法人保険見直しの進め方|生命保険と損害保険を一つの台帳で点検

決算の資料をまとめる時期、経理担当が出してきた保険料の年間一覧と、キャビネットから出した証券の束が、件数も名義も合わない。数年前に解約したはずの契約が一覧に残り、去年増えた営業車の証券はどこにも見当たらない。この食い違いを前に、まず値下げの見積りを取りにいきたくなりますが、先にやることは別にあります。生命保険と損害保険を一枚の管理票にならべ、契約ごとに残す・動かす・保留するのどれかへ仕分けることです。保険料が高いかどうかは、そのあとで比べても遅くありません。

Summaryこの記事のポイント

先に、この記事から持ち帰れることを四つ挙げます。

  • 見直しの第一歩は保険料の比較ではなく、生命保険と損害保険を同じ管理票へならべ、残す・動かす・保留するに仕分けることです。
  • 損保協会の2025年調査(回答1,050人)では、企業向け損害保険を5年以上前から見直していない回答が合計41.7%(約4割)で、うち26.8%は一度も見直したことがないと答えています。長期の放置は珍しくありません。
  • 生命保険は解約・減額・払済・切替・継続の出口で決算への響き方が変わり、損害保険は9分類でリスクを棚卸ししてから証券の欄を業務と突き合わせます。
  • 記事後半の法人保険見直しチェックリストで、管理票と資料、生命保険の出口、損害保険の証券の欄、事故時の記録を順に点検できます。

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保険料の一覧と証券の束がずれたら、見直しを始める

保険料の一覧と証券がずれるのは、担当者の怠慢ではなく契約の性質によります。保険は入るときに真剣に選ばれ、そのあとは口座からの引き落としだけが続きます。役員交代、代理店の担当替え、経理担当の異動が重なると、当時なぜその保障・補償を選んだのかを社内で言える人がいなくなります。決算、保険更新、借入見直しの直前になって、はじめて一覧と証券の食い違いが表に出てきます。

この食い違いは、特定の会社だけの問題ではありません。日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」(回答1,050人)では、企業向け損害保険について「一度も見直し(加入検討)なし」が26.8%、「5年以上前から見直しておらず、直近で見直す予定もない」が9.0%、「5年以上前から見直していないが、直近で見直す予定がある」が5.9%で、合わせて41.7%が5年以上手をつけていません。報告書自身も「全体の約4割が5年以上前から見直しを行っていない。中でも、2割半ばは一度も見直し(加入検討)を行っていない」と要約しています。これは企業向け損害保険についての設問で、生命保険がどれだけ見直されているかをこの調査から読み取ることはできません。本記事で生命保険と損害保険を同じ管理票にならべるのは、統計上同じ傾向だからではなく、法人が持つ契約を種別を越えて一度に棚卸しするためです。いつ着手すべきかというタイミングは決算期や借入・役員交代と絡むため、その見極めは法人保険を見直すタイミングを整理した記事で具体的に扱っています。

放置が効いてくるのは、保険料の多寡だけではありません。同じ日本損害保険協会の調査報告書では、何らかの被害を受けた経験がある企業が25.0%あり、その被害経験企業のうち54.5%が「リスクに対する備えが不足していた」と答えています。25.0%は全回答企業に対する割合、54.5%は被害を経験した企業のなかの割合で、母集団が違う点には注意が要ります。この54.5%は保険の補償に限った数字ではなく、防災や事業継続を含むリスク対策全体について備えが足りなかったと振り返った回答で、加入していたのに保険金が足りなかった会社の割合を示すものではありません。それでも、被害を受けた企業のうち半数を超える会社が備え不足を実感していた事実は、リスク対策全体を定期的に点検する必要性を考える手がかりになります。

だから最初の問いは「保険料は高いか」ではなく、「いまの保障・補償は、いまの会社に届くか」へ置き換わります。値下げの見積りは、契約を残す・動かす・保留するに仕分けたあとで取っても足ります。まず、その仕分けの土台になる一枚の管理票から作っていきます。

証券の前提は事業が動いた日に古くなる

見直しの時期は、更新日だけで決まるものではありません。更新は事務上の区切りで、補償が実態からずれるのは事業が動いた日です。売上が伸びた、従業員が増えた、拠点や倉庫を移した・増やした、設備や在庫の金額が変わった、社用車を入れ替えた・増車した、新規事業やEC・通販を始めた、クラウドや業務システムを本格導入した、他社を買収した・事業譲渡した、主要取引の契約条件を見直した。直近12か月でこのいずれかが起きているなら、更新日を待たずに点検を始める理由があります。事業に大きな変化がなく、前回の点検から間もないなら、優先順位を下げる判断もあり得ます。

生命保険と損害保険を、同じ管理票に載せる

「保険を見直す」と一言で言っても、生命保険と損害保険では、手に取る資料も問いも違います。生命保険で問われるのは、積み上がった契約をこれからどうするかという出口の判断です。解約・減額・払済・切替・継続のどれを選ぶかで、解約返戻金、資産計上額、退職金の原資、借入の保全が動きます。損害保険で問われるのは、いまの補償が現在の業務のリスクに届くかという判断です。記名被保険者、対象業務・事業所・資産、支払限度額、免責、除外、休業期間が、いまの会社とずれていないかを見ます。

この二つを混ぜると、話は「保険料が高い・安い」に流れ、肝心の仕分けが止まります。だから同じ一枚の管理票にならべつつ、書き込む欄は種別で分けます。生命保険は返戻金と税務の欄が主役、損害保険は限度額と免責と除外の欄が主役です。管理票は立派な分析資料でなくてかまいません。契約ごとに、何のために、いくらの保険料で、いくらの保障・補償を、いつまで、誰の名義で持っているかを、同じ様式で書き出すだけです。以下は、その列と、生命保険側・損害保険側に何を書くかを対応させた記入例です。空欄が埋まらない列こそ、最初に聞くべき点になります。

生命保険と損害保険を一枚にならべる管理票の記入例
管理票の列生命保険側に書くこと損害保険側に書くこと
契約種別・加入目的定期・長期平準・逓増・医療など/事業保障・退職金原資など火災・賠償・自動車・休業損失など/どのリスクに備えるか
保険会社・証券番号会社名と証券番号会社名と証券番号(同一リスクで複数あれば全件)
被保険者・受取人/記名被保険者被保険者(役員名)と受取人(法人か個人か)記名被保険者、対象となる事業所・業務の範囲
保険金額・限度額死亡・入院などの保険金額支払限度額、免責金額、対象外(除外)事由
年間保険料年換算の保険料年換算の保険料
解約返戻金・返戻率現時点と数年先の返戻金・返戻率の推移原則なし(積立型は積立部分を記載)
資産計上額経理上の資産計上残高(ある場合)原則なし
満期・更新日満了時期、払込満了時期保険期間の満了・更新日
担当・代理店担当代理店・担当者担当代理店・担当者
気になる点保険料負担、返戻金ピーク、保障の過不足補償の重複・不足、事業変化とのずれ

埋まらない欄は失敗ではなく、相談の入口です。証券番号が空なら再発行から、返戻率が空なら設計書の請求から始まります。ならべた瞬間に、更新月がひと月に集中していることや、同じリスクへ二重に加入していたことも見えてきます。管理票は一度作れば終わりではなく、満期や決算のたびに書き足すと、翌年の点検がぐっと軽くなります。

管理票の空欄は、誰に聞くかを教えてくれる

空欄ごとに、聞く相手が違います。証券番号と満期は保険会社か代理店、解約返戻金・返戻率と資産計上額は設計書と自社経理、記名被保険者と対象事業所は代理店と現場、気になる点はその欄を書いた本人です。経理が保険料と満期を、総務が名義と退職金規程を、現場が車両と在庫を持ち寄り、役員が優先順位を決める。社内でこの受け渡しが決まると、空欄は宿題として担当ごとに割り振れます。空欄を埋める順番より、誰の手元にその答えがあるかを先に決めるほうが、点検は早く回ります。

生命保険は、解約の前に残す保障を決める

生命保険を「続けるか、やめるか」の二択で考えると、返戻金のピークや払済という中間の手を落とします。実際の出口は解約・減額・払済・切替・継続の五つで、それぞれ保険料の行方、残る保障、手元に入るお金、税務で確かめる点が変わります。次の表は同じ軸で五択をならべ、どれを選ぶと何が動くかを見比べるためのものです。

生命保険の出口五択を同じ軸でならべた比較
選択肢保険料保障の残り方お金の動き税務で確かめること
解約今後の支払いはなくなる保障はなくなる解約返戻金を受け取る受け取る返戻金と資産計上額の関係で益金・損金が生じるかを確かめる
減額減らした分だけ軽くなる減額した範囲で保障が縮む減額部分に応じた返戻金が出ることがある一部解約に準じた処理になることがあり、時期と金額を確かめる
払済以後の払込を止める保険金額を下げて保障は残す既払保険料に係る返戻金を保障の存続に充てる変更時に返戻金相当額と資産計上額の差額を益金・損金に算入するかを確かめる
切替新契約の保険料が発生目的に合う保障へ組み替える旧契約の解約返戻金が動くことがある旧契約の精算と新契約の取扱いを、契約ごとに確かめる
継続今の保険料を払い続ける今の保障をそのまま維持返戻金は積み上がり続ける現状維持でも、返戻金ピークや満了時期の影響を確かめる

この表で消去法をかけると、たいてい二つか三つに絞れます。残った選択肢の損得は、返戻金推移表の山の位置と、決算に耐えられる会社の体力で決まります。ここで避けたいのは、保険料が重いという理由だけで解約へ直進することです。

税務は、この仕分けで誤解が生まれやすいところです。国税庁タックスアンサーNo.5364-2では、保険期間が3年以上の定期保険または第三分野保険で、最高解約返戻率が50%を超える契約について、支払保険料の一定額を一定期間資産計上し、所定の期間が経過した後に取り崩して損金に算入するのが原則とされています。ここでいう最高解約返戻率とは、保険期間を通じて解約返戻率が最も高くなる期間の割合を指します。加入時にどれだけ資産計上してきたかによって、出口での経理は変わります。

「払済にすれば税金の話は関係ない」と考えられがちですが、そうとは限りません。法人税基本通達9-3-7の2は、払済保険へ変更したとき、原則として変更時の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を、その変更日の属する事業年度の益金または損金に算入するとしています。払済保険は、保険料の払込を中止し、既に払い込んだ保険料に係る解約返戻金を利用して契約の存続を図る方法です。保障を残す選択でも、経理には影響が及びます。ここに書いたのは制度上の原則で、実際の益金・損金は契約内容・加入時期・処理履歴・改正の適用関係によって変わります。個々の結果を断定せず、顧問税理士に確かめてから、どの出口を選ぶかを決めてください。

返戻金ピークより先に開く資料

どの出口が得かは、感覚ではなく数枚の資料が決めます。解約返戻金推移表は返戻率の山がいつ来るかを示し、数年内にピークなら解約月をずらすだけで受け取る額が変わります。資産計上額の残高は、出口で生じる益金・損金の幅を左右します。借入返済予定表は経営者保障をいつまで残すかを、退職金規程は原資として設計した契約の支給時期を教えます。これらの資料をそろえたかどうかは、記事後半のチェックリストで項目ごとに確かめられます。

損害保険は、いまの業務から証券を読み直す

損害保険側は、証券に書かれた保険金額の大きさだけを見ても、補償が届くかは判断できません。支払いを左右するのは条件の側です。記名被保険者がいまの事業実態と合っているか、対象となる業務・事業所・資産が現状をカバーしているか、支払限度額が想定する損害に足りるか、免責金額と除外事由でどこまでが自己負担や対象外になるか、休業期間の設定が復旧までの日数に足りているか。一枚の証券だけでは、これらは他の証券や特約と重なり合っているため、束にして横断で読まないとギャップが見えてきません。

もう一つ効いてくるのが、加入後の会社の変化です。倉庫を一棟借り増したのに、火災保険の対象物件は本社のままで、新しい倉庫の在庫が対象外になっている。営業車を三台増やしたのに、自動車保険の記名や台数が古いまま。ECを始めて売上構成が変わったのに、賠償の対象業務は店頭販売のまま止まっている。証券は変更しない限り加入時のままなので、業務が動いた分だけ補償の前提がずれます。どんな損害保険の種類があり、自社のリスクにどう対応づけるかは法人の損害保険の種類を整理した記事が全体像の入口になります。

建物・設備・在庫まわりは、対象物件と評価額が実態からずれやすい代表格です。増床、設備の入れ替え、在庫水準の変化を証券の対象と突き合わせる考え方は法人向けの火災・企業財産保険の記事で確認できます。

工場や店舗が事故で止まったときに、逸失利益や家賃・人件費などの固定費をどこまで、どれだけの期間補うかは休業損失を補う保険の記事で、休業期間の設定と合わせて読めます。

役員個人が負う賠償リスクは、会社の財産保険とは別の証券で持ちます。取締役の判断をめぐる訴訟や、株主・取引先からの請求に備えるD&O(会社役員賠償責任保険)の記事で、対象となる人と請求の範囲を確かめられます。どこまでを保険で移し、どこからを自社の資金で持つかを考える際は、中小企業庁の事業継続力強化計画のように、休業中の固定費・復旧資金・借入返済を、現預金・保険金・借入金と突き合わせて考える公的な枠組みも手がかりになります。

事故履歴は補償の届き方の答え合わせになる

補償ギャップの当たりをつけるうえで、過去の事故・請求履歴は見落とせない材料です。実際にどんな事故が起き、どこまで支払われ、どこで対象外になり、どこが免責で自己負担になったのか。この記録は、次の更新で何を厚くすべきかを具体的に教えてくれます。証拠が足りずに支払いが遅れた経緯があれば、通知や書類の備えも見直せます。事故が起きたときの対応や請求の流れは法人保険の事故対応をまとめた記事で扱っています。証券の束、補償一覧、事故履歴、そして会社の変化。この四つがそろって初めて、補償ギャップは具体的な確認事項に落ちていきます。

損害保険のリスクを9分類で棚卸しする

証券を読み直す前に、自社で抱えきれない損害はどれかを決めておくと、点検の物差しができます。会社は損害に対して、自社で抱える(自家保有)、契約で相手に負担を移す、事業継続計画や内部統制で発生確率と影響を下げる、保険で移転する、という手段を組み合わせて備えます。保険は移転を担う一つの手段で、すべてを保険で埋める必要はありません。

線引きは、損害を三つに分けると進めやすくなります。日常的な小損害は自社で抱えます。発生頻度は低くても起きると資金繰りに響く損害は、保険で移す候補にします。保険では扱いにくい、または保険だけでは足りない損害は、契約条件、社内ルール、事業継続計画で発生確率や影響を下げます。この線引きがないまま見積りを比べると、限度額の低さや免責の高さで安くなった案が良い案に見えやすくなります。

抱えきれない損害を漏れなく並べるには、次の9分類が使えます。分類ごとに変わったことと突き合わせる書類をならべると、点検する行が決まります。

損害保険のリスク9分類と突き合わせる証券・書類
リスク分類この一年で変わったこと(例)突き合わせる証券・書類
1 企業財産(建物・設備・在庫)拠点移転・設備増強・在庫額の増減火災・企業財産保険、固定資産台帳
2 事業中断・利益損失売上規模・粗利・依存拠点の変化利益(事業中断)保険、決算書
3 物流・海上・輸送取扱貨物・輸出入・保管場所の変化貨物・運送保険、取引・保管契約
4 賠償責任(対人・対物・PL)製品変更・施工範囲・受託業務の拡大賠償責任保険、取引基本契約
5 会社役員(D&O)役員構成・上場準備・出資関係の変化会社役員賠償責任保険、登記事項
6 自動車・車両(フリート)増車・車種変更・使用者の拡大自動車保険、車両一覧
7 労災・使用者責任従業員増・業務内容・雇用形態の変化労災上乗せ・使用者賠償の特約、就業実態
8 サイバーEC開始・個人情報取扱・クラウド導入サイバー保険、情報資産の一覧
9 信用・売掛金取引先の集中・与信条件の変化取引信用保険、売掛金台帳

どの分類を重く見るかは、被害の起こりやすさとあわせて判断します。同じ調査では、損害保険で備えたいリスクとして自然災害を挙げた企業が39.5%、サイバーリスクが25.5%、顧客・取引先の廃業や倒産等による売上の減少が24.6%でした。9分類のすべてを等しく手当てする必要はなく、自社に当てはまる分類を絞り込みます。

分類で見るのは、保険商品名ではなく損害の発生源から考えるためです。倉庫の浸水は在庫の損害だけでなく、出荷停止による利益損失や代替倉庫の手配費用まで広がることがあります。一つの事故から会社の資金がどこへ流れ出るかを追うと、不足が見つかりやすくなります。

損害保険の証券は、どの欄を読むか

当てはまる分類が決まったら、対応する証券を一枚ずつ開きます。読むのは保険料の欄ではなく、補償が及ぶ範囲を決める欄です。欄ごとに意味と確認する理由をならべ、自社の現状値を書き込めるかを確かめます。書き込んだ値は、管理票の損害保険側の列へ転記します。

損害保険の証券で読む欄と確認する理由
証券の欄意味確認する理由
記名被保険者・被保険者補償を受ける主体は誰かグループ会社・役員・従業員が対象外だと支払対象にならない
対象業務・事業内容どの事業活動が補償されるか新規事業・受託業務が記載外だと除外扱いになりうる
所在地・施設どの拠点・倉庫が対象か新拠点・増設倉庫が未追加だと財産が対象に入らない
保険の対象建物・設備・在庫・貨物など何を対象とするか対象の抜けは典型的な補償不足の原因
保険金額・支払限度額支払いの上限売上・資産の増加に限度額が追いついているか
免責金額(自己負担額)1事故ごとの自己負担免責が高いと小損害は実質自己負担になる
免責事由・除外支払われないケース想定する損害が除外されていないかの確認
内枠限度額(サブリミット)特定の損害に個別に付く上限全体の限度額が十分でも内枠で頭打ちになることがある
通知・承認事項変更時に届け出るべき事項未通知は支払いの判断に影響しうる

同じ保険名でも、中身が同じとは限りません。賠償責任保険でも、対象となる業務、製品、請負作業、情報漏えい、管理財物の扱いは契約ごとに差が出ます。全体の支払限度額が大きく見えても、特定の費用や事故類型に内枠限度額が付いていれば、そこで頭打ちになります。

欄を読み解く場面では、募集人の役割を知っておくと確認が進みます。日本損害保険協会の損害保険代理店資格制度の解説では、募集人には保険の対象の確認、商品内容や見積りの説明、重要事項の説明、事故時の連絡受付や請求手続きの助言といった役割が期待されています。各欄に自社の現状値を書き出し、埋まらない欄や自信の持てない欄を募集人に確かめる順序で進めます。

事故の前に、損害を説明する記録をそろえる

保険は、契約しただけで事故時に自動で支払われる仕組みではありません。事故が起きたとき、会社の側が損害の内容、請求者、発生時期、原因を示し、それを裏づける記録があり、除外事由に当たらないことを説明できて初めて、支払いの検討が進みます。財産損害なら損傷の範囲と復旧見積り、被害前の資産の状態がわかる資料、賠償責任なら相手方の請求内容と自社の関与を示す記録、事業中断なら休止期間と本来得られたはずの利益を示す会計資料、役員個人の責任なら意思決定の経緯を残した議事録が要ります。

初動の記録は、時間が経つほど集めにくくなります。誰が保険会社または代理店に連絡するか、現場写真を誰が撮るか、証憑の保存を誰が管理するかを、点検の段階で決めておきます。

よくある重複と補償不足のパターン

証券をならべると、同じ損害に二重に払っている契約と、必要な損害が抜けている契約が同時に見つかることがあります。典型的なパターンは次のとおりです。

  • パッケージ型・企業総合保険に含まれる賠償補償と、単体の賠償責任保険が重なっている。
  • 自動車保険の特約と、単体で契約した補償(弁護士費用・傷害など)が重複している。
  • 似た補償が複数の代理店に分かれて契約され、全体像を誰も把握していない。
  • 売上は伸びたのに、事業中断や在庫の限度額が加入当時のまま据え置かれている。
  • 新しい拠点・倉庫が保険の対象所在地に追加されていない。
  • 労災上乗せの特約はあるが、従業員から会社への請求に備える使用者賠償が抜けている。
  • EC・サイバー・PL(製造物責任)の補償が、事業の実態に合わせて更新されていない。

重複しているように見える補償を、すぐ削ってよいとは限りません。片方は施設内の事故を、もう片方は製品や作業後の事故を受け止める関係もあります。削る前に、事故類型ごとにどちらの契約が受け止めるかを確かめます。

補償不足は、未加入の保険を探すだけでは見つかりません。売上が増えたのに賠償の限度額が据え置き、在庫のピーク額が上がったのに保険金額が以前のまま、という状態は証券上は加入済みに見えます。そのため見逃されやすく、事故時に限度額の不足として現れます。

この段階で、損害保険の各契約に「維持・変更・統合・要調査」のいずれかの印を付け、管理票の「気になる点」の列に書き込みます。判断がつかないものは無理に決めず、要調査に回します。

損害保険の見直しは、新しい保険を買うことに限らない

印を付け終えたら、契約ごとに取り得る手をならべます。実際の選択肢には次のような幅があります。

  • 契約は維持し、所在地・被保険者などの記載の誤りだけを正す。
  • 限度額や免責金額を、いまの売上・資産・資金繰りに合わせて調整する。
  • 重複している補償を統合し、支払いの無駄をなくす。
  • 抜けている分類に、特約または単体契約を追加する。
  • 自社で吸収できる小損害は、あえて自家保有に回す。
  • 保険の前に、事業継続計画・内部統制・契約条件で発生確率と負担を下げる。

選ぶのは単一の商品ではなく、分類ごとに合う手段の組み合わせです。比べるときは年間保険料だけでなく、免責金額と事故時に残る自己負担もならべます。保険料が下がっても、免責が大きくなり対象業務が狭くなるなら、事故時に自社で抱える金額は増えます。

いま動かさない契約を、先に分けておく

仕分けは、動かすことが目的ではありません。ならべて点検した結果、いまは動かさないという結論も、同じだけの価値があります。保険料が重いという理由だけで急いで解約すると、返戻金の益金化で決算が揺れたり、必要な保障が抜けたりして、かえって痛手になります。動かさないと決めた契約には、その理由と再確認の日付をひとつずつ結びつけておきます。

返戻率の山が数年内に来る契約は、山の手前で解約すると受け取る額がピーク時より少なくなる可能性があります。ただし、山まで待つ間も保険料の負担は続き、その保障がいまも必要かどうか、契約条件によって山の位置や返戻率がどう動くかも同じ土俵で見なければ、待つほうが得だとは言い切れません。推移表で山の位置と待機期間の保険料をならべ、保障の要否と決算への影響を確かめたうえで、再確認日を置きます。役員退職金の原資として設計した契約は、規程の支給時期に出口を合わせないと、原資と支払いがかみ合いません。次の支給予定月を再確認日にします。返戻金と退職金は、どちらも時期がずれるだけで結果が変わる契約です。

金融機関から経営者保障として求められている保障は、返済予定表で必要額と期間を見るまで、減額や解約を急がないほうが安全です。再確認日は返済の節目に置きます。事業承継や大きな設備投資を控える時期、賠償リスクの高い取引が続く時期は、いままさに保障・補償が効いている局面です。削ること自体が目的になっていないかを、承継や投資の完了時期を再確認日にして見直します。動かさない判断も、返戻金推移表・退職金規程・借入返済予定表という具体的な資料に照らしてこそ、自信を持って残せます。

資料は、七つを一度に集めなくてよい

台帳を埋め、出口と補償を判断する土台になる資料は、大きく七種類です。

生命保険の判断が止まっている会社

解約や払済、減額で迷っているなら、まず全証券、解約返戻金推移表(設計書)、決算書、借入返済予定表、退職金規程の五点です。返戻金推移表がないと解約・払済・減額の損得と時期が読めず、決算書がないと出口の判断が会社の体力と結びつきません。借入返済予定表は経営者保障をいつまで・いくら残すかを、退職金規程は原資として設計した契約の支給時期を決める材料になります。

損害保険の判断が止まっている会社

補償の届き方で迷っているなら、全証券、現在の補償一覧、事故・請求履歴に、固定資産台帳・在庫台帳・車両台帳を足します。補償一覧がないと重複と不足が見えず、事故履歴がないと次に何を厚くするかの当たりがつきません。台帳は、証券の対象が、いまの資産・在庫・車両と一致しているかの答え合わせに使います。

税務と補償は、同じ人に結論を求めない

誰に何を渡し、どこまで聞くかは、相手ごとに分けて考えます。

税理士には、解約・払済・減額に伴う益金・損金と、資産計上額の扱いを、保険証券・解約返戻金推移表・決算書を渡して聞きます。ただし、保障設計や商品選びそのものは専門外のことが多くあります。保険代理店には、記名被保険者・限度額・免責の点検と商品の組み替えを、全証券・補償一覧・事故履歴・管理票を渡して聞きます。こちらは取扱商品の範囲や、税務・法務の最終判断には踏み込めません。

社会保険労務士には退職金規程と福利厚生の整合を、規程・就業規則・支給予定を渡して聞きます。金融機関には借入の保全に要る保障額と期間を、返済予定表・決算書を渡して聞きますが、提案が自行の取引方針と結びつくことがあります。どの代理店に管理票と証券を渡すかで迷う場合は保険代理店の選び方をまとめた記事が判断材料になります。

それぞれの答えは材料であって、結論ではありません。金融庁の保険会社向けの監督指針や顧客本位の業務運営に関する原則でも、契約者の意向を把握し、その意向に沿って提案し、内容を確かめる機会を設けることが求められています。裏返せば、渡す側が「何を守りたいのか」「保障・補償の優先順位はどこか」を言葉にしておくほど、提案の質を見分けやすくなります。各所の答えを管理票の上で突き合わせ、最終的にどの契約に手を入れ、どれを今期は動かさないかを決めるのは、経営者・CFOの仕事です。

法人保険見直しチェックリスト

ここまでの手順を、点検する順にチェックリストにまとめます。すべてを一度に埋める必要はなく、管理票の空欄と照らしながら、自社に当てはまらない項目は飛ばしてかまいません。

管理票と資料

  • 生命保険・損害保険の証券をすべて出し、一枚の管理票に契約ごとの行を作ったか
  • 保険料の年間一覧と証券の件数・名義が一致しているか
  • 直近12か月の事業の変化(拠点・倉庫、設備・在庫、車両、従業員、新規事業・EC、システム導入、買収・事業譲渡、取引条件)を書き出したか
  • 空欄ごとに、保険会社・代理店、設計書と自社経理、現場の誰に聞くかを決めたか

生命保険の出口

  • 契約ごとの加入目的(事業保障・退職金原資など)と、被保険者・受取人を確かめたか
  • 解約返戻金推移表で、返戻率の山の位置を確かめたか
  • 資産計上額の残高を、経理で確かめたか
  • 解約・減額・払済・切替・継続のうち、候補を二つか三つに絞ったか
  • 借入返済予定表と退職金規程に照らし、いま動かさない契約に再確認日を付けたか
  • 出口に伴う益金・損金を、顧問税理士に確かめる段取りを付けたか

損害保険の証券

  • 9分類のうち、自社に当てはまる分類を絞り込んだか
  • 記名被保険者・被保険者に、必要なグループ会社・役員・従業員が入っているか
  • 対象業務に、新規事業や受託業務が入っているか
  • 所在地・施設に、新しい拠点や増設した倉庫が入っているか
  • 保険の対象(建物・設備・在庫・貨物など)に抜けがないか
  • 支払限度額と内枠限度額が、いまの売上・在庫のピーク額・拠点数に追いついているか
  • 免責金額と免責事由・除外で、想定する損害が自己負担や対象外になっていないか
  • 通知・承認事項のうち、届け出ていない変更がないか
  • 休業期間の設定が、復旧までの日数に足りているか
  • 各契約に「維持・変更・統合・要調査」の印を付けたか

事故時の記録

  • 過去の事故・保険金請求の履歴を、支払われた範囲・対象外・免責の別に整理したか
  • 保険会社または代理店へ連絡する担当者が決まっているか
  • 被害写真、復旧見積り、休止期間の粗利を示す会計資料、取引先からの請求書を誰が保管するか決まっているか

チェックが付かなかった項目は、社内だけでは決めきれない点として管理票の空欄に残します。その空欄が、税理士・保険代理店・社会保険労務士・金融機関の誰に聞くかを決める手がかりになります。

最初の30分で、管理票に空欄を作る

大がかりな準備の前に、最初の30分でできることがあります。キャビネットと経理データから、生命保険・損害保険の証券をすべて出してならべ、管理票の列だけを先に作ります。ここでは全部を埋めきる必要はありません。

埋めるのは一契約だけでかまいません。いちばん保険料の高い契約か、いちばん古い契約を一件選び、加入目的・名義・金額・満期・担当まで転記します。転記の途中で出てくる「返戻率が分からない」「記名被保険者が誰か曖昧だ」を、空欄のまま残します。この空欄が、社内だけでは決めきれない境界そのものです。

残った空欄は、税務の結論、補償の対象、支払限度額、免責、解約の時期のように、社内だけでは確定しきれない点に集まります。ここまでの30分はあくまで任意の自己点検です。管理票がまだ手つかずでも、列だけ作って空欄ばかりでも、守りたいものの優先順位が定まっていなくても、その状態のままご相談いただけます。管理票をどう組み立て、どの空欄が税務の結論なのか補償の設計なのかを仕分けていく作業は、ご相談のあとに那由他保険テクノロジーズが一緒に進めます。

法人保険の棚卸しで、那由他保険テクノロジーズが提供できる価値

那由他保険テクノロジーズでは、生命保険と損害保険を一枚にならべ直し、生命保険は返戻率と受取人、損害保険は記名被保険者・限度額・免責を同じ列で見比べます。損害保険の証券は、記名被保険者・対象業務・所在地・限度額・免責・除外・内枠限度額の欄ごとに、記載値と現状値の差を書き出します。現契約と事業実態のずれ、補償の重複や不足を洗い出し、社内では判断しきれない論点は保険会社へ照会したうえで、どの契約を残し、どれを動かし、どれはいま保留するかを仕分ける判断材料をそろえます。

あわせて、生命保険と損害保険を横断して保険料の削減余地を分析し、削減できそうな契約と、むしろ維持・追加したい保障・補償を同じ土俵で切り分けます。安さだけで削るのではなく残すべき備えと並べて見るので、コストと補償の両面から次の一手を検討できます。税務処理の結論や労務上の扱いは、整理した材料をそえて税理士・社会保険労務士など各専門家へ戻し、比較と設計に使える土台をご一緒に組み立てます。まだ状況が整理できていない段階でも、そこからご一緒に整理しますので、まずは気軽にご相談ください。

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よくある質問

法人保険を見直せば、保険料は下がりますか?

見直しの目的は保険料を下げることではなく、生命保険の出口と損害保険の補償を、いまの会社に合わせて仕分けることです。重複を統合して負担が軽くなる場合もありますが、点検の結果、不足を埋めるために補償を厚くし、保険料が上がる判断になることもあります。下がるかどうかは契約内容や見直しの方向によって変わり、お約束できるものではありません。

生命保険と損害保険を、ひとつの管理票で見るのはなぜですか?

別々に見ていると、更新月の集中、同じリスクへの二重加入、解約が決算に与える影響といった横断的な動きが見えないためです。両方を一枚にならべると、生命保険の出口の判断と損害保険の補償の判断を、会社全体のお金と保障のなかに置いて比べられます。ならべても、書き込む欄は種別で分けます。

損害保険の証券は、まずどの欄から確認すればよいですか?

記名被保険者・対象業務・所在地・保険の対象・支払限度額・免責・除外の各欄です。保険料より先に、これらがいまの会社の実態(拠点・売上・従業員・事業内容)と一致しているかを確かめます。大きな事故がない会社でも、増えた拠点・在庫・車両が対象に入っているか、休業期間の設定が復旧日数に足りるかを見れば不足は見えます。事故がないことは、補償がいまの業務に届くことの証明ではありません。

払済や解約をすると、決算にどう響きますか?

響くことがあります。法人税基本通達9-3-7の2では、払済保険へ変更したとき、原則として変更時の解約返戻金相当額と資産計上額との差額を、その事業年度の益金または損金に算入するとされています。解約でも、受け取る返戻金と資産計上額の関係で益金・損金が生じます。実際の処理は契約内容と加入時期によって変わるため、顧問税理士にご確認ください。

決算前に急いで動かしたほうがよいですか?

急ぐこと自体が目的ではありません。返戻金の山が近い、役員退職金の支給が近い、借入の保全がまだ要る、といった局面では、時期をずらす選択もありますが、待つ間も保険料の負担は続き、いまの保障の必要性や契約条件によって結論は変わるため、ずらすほうが有利だと一律には言えません。解約返戻金推移表・退職金規程・借入返済予定表を見て、待機中の保険料と保障の要否まで含めて、動かす契約と動かさない契約を資料で決めるほうが安全です。

契約が複数の代理店に分かれている場合はどうすればよいですか?

まず全証券を一か所に集め、管理票にならべて、同じ損害に対する補償が重複していないか、逆に抜けている分類がないかを横断で確かめます。契約が分散していると全体像を誰も把握できず、重複と不足が同時に生じやすくなります。証券を突き合わせることが、統合や整理を判断する前提になります。

状況が整理できていない段階でも相談できますか?

できます。契約の全体像がつかめていない、どこから手をつければよいか分からない、という段階からで十分です。気になっている点をうかがい、補償の重複や不足、確認が必要な論点を一緒に仕分けるところから始めます。

参考一次情報・公的資料

情報確認日:2026年10月27日

執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年10月27日

本記事は2026年7月時点の一般的な情報です。補償内容、引受可否、保険料および保険金支払は商品・約款・契約条件・個別事情により異なります。法務・税務・労務・会計の個別判断は、必要に応じて弁護士、税理士、社会保険労務士等へご確認ください。