停電リスクの事業継続計画|設備対策と資金繰りを分けて備える

停電は、地震や台風のような大規模災害のときだけ起きるわけではありません。落雷、電力設備の事故、需給のひっ迫、そして自社建物の受電設備トラブルまで、原因は幅広く、しかも起きる時間帯を選べません。この記事は、停電リスクを「非常用電源を買うかどうか」だけの話にせず、通信・冷蔵・決済・製造・データ・燃料補給まで含めて、設備でしのぐ部分お金で残す部分を切り分けて整理します。最後に、それを中小企業庁の事業継続力強化計画という形に落とし込む手順までつなげます。

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停電リスクは、いまのあなたの事業にどう効くか

中小企業庁は、事業継続力強化計画を、中小企業者等が策定する防災・減災の事前対策計画として認定する制度だと説明しています。停電はその計画で扱う代表的なリスクの一つですが、「電気が止まる」という一言の影響は、業種や設備の構成によって大きく違います。まず、自社の事業のどこが電気に依存しているかを、現場の言葉で洗い出すところから始めます。

いくつかの事業を例にすると、影響の出方はこう変わります。ここで挙げるのは、読者が自社に置き換えて考えるための一般的な操業イメージです。

  • 食品を扱う製造工場:冷蔵・冷凍庫が止まれば原材料と仕掛品が傷み、製造ラインが止まればその日の出荷が消えます。
  • クリニック・診療所:電子カルテ、検査機器、ワクチンや検体の冷蔵保管、予約システムが同時に影響を受けます。
  • 小売・飲食の店舗:レジと電子決済が止まると、現金以外の会計ができず、営業そのものが成り立たなくなります。
  • 物流・倉庫会社:入出庫システム、庫内照明、冷蔵倉庫、シャッターや自動搬送が止まり、荷主への納品が遅れます。
  • SaaS・受託開発チーム:自社サーバや通信が落ちれば、顧客向けサービスと社内の開発環境が同時に止まります。

つまり停電対策は「電源を確保する」だけの話ではなく、通信・冷蔵・決済・製造・データ・燃料補給という複数の系統を、それぞれ止めない・戻すための設計だということです。

停電で「止まると何が失われるか」を機能別に見る

非常用電源を1台置くだけでは、事業のすべては守れません。電源は多くの機能を支える土台ですが、燃料が切れれば止まり、通信やデータのように電源とは別の備えが要る領域もあります。ここでは機能領域ごとに、止まると起きること、設備・運用でしのぐ手、そしてお金で残しがちな部分を並べます。この表は、自社の弱点がどこにあるかを一目で確認するためのものです。

機能領域止まると起きること設備・運用でしのぐ手お金で残しがちな部分
電源ほぼ全機能が同時停止非常用発電機・蓄電池・UPS、系統の優先順位付け機器の故障・買い替え費用
通信受発注・予約・決済・遠隔監視が不通モバイル回線の予備、複数キャリア、衛星・無線の検討不通期間の逸失利益
冷蔵・冷凍原材料・在庫・検体の劣化と廃棄予備電源の優先接続、温度記録、代替保管先の確保廃棄した在庫の損害
決済キャッシュレス会計不可で売上機会を喪失オフライン対応レジ、現金運用手順、予備端末停止中の売上減
製造ライン当日出荷の消失、再立ち上げの遅延安全停止手順、優先ラインの電源確保納期遅延・復旧までの固定費
データ作業内容・顧客情報の消失自動保存、遠隔・クラウドのバックアップ多重化復元・再構築の外注費
燃料補給非常用電源が数時間で停止燃料備蓄、給油ルートの事前契約、消費量の把握調達遅延中の操業停止

右端の「お金で残しがちな部分」を見ると、設備を増やしても消えない損害が原則として残ることが分かります。停電対策は、設備でどこまで止めないかと、残った損害をどうお金で受け止めるかを、最初から二本立てで考える必要があります。

打てる手の全体像──設備対策と資金手当てを分ける

停電対策の打ち手は、大きく二つに分かれます。一つは設備・運用でリスクを減らす対策(非常用電源、通信の冗長化、バックアップ、燃料備蓄、手順の整備)。もう一つは減らしきれなかった損害を資金で受け止める対策(手元資金、融資枠、保険)。この二つは役割が違うので、どちらか一方に寄せると穴ができます。

設備対策には上限があります。すべての機能に無停電のバックアップを用意するのは、費用の面でも現実的ではありません。だからこそ、優先順位を決めて設備で守る範囲を定め、その外側に残るリスクをお金の対策で埋めるという順番が要ります。ここで、資金の対策の中身──手元資金・融資・保険の性格の違い──を理解しておくことが、次の判断につながります。

「保険に入っているから大丈夫」への向き合い方

資金対策の話をすると、「損害保険に入っているから停電の損害は保険で戻る」と考える方が多くいます。ここに、保険を扱う立場から最もお伝えしたい点があります。保険金は、事故が起きれば自動的に支払われるものではありません。

保険金を受け取るには、加入者の側で次のことを、原則として書類で説明する必要があります。

  • それが補償の対象となる事故か(何が原因で止まったのか)
  • それが補償の対象となる損害か(廃棄・休業・機器故障のどれに当たるか)
  • 損害の金額はいくらか(在庫額、休業日数、復旧費用の根拠)
  • 停電と損害の因果関係(その停電が原因だと言えるか)
  • 損害が発生した時期(いつ起き、いつ復旧したか)
  • 免責事由に当たらないこと(約款で除外されていないか)

ここに、加入者と保険会社の間の知識の差があります。約款の言葉と、現場で起きた出来事を結びつけるのは、慣れていないと難しい作業です。たとえば冷蔵在庫を廃棄した場合、「何を、いつ、いくら分、なぜ廃棄したか」を示す温度記録・在庫台帳・廃棄記録がなければ、金額の説明が弱くなります。停電の事前対策を計画に落とす段階で、後から請求の説明に使える記録の残し方まで設計しておくと、いざというときの回収力が変わります。これは設備を買うだけでは手に入らない部分です。

ポイント:保険は「入って終わり」ではなく、請求時に説明できる状態を保つことで初めて資金対策として機能します。事前対策の記録づくりと保険は、セットで考えると効果が上がります。

事前対策と資金手当ての経済合理性

「設備も記録も、そこまでやる必要があるのか」という疑問はもっともです。ここで参考になるのが、関東経済産業局の紹介です。同局は、復興時に役立った対策の約8割が資金面の対策だった一方で、半数以上の事業者が災害発生時の対策資金を十分に把握していないと紹介しています。事業を立て直す局面で効くのはお金であり、しかも多くの事業者がその備えを把握できていない、ということです。

停電対策に置き換えると、非常用電源という「止めない設備」に目が行きがちな一方で、止まった後に効く「戻すためのお金」の設計が抜けやすい、と読めます。設備と資金の両輪を、平時に金額まで見積もっておくことに合理性があります。

設備投資の側にも後押しがあります。中小企業防災・減災投資促進税制では、2026年7月時点で特別償却16%の措置が示されています。ただし適用には対象設備・取得時期・認定時期の確認が必要で、個別の適用可否は税理士など専門家への確認が前提になります。ここでは「使える可能性がある制度がある」という位置づけで捉えてください。

事業継続力強化計画に落とし込む手順

ここまでで整理した「設備でしのぐ範囲」「お金で残す範囲」「記録の残し方」を、実効性のある形にするのが事業継続力強化計画です。中小企業庁の地域別認定件数一覧(2026年6月19日更新)では、2026年5月末時点の累計認定件数は99,860件とされ、多くの中小企業がすでにこの枠組みを使っています。停電対策を自社の計画に落とすときの流れは、おおむね次のとおりです。

  1. 停電で影響を受ける重要業務を特定する(通信・冷蔵・決済・製造・データ・燃料など)
  2. 被害の想定を、業務ごとに具体化する
  3. 事前対策を、設備・運用の面で書く(非常用電源、通信冗長化、バックアップ、燃料備蓄)
  4. 発災時の初動と、復旧のための資金手当て(手元資金・融資枠・保険)を書き分ける
  5. 請求や検証に使う記録の残し方を、あわせて決めておく

申請面のスケジュールも押さえておきます。中小企業庁の申請方法ページでは、申請は原則電子申請で、gBizIDプライムが必要、取得には約2週間程度を見込むと示されています。また申請から認定までの標準処理期間は約45日とされています。計画の実施期間は最大3年で、満了後に続ける場合は新たな計画として申請し、2回目以降は実施状況報告書も論点になります。認定を急ぐ事情がある場合は、これらの期間を前もって逆算しておくと安心です。

より詳しい進め方は、事業継続力強化計画ガイド|申請・書き方・無料支援申請方法|GビズIDと手順期間|認定45日と逆算手順もあわせてご覧ください。BCPとの位置づけの違いは事業継続力強化計画とは?BCPとの違いと使い方で整理しています。

相談で一緒に確認する項目

専門家や支援窓口への相談は、手元が未整理の状態から始めて構いません。相談の場では、次のような項目を一緒に確認しながら整理していきます。

  • 停電で真っ先に止まると困る業務は何か(優先順位の高い順に3つ)
  • 冷蔵・冷凍で保管している在庫や検体の、おおよその金額
  • 1日操業が止まったときの、売上と固定費のおおよその目安
  • 現在の非常用電源の有無と、燃料でどれくらい持つか
  • 通信・決済が止まったときの代替手段があるか
  • データのバックアップを、どこに・どの頻度で取っているか
  • 加入中の損害保険で、休業・在庫・機器がどう扱われるか(証券・約款の所在)
  • 停電時の被害を後から説明するための記録(台帳・温度記録・見積り)が残る仕組みがあるか
  • gBizIDプライムを取得済みか、これからか

那由他保険テクノロジーズによる停電時の在庫・休業損害の補償条件の照合

記事の表で整理した「お金で残しがちな部分」は、会社ごとに残り方が違います。停電で廃棄した冷蔵在庫が現契約で対象になるのか、電力会社側の供給停止による操業停止が休業の補償対象に入るのか、自社の受電設備そのものの故障はどの補償で拾うのか。これらは証券の商品名だけでは判断できず、特約の付帯状況と約款の除外事由まで確認しないと分かりません。停電対策を検討する法人では、多くの場合、次の三点が未解決のまま残ります。

  • 冷蔵・冷凍在庫の腐敗・廃棄損害が、現在の火災保険や企業財産の包括契約でどこまで対象か
  • 停電による操業停止が休業損害・利益補償の対象になるか、支払対象期間と免責時間がどう設定されているか
  • 受電設備や冷凍機の電気的・機械的な事故が、財物補償の本体で対象か、別途の特約が必要か

那由他保険テクノロジーズでは、法人のリスク構造分析と補償ギャップ分析として、保険証券・約款の保険の対象、支払限度額、免責金額、除外事由、支払対象期間を項目ごとに書き出し、休業損害・利益補償の特約に構外のユーティリティ供給停止を原因とする休業が含まれるかを確認します。あわせて、事業継続力強化計画に書く被害想定と、冷蔵設備の温度記録、廃棄・復旧の見積書、月次の売上と固定費の数値を並べ、想定される損害額と現在の支払限度額の差を金額で突き合わせます。

これにより、設備投資で止めない範囲、保険で受け止める範囲、手元資金と融資枠で持つ範囲の切り分けを、契約条件の言葉で判断できるようになります。補償の重複や過大な限度額が見つかった場合は、保険料の削減余地の分析と、必要な補償条件を満たす調達方針の比較まで行います。なお、補償の追加可否や引受条件は保険会社の判断によるため結果をお約束するものではなく、中小企業防災・減災投資促進税制の適用可否は税理士へのご確認が前提となります。

資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。冷蔵・冷凍在庫の廃棄損害、停電による休業、受電設備の故障という三つの未解決論点について、まずは現状のお困りごとをお聞かせください。加入中の保険証券と約款、直近の月次試算表、在庫の品目と金額が分かる資料は、ご相談後に一緒に確認しながら、停電時に自社へ残る損害と現在の契約条件を項目ごとに照らし合わせていきます。

よくある質問

Q1. 停電対策は非常用電源を用意すれば十分ですか?

A. 非常用電源は重要ですが、それだけでは足りない場合があります。通信、冷蔵・冷凍、決済、製造ライン、データ保全、燃料補給まで含めて、止まると事業のどこが失われるかを洗い出し、設備でしのぐ部分とお金で手当てする部分に分けて考えることをおすすめします。

Q2. 停電対策は事業継続力強化計画にどう書けばよいですか?

A. まず停電で影響を受ける重要業務を特定し、被害想定、事前対策(非常用電源やデータ保全など)、発災時の初動、復旧のための資金手当てを整理します。中小企業庁は防災・減災の事前対策計画として認定しており、設備と資金の両面を書き分けると実効性が高まります。

Q3. 停電で設備や在庫に損害が出たら、保険金は自動的に支払われますか?

A. 保険金は自動では支払われません。加入者側が、対象となる事故か、対象となる損害か、金額はいくらか、停電との因果関係、発生時期、免責事由に当たらないことを、書類で説明する必要があります。日頃から機器台帳や温度記録、復旧見積りを残しておくと請求時の説明がしやすくなります。

Q4. 事業継続力強化計画の認定には、どれくらい時間がかかりますか?

A. 中小企業庁の申請方法ページでは、申請から認定までの標準処理期間は約45日とされています。また電子申請にはgBizIDプライムが必要で、取得には約2週間程度を見込むとされています。スケジュールは前もって逆算しておくと安心です。

Q5. 中小企業防災・減災投資促進税制は、原則として使えますか?

A. 適用可否は要件次第です。2026年7月時点では特別償却16%の措置が示されていますが、対象設備・取得時期・認定時期の確認が必要で、個別の適用は税理士など専門家への確認をおすすめします。

Q6. 相談に費用はかかりますか?

A. 那由他保険では、事業継続力強化計画の策定支援を無料でご案内しています。停電対策の設備面と資金面の切り分け、計画への落とし込みまでご相談いただけます。詳しくは案内ページからお問い合わせください。

参考一次情報・公的資料

情報確認日:2026年7月6日

執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月6日

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。制度要件、補助金、税制、融資、保険金支払、保険料、引受可否は、最新の公表情報、約款、契約条件、個別事情により変わります。法務・税務・労務・会計の判断は、必要に応じて専門家へご確認ください。