
「地震保険に法人で入れますか」という問いの答えは、原則として入れません。一般に地震保険と呼ばれる制度は、地震保険に関する法律にもとづき国が再保険で支える家計分野の商品で、居住用の建物と家財だけが対象だからです。法人が事業用に持つ建物・設備・在庫や、操業停止による損失は、火災保険の地震危険補償特約や企業財産保険、事業中断補償といった企業向けの仕組みで別建てにして備えます。火災保険の基本契約だけでは地震・噴火・津波は対象外のため、ここが企業側で手当てを足すかどうかの分かれ目になります。
Summaryこの記事のポイント
- 個人向け地震保険は国が支える家計制度で、法人の事業用物件はそのまま対象にできない。
- 企業は火災保険の地震危険補償特約、拡張担保・企業財産保険、事業中断補償を組み合わせて設計する。
- 地震は損害が広域・巨額になりやすく、補償割合や支払限度が付き、希望額がそのまま出るとは限らない。
- 財物の復旧費と、止まった間の固定費・利益減少は別リスクとして分けて手当てする。
- 備えは保険単体でなく、事業継続力強化計画と証券・請求資料をそろえ、有事に説明できる状態にする。
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「法人の地震保険」は原則ない。企業が使う手当ての全体像
企業向けの地震補償とは、火災保険の地震危険補償特約や企業財産保険、事業中断補償を組み合わせ、事業用の資産と休業損失に備える仕組みの総称です。個人の地震保険は火災保険にセットで付帯し、居住用建物と家財を対象とします。損害保険料率算出機構によると、2022年度の火災保険(住宅物件)への地震保険付帯率は全国平均69.4%で、家計分野ではセット付帯が広く定着しています(損害保険料率算出機構、2026年7月時点で参照できる確報値)。約7割が付けているこの家計向け制度は国の再保険で成り立ち、その仕組みは財務省「地震保険制度」で確認できます。企業が事業用に持つ物件はこの制度の対象外で、法人は別建ての企業向け補償を自分で設計することになります。
企業が事業用に保有する物件、たとえば事務所、店舗、工場、倉庫、機械設備、商品在庫などの地震リスクは、家計向けの地震保険ではカバーされません。法人ではおおむね次の枠組みで検討します。
- 地震危険補償特約:企業向け火災保険に特約として付帯し、地震・噴火・津波を原因とする損害を補償する。
- 拡張担保・オールリスク型の企業財産保険:免責に該当しない偶然な事故を広く補償し、設計によって地震を含める。
- 地震デリバティブ・パラメトリック型:実損ではなく震度や地震動などの指標に応じて支払い、初動の資金繰り対応として検討される。
- 利益保険・事業中断補償(地震拡張):地震で操業が止まったときの利益減少と固定費をカバーする。
どの枠組みが合うかは、保有物件の構造・立地・想定リスク・予算で変わります。地震補償は付帯できる引受条件や上限額に制約が付くことが多く、希望どおりの補償額を常に手当てできるわけではありません。制度全体の位置づけは日本損害保険協会「企業財産のリスク」もあわせて確認できます。
火災保険の基本契約だけでは地震は下りない
ここが実務で最も誤解されやすい点です。企業向け火災保険に加入していても、地震・噴火・津波を原因とする損害は基本契約では免責、つまり対象外に置かれています。火事で燃えれば下りるのに、地震による倒壊や、地震に伴う火災では下りない、という非対称がそのまま残ります。地震で生じた損害を補償に含めるには、地震危険補償特約を付帯するか、地震を担保する企業財産保険を別建てで設計する手続きが要ります。
証券のどこを見れば足りているか判断できるか、という質問をよく受けます。目安は、証券の「補償される事故」欄や特約欄に地震・噴火・津波の記載があるか、そして免責事項の側にそれらが並んでいないかの二点です。ここで代理店として一つ補足すると、火災保険の証券本体には特約名しか載らず、地震の補償割合や支払限度は別紙の付保内容明細や更新案内にだけ書かれていることがあります。証券一枚だけを見て「地震も入っている」と早合点すると、実際の支払条件を読み違えやすいところです。
さらに、特約を付けても支払は自動ではありません。実際にいくら出るかは、証券と約款に記載された補償割合、支払限度額、免責金額といった項目で決まります。「火災保険があるから地震も大丈夫」と考えず、証券と約款で地震の扱いがどう書かれているかを一度確かめておくことが出発点になります。契約全体の重複や抜けを洗い出したいときは、法人保険見直しチェックリストの手順もあわせて使えます。
財物リスクと事業中断リスクを分けて備える
地震対策を考えるとき、建物や設備の物的損害に目が向きがちですが、法人で影響が大きいのはむしろ事業が止まることによる損失です。次の2つを分けて整理すると、補償の抜け漏れが見えやすくなります。
財物リスク(直接損害)
建物の倒壊・損傷、機械設備の破損、在庫・什器の毀損など。復旧費用や再調達費用が論点になり、契約金額と再調達価額のずれがあると復旧を賄いきれないことがあります。
事業中断リスク(間接損害)
操業停止による売上減少、止まっても発生し続ける人件費や家賃などの固定費、取引先への供給責任、サプライチェーン寸断による波及です。物的損害が小さくても、ライフラインや交通の停止で事業が長期間止まることがあります。事業中断への備えは保険だけで完結せず、事業継続計画(BCP)と一体で設計するのが実務的です。法人補償の全体像は法人向け損害保険の種類一覧で俯瞰できます。
企業向け地震補償の選択肢を比較する
代表的な手当て方法を並べると次のとおりです。自社の優先順位、すなわち物的損害の復旧か、資金繰りか、事業継続かによって、組み合わせ方が変わります。
| 手段 | 主に備える損害 | 支払の考え方 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 地震危険補償特約 | 建物・設備・在庫の物的損害 | 実損てん補(上限・縮小割合あり) | 補償割合や支払限度が設定されやすい |
| 拡張担保・財産保険 | 幅広い偶然事故(地震含む設計) | 実損てん補 | 地震を含めるかは設計と引受条件次第 |
| パラメトリック型 | 初動資金・資金繰り | 指標連動で定額支払 | 実損とずれることがある |
| 利益保険・事業中断補償 | 休業中の利益・固定費 | 約定に基づく算定 | 復旧期間や免責期間の設定が効く |
表は一般的な整理です。実際の補償範囲・支払条件・上限は商品と引受条件によって決まるため、最終的には証券と約款で確認する必要があります。
地震補償はどこまで付けるべきか
地震補償は保険料が相対的に高く、どこまで付けるべきか迷いやすい領域です。それでも手当てが効くのは、地震が一度起きると自己資金だけでは復旧と休業をまかないきれない規模になりやすく、保険が復旧原資と時間を先に確保してくれるからです。全損に近い被害を全額自己負担で耐えられる企業は多くありません。
「どこまで要るか」は、守りたい対象を絞ると判断しやすくなります。全拠点を一律に厚くするのではなく、止まると事業全体が回らなくなる重要拠点と重要業務に補償を寄せ、代替が利く部分は薄くする、という配分で経済合理性を取ります。事業が止まったとき何日で運転資金が尽きるかを把握しておくと、事業中断補償の復旧期間や免責期間をどこに置くかも決めやすくなります。
この配分は保険担当者だけで完結しません。復旧にいくら要るか、手元資金で何日もつかは財務・経営企画が握り、拠点ごとの重要度は現場が握っています。保険料の絶対額ではなく、被害時に失う金額と復旧までの時間で費用対効果を見積もり、関係部門の数字を突き合わせて配分を決めるのが現実的な進め方です。
事業継続力強化計画とつなぎ、請求資料まで整える
事業中断への備えは、補償設計と防災・復旧計画をそろえると実効性が上がります。中小企業庁の公表資料によると、事業継続力強化計画は2025年2月末時点で累計75,528件が認定されており、防災・減災に取り組む中小企業の枠組みとして広がっています(中小企業庁「事業継続力強化計画」、2026年7月時点)。ただし計画が認定されても、それだけで保険金が下りるわけではありません。認定や補助金の加点、税制、金融支援、審査期間は状況で変わり、ここでは保証しません。
実務で効くのは、計画を作って終わりにせず、重要業務と復旧資金の見積り、保有物件と設備の情報、保険証券を一つの束にしておくことです。地震のあとに支払を早めるのは、被害の写真、復旧や再調達の見積書、罹災の証明、稼働記録や休業前後の売上データといった、損害を裏づける資料です。これらを平時から誰がどこに保管するかを総務・財務で決めておくと、有事に被害状況を証券の補償内容と突き合わせて請求資料として説明でき、復旧の初動が速くなります。
申請の枠組みは事業継続力強化計画申請システムや事業継続力強化計画とはの解説で確認でき、はじめての設計は中小機構「BCPはじめの一歩」が参考になります。
地震補償の検討で確認する資料とチェックリスト
地震補償を検討するときは、現状の契約と物件情報が判断の土台になります。次の資料を並べると、補償の抜け漏れや重複が一度に把握できます。
- 現在の火災保険・企業財産保険の証券と約款(特約の有無、地震免責の扱い)
- 対象物件の所在地・構造・築年・用途・評価額がわかる資料
- 主要な機械設備・在庫の一覧と再調達価額の目安
- 賃貸のときは賃貸借契約書(原状回復・修繕義務の範囲)
- 既存の事業継続力強化計画やBCP、重要業務の一覧(あれば)
そのうえで、以下を順に確かめると、地震補償の方向性が定まりやすくなります。
- 守りたいのは建物・設備の復旧か、事業の継続・資金繰りか、優先順位は明確か。
- 事業が止まったとき、何日まで耐えられるか(運転資金・固定費)を把握しているか。
- 現契約に地震補償が付いているか、上限・免責・縮小割合を確認したか。
- 複数拠点があるとき、リスクの高い拠点と重要拠点を切り分けているか。
- 取引先・サプライチェーン寸断時の代替手段を想定しているか。
設計でつまずきやすい確認ポイント
地震補償は付帯できるかだけでなく、いくらまで、どの割合で支払われるかが論点になります。実務でよく確認が要るのは次の点です。
- 補償割合・支払限度:地震は被害が広域・巨額になりやすく、補償が一定割合や上限に制限される設計が多い。
- 免責金額・免責期間:物的損害の自己負担額と、事業中断補償が始まるまでの待機期間の設定。
- 評価額の妥当性:再調達価額と契約金額が離れていると、復旧費用を十分に手当てできないことがある。
- 拠点ごとの設計:全拠点を一律にするか、重要拠点に厚く配分するかを決める。
これらは自社の財務体力と事業特性で最適解が変わります。一般論として「この補償を付ければ安心」と言い切れるものではなく、証券・物件情報・契約条件・運用実態を見て判断するのが適切です。自社の証券で地震の扱いを確かめ、重要拠点と何日耐えられるかを見ておくと、設計の議論がどこから始まるのかが見えてきます。整理が途中の段階でも、気になっている点から相談して具体的な設計に進められます。
那由他保険テクノロジーズによる地震危険補償特約と事業中断補償の条件比較支援
ここまでの手順を進めても、会社ごとに残りやすい実務が三つあります。一つ目は、証券本体には特約名しか載らず、地震の補償割合・支払限度額・免責金額が付保内容明細や更新案内にしか書かれていないため、現契約で地震時にいくらまで出るのかが確定しないことです。二つ目は、拠点ごとに構造・築年・用途が異なり、再調達価額と契約金額のずれがどの物件で大きいのかを把握できていないことです。三つ目は、事業中断補償の復旧期間と免責期間を何日に置くかが、手元資金で何日もつかという財務側の数字と結びついていないことです。
那由他保険テクノロジーズは、財物・事業中断領域のリスク構造分析と補償ギャップ分析、保険プログラムの設計と調達支援を行っています。具体的には、企業向け火災保険・企業財産保険で地震がどう扱われているかを、お話をうかがいながら一つずつ確かめるところから始めます。そのうえで拠点ごとに、対象物件、契約金額、補償割合、支払限度額、免責金額、免責期間、復旧期間の設定を突き合わせます。そこへ機械設備・在庫の状況と再調達価額の目安、賃借している物件の原状回復・修繕義務の範囲、事業継続の計画で重要業務をどう置いているかを重ね、地震が免責のまま残っている拠点、契約金額が再調達価額を下回っている拠点、事業中断補償が付いていない契約や復旧期間が実際の復旧見込みより短い契約を切り分けます。
この照合から、経営・財務が判断に使える数字が出ます。拠点別の「現契約で地震時に支払われうる上限額」と「復旧・再調達に要する見積り額」の差、事業中断補償の免責期間と運転資金の持ち日数のずれ、重要拠点へ補償を寄せた設計と全拠点一律の設計を並べた保険料と補償条件の比較案です。契約条件を読み込むだけでは確定しない引受条件(構造・立地による付帯可否、支払限度の設定余地、パラメトリック型の取り扱い)は保険会社への照会事項として記録し、社内では総務・財務・各拠点の責任者のどなたに入っていただくとよいかも、話をうかがいながら一緒に決めていきます。
補償の適正化や保険料の削減余地は、比較・設計・調達の支援として行うもので、結果を保証するものではありません。引受条件は物件と保険会社の判断で決まり、事業継続力強化計画の認定要件や税制・金融支援の取り扱い、賃貸借契約上の修繕義務の解釈は所管窓口や税務・法務の専門家にご確認ください。今回は現契約を維持し、次回更新時に地震の扱いを見直すという判断も選択肢として整理します。どこから手をつけるか決まっていない段階でも構いません。地震のときにどの拠点が心配か、どこまで止まると事業が持たないかをお聞かせいただければ、拠点別の補償条件と復旧資金の差をどう見るかの整理からご一緒します。
よくある質問
法人でも個人と同じ地震保険に入れますか?
一般に地震保険と呼ばれる家計向けの制度は、国の再保険で支えられ居住用建物と家財が対象で、事業用物件には適用されません。法人は企業向け火災保険の地震危険補償特約や企業財産保険などで備えるのが基本です。
火災保険に入っていれば地震の損害も補償されますか?
企業向け火災保険の基本契約では、地震・噴火・津波を原因とする損害は原則対象外です。地震危険補償特約を付帯するか、地震を担保する企業財産保険を別建てで設計しない限り補償されないため、証券と約款で扱いを確認してください。
建物が無事でも事業が止まった損失は補償できますか?
利益保険や事業中断補償を地震まで拡張すると、休業中の利益減少や固定費に備えられることがあります。復旧期間や免責期間の設定が支払額に影響するため、約定条件の確認が欠かせません。
地震補償は希望した金額をそのまま付けられますか?
地震は損害が広域・巨額になりやすく、補償割合や支払限度に制約が設けられることが多いため、希望額をそのまま手当てできるとは限りません。引受条件は物件の構造・立地・用途で変わるので、個別の確認が要ります。
事業継続力強化計画を作れば保険金は下りやすくなりますか?
計画の認定は防災・復旧の体制づくりが目的で、それ自体が保険金の支払を保証するものではありません。有事に被害状況を証券の補償内容と突き合わせ、請求資料として説明できる状態にしておくことが支払を円滑にします。
参考一次情報・公的資料
- 損害保険料率算出機構「2022年度 地震保険付帯率」
- 損害保険料率算出機構
- 財務省「地震保険制度」
- 日本損害保険協会「企業財産のリスク」
- 日本損害保険協会「企業のための保険ナビ」
- 中小企業庁「事業継続力強化計画」
- 事業継続力強化計画申請システム
- 中小機構「BCPはじめの一歩」
情報確認日:2026年7月3日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月3日
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