
取引先への納品を止めない。予約を受け続ける。診療を続ける。——事故や災害の後に事業を「続ける」ためには、壊れた設備を直す費用とは別に、代替拠点の賃料や外注費といった追加の出費が発生します。営業継続費用保険とは、こうした「続けるための追加費用」に備える補償の総称です。本記事では、事業継続力強化計画の復旧シナリオと照らし合わせ、どの費用を自社で負担しきれないか、そしてその費用を有事に保険金請求資料として説明できる状態にどう近づけるかを、実務手順に沿って解説します。
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営業継続費用保険とは(まず結論)
営業継続費用保険とは、事故や災害の後も営業を続けるために追加でかかる費用に備える補償の総称です。具体的には、被災した拠点の代わりに使う代替拠点の賃料、自社で対応しきれない工程を外へ回す外注費、部材や商品を通常と違うルートで運ぶ臨時輸送費、応援や超過勤務にかかる追加人件費などが典型です。名称や補償範囲は保険会社の商品・約款により異なり、単独の保険としてではなく火災保険や利益保険の特約・費用補償として設計されることもあります。
押さえておきたいのは、「壊れた財物そのもの」ではなく「営業を止めないための上乗せの出費」に注目する点です。設備を直す費用は財物の保険、休業による粗利益の減少は休業補償(利益保険)が主に対象とし、営業継続費用はその隙間にある“続けるための追加コスト”を扱います。逆に、通常営業でも発生していた固定費や、事故と因果関係のない費用、約款上の除外事由に当たる費用は対象外になりやすい、と理解しておくと見積りの精度が上がります。
対象外になりやすい費用を具体的に押さえておくと、見積りの空振りを防げます。たとえば、事故がなくても支払っていた通常の賃料や人件費といった本来の固定費、事故との因果関係が説明しにくい費用、被災前より性能を上げるグレードアップを伴う改良・増設分の費用、罰金・違約金や取引先への賠償など別の枠組みで扱う損失は、営業継続費用の補償対象から外れやすい代表例です。どこまでが「続けるための追加費用」に当たるかは約款の定義次第のため、線引きが曖昧な費用は契約時に代理店へ確認し、対象・対象外の当たりを付けておくと、有事の認識ずれを避けられます。
なぜ「壊れた物」ではなく「続けるための追加費用」に注目するのか
復旧というと、まず「壊れた設備をいくらで直すか」に意識が向きがちです。しかし現場で経営を圧迫するのは、直している間も止められない業務を回し続けるための出費です。工場が一部止まれば同業他社へ外注し、店舗が使えなければ近隣に仮店舗を借り、物流が乱れれば割高な臨時便を手配します。これらは財物の修理費とは別枠で、しかも復旧が長引くほど積み上がります。
だからこそ、財物・休業・追加費用という三つの視点で自社の復旧シナリオを見直し、重複や抜けを確認することが実務的です。どの保険が何を守るのかを役割で切り分けると、自社の空白がどこにあるかが見えてきます。
| 視点 | 主に対象とするもの | 典型的な補償 |
|---|---|---|
| 財物の損害 | 建物・設備・在庫など壊れた財物の修理・再取得 | 火災保険などの財産保険 |
| 休業による損失 | 営業できないことで失う粗利益・固定費 | 休業補償(利益保険) |
| 続けるための追加費用 | 代替拠点・外注・臨時輸送・応援人員などの上乗せ出費 | 営業継続費用(費用補償・特約など) |
この整理は、事業継続力強化計画とBCPの違いを踏まえて復旧の流れを描く作業とほぼ重なります。補償同士がどう役割分担するかは、法人向け損害保険の種類の整理もあわせてご確認ください。
どんな業態で追加費用が発生しやすいか(自社への当てはめ)
次のような業態では、営業を続けるための追加費用が発生しやすいと考えられます。あくまで自社の状況に読み替えるための一般例です。
- 工場・製造:ライン停止中に同業へ生産を外注する費用、金型や治具の緊急手配費。サプライチェーンが絡む論点は製造業の工場停止・復旧対策も参考になります。
- クリニック・介護:仮設スペースの賃料、応援スタッフの追加人件費、患者・利用者の送迎手配費。
- 小売・飲食:仮店舗の賃料や内装費、在庫を確保するための割高な仕入・臨時輸送費。
- 物流・運送:代替倉庫の使用料、迂回ルートや傭車(ようしゃ)による輸送費の増加。
- SaaS・IT:代替サーバやクラウド資源の緊急増強費、外部エンジニアへの委託費。
自社の「止められない業務(重要業務)」を一つ挙げ、それを止めないために誰に何を頼み、いくら払うかを一度書き出すと、追加費用の輪郭が見えてきます。ここで挙げた重要業務が、後の計画づくりと保険設計の共通の出発点になります。
備えが薄いと復旧資金の判断が遅れる
関東経済産業局が公表するリスクファイナンス診断シートの案内では、民間調査会社の被災事業者アンケートとして、被災から復興する際に最も役に立った対策の約8割が資金面での対策である一方、半数以上の事業者が災害発生時の対策資金を十分に把握していないと紹介されています。
追加費用は「発生してから」金額が判明することが多く、手元資金や借入枠だけで受け止めようとすると、復旧の初速が鈍ります。だからこそ、事前に「どの追加費用を、どの手段で受け止めるか」を決めておく意味があります。
手当ての方法を比べる:自己資金・融資・保険・事前整理
追加費用の手当ては保険だけではありません。自己資金、融資、保険、そして事前整理(事業継続力強化計画)を組み合わせて考えます。どれか一つに寄せるのではなく、費用の大きさと発生時期に応じて配分するのが実務です。
| 手当ての方法 | 主な性質 | 向いている場面 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 自己資金 | すぐ使えるが総額に上限 | 小規模・短期の追加費用 | 長期化・大型化すると枯渇しやすい |
| 融資・借入 | 後払いで資金を確保 | まとまった復旧資金が必要な場面 | 審査・実行に時間、返済負担が残る |
| 損害保険(営業継続費用など) | 対象事故時に追加費用を補償 | 代替拠点・外注・臨時輸送など | 対象事故・免責の確認と、請求時の資料化が前提 |
| 事業継続力強化計画による事前整理 | 費用と手段を先に切り分ける | 備えの全体設計・優先順位づけ | 計画自体は資金を出さない。手当て手段と組み合わせる |
保険と事前整理は対立しません。計画で「いつ・いくら・どの費用が出るか」を具体化し、そのうち自社で負担しきれない部分を保険などに回す、という順序が実務的です。計画は資金そのものを支払うものではない点に注意し、資金を出す手段(自己資金・融資・保険)と必ずセットで設計します。
保険金は自動では払われない:請求で自ら示すこと
ここが、保険代理店として最もお伝えしたい情報の非対称です。保険金は、契約していれば自動的に振り込まれるものではありません。被保険者側が、補償の対象となる事故・損害を資料で説明することで、はじめて請求が進みます。具体的には、次のような点を自ら示す必要があります。
- 対象事故:補償の対象となる事故・災害が起きたこと。
- 対象損害:どの追加費用が、対象となる損害に当たるか。
- 金額:その費用がいくらか(見積・請求書・支払記録など)。
- 因果関係:その費用が事故から生じたと言えること。
- 発生時期:いつ発生した費用か。
- 免責事由に当たらないこと:約款上の除外に該当しないこと。
混乱した被災直後に、これらを後から思い出しながらそろえるのは容易ではありません。逆に言えば、平時に「どの追加費用が発生し得るか」を洗い出し、記録できる状態にしておくほど、請求時の説明はスムーズになります。この“説明できる状態づくり”こそ、計画づくりと保険の備えが交わる部分です。作成した計画は「作って終わり」にせず、有事に保険金請求資料の裏づけとして提示できる状態まで具体化しておくことが望まれます。
とりわけ実務で差がつくのが、事故時にどの資料を残すかです。追加費用は復旧作業と並行して発生するため、後から金額や因果関係を再構成しようとすると裏づけが揃いません。被災直後から、代替拠点の賃貸借契約書や請求書、外注先との発注書・納品書、臨時輸送の運送状、応援人員の勤務記録や超過勤務の支給明細、被災状況を示す写真や復旧作業の日報などを、日付が分かる形で保存しておくと、請求時の説明が一段と楽になります。撮影日時やファイルの受信日時が残るよう、紙の原本とデータの双方を確保し、費目ごとにフォルダを分けておくと、後から金額を積み上げる作業が最小限で済みます。
もう一つ抜けやすいのが、資料を集める担当部門をあらかじめ決めておくことです。追加費用の証跡は、支払を担う経理、契約や外注手配を担う総務・購買、現場の稼働を把握する各拠点の責任者に分散します。誰が何を集約し、どの様式で保険代理店・保険会社へ渡すかを平時に決めておかないと、被災後の混乱の中で証跡が散逸します。社内の一次集約担当を一本化し、代理店・保険会社の事故受付の連絡先とセットで共有しておくと、事故受付から資料提出までの初動が滞りません。事故発生から保険金を受け取るまでの一般的な流れは、日本損害保険協会の「保険金を請求する」で確認できます。
追加費用を先に見える化する経済合理性
事業継続力強化計画は、中小企業庁が防災・減災の事前対策計画として認定する制度です。中小企業庁の地域別認定件数一覧(2026年7月17日更新)によると、2026年6月末時点の累計認定件数は100,864件に達しています。取り組む事業者が積み上がっている領域だと言えます。
100,864件
事業継続力強化計画の累計認定件数(2026年6月末時点・中小企業庁 地域別認定件数一覧)
認定に伴う支援として、中小企業防災・減災投資促進税制などの優遇措置が設けられていますが、対象設備・取得時期・認定時期や特別償却の率といった条件は改正で変わり得ます。適用可否は最新の公表情報と税理士等の専門家への確認が前提です。本記事の主眼は、税制や補助金の有無にかかわらず、追加費用を先に見える化しておくこと自体が経済的に合理的だという点にあります。金額と発生時期を把握していれば、自己資金・融資・保険の配分を過不足なく設計でき、被災後の意思決定も速くなります。
見える化の経済合理性は、単に「安心できる」といった心理面にとどまりません。追加費用の金額と発生時期を平時に握っておくと、保険料という確実なコストと、被災時に自己負担や借入で受け止める不確実なコストを同じ土俵で比べられます。過大な補償を掛けて保険料を払い過ぎることも、逆に空白を放置して被災後に高い金利や不利な条件で資金調達へ追い込まれることも避けられます。さらに、代替拠点の賃料水準や外注の単価、必要日数を事前に把握しておけば、被災直後に相見積りを取り直す時間を省け、復旧の初動そのものが速くなります。この「掛け過ぎず・空けすぎず・迷わない」状態をつくることが、見える化のもたらす実利です。とりわけ複数拠点や季節変動のある事業では、繁忙期に被災した場合の費用も見積りに含めておくと、判断の精度がさらに上がります。
事業継続力強化計画と照合して資料化する手順
追加費用の資料化は、次の流れで進めると迷いにくくなります。
- 止められない業務を特定する:復旧を待てない重要業務を一つずつ挙げる。
- 代替手段を書き出す:代替拠点・外注・臨時輸送・応援人員など、続けるための手段を列挙する。
- 追加費用を見積もる:各手段に「いつ・いくら」かかるかを概算する。
- 負担できる範囲を切り分ける:自己資金・融資で受け止める部分と、保険など外部で備える部分を分ける。
- 計画に落とし込む:事業継続力強化計画の復旧シナリオへ反映し、認定申請を準備する。
この作業は一人で抱え込むより、担当部門を割り当てて分担すると実効性が上がります。重要業務の特定は各現場の責任者、費用の見積りは経理・購買、保険との突き合わせは総務や契約担当、というように役割を決めると、平時に更新し続けやすくなります。決めた分担は、そのまま事故時の資料集約体制にも流用でき、「計画づくり」と「有事の初動」を一本の線でつなげられます。
申請の実務も逆算が重要です。中小企業庁の申請方法ページによると、申請は原則電子申請でgBizIDプライムが必要とされています。その審査期間は、GビズID公式サイトによると、マイナンバーカードとスマートフォンを使うオンライン申請で最短即日、印鑑証明書などを郵送する書類申請で最大1か月です(書類申請は従来の最大2週間から変更されています)。申請から認定までの標準処理期間は約45日とされ、計画の実施期間は最大3年です(処理期間はあくまで目安で、認定を保証するものではありません)。満了後も続ける場合は新たな計画として申請し、2回目以降は実施状況報告書も論点になります。詳しい段取りはGビズID取得から認定までの申請手順、満了後の進め方は計画の更新と実施状況報告を参照してください。
追加費用の洗い出しで確認したい項目
追加費用を洗い出すときは、次の項目を切り口にすると論点を整理しやすくなります。すべてを最初から埋める必要はなく、分かる範囲で構いません。
- 主要な拠点・設備・在庫の一覧(場所と役割)
- 止められない重要業務(納品・診療・受注など)
- 想定する災害・事故(地震・水害・火災・設備故障・サイバーなど)
- 代替手段の候補(代替拠点・外注先・臨時輸送・応援人員)
- 各手段のおおよその費用感(分かる範囲で可)
- 現在加入している保険の証券・約款(財物・休業・費用の別)
- 手元資金・融資枠のおおまかな把握
保険証券は、財物・休業・費用のどれをどこまで対象にしているかを確認する起点になります。証券全体を眺めるのではなく、見るべき欄を絞ると空白と重複が早く見つかります。まず補償項目(担保種目)欄で財物・休業・費用のどれが対象かを確かめ、次に支払限度額・縮小支払割合の欄で追加費用に回せる上限を押さえます。免責金額(自己負担額)欄は、少額の追加費用が自己負担で消える範囲を示すため、代替拠点や臨時輸送のように小口が積み上がる費用では特に重要です。特約欄では費用補償や営業継続費用に相当する特約が付帯しているか、保険期間・保険の対象(所在地)欄では複数拠点のうちどこまでが対象かを確認します。証券だけで判断がつかないときは、約款の支払対象・免責事由の条項番号まで遡ると確実です。
社内資料の側では、拠点ごとの固定費一覧、外注先・仕入先の連絡先台帳、過去の設備投資や修繕の記録があると、追加費用の見積り精度が上がります。これらは経理・総務が保有していることが多く、部門をまたいで散在しがちな情報です。既存契約で重複している補償や、逆に空白になっている追加費用は、こうした情報と突き合わせる過程で見つかることが多い論点です。どこから手を付けるか決まっていない段階でも、那由他保険テクノロジーズがお話を伺いながら、どの論点から確認していくかを一緒に整理していきます。
FAQ
営業継続費用保険とは何ですか?
営業継続費用保険とは、事故や災害の後も営業を続けるために追加でかかる費用(代替拠点の賃料、外注費、臨時輸送費、追加人件費など)に備える補償の総称です。壊れた財物そのものではなく、事業を止めないための「上乗せの出費」に注目する点が特徴です。補償範囲や名称、単独契約か特約かは保険会社の商品・約款により異なります。
火災保険や休業補償と何が違いますか?
火災保険は主に建物や設備などの財物損害を、休業補償(利益保険)は休業による粗利益の減少を対象とします。営業継続費用は、休まず営業を続けるために発生する追加費用に着目する考え方です。三者は目的が異なるため、自社の復旧シナリオに沿って重複や抜けを確認することが実務的です。
保険に入っていれば追加費用は自動で支払われますか?
いいえ。保険金は自動的に支払われるものではありません。被保険者側が、補償の対象となる事故・損害の内容、金額、因果関係、発生時期、免責事由に当たらないことなどを資料で説明する必要があります。日頃から追加費用を洗い出し、記録できる状態にしておくことが請求時の説明を助けます。
事業継続力強化計画と営業継続費用はどう関係しますか?
事業継続力強化計画は、中小企業庁が認定する防災・減災の事前対策計画です。計画の復旧シナリオを描く過程で「どの追加費用が、いつ、いくら発生するか」を具体化できます。これにより、自社で負担できる範囲と、保険など外部の手当てで備える範囲を切り分けやすくなり、作成した計画を有事の保険金請求資料の裏づけとしても活かしやすくなります。
事業継続力強化計画の認定にはどのくらい時間がかかりますか?
中小企業庁の申請方法ページによると、申請から認定までの標準処理期間は約45日とされています。申請は原則電子申請でgBizIDプライムが必要です。その審査期間は、GビズID公式サイトによると、マイナンバーカードとスマートフォンを使うオンライン申請で最短即日、印鑑証明書などを郵送する書類申請で最大1か月とされています。計画の実施期間は最大3年です。処理期間は目安であり認定を保証するものではないため、逆算して余裕をもって準備することが実務的です。
相談は無料ですか?どのタイミングで相談すればよいですか?
那由他保険テクノロジーズでは、事業継続力強化計画の策定支援を無料でご案内しています。どこまでが補償の対象になるのか、自社の何が不安なのかが整理できていない段階からで構いません。お話を伺いながら、確認すべき論点とその順番を一緒に整理していきますので、まずはお気軽にお問い合わせください。個社の状況により最適な進め方は異なります。
情報確認日:2026年8月3日
参考一次情報・公的資料
- 中小企業庁:事業継続力強化計画
- 事業継続力強化計画 電子申請システム(gBizIDプライム・標準処理期間約45日)
- 中小機構:BCP・事業継続力強化の関連情報
- 日本損害保険協会:中小企業向け保険の情報
- 日本損害保険協会:企業財産のリスク
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年8月3日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。補償の対象範囲、引受可否、保険料、保険金の支払は、商品・約款・契約条件・個別事情により変わります。制度要件・認定・補助金・税制・金融支援・標準処理期間は最新の公表情報により変わり得ます。法務・税務・労務・会計の判断は、必要に応じて専門家へご確認ください。