
複数国に現地法人を持つ本社が更改前にそろえるのは四つです。現地法人ごとの活動と製品、各国のローカル証券、日本本社のマスター証券とそのDIC/DIL、そして事故通知と保険金受取先を並べます。マスターに世界補償と書かれていても、DIC/DILはローカル証券とマスター条件の範囲内で差を補う仕組みで、無条件の穴埋めではありません。国別に照合してから更改方針を決めます。
Summaryこの記事のポイント
- 現地法人は法人名ではなく、製造・輸入・販売・設置・修理などの活動と製品で棚卸しする
- ローカル証券は現地の付保規制・付保証明・事故窓口を担い、マスターは本社基準とDIC/DILを担う
- DIC/DILは被保険者・国・製品・免責・通知・受取先まで証券で照合し、無条件の補完としない
- 事故通知は子会社から現地保険会社、本社からマスター保険会社への二層で先に決める
- 国別台帳で重複と空白を可視化し、更改前に法務・税務・保険担当が差分を処理する
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海外現地法人ごとの事業・製品・販売地域を先に並べる
最初にそろえるのは証券ではなく、現地法人ごとの活動です。同じグループでも、日本本社が設計、A国子会社が製造、B国子会社が輸入・販売・設置・修理と役割が分かれると、賠償を問われる主体と要る現地証券が商流で変わります。法人名だけを並べても、どの活動にどの保険が要るかは決まりません。まず活動と製品と販売地域を分けて棚卸しします。
経済産業省の通商白書2025によると、海外現地法人売上高の55%が非製造業です。日本本社が製造業でも、現地法人は販売やサービスを担う構成が見られます。業種の思い込みで活動を省かず、実態で確認します。この統計はマクロの傾向で、個社のリスク量や必要限度額を示すものではないため、活動を洗い出す理由づけとして使います。
海外に人と拠点を置くこと自体のリスクを広く俯瞰したいときは、賠償責任だけでなく資産・従業員・事業中断まで含めた全体像から入ると整理しやすくなります。その視点は海外進出時の保険を俯瞰する記事で扱っています。
下表は、法人名ではなく活動と製品で棚卸しするための欄を示す確認用の一般例です。自社の実態で各欄を上書きして使います。
| 国 | 法人 | 製造 | 輸入 | 販売 | 設置・修理 | 主な製品 | 契約上の付保要求 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A国 | 製造子会社 | あり | なし | 域内卸 | なし | 産業機器部品 | 納入先が付保証明を要求 |
| B国 | 販売子会社 | なし | あり | 小売・法人 | 据付・保守 | 完成機器 | 賃貸人・当局が証明を要求 |
| C国 | サービス子会社 | なし | なし | 役務のみ | 点検・修理 | 該当なし | 元請が包括契約で要求 |
出典は編集部整理です。単位は活動と製品の有無で、限度額の推奨値は示していません。この表はどの法人にどの現地証券が要るかを商流から決める土台に使います。
ローカルポリシーは現地規制・付保証明・事故対応を担う
ローカル証券は、現地認可の保険会社が発行し、その国の付保規制、税、付保証明の発行、現地での事故対応を担います。商品名がPL、CGL、general liabilityのいずれでも、名称だけで補償範囲を判断しません。対象業務、対象製品、被保険者、対象事故、地域、限度額を証券の正本で確認します。取引先や賃貸人、当局が現地で発行された付保証明を求めることがあるため、どの証券から発行できるかを確認します。
国別の付保規制や認可保険、保険料税の扱いは国ごとに定めが分かれ、断定はできません。現地で証券を発行できるか、証明書を出せるか、事故時に現地の担当が動けるかは、代理店・保険会社と現地の法務・税務専門家に確認します。ここで確認した内容が、次に見るマスターとの役割分担の起点になります。
下表は、ローカル証券の正本で押さえる欄を集める確認用の一般例です。国名や保険会社名ではなく、業務と事故と被保険者と限度額をそろえる目的で使います。
| 確認欄 | 見るところ | 抜けやすい点 |
|---|---|---|
| 被保険者 | 現地法人名・追加被保険者の範囲 | 本社や兄弟会社が入るか |
| 対象業務 | 製造・販売・設置・修理の記載 | 据付や保守が除外されていないか |
| 種類 | PL/CGLの別と担保基礎 | 発生ベースか請求ベースか |
| 地域 | 補償が及ぶ国・輸出先 | 越境販売分の扱い |
| 限度額 | 1事故・aggregate・免責 | 年間総枠の消化状況 |
| 付保証明 | 発行可否と宛先 | 契約が求める文言との一致 |
| 事故窓口 | 現地の通知先と期限 | 本社への共有経路 |
出典はAIG損保とSOMPOのプログラム説明を参照した編集部整理で、国別規制は専門家に確認します。この表は現地証券の正本から差分照合の材料を取り出すために使います。
マスターポリシーは本社基準とDIC/DILを担う
マスターポリシーは、日本本社がグループ共通の付保基準を定め、その基準とローカル証券の差をDIC/DILで補う役割を担います。対象子会社、共通条件、グループ全体の限度額を本社側で設計し、ローカル証券を配置する国では、その証券と組み合わせて照合します。マスターは本社の統制と底上げの層で、現地での発行や証明、税の手続はローカル証券が担う二層構造として捉えます。
ここで押さえるのは、マスターの補完がマスター自身の対象者・国・条件・限度額の範囲内で働くという点です。マスターの被保険者に入っていない子会社、対象外の国や製品、マスター側の免責は、いくらローカルに穴があってもマスターからは埋まりません。マスターとローカルのどちらか一方で足りると一般化せず、法人・国・事業ごとに二層の役割を割り付けます。
下表は、発行から支払先までを二層で分けて見るための比較で、どちらの層が何を担うかを整理する目的で使います。
| 観点 | ローカル証券 | マスター証券 |
|---|---|---|
| 発行 | 現地認可の保険会社 | 本社所在国の保険会社 |
| 被保険者 | 現地法人中心 | 本社基準の対象子会社群 |
| 条件 | 現地の標準条件 | グループ共通条件 |
| 限度額 | 各国で設定 | グループ全体の底上げ |
| 規制対応 | 現地での付保・証明・税を確認 | 本社基準の設計と統制 |
| 事故対応 | 現地での初動 | 本社側の統括 |
| 支払先 | 現地受取の可否を証券・国別に確認 | マスターの受取人・支払先を確認 |
出典はAIG損保・SOMPO・Swiss Re・Allianzの各プログラム説明を参照した編集部整理で、個々の商品仕様へ一般化しません。単位は役割の担い手です。この表は各国の実際の証券を二層のどこに位置づけるかを決めるために使います。
DIC/DILが補う差と補わない差を証券で照合する
DICはDifference in Conditions、DILはDifference in Limitsを指します。DICはローカル証券とマスターの条件差を、DILは限度額差を、それぞれマスターの範囲内で補う仕組みです。ローカルが担保していない条件をマスターの条件で上乗せするのがDIC、ローカルの限度額を超える部分をマスターの限度額まで届かせるのがDILという分担です。ローカル証券がある国では、その正本とマスター条件を照合して補える差を確認します。ローカル証券がない国は、マスターの対象・補償方法と国別規制を別に確認します。
照合で抜けやすいのは、条件差と限度額差だけを見て、被保険者・国・製品・免責・通知義務・受取先を確認しないことです。マスターの被保険者に入らない子会社、マスターが除く国や製品、マスター側の免責、通知期限を守らなかった事故は、DIC/DILの外側に残ります。DIC/DILを無条件の空白補完と読まず、マスターの対象者・国・事故・条件・限度額・免責・通知義務の範囲内で一つずつ照合します。
賠償と製品回収まで含めたPLの全体像を先に押さえておくと、条件差や限度額差の意味を証券に当てて読みやすくなります。その全体像はPL・リコール保険の全体像をまとめた記事で整理しています。
下表は、補完できる可能性がある差と、別に確認する差を分けて示す確認用の一般例です。無条件補完の一覧ではなく、証券照合のチェック軸として使います。
| 差の種類 | DIC/DILで補える可能性 | 別に確認する点 |
|---|---|---|
| 条件差 | DICでマスター条件まで上乗せ | マスター側の免責に該当しないか |
| 限度額差 | DILでマスター限度額まで届く | グループaggregateの残枠 |
| 被保険者差 | マスターの補償対象か証券で確認 | 対象外の子会社は残る |
| 国・製品差 | 国・製品が補償対象か証券で確認 | 除外国・除外製品は残る |
| 通知 | 期限内通知が前提 | 二社への通知経路と期限 |
| 受取先 | マスター側受取が基本 | 現地受取の可否は別確認 |
出典はAIG損保のプログラム説明を参照した編集部整理で、無条件補完としては扱いません。単位は差の種類です。この表は各差をローカルとマスターの正本に当てて残余を洗い出すために使います。
事故通知・現地防御・保険金受取を二層で決める
ローカルとマスターの双方が関係し得る事故は、それぞれの証券で通知先と期限を確認し、子会社から現地の保険会社へ、本社からマスターの保険会社へという二層の担当を決めておきます。通知期限や防御手続は各証券を正本にし、期限を過ぎた場合の扱いも保険会社へ確認します。誰がいつどちらへ通知するか、現地の弁護士・調査人を使えるか、保険金を最終的にどこが受け取るかを、事故が起きる前に担当付きで確定します。
現地での防御と保険金受取は国の制度で扱いが分かれ、現地法人が現地で受け取れるか、資本移動や税がどうかは断定できません。この点は代理店・保険会社と現地の法務・税務専門家に確認します。AIGの参考資料は2013年作成資料の翻訳であり、ここでは検討項目の例に限って参照し、国別の現行規制や税務判断には使いません。通知経路と受取先が証券一覧から抜けやすい部分なので、二層それぞれに担当を割り付けて記録します。
下表は、事象ごとに現地とマスターの通知・防御・受取の担当を決める確認用の一般例です。契約の通知条件を正本にして各欄を埋める目的で使います。
| 事象 | 現地窓口 | マスター窓口 | 通知期限 | 弁護士・調査人 | 受取先 |
|---|---|---|---|---|---|
| 製品事故の通報 | 現地保険会社の担当 | 本社保険担当経由 | 証券の定めに従う | 現地で選任 | 現地受取の可否を確認 |
| 訴訟提起 | 現地代理店 | マスター保険会社 | 提起後すみやかに | 現地弁護士を起用 | 判決・和解に応じて確認 |
| 限度額超過の見込み | 現地保険会社 | 本社経由でDIL判断 | 見込み判明時 | 本社側も関与 | 二層で調整 |
出典はAIG損保とSwiss Reのプログラム説明を参照した編集部整理で、実際の通知条件は各証券を正本にします。単位は担当と期限です。この表は二社通知の抜けと受取先の空白を先につぶすために使います。
国別証券台帳で重複と空白を見つける
ここまでの確認を、法人・国・事業・証券・保険料・限度額・満期・事故窓口を一行にまとめた台帳に落とします。一行で見ると、同じ活動に二重で保険がかかった重複と、活動があるのに証券がない空白の両方が見えます。差分には理由を記録し、未確認の欄は空白と区別して残します。未確認をゼロ扱いすると、実際には補償がある部分を無保険と誤認したり、逆に穴を見落としたりします。
対象国そのものの考え方や、どの国を優先して見るかの一般的な視点は別記事にまとめており、台帳の対象国を絞る前の下調べに使えます。詳しくは海外PL保険の対象国を整理した記事を参照してください。
下表は、更改台帳の欄を示す確認用の一般例です。重複・空白・未確認を同じ行で見える化する目的で使います。
| 国 | 法人 | 活動 | ローカル | マスター | 限度額 | 保険料 | 満期 | 差分 | 担当 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A国 | 製造子会社 | 製造 | PLあり | 対象 | 要確認 | 要確認 | 要確認 | ローカルとマスター重複の疑い | 本社保険担当 |
| B国 | 販売子会社 | 販売・据付 | CGLあり | 対象 | 要確認 | 要確認 | 要確認 | 据付の担保有無を確認 | 現地法人 |
| C国 | サービス子会社 | 修理 | 未確認 | 対象外の疑い | 未確認 | 未確認 | 未確認 | 空白の疑いを検証 | 海外事業 |
出典は編集部整理で、要確認や未確認はゼロとして扱いません。単位は台帳の記入項目です。この台帳は更改前に重複の解消と空白の埋めを担当別に進めるために使います。
更改前に法務・税務・保険担当が差分を処理する
台帳で見えた差分は、担当を分けて更改前に処理します。ローカル証券の追加や修正は現地法人と海外事業、マスターの条件・限度額の変更は本社保険担当、契約が求める付保証明の文言修正は法務、現地の付保規制・税・受取は法務・税務が専門家と詰めます。どこまでを保険で移し、どこを自社で保有するかは経営が方針として決めます。この分担を先に固めると、更改時の抜けが減ります。
下のチェックリストは、担当別に完成させる項目の確認用の一般例です。自社の台帳に合わせて項目を足し引きして使います。
| 担当 | 確認項目 | 状態 |
|---|---|---|
| 現地法人・海外事業 | 活動・製品・販売地域とローカル証券の照合 | 要確認 |
| 本社保険担当 | マスターの対象子会社・条件・限度額とDIC/DILの範囲 | 要確認 |
| 法務 | 契約の付保要求と付保証明の文言 | 要確認 |
| 法務・税務 | 付保規制・保険料税・現地受取・資本移動を専門家に確認 | 要確認 |
| 経営 | 保有する残余リスクと更改方針 | 要確認 |
出典は編集部整理で、国別規制は専門家に確認します。単位は担当別の確認状態です。このリストは更改会議までに各欄を確定させるために使います。
差分の照合を外部と進めるときは、状況が未整理でも那由他が一緒に整理します。更改前に気になる点があれば、まず気軽にご相談ください。
よくある質問
マスターポリシーだけで海外子会社を補償できるか
マスター一本で足りると一般化はできません。マスターの補完は自身の対象子会社・国・条件・限度額の範囲で働き、現地での付保証明の発行や税、事故の初動はローカル証券が担う場面があります。法人・国・事業ごとに二層で見ます。
ローカルポリシーだけで十分か
ローカルだけで十分とも言い切れません。現地の限度額を超える賠償や、ローカルが担保しない条件は、マスターのDIC/DILが範囲内で補う設計が取られます。各国の証券とマスターを照合して残余を見ます。
DICとDILの違いは何か
DICはDifference in Conditionsで条件差を、DILはDifference in Limitsで限度額差を、それぞれマスターの範囲内で補う仕組みです。ローカルの条件不足を補うのがDIC、限度額不足を補うのがDILという分担です。
DIC/DILは現地証券がない国の損害も全て補うか
現地証券がなくてもマスターが関係し得る設計はありますが、全てを補うとは言えません。マスターの対象外の国や製品、被保険者に入らない子会社、免責、通知義務に加え、国別の付保規制と現地支払の可否を確認します。
海外のPL事故は誰がどこへ通知するか
ローカルとマスターの双方が関係し得る事故では、それぞれの証券の通知先と期限を確認します。子会社は現地保険会社、本社はマスター保険会社を担当する形を含め、誰がいつどちらへ通知するかを事故前に決めておきます。
保険金は海外現地法人が現地で受け取れるか
現地で受け取れるかは国の制度や証券の設計で扱いが分かれ、断定はできません。受取先や資本移動、税の扱いは代理店・保険会社と現地の法務・税務専門家に確認します。
グローバル保険プログラムにすると保険料は下がるか
一元化で得られるのは、本社側の統制と台帳の見える化です。料率は補償内容・限度額・各国の引受で決まるため、保険料が下がるとは言い切れず、削減や引受を保証するものではありません。
参考一次情報・公的資料
- AIG損保「コントロールド・マスタープログラム」
- AIG損保「マルチナショナル保険」資料
- 損保ジャパン「SOMPOワールドワイドプログラム」
- Swiss Re Corporate Solutions「インターナショナル・プログラム」
- Allianz Commercial「Multinational Insurance Solutions」
- 経済産業省「通商白書2025 第3節 モノとサービスの越境取引」
情報確認日:2026年7月16日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月16日
補償・引受・保険料・保険金の支払は、商品・約款・特約・個別事情で変わります。国別の付保規制や法務は現地の弁護士へ、税務は現地の税務専門家へ、補償内容・事故通知・証券の発行は代理店・保険会社へご確認ください。