
法人保険の経理処理は、契約者・被保険者・受取人、保険種類、最高解約返戻率、受取局面によって、損金・資産・給与・益金へ分岐します。同じ商品名でも処理は一つに決まらないため、仕訳例を暗記するより、契約ごとに条件を並べた分岐表を先に作り、税理士へ個別判定を依頼する順序が確実です。本記事は国税庁の通達とタックスアンサーに沿って、支払時・受取時・変更時の確認軸と、定期保険・終身保険・変額保険・第三分野保険ごとの考え方、未経過保険料や改正前契約の扱い、確認資料の見方を整理します。
Summaryこの記事のポイント
- 保険料の支払時処理は「受取人が誰か」「加入範囲が全員か特定者か」「最高解約返戻率が何%か」で損金・資産・給与に分かれる。
- 定期保険・第三分野保険の支払時処理は、まず最高解約返戻率50%以下と50%超に分けて確認する。50%以下はNo.5364、50%超はNo.5364-2で資産計上割合が変わる。
- 終身保険や変額保険の終身型・有期型は、受取人が法人なら保険料を資産計上するのが一般的で、変額保険の最高解約返戻率は契約時に示された解約返戻金相当額で判定する。
- 死亡保険金・給付金・解約返戻金を受け取ったときは、それまで資産計上してきた前払保険料等の累計を取り崩し、差額を益金・損金として認識する。
- 名義変更・払済変更・役員退職時の移転は別時点の評価が必要で、令和元年7月8日より前の契約は改正前の取扱いによる。
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法人保険の経理処理は契約条件と受取局面で分かれる
法人保険の経理処理とは、法人が契約者として支払う生命保険料(本記事では未経過保険料の節で損害保険料にも触れる)を損金・資産(前払保険料や保険料積立金)・給与のどれに振り分け、保険金・給付金・解約返戻金を受け取ったときに資産計上額を取り崩して差額を益金または損金に認識する、法人税基本通達9-3-4から9-3-7の2までに沿った一連の処理である。契約者・被保険者・受取人が誰か、保険種類が定期保険か養老保険か終身保険か第三分野保険か、設計上の最高解約返戻率が何%か、加入範囲が役員・使用人の全員か特定者かによって、同じ保険料でも振り分けが変わります。
この分岐を仕訳例の暗記でさばこうとすると、商品名が同じでも受取人や加入範囲が違えば処理が食い違い、決算で辻褄が合わなくなります。実務で確実なのは、契約ごとに条件を横に並べた分岐表(台帳)を先に作り、そのうえで個別の税務判定を税理士へ依頼する順序です。
背景として、生命保険協会「2025年版 生命保険の動向」によれば、2024年度の個人保険の新契約は1,243万件、うち医療保険は296万件、がん保険は159万件でした(いずれも同資料)。これらは第三分野を含む保険が広く普及していることを示す個人保険の統計であり、法人契約の経理処理の方向を決める数値ではありません。加入件数の多さは処理の簡単さを意味せず、法人での取扱いは後述の通達で個別に判断します。
以下では支払時・受取時・変更時の順に、どの資料のどの欄を照合し、誰に何を確認するかを整理します。会計上の費用・資産と、法人税法上の損金・益金は必ずしも一致しないため、両者を同義に扱わない点にも注意してください。
保険料支払時を損金・資産・給与に分ける判定表
支払時の処理は「受取人は誰か」「加入範囲は全員か特定者か」「最高解約返戻率は何%か」の三つでほぼ方向が決まります。受取人が法人で、定期保険・第三分野保険の最高解約返戻率が50%以下なら、原則として保険料は期間の経過に応じて損金算入します(国税庁No.5364)。50%を超える場合は一定割合を資産計上し、残りを損金にします(国税庁No.5364-2)。
受取人が被保険者の遺族となる死亡保障で、役員・使用人の全員を対象に普遍的に加入している場合は、福利厚生目的として損金算入が認められることがあります。一方、特定の役員や使用人だけを被保険者とする設計では、その保険料が対象者への給与として扱われる場合があります(国税庁No.5364)。養老保険で生存保険金(満期保険金)の受取人を法人、死亡保険金の受取人を被保険者の遺族とする契約は、支払保険料の2分の1を資産計上し、残額を期間の経過に応じて損金算入します。ただし特定の役員・使用人のみを被保険者とする場合は、その残額は対象者への給与となります(国税庁No.5363)。
| 保険種類・契約条件 | 受取人 | 加入範囲 | 最高解約返戻率 | 確認結果(処理の方向) |
|---|---|---|---|---|
| 定期保険・第三分野保険 | 法人 | 全員・特定を問わず | 50%以下 | 期間の経過に応じ損金算入(No.5364) |
| 定期保険・第三分野保険 | 法人 | 全員・特定を問わず | 50%超 | 一定割合を資産計上し残りを損金(3区分で割合が変わる/No.5364-2) |
| 定期保険(死亡保障) | 被保険者の遺族 | 全員(普遍的加入) | — | 福利厚生目的として損金算入が認められることがある |
| 定期保険(死亡保障) | 被保険者の遺族 | 特定の役員・使用人のみ | — | 対象者への給与として扱われる場合がある(No.5364) |
| 養老保険(死亡=遺族/生存=法人) | 生存=法人・死亡=被保険者の遺族 | 全員(普遍的加入) | — | 2分の1を資産計上し残額を期間の経過に応じて損金算入(No.5363) |
| 養老保険(死亡=遺族/生存=法人) | 生存=法人・死亡=被保険者の遺族 | 特定の役員・使用人のみ | — | 2分の1を資産計上し残額は対象者への給与(No.5363) |
| 養老保険・終身保険 | 法人 | 全員・特定を問わず | — | 保険料積立金として資産計上(法基通9-3-4(1)の例) |
表はあくまで確認の出発点で、最終的な損金・資産・給与の判定は約款・契約条件・加入実態によって変わります。特に「普遍的加入」といえるかは人数や役職の分布で判断が分かれるため、付保リストと加入規程を添えて税理士に確認してください。なお第三分野保険を短期払いする場合は、掛金の払い方によって取扱いに注記があり(No.5364)、払込方法も判定に影響します。ここで挙げた処理の方向は説明のための整理であり、自社の全契約へそのまま一般化しないでください。
「わかりやすく」という観点から、処理の方向が仕訳ではどう見えるかを並べておきます。勘定科目名は一般に使われている例で、自社の勘定体系や会計ソフトの科目に置き換えてください。金額の割合は上の表と後述の区分表に従います。
| 処理の方向 | 借方(例) | 貸方(例) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 期間の経過に応じて損金算入 | 支払保険料(当期対応分) | 現金預金 | 年払で翌期分を含む場合は前払費用を検討 |
| 一定割合を資産計上し残りを損金 | 前払保険料(資産計上割合分)/支払保険料(残額) | 現金預金 | 資産計上期間が終わったら前払保険料を取崩期間に応じて取り崩す |
| 全額を資産計上 | 保険料積立金 | 現金預金 | 養老保険・終身保険で受取人が法人の場合など |
| 2分の1資産計上・残額損金 | 保険料積立金(2分の1)/福利厚生費(残額) | 現金預金 | 特定者のみ被保険者なら残額は給与 |
| 給与として扱う | 役員報酬または給与手当 | 現金預金 | 役員分で法人が経常的に負担するものは定期同額給与(No.5364 注5) |
最高解約返戻率50%・70%・85%の区分を契約資料で確認する
定期保険・第三分野保険で受取人が法人の場合、支払時の確認はまず最高解約返戻率50%以下と50%超に分けます。50%以下はNo.5364、50%超はNo.5364-2で扱いが分かれ、50%超はさらに50%超70%以下・70%超85%以下・85%超の3区分に分かれて、上の区分ほど当初期間に資産計上する割合が大きくなります。最高解約返戻率とは、保険期間を通じて解約返戻率が最も高くなる時点の率で、契約時の設計書や解約返戻金の推移表で確認します。
50%超70%以下と70%超85%以下は、保険期間の当初40%相当期間に、それぞれ支払保険料の40%・60%を資産計上し、残りを損金にします。85%超は当初10年間、支払保険料に最高解約返戻率の90%を乗じた額(11年目以降は70%)を資産計上するなど、区分の中でも計算が複雑です。資産計上した前払部分は、区分ごとに定められた時期(おおむね75%相当期間の経過後、または解約返戻金が最高額となる期間の経過後)から取り崩します。
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間の目安 | 資産計上の割合 | 損金の割合 | 取崩しの目安 | 根拠通達 |
|---|---|---|---|---|---|
| 50%以下 | なし | 0% | 当期対応分(期間の経過に応じる) | — | No.5364 |
| 50%超70%以下 | 保険期間の当初40%相当期間 | 支払保険料の40% | 60% | 75%相当期間の経過後から均等に取崩し | No.5364-2 |
| 70%超85%以下 | 保険期間の当初40%相当期間 | 支払保険料の60% | 40% | 75%相当期間の経過後から均等に取崩し | No.5364-2 |
| 85%超 | 最高解約返戻率となる期間等まで | 当初10年は保険料×最高解約返戻率×90%、以降×70% | 資産計上額を除いた残額 | 解約返戻金が最高額となる期間の経過後 | No.5364-2 |
実務では、設計書に記載された最高解約返戻率が「何%の区分に入るか」と「その率に到達する年度」を台帳に転記し、区分の境目(50%・70%・85%)に近い契約を優先して確認します。1%の違いで区分をまたぐと資産計上割合が変わるためです。また最高解約返戻率50%超70%以下で、同一被保険者の年換算保険料相当額の合計が30万円以下の契約は、資産計上を要さずNo.5364の取扱い(期間の経過に応じた損金算入)に戻ります。これは独立した『全額損金』ではなく、あくまでNo.5364の原則に沿った処理です。なお、解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険で、当該事業年度の実支払保険料の合計が被保険者1人あたり30万円以下の場合に支払時の損金算入を認める取扱いは、これとは別のルールです。掛金の設定によっては区分判定より先に、どちらの取扱いに該当するかを確認します。二つの30万円の判定の仕方、同一被保険者での合算、超えた場合の116歳までの按分は法人保険の30万円特例の解説で契約類型ごとに整理しています。区分の割合や期間は代表的な目安で、実際の計算は契約ごとの保険期間・返戻率推移で変わります。
終身保険・変額保険の法人契約はどう考えるか
結論から言うと、死亡保険金の受取人が法人である終身保険の保険料は、保険料積立金として全額を資産計上するのが一般的な取扱いで、変額保険は定期型・有期型・終身型のどれかに応じて定期保険・養老保険・終身保険の取扱いで検討し、最高解約返戻率は契約時に示された解約返戻金相当額で判定します。法人税基本通達には終身保険や変額保険だけを対象にした条文はなく、終身保険は9-3-7の2(注)1に養老保険等と並んで保険種類として掲げられているにとどまります。終身保険は死亡保険金が支払われる設計で保険料に積立部分が含まれるため、実務では養老保険で受取人が法人の場合の取扱い(9-3-4(1))の例により資産計上するのが一般的です。
終身保険は、保険期間が終身で被保険者の死亡時に保険金が支払われる設計のため、保険料に貯蓄部分が含まれます。受取人が法人の場合は、養老保険で死亡保険金・生存保険金の受取人がともに法人であるときの取扱い(法基通9-3-4(1)。保険事故の発生または解約・失効により契約が終了する時まで資産計上)に準じて、支払保険料を保険料積立金として資産計上するのが実務上の一般的な処理です。死亡保険金の受取人が被保険者の遺族で、特定の役員・使用人のみを被保険者としている場合は給与となる点は定期保険と同じです。終身保険は解約返戻金が大きく、役員退職金の原資や払済保険への変更と結びつきやすいため、支払時の処理以上に、解約・払済・名義変更時の処理を確認する場面が多くなります。
変額保険は、特別勘定の運用実績によって保険金額や解約返戻金が変動する保険です。経理処理で問題になるのは「解約返戻金が確定していないのに、最高解約返戻率をどう判定するか」ですが、国税庁の定期保険等FAQ(Q8)は、変額保険や積立利率変動型保険については、契約時に示される予定利率を用いて計算した解約返戻金相当額を用いて差し支えないとしています。最高解約返戻率の定義自体も「保険契約時において契約者に示された解約返戻金相当額」を基礎としています(法基通9-3-5の2(注)1イ)。したがって、契約後に運用実績が上下しても、支払時の区分判定をやり直す必要はありません。
| 保険の形 | 受取人 | 処理の方向(一般的な取扱い) | 確認資料 |
|---|---|---|---|
| 終身保険(定額) | 法人 | 保険料積立金として資産計上(9-3-4(1)の例) | 証券・設計書 |
| 終身保険(定額) | 被保険者の遺族 | 加入範囲を問わず給与とされることが多い(通達に直接の定めなし。税理士に確認) | 証券・付保リスト |
| 変額保険(終身型) | 法人 | 終身保険と同様に資産計上 | 証券・設計書(予定利率別の返戻金表) |
| 変額保険(有期型・満期保険金あり) | 法人/遺族と法人の組合せ | 養老保険の取扱い(9-3-4)に準じる | 証券・設計書 |
| 変額保険(定期型) | 法人 | 契約時の予定利率で計算した最高解約返戻率で50%以下/50%超の区分へ(9-3-5・9-3-5の2、FAQ Q8) | 設計書の返戻率表(予定利率別) |
変額保険の設計書には、運用実績の前提(例えばマイナス3%・0%・3%・6%など)ごとに解約返戻金の推移が複数並んでいることがあります。経理処理の判定に使うのは、契約時に保険会社が「経理処理の参考」として示した予定利率による解約返戻金相当額であり、楽観的な前提や実績値ではありません。どの前提の表を使ったかを台帳に残し、設計書のどの欄かを税理士と共有してください。保険の形(定期型・有期型・終身型)は証券の保険種類欄と約款で確認し、ここに挙げた処理の方向は一般的な整理として、個別の判定は税理士に確認します。
死亡保険金・給付金・解約返戻金の受取時に益金と資産取崩しを確認する
保険金・給付金・解約返戻金を受け取ったときは、受け取る前に「その契約でこれまで資産計上してきた累計はいくらか」を先に確定させます。受取額をそのまま益金にするのではなく、資産計上してきた前払保険料や保険料積立金を取り崩し、受取額との差額を益金または損金として認識するのが基本の考え方です。支払時に全額損金にしていた契約(50%以下など)は取り崩す資産がないため、受取額がそのまま益金になります。
死亡保険金・満期保険金は保険金額と資産累計の差額を、解約返戻金は返戻金額と資産累計の差額を、それぞれ益金または損金として処理します。法人が死亡保険金を受け取り、その資金を原資に遺族へ死亡退職金や弔慰金を支給する場合は、保険金の受取(益金)と退職金の支給(損金)は別の取引として処理し、退職金の損金算入の可否や金額の相当性は役員退職金規程と株主総会・取締役会の決議で別途確認します。入院・手術などの給付金は、掛捨て部分に対応するため取り崩す資産がないことが多く、受取額を益金に計上したうえで、見舞金規程に基づき従業員へ支給する場合は別途その支出を処理します。いずれも「いくら受け取ったか」だけでなく「その契約の資産累計と対応しているか」を確認する必要があります。
| 局面 | 受け取る金額 | 取り崩す資産 | 益金・損金の考え方 | 確認資料 |
|---|---|---|---|---|
| 死亡保険金・満期保険金 | 保険金額 | 前払保険料・保険料積立金の累計 | 受取額と資産累計の差額を益金または損金 | 証券・支払通知書・資産計上明細 |
| 解約返戻金 | 返戻金額 | 資産計上累計 | 返戻金額と資産累計の差額を益金または損金 | 解約返戻金の通知書・累計表 |
| 入院・手術給付金 | 給付金額 | 原則なし(掛捨て部分) | 受取額を益金/従業員へ見舞金支給時は別途処理 | 給付金支払通知書・見舞金規程 |
解約を検討する契約では、解約返戻金が最も高くなる時期と資産取崩しのタイミングがずれることがあり、受取額と帳簿価額の差額が想定と違う益金・損金を生むことがあります。返戻率の推移は解約返戻金のピークの考え方で確認し、受取通知書に記載された金額と、過年度の資産計上明細の残高を必ず突き合わせてください。会計上の収益・費用と法人税の益金・損金は範囲が一致しないことがあるため、別表での調整要否もあわせて確認します。
未経過保険料の経理処理は「年払い損害保険料の前払分」と「解約時の戻り」で意味が違う
「未経過保険料」という言葉は、法人の経理では二つの場面で出てきます。一つは、火災保険や自動車保険などの損害保険料を年払い・長期一括で支払ったとき、決算日時点でまだ保険期間が到来していない部分を指す場合。もう一つは、生命保険を年払いで支払った後に解約・減額したとき、保険会社から解約返戻金とは別に戻ってくる、未経過期間分の保険料を指す場合です。意味が違うので、処理も分けて考えます。
損害保険料の未経過分は、本来は前払費用として翌期以降の費用になります。ただし法人税基本通達2-2-14(短期の前払費用)は、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用を、継続して支払った日の属する事業年度の損金に算入しているときはこれを認めるとしています。1年契約の保険料を年払いしている場合は、この取扱いを継続適用していれば支払時に損金算入できますが、翌期の分まで含む長期一括払いの保険料や、積立型の長期損害保険契約(保険期間3年以上で満期返戻金のあるもの)の積立保険料部分は対象外で、後者は法基通9-3-9により保険期間の満了または解約・失効の時まで資産計上します。どの契約が1年以内の役務に当たるかは、証券の保険期間と払込方法で確認します。
生命保険の解約・減額時に戻る未経過保険料は、既に支払保険料として処理した金額の一部が戻ってくるものです。解約返戻金と同じ振込で入金されることが多く、通知書に「解約返戻金」「未経過保険料」「配当金」などの内訳が分かれて記載されます。未経過保険料の部分は解約返戻金と資産計上額の差額計算に混ぜず、既に損金算入した保険料の戻りとして、雑収入または支払保険料の減額のいずれか継続した方法で処理する例が多く見られます。通知書の内訳と入金額を突き合わせ、どの内訳をどの科目で受けたかを記録しておくと、税理士の確認が速くなります。生命保険の解約時の未経過保険料の勘定科目を直接定めた通達は確認できていないため、処理方法は顧問税理士と決めてください。
名義変更・払済変更・退職時移転は別時点の評価が必要になる
名義変更・払済変更・役員退職時の契約移転は、支払時の分岐とは別に、その時点での契約価値を評価し直す必要があります。加入時にどう処理してきたかだけでなく、変更・移転が起きた時点の解約返戻金相当額や帳簿価額をもとに判断するため、支払時の台帳とは別の確認軸になります。本記事は支払時・受取時を中心に整理するハブで、これらの局面は関連記事で個別に扱います。
払済保険に変更すると以後の保険料払込が止まり、変更時点の解約返戻金をもとに保障額が再計算されるため、資産計上額の洗替えや差額の認識を検討します。処理の考え方は払済保険の経理処理で整理しています。契約者を法人から個人(役員)へ変更する名義変更は、変更時点の評価額をどう見るかで課税関係が変わり得るため、退職金として渡すのか買い取るのかといった前提とあわせて個別に確認します。
役員退職を機に契約を見直す場合は、退職金の一部として現物支給するのか、契約を解約して原資に充てるのかで処理が分かれます。契約全体の整理や不要契約の棚卸しは法人保険の見直しの観点で先に洗い出しておくと、決算や退職の直前に慌てずにすみます。名義変更・払済・退職金の適否や評価額そのものは、契約条件と個別事情で決まるため本記事では断定しません。
令和元年7月8日より前の契約は改正前の取扱いによる
ここまでの最高解約返戻率による区分は、令和元年(2019年)の通達改正で導入されたもので、令和元年7月8日以後に契約した定期保険・第三分野保険の保険料に適用されます。解約返戻金相当額のない短期払いの定期保険・第三分野保険については、令和元年10月8日以後の契約が対象です。それぞれの日より前に契約した保険の保険料は、改正前の法人税基本通達の取扱いと、改正に伴って廃止された個別通達(長期平準定期保険、逓増定期保険、がん保険(終身保障タイプ)、介護費用保険などに関する通達)の例によります(国税庁「経過的取扱い」)。
実務では、同じ会社の契約に改正前と改正後が混在していることが珍しくありません。改正前の契約は、たとえば長期平準定期保険や逓増定期保険で「保険期間の前半6割の期間に保険料の2分の1(または3分の2・4分の3)を資産計上」といった旧通達の区分で処理を続けることになり、改正後の最高解約返戻率の区分表を当てはめると誤りになります。契約日を台帳の列に持ち、改正前・改正後で参照する通達を分けてください。改正前の契約について、改正後に契約内容の変更・転換・払済変更・更新・特約の付加があった場合の扱いは、国税庁FAQのQ13・Q14が整理しているので、該当する契約は税理士と読み合わせます。
契約別台帳を作り、証券・設計書・経理履歴を税理士へ渡す
ここまでの分岐は、契約ごとに条件を並べた一枚の台帳にまとめると、税理士への確認が速く正確になります。台帳には契約者・被保険者・受取人、保険種類・保険期間・払込方法、契約日(改正前か後か)、最高解約返戻率、加入範囲、資産計上累計、直近の変更を列として持たせ、それぞれに対応する確認資料をひも付けます。仕訳の正誤を先に議論するより、この台帳で事実関係をそろえるほうが個別判定に入りやすくなります。
| 台帳の必須列 | 記載内容 | 対応する確認資料 |
|---|---|---|
| 契約者/被保険者/受取人 | 3者の氏名・法人名 | 保険証券 |
| 保険種類・保険期間・払込方法 | 種類(定期・終身・養老・第三分野・変額の型)、開始・終了、全期払/短期払 | 証券・設計書 |
| 契約日 | 令和元年7月8日(解約返戻金なし短期払いは10月8日)の前後 | 証券 |
| 最高解約返戻率 | 設計時の最高値と到達年度(変額保険は判定に使った予定利率) | 設計書・解約返戻金推移表 |
| 加入範囲 | 全員(普遍的加入)か特定者か | 加入規程・付保リスト |
| 資産計上累計 | 各期の資産計上・取崩しと残高 | 過年度の仕訳・別表 |
| 直近の変更 | 払済・名義変更・減額の有無と時期、戻った未経過保険料 | 変更通知書・異動明細 |
台帳の各列は、対応する資料がなければ空欄のままにせず「資料未取得」と記録します。空欄と未取得を区別しておくと、税理士との確認で「まだ判定できない契約」がはっきりし、追加で請求する資料も特定できます。受取や変更が発生した契約は行を分けて残高の推移を追えるようにしておくと、決算時の照合が一度で済みます。
税理士との確認に使うチェックリスト
- 保険証券で契約者・被保険者・受取人の3者を確認したか(給与認定・損金判定の起点)。
- 契約日を確認し、改正前の契約と改正後の契約で参照する通達を分けたか。
- 設計書で最高解約返戻率と到達年度を確認し、50%・70%・85%の区分を特定したか。変額保険はどの予定利率の表を使ったか。
- 加入規程・付保リストで全員加入か特定者かを確認したか。
- 過年度の仕訳・別表で資産計上累計と取崩し残高を確認したか。
- 払済・名義変更・減額など直近の変更の有無と時期を確認したか。
- 受取(保険金・給付金・解約返戻金・未経過保険料)が発生した契約は、受取通知書の内訳と資産累計を突き合わせたか。
個別判定で照合するのは、保険証券、設計書、受取人一覧、最高解約返戻率がわかる資料、過年度の仕訳・別表、決算書の6点です。保険証券で契約者・被保険者・受取人と保険種類・契約日を、設計書と最高解約返戻率がわかる資料で50%・70%・85%区分と資産計上割合を、受取人一覧で給与認定と加入範囲を、過年度の仕訳・別表で資産計上累計と取崩し状況を、決算書で会計と税務の差異を確認します。契約別台帳の空欄を埋めながら、損金・資産・給与・益金の分岐を確認していきます。
那由他保険テクノロジーズが法人保険の契約条件と裏づけ資料の整理でご支援できること
ここまでの分岐を自社で確認しようとすると、多くの会社で三つの実務が残ります。加入時の設計書が手元になく最高解約返戻率と到達年度が確認できない、加入範囲を示す加入規程・付保リストが更新されておらず普遍的加入かどうかを説明できない、複数の保険会社・複数の募集経路にまたがっていて不足資料をどこへ請求すればよいか分からない、の三点です。この状態のまま仕訳の当否から議論を始めると、税理士との確認が契約ごとに差し戻しになります。
那由他保険テクノロジーズでは、保険オペレーション部が契約ごとの証券番号・引受保険会社・保険期間・契約日・更新月・受付窓口を一覧にしたうえで、保険証券、設計書、解約返戻金推移表、変更通知書・異動明細の有無を契約単位で突き合わせます。証券の記載だけでは確認できない項目——最高解約返戻率が最も高くなる年度、変額保険で判定に使う予定利率の表、短期払・全期払の変更履歴、受取人や契約者の変更時期——は保険会社の法人契約窓口への照会事項として整理し、社内で確認する項目と保険会社へ請求する項目を分けて記録します。
- 契約者・被保険者・受取人の3者が契約ごとにどう設定され、証券記載と現在の実態にずれがある契約はどれか。
- 最高解約返戻率と到達年度を設計書・解約返戻金推移表のどちらで確認できるか、確認できない契約はどの保険会社のどの窓口へ請求するか。
- 契約日が改正前か改正後か、改正前契約に改正後の変更・転換・特約付加が加わっていないか。
- 加入規程・付保リストで加入範囲が全員か特定者かを示せる契約と、規程・リストそのものが未整備の契約の切り分け。
- 払済・名義変更・減額の実施時期と、対応する変更通知書・異動明細が保険会社側にしか残っていない契約の特定。
損金・資産・給与・益金の判定と別表調整そのものは税理士の領域です。那由他保険テクノロジーズが担うのは、その判定に必要な契約条件と裏づけ資料を契約単位でそろえ、未取得の資料と照会先を明示するところまでで、税務上の結論は出しません。あわせて、整理した契約条件をもとに、事業リスクと現在の保障内容のずれ、補償の重複・不足、保険料コストの削減余地を分析し、見直し案を比較することもできます。分析は比較・設計・調達の支援であり、判定結果や保険料の低下を保証するものではなく、今回は契約を変更せず次回更新まで現状を維持するという結論も検討対象に含めます。決算や税理士との打ち合わせを控えている場合は、状況が整理できていない段階でもお気軽にご相談ください。必要な確認は、ご相談のあとで一緒に整理します。
よくある質問
法人保険料は全額損金にできますか。
一律には決まりません。受取人が法人で定期保険・第三分野保険の最高解約返戻率が50%以下なら期間の経過に応じて全額を損金算入できるのが原則ですが(国税庁No.5364)、50%を超えると一定割合を資産計上します(国税庁No.5364-2)。また受取人が遺族で加入範囲が特定者に偏る場合は給与として扱われることがあり、「全額損金」を前提に設計すると決算で崩れることがあります。まず自社契約の最高解約返戻率と受取人を確認してください。
終身保険の保険料は損金になりますか。
死亡保険金の受取人が法人である終身保険の保険料は、貯蓄性のある保険として保険料積立金に資産計上するのが一般的な取扱いで、支払時の損金にはなりません。法人税基本通達に終身保険だけを対象にした条文はありませんが、養老保険で受取人が法人の場合の取扱い(9-3-4(1))に準じて処理されます。受取人が遺族の場合は、特定の役員のみを被保険者とするなら給与となり、全員加入でも養老保険の例(9-3-4(2))で給与とされることが多いため、個別に税理士へ確認してください。
変額保険の最高解約返戻率はどう判定しますか。
契約時に保険会社から示される予定利率を用いて計算した解約返戻金相当額で判定して差し支えないとされています(国税庁 定期保険等FAQ Q8)。設計書に運用実績の前提ごとに複数の返戻金表がある場合は、経理処理の参考として示された予定利率の表を使い、どの表を使ったかを台帳に残します。契約後の運用実績の変動で区分をやり直す必要はありません。
特定の役員だけを対象にすると給与になりますか。
なる場合があります。死亡保険金の受取人を遺族とする保障で、加入対象が特定の役員・使用人に限られると、その保険料が対象者への給与として扱われることがあります(国税庁No.5364)。全員を普遍的に対象にしているかどうかが分かれ目で、人数や役職の分布によって「普遍的」といえるかの判断が変わります。加入規程と付保リストを添えて税理士に確認してください。
給付金を受け取ったときは何を確認しますか。
その契約に資産計上してきた累計があるかどうかを先に確認します。入院・手術などの給付金は掛捨て部分に対応し取り崩す資産がないことが多く、受取額を益金に計上します。従業員へ見舞金として支給する場合は見舞金規程に沿って別途処理し、受取と支給を混同しないようにします。受取通知書の金額と帳簿を突き合わせて記録してください。
払済変更や名義変更のときは何を確認しますか。
変更した時点の解約返戻金相当額と帳簿価額を確認します。払済変更では以後の払込が止まり資産計上額の洗替えを検討し、名義変更では変更時点の評価額と、退職金や買取りといった前提によって課税関係が変わり得ます。いずれも支払時とは別時点の評価になるため、変更通知書と過年度の資産計上明細をそろえ、適否や評価額は個別に税理士へ確認します。
どの段階で相談できますか。
時期は問いません。契約条件の確認は決算期を待たずに始められ、台帳の空欄が埋まった契約から税理士への確認事項を絞り込めます。
参考一次情報・公的資料
- 国税庁 No.5363 養老保険の保険料の取扱い
- 国税庁 No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料
- 国税庁 No.5364-2 最高解約返戻率50%超の定期保険等の取扱い
- 国税庁 法人税基本通達 第3節 保険料等(9-3-4〜9-3-12)
- 国税庁 法人税基本通達 2-2-14 短期の前払費用
- 国税庁 定期保険等の保険料に関する取扱いの趣旨説明・経過的取扱い(改正通達の適用時期)
- 国税庁 定期保険等FAQ(Q8・Q13・Q14ほか)
- 生命保険協会 2025年版 生命保険の動向
情報確認日:2026年11月2日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年11月2日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。補償・引受・保険料・保険金の支払は商品・約款・契約条件・個別事情によって決まり、法務・税務・労務・会計の取扱いは専門家への確認が必要になり得ます。