて資産計上 |
| 適用時期 | 令和元年10月8日以後の契約 | 令和元年7月8日以後の契約 |
| 根拠 | 国税庁 No.5364 注3/法基通9-3-5(注)2 | 国税庁 No.5364-2/法基通9-3-5の2ただし書 |
二つの取扱いは対象となる契約の類型が異なるため、合算はそれぞれの類型の中で行います。解約返戻金のない短期払い契約の「実支払保険料」と、返戻率50%超70%以下の契約の「年換算保険料相当額」を足し合わせて一つの30万円を判定することはありません。
実務では、被保険者ごとに契約を集約する台帳を作ると、合算の抜けを防げます。同じ被保険者の契約が別々の担当・別々の年度・別々の保険会社で処理され、合算を見落とすのが最も起こりやすい誤りです。台帳には次の列をそろえます。
| 列 | 記載する内容 | 主な出所 |
|---|---|---|
| 被保険者 | 氏名・生年月日(同一人物の名寄せ用) | 証券・交付資料 |
| 契約の特定 | 保険会社・証券番号・保険種類・契約日(令和元年10月8日以後か) | 証券 |
| 契約の類型 | 解約返戻金の有無(払込期間終了後も含めて)・最高解約返戻率 | 交付資料 |
| 判定に使う金額 | 実支払保険料か年換算保険料相当額かの別と金額 | 交付資料 |
| 当事業年度の支払額 | その年度に払い込んだ保険料 | 交付資料・仕訳 |
| 被保険者合計 | 同一被保険者分を類型ごとに合算した金額 | 台帳で集計 |
| 判定・処理 | 30万円以下か、損金算入か資産計上か | 台帳で判定 |
なお、グループ内の複数法人がそれぞれ同じ人物を被保険者として契約している場合は、被保険者が同一かどうかを各社の交付資料を並べて確かめる必要が出てきます。複数法人をまたぐ実質判定は個別性が高いため、本記事は同一法人内の契約台帳と二つの30万円取扱いに絞ります。証券と交付資料を集約する担当を経理・総務のどちらが持つかを先に決めておくと、判定の抜けが起きにくくなります。
事業年度の途中で追加加入・解約した場合はどう数えるか
事業年度の途中で同じ被保険者に契約を追加したり解約したりすると、その年度の合計額が動きます。国税庁FAQ Q17②は、解約返戻金相当額のない短期払い契約について次のように整理しています。最初に加入した契約の年払保険料が30万円以下でも、途中で追加加入した契約の保険料と合わせて当該事業年度の支払額が30万円を超える場合は、その年度に支払ったいずれの保険料についても30万円の取扱いは認められず、それぞれの保険期間の経過に応じて損金算入します。反対に、2契約のうち一方を年度の途中で解約し、その年度に支払った保険料の合計が30万円以下に収まるときは、当該事業年度に支払った保険料を当期の損金に算入できます。
年換算保険料相当額で判定する類型(返戻率50%超70%以下)では扱いが少し異なり、追加加入で合計が30万円を超えた場合は、最初の契約の当期分保険料のうち追加加入以後の期間に対応する部分から9-3-5の2の資産計上に移ります(事務の簡便のため、追加加入した日を含む事業年度の当期分保険料の全額を9-3-5の2で処理しても差し支えないとされています。FAQ Q9②)。年度の途中で契約数が変わった会社は、どちらの類型に当たるかを確認したうえで、FAQの該当箇所を税理士と読み合わせます。
給与として扱われる契約は判定に含めない
役員または部課長その他特定の使用人(その親族を含む)のみを被保険者とし、保険金・給付金の受取人を被保険者またはその遺族とする契約の保険料は、その役員・使用人に対する給与として扱われます(法基通9-3-5(2)ただし書)。給与となる保険料には30万円の取扱いは適用されず、同一被保険者の合算にも含めません(FAQ Q15・Q17①)。受取人が法人か遺族か、加入範囲が全員か特定者かは、判定の前提として証券と付保リストで確認します。
30万円以下と超える場合の損金算入時期を分ける
解約返戻金相当額のない短期払いの第三分野保険では、一の被保険者について当該事業年度に支払った保険料の合計が30万円以下なら、支払った日の属する事業年度の損金に算入できます。合計が30万円を超えると、保険料は保険期間の経過に応じて損金算入する原則に戻り、当期に対応する部分を超える前払部分を資産計上して取り崩します。金額区分と契約の性質の組み合わせで、算入時期が決まります。
| 同一被保険者の当事業年度支払保険料 | 損金算入の時期 | 資産計上の要否 |
|---|---|---|
| 30万円以下 | 支払った日の属する事業年度に損金算入 | 不要(簡便的な取扱い) |
| 30万円超 | 保険期間の経過に応じて損金算入(当期対応分を超える前払部分は繰延べ) | 必要。終身は被保険者116歳までを計算上の保険期間として按分・取崩し |
保険期間が終身の第三分野保険では、資産計上と取崩しの計算において、保険期間の開始の日から被保険者の年齢が116歳に達する日までを計算上の保険期間とします(法基通9-3-5(注)1)。116歳は第三分野標準生命表2018(男)の最終年齢に由来すると趣旨説明で示されています(同生命表の作成主体は公益社団法人日本アクチュアリー会)。取崩しは実際の給付や解約とは別に、保障期間の経過に沿って進める処理である点に注意します。
30万円を超えたら?116歳までの期間で按分する計算の考え方
合計が30万円を超えた場合に起こるのは「超えた部分だけが資産計上になる」ことではなく、その被保険者の対象契約の保険料がすべて原則の期間按分に戻ることです。計算の考え方を、数値を置いて確かめます。あくまで考え方を示す概算で、実際の年数の数え方(116歳に達する日までの月数、事業年度との端数)は契約ごとに異なるため、金額は税理士と確認します。
- 前提: 被保険者50歳、解約返戻金のない終身医療保険、年払保険料40万円、払込期間10年。
- 計算上の保険期間: 50歳から116歳に達する日までの約66年。
- 保険料総額: 40万円×10年=400万円。
- 各年度の損金算入額の目安: 400万円÷66年≒約6万円。払込期間中は毎年40万円を支払いながら約6万円だけを損金とし、残り約34万円を前払保険料として資産計上します。
- 払込満了後: 保険料の支払いはなくなりますが、資産計上した約340万円を残りの約56年にわたって毎年約6万円ずつ取り崩して損金算入します。
「年払保険料×払込期間÷保険期間」という式で説明されることが多いのはこの計算です。年払40万円の契約1本でも30万円を超えるため、短期払いで保険料を大きくした契約ほど、支払時の損金は小さく、資産計上の残高が長く残ります。保険期間と払込期間の両方が終身の第三分野保険であれば、支払った保険料をその事業年度の損金に算入します(趣旨説明9-3-5の解説4)。
払込期間中だけ解約返戻金がない商品は対象外になる
30万円の取扱いの対象は「保険期間を通じて」解約返戻金相当額のない契約に限られます。払込期間中は解約返戻金がなく、払込期間が終わった後に解約返戻金が生じる商品は、この取扱いの対象になりません(国税庁FAQ Q16)。このタイプの商品は最高解約返戻率で区分する9-3-5の2側の判定になるため、「無解約返戻金型」と呼ばれていても、払込満了後の返戻金の有無まで交付資料で確かめる必要があります。
一方、払込期間終了後にごく少額の解約返戻金や死亡保険金が支払われる商品、保険期間中にごく少額の健康祝金・出産祝金が支払われる商品は、「ごく少額の払戻金のある契約」として解約返戻金相当額のない保険に含まれます。FAQは、現行商品では入院給付金日額などの基本給付金額(5千円〜1万円程度)の10倍としている商品が多く、一般にはごく少額と考えられるとしつつ、ごく少額かどうかは支払保険料や給付金額との割合を勘案して個別に判断するとしています。
最高解約返戻率が50%超の契約は9-3-5の2の対象で、返戻率の区分に応じた資産計上が原則です。このうち返戻率70%以下で、かつ年換算保険料相当額が一の被保険者につき30万円以下の小口契約は、資産計上を要さず9-3-5の例で処理できる例外が置かれています。ここで判定に使うのは年換算保険料相当額で、前段の実支払保険料とは物差しが異なります。取扱いの詳細は国税庁の定期保険等FAQと2019年改正の趣旨説明で確認します。
給付・解約・名義変更まで含めて処理を確認する
経理処理は保険料を支払う局面だけで終わりません。第三分野保険には入院給付金や手術給付金などの保障があり、契約によっては解約返戻金が生じ、法人契約を個人へ名義変更したり払済保険へ変更したりする局面もあります。これらの出口では益金・損金や評価額の問題が新たに生じ、影響は支払年度をまたいで続きます。
| 局面 | 見る資料 | 生じうる処理 |
|---|---|---|
| 支払時 | 証券・交付資料・仕訳 | 判定区分に応じて損金算入または資産計上 |
| 保障期間中 | 資産計上の残高・約款 | 資産計上分を保険期間の経過に応じて取崩し |
| 給付時 | 給付内容・受取人 | 受け取った給付金の益金計上など |
| 解約時 | 解約返戻金額・資産残高 | 解約返戻金と資産残高の差で益金・損金 |
| 名義変更時 | 評価額の取扱い・契約種類 | 変更時の評価と個人側課税の確認 |
| 払済変更時 | 変更後の契約内容・約款 | 変更に伴う資産計上額の見直し |
とくに法人契約を将来個人へ名義変更する場合、名義変更時にどの金額を基準に評価するか、その後の個人側の課税がどうなるかは、契約の種類と時期の取扱いで結論が動きます。支払時の見え方と出口の取扱いは別物で、証券や設計書には出口の税務まで書かれていないことが多いため、入口の損金算入だけで契約の有利・不利を結論づけないようにします。第三分野以外も含めた支払時・受取時の分岐の全体像は法人保険の経理処理の解説で、解約返戻金の動きは解約返戻金のピークの解説を、払済保険への変更や払込みに関する経理は払済保険の経理処理を、契約全体の棚卸しは法人保険の見直しの解説もあわせて確認できます。名義変更や解約の予定が今なくても、退職金原資や事業承継の局面で出口の処理は問われます。
証券・交付資料・過年度仕訳を税理士へ渡す
自社の契約がどの取扱いに当たり、いつ損金算入するかは、契約条件と過年度の処理を突き合わせて初めて確定します。通達の区分と自社の契約実態は一対一で対応しないため、証券・交付資料・過年度仕訳・決算書を横断して残る論点を切り分けたうえで、顧問税理士に確認します。照合する資料は次のとおりです。
| 資料 | 確認できること |
|---|---|
| 保険証券 | 保険種類・保険期間・払込期間・契約日・被保険者・受取人 |
| 保険会社の交付資料 | 解約返戻金の有無(払込満了後を含む)・最高解約返戻率・年換算保険料相当額・当該年度の支払額 |
| 設計書・約款・契約のしおり | 給付・解約・名義変更・払済変更時の取扱い |
| 過年度の仕訳・決算書 | これまでの損金算入・資産計上と勘定科目 |
| 福利厚生規程など社内規程 | 被保険者の範囲(役員か従業員か) |
あわせて、相談後に確認する観点を挙げます。
- その契約は解約返戻金相当額のない短期払いか、最高解約返戻率50%超の契約か。払込満了後に返戻金が生じる商品ではないか。
- 契約日は令和元年10月8日以後か。適用日前の契約は判定から外しているか。
- 判定に使う金額は「当該事業年度の実支払保険料」か「年換算保険料相当額」か、交付資料で確認したか。
- 同一被保険者について、保険会社をまたいだ合算後の金額は30万円以下か。複数法人での契約はないか。
- 過年度は損金算入・資産計上のどちらで処理してきたか。取崩しの残高はあるか。
- 給付金・解約返戻金・名義変更・払済変更の受取人と、その後の処理を想定しているか。
これらを突き合わせると、二つの30万円取扱いのどちらに当たるか、損金算入時期はいつか、出口で何が生じるかを切り分けられます。
那由他保険テクノロジーズが第三分野契約の設計と証券・交付資料の整理でご支援できること
ここまでの整理で残るのは、通達の読み方ではなく、自社の契約事実がまだ一枚に並んでいないという実務と、これから加入する契約をどう設計するかという判断です。とくに次の三点は、記事の解説だけでは埋まりません。第一に、同一被保険者の契約が複数の保険会社・複数の加入年度・経理と総務の別担当に分かれ、名寄せ後の合算金額が確定していないこと。第二に、判定に必要な交付資料が契約ごとにそろっていないこと。解約返戻金の有無、最高解約返戻率、年換算保険料相当額、当該年度の支払額が確認できなければ、判定に使う金額が実支払保険料と年換算保険料相当額のどちらなのかを契約単位で言い切れません。第三に、これから医療保険やがん保険を法人で契約しようとする場面で、「30万円に収まるか」だけが先に立ち、保障の目的、被保険者の範囲、既存契約との重複、払込期間の長短が後回しになっていることです。
那由他保険テクノロジーズは、保険オペレーション部門の証券管理・更改管理・契約データ整理として、この三点の手前の作業を引き受けます。具体的には、保険証券から保険会社名・証券番号・保険種類・契約日・保険期間・払込期間・被保険者(氏名と生年月日)・受取人・払込方法・更新月を契約単位で書き出し、生年月日で同一被保険者を名寄せして、被保険者ごとに当該事業年度の支払額を並べます。そのうえで、交付資料に解約返戻金相当額の有無と最高解約返戻率、年換算保険料相当額が記載されている契約と、記載が確認できない契約を分け、後者については保険会社ごとに「どの証券番号について、どの項目の交付資料を請求するか」を照会事項として書き出します。約款・契約のしおりからは、給付金・解約返戻金・名義変更・払済変更に関する条項の該当箇所を抜き出し、証券記載の受取人と突き合わせます。福利厚生規程がある場合は、被保険者の範囲が役員のみか従業員を含むかを規程本文と証券の被保険者欄で照合します。
この作業を経ると、顧問税理士へ渡す資料が整います。被保険者ごとの契約と当該事業年度の支払額、判定に使う金額の別、未取得の交付資料項目とその請求先まで記入済みの状態です。税理士との打ち合わせは、資料集めからではなく、9-3-5と9-3-5の2のどちらに当たるか、過年度の資産計上残高の取崩しをどう続けるか、という判断の議論から始められます。これから加入する契約については、第三分野契約と既存の医療・傷害系の保障が重複していないか、同一被保険者に対する保障が過大または不足していないか、払込期間を短くすることで資産計上の残高がどれだけ長く残るかを契約条件の面から整理し、保険料コスト削減の余地がある契約と、削減対象にすべきでない契約を分けて比較材料をお出しします。削減額や適正化の結果をお約束するものではなく、比較・設計・調達の検討材料の提示です。
境界も先に申し上げます。損金算入の時期、資産計上額と取崩しの計算、終身契約を116歳までとして按分する処理、名義変更時の評価額と個人側の課税は、いずれも税務判断であり、顧問税理士の確認事項です。那由他が行うのは、その判断に必要な契約事実の集約と、保険会社へ確認すべき事項の特定、そして保障の設計の比較までです。また、判定結果を理由に契約を組み替えることが常に有利とは限らず、保障内容と払込済みの経緯を踏まえて「今は変更しない」という結論も選択肢に含めて整理します。状況が整理できていない段階でも、まずはお気軽にご相談ください。必要な確認は相談後に一緒に整理します。
よくある質問
30万円特例は節税のための特例ですか。
いいえ。30万円特例と呼ばれるものは独立した節税制度ではなく、短期払いした第三分野保険の保険料をその事業年度に損金算入するか、保険期間にわたって費用化するかを分ける、損金算入時期の判定区分です。区分に収まっても支払保険料の総額や税負担そのものが減るわけではありません。給付や解約という出口の処理まで含めて全体で見て、最終的な処理は顧問税理士の確認を前提にしてください。
30万円は契約1件ごとに判定しますか。別の保険会社の契約も合算しますか。
契約1件ごとではなく、一の被保険者を単位に合算して判定します。国税庁FAQ Q17は、同一被保険者について、保険会社やそれぞれの保険契約への加入時期の違いにかかわらず、その全ての対象契約について当該事業年度に支払った保険料を合計して判定するとしています。契約を分けても被保険者が同じなら合算後の金額で区分されるため、契約数を増やして判定に収める前提では見ないでください。ただし、令和元年10月8日より前に契約した保険の保険料は判定に含めません。
同一被保険者で複数の契約があるときはどの金額を合算しますか。
合算します。解約返戻金相当額のない短期払いなら同一被保険者の「当該事業年度に支払った保険料」を、最高解約返戻率50%超70%以下の契約なら同一被保険者の「年換算保険料相当額」を合計して判定します。どちらの金額を合算するかは契約の類型で変わり、類型をまたいで足し合わせることはないため、交付資料で契約の性質を先に確かめてください。
年換算保険料相当額と実際に支払った保険料は何が違いますか。
年換算保険料相当額は、保険料の総額を保険期間の年数で割った一年あたりの相当額です。実際に支払った保険料は、その事業年度に現に払い込んだ金額で、短期払いや前納では年換算額と一致しません。解約返戻金相当額のない短期払いの30万円判定には実支払保険料を、最高解約返戻率50%超70%以下の例外には年換算保険料相当額を使う点が、実務で最も混同されやすいところです。
30万円を超えたら支払った保険料は全部資産計上ですか。
一括で資産計上するわけではありません。解約返戻金相当額のない短期払いで合計が30万円を超える場合は、保険料を保険期間の経過に応じて損金算入し、当期に対応する部分を超える前払部分を資産計上して保険期間にわたり取り崩します。保険期間が終身なら被保険者116歳までを計算上の保険期間として按分します。たとえば年払40万円・10年払の終身医療保険を50歳で契約すると、各年度の損金は保険料総額400万円を約66年で割った約6万円が目安になります。契約が最高解約返戻率50%超の類型なら、返戻率区分に応じた別の資産計上ルールが適用されます。
30万円特例は廃止されましたか。
2026年11月2日時点で、国税庁タックスアンサーNo.5364(令和8年4月1日現在の法令等に基づく)の注3に、令和元年10月8日以後に加入した解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険について、一の被保険者につきその事業年度に支払った保険料が合計30万円以下であれば支払った事業年度の損金算入を認める取扱いが掲載されています。将来の改正については本記事では扱いません。
どの段階で相談できますか。
契約内容の把握が途中の段階でも相談できます。どちらの30万円取扱いに当たるか、過年度の処理をどう続けるかは、相談のなかで契約ごとに切り分けます。税務上の最終判断は顧問税理士の確認が前提です。
参考一次情報・公的資料
- 国税庁「No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれない場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」
- 国税庁「No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」
- 国税庁「法人税基本通達 第3節 保険料等(9-3-5・9-3-5の2)」
- 国税庁「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関する趣旨説明・経過的取扱い」
- 国税庁「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ」(Q9・Q15・Q16・Q17)
- 生命保険協会「2025年版 生命保険の動向」
情報確認日:2026年11月2日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年11月2日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。補償・引受・保険料・保険金の支払は商品・約款・契約条件・個別事情によって決まり、法務・税務・労務・会計の取扱いは専門家への確認が必要になり得ます。