
「経営者保障」と「経営者保証」は、読みが同じでも中身が違います。両方を扱う記事なので、まず混同のもとになる融資側から整理します。経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受けるとき、経営者個人が会社の借入の連帯保証人となる仕組みです。判断が要るのは二つの瞬間です。一つは新規融資や借換で保証を求められ、判を押すか迷うとき。もう一つは事業承継やM&Aを控え、後継者に保証を引き継がせたくない、または自分の代で外したいときです。同じ読みの「経営者保障」は、社長に万一があっても会社を止めないよう保険で資金を備える別の考え方で、保証を外せない間の穴を保険で補う場面で交わります。この記事では、両者の違い、外すための要件、必要保障額の出し方、証券で見る欄、設計時の確認観点まで、事業保障の視点で整理します。
Summaryこの記事のポイント
- 経営者保証(個人保証)は融資契約上の連帯保証で、返済不能時には社長個人の資産で肩代わりを求められる
- 外す・求められないための目安は、法人と個人の分離・法人単独の財務基盤・金融機関への情報開示という3要件(経営者保証ガイドライン)
- 民間金融機関の新規融資で保証に依存しない割合は2025年度上期に55.8%(2024年度通期は53.0%)。ただし4割超の新規融資には保証が残る
- 保証を外せるまでの空白と、外した後も残る社長不在リスクは、経営者保障(保険)で会社の資金を準備して補う
- 保険金は受取人が個人のままだと会社の返済に回らず、告知・免責・請求要件を外すと支払われないこともある
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の借入の連帯保証人となり、返済不能時には個人資産での弁済を求められる融資契約上の仕組みです。
経営者保障とは、社長や役員に万一(死亡・重い疾病・長期離脱)があっても会社の資金繰りと事業継続を止めないよう、生命保険などで資金を準備しておく事業保障の考え方です。読みは同じでも、融資契約上の保証(けいえいしゃほしょう=保証)と、保険での備え(けいえいしゃほしょう=保障)は別に扱います。
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融資や事業承継で経営者保証が問われる瞬間
この記事にたどり着く方の多くは、二つの場面のどちらかにいます。一つは、新規融資や借換のときに金融機関から経営者保証(個人保証)を求められ、判を押すべきか迷っている場面です。もう一つは、事業承継やM&Aを控え、後継者に個人保証を引き継がせたくない、あるいは自分の代で外しておきたい場面です。どちらも、会社の借入と社長個人の資産が結び付くかどうかという同じ論点に行き着きます。
自社がどちらに当てはまり、どこまで踏み込めるかは、次の条件で変わります。ここを言葉にできると、金融機関との話も保険の設計も一段進みます。
- 融資形態:プロパー融資か信用保証協会付きか、新規か借換か、既存借入にすでに保証が付いているか
- 承継の局面:後継者が決まっているか、承継やM&Aの時期が視野に入っているか
- ガバナンス体制:法人と個人の資産・経理が分かれているか、法人単独の財務基盤があるか、金融機関へ定期的に財務を開示しているか
さらに、社長に万一があれば、これらの論点は一気に表面化します。借入返済が続かず金融機関との関係が揺らぐ、仕入・外注・給与の支払い原資が不足する、後継者が決まるまで意思決定と資金が空白になる、取引先や従業員が離れて事業価値が損なわれる。こうした会社が止まる事態を社長不在でも一定期間しのげるかどうかが、備えの水準を決めます。事業を止めない体制づくりは、事業継続力強化計画の解説とあわせて整理すると、資金面と体制面の両輪で考えやすくなります。
経営者保障と経営者保証はどう違うか(統計で見る現在地)
読みが同じ「けいえいしゃほしょう」でも、指すものは違います。経営者保証は、金融機関からの借入に対して経営者個人が連帯保証人となる融資契約上の仕組みで、返済不能時には個人資産での弁済を求められます。経営者保障は、その社長個人と会社が同時に傾くリスクに対し、保険で会社の資金を準備しておく事業保障です。政策的には、個人保証への依存を減らす見直しが進んでいます。
金融庁がまとめる依存度の推移によると、民間金融機関の新規融資件数に占める「経営者保証に依存しない融資」の割合は、2025年度上期で55.8%と、2024年度通期の53.0%を上回りました(金融庁「経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策等について」、530機関分の集計)。保証なし融資が広がる一方で、なお4割超の新規融資に保証が残るため、外す交渉と、外せない間の保険での備えを両面で進める意味があります。
負っている保証の重さも会社ごとに違います。金融庁が金融機関を対象に行った調査では、2025年3月末時点で、無保証債権が全債権に占める割合は金融機関ごとに算出した値の平均で30.9%でした(回答457機関、金融庁の調査結果)。全融資を単純に合計した比率ではないため幅を持って見る必要はありますが、既存の借入にはなお相当程度の個人保証が残っています。社長個人と会社の債務が結び付いているほど、万一のときに相続と返済が同時に表面化しやすく、自社の依存度は借入明細と金銭消費貸借契約で確かめるのが出発点になります。
経営者保証を外す・依存しないための3要件と、外れるまでの空白
経営者保証ガイドラインでは、保証を求めない、または解除を検討する際の目安として三つの柱が示されています。①法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されていること、②法人のみで返済できる財務基盤と収益力があること、③金融機関へ適時適切に財務情報を開示していること。これらを満たすほど個人保証を外しやすくなりますが、実際に外せるかを決めるのは金融機関の評価で、自社が「満たしているつもり」でも判断が分かれることがあります。充足度を裏づけできるかは、経理規程・株主総会や取締役会の議事録・試算表の提出実績といったガバナンス資料が握ります。制度の詳細は中小企業庁・金融庁の資料で追えます。
保険代理店の立場で率直に言えば、保証を外す交渉そのものは金融機関との協議であり、代理店が代行できる領域ではありません。私たちが踏み込めるのは、要件を満たして保証が外れるまでの空白期間に会社が使える資金と、外した後も消えない社長不在リスクを、保険でどう設計するかという部分です。保証の解除と保険での事業保障は目的が別で、片方だけでは穴が残ります。だからこそ、外す交渉の準備と並行して、会社側の資金を保険で準備しておくのが現実的な備え方になります。
必要保障額をどう見積もるか
保険で準備する経営者保障の側は、必要保障額を「なんとなく大きめ」ではなく、止めてはいけない支出を積み上げて出します。下表は整理の出発点となる主な項目で、実際の金額は決算書・借入明細・資金繰り表に当てはめて出します。
| 区分 | 見積もる内容 | 当てはめる資料 |
|---|---|---|
| 借入返済原資 | 金融機関借入の残高・返済スケジュール・経営者保証の有無 | 借入明細・金銭消費貸借契約 |
| 運転資金 | 仕入・外注・人件費など数か月分の固定的支出 | 資金繰り表・試算表 |
| 承継つなぎ資金 | 後継者決定・体制再構築までの空白期間の費用 | 事業計画・役員構成 |
| 退職金・弔慰金 | 役員退職慰労金規程や弔慰金の支給想定 | 役員退職慰労金規程・株主総会議事録 |
ここで出した金額から、すでにある現預金・他の保険・資産で賄える分を差し引き、不足分が準備すべき保障額になります。既存契約が過不足なくカバーしているかは、次の証券欄の突き合わせで見極めます。
保険設計と証券で確認すべき欄
同じ保障額でも、契約者・被保険者・受取人の組み合わせや保険の種類によって、目的への合致度や税務上の取扱いが変わります。設計時には、証券のフィールドと、決算書上で損失を負う主体(会社か個人か)を自社資料で突き合わせます。
契約形態と証券の見方
- 契約者・被保険者・受取人の設定が、事業保障という目的に合っているか
- 会社が受取人となる契約で、受け取った資金を返済・運転に充てられる導線になっているか
- 保険期間が、想定するリスク期間(借入返済期間や承継完了まで)をカバーしているか
税務・規程との整合
保険料の取扱いや、退職金・名義変更などの論点は、契約形態と時期によって判断が分かれます。定期保険・第三分野保険の保険料については国税庁の通達(No.5364)などで取扱いが示されており、自社の契約がどれに当たるかは税理士と突き合わせるのが前提です。契約者変更(名義変更)を将来検討するときは、評価額・給与課税・退職給与該当性・保険会社の取扱いなど複数の論点を見ます。「名義変更すれば有利」といった断定的な説明には注意し、30万円基準などの数値基準も、節税の枠ではなく税務上の確認対象となる基準として扱ってください。
保険金が支払われないことがあるのはどんなときか
保険は加入すれば必ず支払われるわけではありません。設計と同じくらい、支払われない条件を先に押さえておくと、いざというときに資金が止まる事態を避けられます。証券と約款で次の点を見ておきます。
| 見る枠組み | 見るべき内容 | 関係する自社・事故時資料 |
|---|---|---|
| 告知・通知義務 | 加入時の告知内容、健康状態や職業変更の通知漏れがないか | 告知書控え・変更通知の記録 |
| 免責事由 | 一定期間内の自殺、故意、告知義務違反など支払対象外の事由 | 約款の免責条項・保険証券 |
| 請求手続き | 請求期限、必要書類、受取人本人による請求かどうか | 死亡診断書・請求書類・受取人の本人確認 |
| 受取人と損失主体 | 資金を必要とする会社と、実際の受取人が一致しているか | 保険証券・決算書・借入明細 |
とくに、会社が資金を必要とするのに受取人が個人のままだと、保険金は会社の返済や運転に直接は回りません。約款のフィールドと損失を負う主体がずれていないかは、一般論では判断できず、自社の証券と決算書を並べて見るほかありません。保険募集や情報提供の枠組みは金融庁の保険募集管理態勢にも示されています。
退職金・弔慰金と経営者保証(個人保証)の残り方
社長に万一があったとき、会社は遺族への弔慰金や役員退職慰労金の支給を検討することがあります。実際に支給できるかは、規程の有無と支給根拠に左右されます。規程が整っていないと、準備した資金の使い道で迷うことになります。また、借入に個人保証が付いていれば、相続と返済が同時に問題化します。保険で準備する資金がどの債務・支出に充てられるのかを、あらかじめ紐づけておくと判断が速くなります。事業承継全体の準備状況は、中小企業庁の資料(資産の引継ぎに関する準備状況及び課題)も参考になります。役員個人の賠償リスクまで見渡すなら、D&O保険(会社役員賠償責任保険)の選び方もあわせて見ておくと、備えの抜けに気づけます。
相談後に確認する観点
実際の設計では、次の資料と論点を自社条件に当てはめて詰めていきます。
| 確認する資料 | 見るポイント |
|---|---|
| 決算書・試算表 | 固定費・利益水準・現預金の厚み |
| 借入明細・金銭消費貸借契約 | 残高・返済スケジュール・経営者保証の有無と範囲 |
| 既存の保険証券 | 契約者・被保険者・受取人・保障額・保険期間 |
| 役員退職慰労金規程 | 規程の有無・支給基準・弔慰金の扱い |
| ガバナンス資料 | 経理規程・議事録・株主構成・後継者と情報開示の実績 |
これらは社内に分散していることが多く、どこにあるかの確認から始められます。企業向けの保険の基礎は、日本損害保険協会の企業のための保険ナビでも読めます。
自社条件で結論が変わる理由と相談の進め方
経営者保証を外せるかは金融機関の評価しだいで、必要保障額は借入・承継・既存契約の組み合わせで動きます。同じ業種・規模でも、保証の有無や受取人設定ひとつで結論は変わります。ここで効くのが、金銭消費貸借契約と決算書で保証の残り方を確かめ、証券の受取人・保険期間・約款のフィールドと、決算書上で損失を負う主体(会社か個人か)を突き合わせる作業です。これを先にやっておくと、万一のとき資金が会社に入る導線を見極められ、不足分だけを保障で埋めるので過不足が出ません。既契約の重複や抜けも洗い出せて、保険料の使い方が整います。
残るのは、要件を満たしているつもりでも金融機関がどう評価するか、外れるまでの空白の資金をいくら見込むか、証券の受取人が会社になっているか、といった、契約書・決算・承継計画・保険証券を横断しないと答えの出ない論点です。「まだ健康だから急がない」「税務が不安」「保険は損に感じる」という迷いもよく聞きますが、事業保障は健康なうちにしか設計できず、税務は税理士確認を前提に進められ、目的は損得ではなく事業を止めないことにあります。那由他保険テクノロジーズでは、保証を外す準備と、外せない間の事業保障設計を、税理士や必要に応じて弁護士・保険会社の確認を前提に、一つの絵として整理します。
よくある質問
経営者保証と経営者保障は何が違いますか?
読みは同じでも別のものです。経営者保証は、金融機関からの借入に経営者個人が連帯保証人となる融資契約上の仕組みで、返済不能時に個人資産での弁済を求められます。経営者保障は、社長に万一があっても会社の資金繰りと事業を止めないよう保険で資金を準備する事業保障です。外す交渉と保険での備えは、目的も進め方も分けて考えます。
経営者保証は外せますか。求められないためには何が要りますか?
経営者保証ガイドラインでは、法人と個人の資産・経理の分離、法人単独の財務基盤、金融機関への適時の情報開示という三つの目安がそろうほど、保証を外す・求められない方向で検討しやすくなります。ただし実際に外せるかは金融機関の判断で、経理規程や議事録、試算表の提出実績といったガバナンス資料で裏づけできるかが分かれ目です。
保証を外せるまでの空白期間はどう備えますか?
要件を満たして保証が外れるまでには時間がかかり、その間に社長へ万一があれば返済と相続が同時に表面化します。会社が使える資金を経営者保障(保険)で準備しておくと、空白期間の返済や運転資金に充てられます。受取人を会社にしておかないと保険金が会社の返済に回らないため、証券の受取人欄を先に見ておきます。
必要保障額はどうやって決めればよいですか?
止めてはいけない支出を積み上げて算出します。借入返済原資、数か月分の運転資金、承継までのつなぎ資金、退職金や弔慰金などです。そこから既存の現預金や他の保険で賄える分を差し引いた不足額が、準備すべき目安になります。金額は決算書・借入明細・資金繰り表に当てはめて出します。
すでに加入している保険があります。見直しは必要ですか?
既存契約の契約者・被保険者・受取人・保障額・保険期間が、いまのリスク(借入残高や承継見通し)に合っているかを見直す価値があります。設定が事業保障の目的とずれていると、いざというとき資金が会社に入らないことがあります。状況が整理できていない段階でも、まずはお気軽にご相談ください。必要な確認は、そのあと那由他が一緒に整理します。
保険金はどんなときに支払われないことがありますか?
加入時の告知漏れ、約款で定めた免責事由(一定期間内の自殺や故意など)、請求手続きや期限の不備があると、支払対象外になることがあります。会社が資金を必要とするのに受取人が個人のままだと、保険金は会社の返済や運転に直接は回りません。約款と証券で免責・通知・請求書類の要件を押さえておくことが備えになります。
参考一次情報・公的資料
- 金融庁「経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策等について」
- 金融庁の調査結果(2025年3月末時点の無保証債権割合)
- 中小企業庁「経営者保証」
- 中小企業庁「資産の引継ぎに関する準備状況及び課題」
- 国税庁「No.5364 定期保険等の保険料に関する取扱い」
- 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」
- 金融庁「保険募集管理態勢」
- 日本損害保険協会「企業のための保険ナビ」
情報確認日:2026年7月3日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月3日
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