
「カスタマーハラスメント 保険」で調べると、保険が対策の代わりになるのかを知りたくなります。結論として、保険は法定の措置の代替にはなりません。2026年7月時点はまだ施行前で、カスタマーハラスメントへの措置義務は2026年10月1日に施行されます。相談窓口や記録様式といった体制整備を先に行い、保険は従業員の被害や争訟にかかる費用・賠償を担う位置づけです。対策と保険の境界は、費用と賠償を誰の損失かで分けると整理できます。
Summaryこの記事のポイント
- 2026年7月時点は施行前で、カスタマーハラスメントへの措置義務は2026年10月1日に施行される。
- カスタマーハラスメントは「顧客等の言動」「社会通念上許容される範囲を超える」「就業環境を害する」の3要素で判断する。
- 保険は相談窓口整備などの法定措置の代替にはならず、損失が生じた後の費用・賠償を担う別の役割を持つ。
- 費用や賠償は、従業員被害・会社への請求・役員個人への請求・第三者被害・対応費用という損失の主体ごとに担う保険が変わる。
- 個別の証券でどこまで担えるかは、被保険者・トリガー・対象損害・免責・通知・事前承認・証拠保全のフィールドで決まる。
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カスタマーハラスメント対策の義務はいつ始まるか
カスタマーハラスメントへの措置義務は2026年10月1日に施行されます。2026年7月時点はまだ施行前で、企業には準備の猶予があります。施行後は顧客等からの著しい迷惑行為に対し、雇用管理上の措置が事業主に求められます。
ここでいうカスタマーハラスメントは、顧客等の言動であること、社会通念上許容される範囲を超えること、就業環境を害することという3つの要素で判断されます。商品やサービスへの正当なクレームと、これらの要素を満たす著しい迷惑行為は区別されます。
時点の整理は次のとおりです。
- 2026年7月時点(施行前):相談窓口や記録の様式を整える準備期間にあたります。
- 2026年10月1日(施行):措置義務が施行され、以降は体制が整っていることが前提になります。
規程の整備や従業員への周知には、社内の決裁や説明の時間もかかります。施行日から逆算して着手時期を決めておくことが、準備を間に合わせる要点になります。
義務化で企業に求められる措置は何か
企業に求められる中心は、相談に応じる窓口の設置、事案を記録する様式、被害を受けた従業員への初動対応です。これらは施行前の今から準備でき、施行後に慌てないための基盤になります。
厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度。企業調査は2023年12月、労働者調査は2024年1月に実施)では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)の相談があったと回答した企業は27.9%でした。同じ調査で、過去3年間に勤務先でこの行為を受けたと回答した労働者は10.8%です。この数値は相談や被害の実態を示すもので、保険の支払いや効果を示すものではありません。対策の必要性を裏づける統計として読み、保険の守備範囲とは分けて扱う必要があります。
準備すべき措置は、相談窓口の周知、事案の記録様式、初動対応の手順、再発防止の記録という順で整えると抜けが起きにくくなります。顧客接点の多い部門ほど被害が生じやすいため、被害者保護と応援体制を優先します。
保険はカスハラ対策の代わりになるか
保険はカスタマーハラスメント対策の代替にはなりません。措置義務は相談窓口の設置や記録といった体制整備を求めるもので、保険はこれらを肩代わりしません。保険が担うのは、被害や争訟が生じた後の費用と賠償です。
したがって、まず法定の措置を整え、その上で費用・賠償の備えとして保険を位置づける順序になります。雇用慣行に関する賠償の考え方は、雇用慣行賠償責任保険の解説で扱う被保険者や対象請求の整理が参考になります。
体制整備は保険の実務にもつながります。相談窓口で受け付けた事案の記録は、保険会社への通知や事実確認の場面でそのまま使えるため、様式を先に決めておくほど、事案が起きたときの手続きが進めやすくなります。
費用・賠償はどの保険が担うか
費用や賠償は、誰の損失かによって担う保険が変わります。従業員の被害、会社への請求、役員個人への請求、施設内の第三者被害、対応費用は、それぞれ別の保険で検討します。一つの保険がすべてを担うわけではないため、損失の主体ごとに分けて考えます。
次の表は、カスタマーハラスメントに関連して生じる損失を「誰の損失か」で分け、主に検討する保険と請求主体を対応させたものです。示すのは金額の多寡ではなく守備範囲の違いで、実際にどの保険が担うかは約款と契約条件によります。
| 損失・場面 | 損失の主体 | 主に検討する保険 | 境界で確認する点 |
|---|---|---|---|
| 従業員がカスハラで精神的・身体的被害を受けた | 従業員 | 労災の上乗せ(業務災害)、傷害・所得補償 | 業務起因性、対象となる被害の範囲 |
| 安全配慮義務違反として従業員が会社を訴えた | 従業員→会社 | 使用者賠償責任、雇用慣行賠償責任(EPL) | 被保険者、請求ベースか発生ベースか |
| 対応不備を理由に役員個人が責任を問われた | 役員個人 | 会社役員賠償責任(D&O) | 被保険者に役員が含まれるか |
| 施設内で顧客等の第三者がけがをした | 第三者 | 施設賠償責任 | 対象となる施設・業務の範囲 |
| 弁護士費用・見舞金・初動対応の費用 | 会社 | 各種費用特約 | 事前承認の要否、対象費用の定義 |
損害や請求があれば必ず支払われるわけではありません。結論を変えるのは約款の各フィールドで、証券で確認する項目は次のとおりです。
- 被保険者:会社だけか、役員個人や派遣・出向者を含むかで対象が変わります。
- トリガー:事故の発生時点で判断する発生ベースか、請求がなされた時点で判断する請求ベースかによって、契約期間と請求時期の関係が対象可否を左右します。
- 対象損害:賠償金だけか、弁護士費用や見舞費用を含むかが分かれます。
- 免責・自己保有:一定額まで自己負担となる設定があります。
- 通知:事案を知ってからの通知期限を過ぎると対象外になり得ます。
- 事前承認:弁護士選任や和解に保険会社の事前承認を要する契約があります。
- 証拠保全:記録や様式が整っていないと事実確認が難しくなります。
使用者賠償と雇用慣行賠償の違いは、使用者賠償・雇用慣行賠償の解説で被保険者と対象請求の観点から確認できます。損害保険の基本的な仕組みそのものは、損害保険とはの解説で用語の前提を押さえられます。
施行前に人事が準備する資料と体制
施行前に人事が最優先で整えるのは、相談窓口の規程、記録の様式、初動対応の手順です。これらは2026年10月1日の施行までに用意しておくべき体制で、保険の検討はその後でも遅くありません。
準備段階で賠償責任保険の範囲を確認するには、雇用慣行賠償責任保険の解説にある対象請求の整理が手がかりになります。
あわせて、就業規則、相談窓口規程、想定される場面、現在の準備状況を、自社の契約でどこまで担えるかと照らし合わせて確認します。証券は種類ごとに被保険者やトリガーが異なるため、この照らし合わせは那由他保険テクノロジーズが一緒に行います。何がどこまで整っているかがはっきりしない段階から着手できますので、まずはご相談ください。
施行前準備チェックリストは次のとおりです。
- 相談窓口の規程を整備し、従業員へ周知したか。
- 事案を残す記録様式(発生日時・内容・対応)を用意したか。
- 初動対応の手順と、被害を受けた従業員の保護・応援体制を決めたか。
- 就業規則や社内規程にカスタマーハラスメントの位置づけを反映したか。
- 使用者賠償・雇用慣行賠償・施設賠償・D&O・費用特約の各証券を集め、被保険者とトリガーを確認したか。
よくある質問
Q. カスタマーハラスメントの定義は何ですか。
顧客等の言動であること、社会通念上許容される範囲を超えること、就業環境を害することという3つの要素で判断されます。正当なクレームはこれに含まれません。
Q. 中小企業も対象になりますか。
措置義務は企業規模を問わず対象になる制度として整理されています。中小企業も2026年10月1日の施行に向けて、相談窓口や記録様式の準備が必要です。
Q. 従業員の被害は労災で足りますか。
労災(業務災害)は被害の一部を補償しますが、慰謝料などの賠償や争訟費用は別の枠組みで検討します。何がどこまで対象かは約款と契約条件によります。
Q. 施行前の今、何を最優先すべきですか。
相談窓口の設置と事案の記録様式です。これらは法定の措置の中心で、施行後の前提になります。保険の検討はその後でも間に合います。
Q. 保険に入れば対策は済みますか。
いいえ。保険は法定措置の代替にはならず、体制整備を肩代わりしません。措置を整えた上で、費用・賠償の備えとして保険を位置づけます。
自社の契約でどの主体の費用・賠償までを担えるかは、証券の被保険者・トリガー・免責・通知・事前承認を突き合わせないと自己判断しきれません。どこから確認するかの順番も含めて、那由他保険テクノロジーズが一緒に整理します。論点が固まっていない段階でもかまいませんので、まずはお気軽にご相談ください。当社が照合の対象とするのは、次の範囲です。
- 使用者賠償責任・雇用慣行賠償責任(EPL)・施設賠償責任・D&O・費用特約の各保険証券
- 就業規則、相談窓口規程
- 想定される場面のメモ、施行に向けた準備状況
那由他保険テクノロジーズによる使用者賠償・EPL・D&O・施設賠償・費用特約の被保険者とトリガー照合
損失の主体ごとに保険を分けて整理しても、会社ごとに残る実務が3つあります。第一に、使用者賠償責任・雇用慣行賠償責任(EPL)・施設賠償責任・D&O・費用特約が別々の保険会社、別々の更改月で契約されている場合、被保険者の定義(役員個人、派遣・出向者、店舗運営の委託先従業員)が証券ごとに異なり、どの証券にも含まれない主体が生じることです。第二に、EPLやD&Oの請求ベースと、労災上乗せ・施設賠償の発生ベースが混在する場合、2026年10月1日以降に顕在化した事案が施行前の言動に起因するときの扱いが、証券の記載だけでは読み切れないことです。第三に、費用特約の弁護士費用・見舞費用に事前承認条項があるとき、相談窓口の初動手順が承認取得より先に弁護士選任や和解へ進む設計になっていないかという点です。
那由他保険テクノロジーズでは、賠償・雇用・D&O領域の補償ギャップ分析と保険プログラムの設計・調達支援として、次の照合を行います。手元の各保険証券から、被保険者の定義、トリガー(発生ベースか請求ベースか)、対象損害(賠償金のみか、弁護士費用・見舞費用・初動対応費用を含むか)、免責金額・自己保有、通知期限、事前承認条項、証拠保全に関する条件を抜き出し、本文の表にある5つの損失・場面へ一件ずつ割り当てます。割り当てのつかない場面と、複数の証券が重複して受け止める場面を分けて示します。
あわせて、就業規則、カスタマーハラスメント相談窓口規程、事案の記録様式(発生日時・内容・対応者・対応内容の欄)を、証券の通知条項および証拠保全条件と突き合わせます。記録様式の欄が通知に必要な事実を満たしているか、窓口が受け付けてから保険会社へ通知するまでの担当(人事部門の窓口担当と保険契約の管理担当)が決まっているかを確認し、証券だけでは確定しない点(派遣スタッフが被保険者に含まれるか、施行前の言動に起因する請求の扱いなど)は保険会社の引受部門への照会事項として文面にし、更改月の早い契約から順に照会する順番を記録しておきます。
この照合を経ると、どの損失の主体が現契約で受け止められ、どの主体が対象外のまま残り、どの補償が重複しているか、次の更改で条件変更により対応するか新規調達を検討するかという判断が、証券の条項名と規程の項目名で特定された形になります。補償の追加や条件変更が必ず実現すること、保険料が下がることをお約束するものではなく、削減余地の分析と調達案の比較・設計を支援する範囲です。
施行前の現時点では、相談窓口規程と記録様式の整備を先に進め、保険契約は次の更改月まで変更しないという判断も成り立ちます。措置義務への適合の是非や就業規則の改定内容そのものは社会保険労務士・弁護士の領域であり、当社は保険の側から必要となる記録・通知の要件をお伝えする立場です。論点が未整理の段階でも、どこから確認するかの順番から一緒に組み立てます。現在の体制と検討中の点をそのままお聞かせいただければ、そこから着手します。
参考一次情報・公的資料
情報確認日:2026年7月13日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月13日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。補償・引受・保険料・保険金の支払いは、商品・約款・契約条件および個別の事情によって異なります。法務・税務・労務・会計に関する事項は、必要に応じて弁護士・税理士・社会保険労務士・公認会計士などの専門家にご確認ください。本記事は保険金の支払い、法的結果、制度適合、保険料削減、引受可否を保証するものではありません。