
公共工事を初めて受注するまでの流れは、建設業許可、経営事項審査(経審)、入札参加資格の申請、入札、落札後の契約締結、契約保証の提出、前払金の請求という7つの段階に分かれます。経審を取ったばかりの会社なら、次にやることは「狙う発注者ごとの入札参加資格の申請」です。国土交通省など国の機関の建設工事は、令和9・10年度の定期受付が令和8年11月2日から令和9年1月15日まで(2026年11月2日確認)で、この期間に申請しないと令和9年4月1日の認定に間に合いません。
落札したあとの時間は短いです。契約書案の提出期限は発注者ごとに違い、落札日から5日以内(茨城県)、落札決定日の翌日から起算して7日以内(国土交通省関東地方整備局)、10日以内(神戸市)といった例があります。この期間内に、契約保証(契約保証金の納付か、それに代わる保証・保険)を契約書案と一緒に出すのが一般的な運用です。契約保証を保険や保証で用意するなら、保険会社等の審査は入札の前に済ませておくことになります。なお、許可から受注までの合計期間を示す公的資料はないため、「全部で何か月」という数字は書いていません。
本記事は特定の保険会社、保険商品、保険契約や特約の内容を説明するものではなく、公共工事の契約保証制度に関する一般的な考え方の整理です。個別の引受や保険金支払の可否は、ご契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。制度の運用は発注者ごとに異なるため、実際の手続きは各発注者の契約書・入札公告・規則をご確認ください。
Summaryこの記事のポイント
- 公共工事の受注は、建設業許可→経審→入札参加資格→入札→落札→契約保証→前払金の7段階。経審を取った次の一手は、発注者ごとの入札参加資格の申請です。
- 経審は「契約締結日の1年7か月前の日の直後の事業年度終了日以降」のものが必要(建設業法施行規則18条の2)。毎年受けて切れ目を作らないのが前提です。
- 国の建設工事の入札参加資格は2年度単位で、令和9・10年度の定期受付は令和8年11月2日〜令和9年1月15日。調達ポータルの全省庁統一資格は物品・役務の資格で、建設工事とは区分が別です。
- 落札から契約締結までの日数は法令に定めがなく、発注者の規則や入札心得で5〜10日程度と幅があります。契約保証はこの期間内に契約書案と同時に提出するのが一般的です。
- 契約保証は標準約款4条の5つの方法から受注者が選びます。履行保証保険や公共工事履行保証証券を付した場合は契約保証金の納付が免除され、前払金保証とは別の制度です。
法人保険のご相談を受け付けています
初回のご相談・現契約の診断は無料です
公共工事の受注の流れは7段階
公共工事の受注の流れとは、建設業許可を持つ会社が経営事項審査を受け、発注者の入札参加資格者名簿に登載され、入札で落札し、契約保証を付して請負契約を締結するまでの一連の手続きです。段階ごとに根拠法令と担当する行政庁が違うため、まず全体を一覧にします。
| 段階 | やること | 主な根拠 | 時期の目安 |
|---|---|---|---|
| 1 建設業許可 | 500万円以上(建築一式は1,500万円以上)の工事を請け負う前提として取得 | 建設業法3条、施行令1条の2 | 5年ごとに更新 |
| 2 経営事項審査 | 決算変更届のあと、経営状況分析→経営規模等評価→総合評定値(P)の通知 | 建設業法27条の23、施行令45条、施行規則18条の2 | 毎年。決算終了後4か月以内が目安(関東地方整備局) |
| 3 入札参加資格 | 発注者ごとに申請し、資格者名簿に登載・格付け | 予決令72条、地方自治法施行令167条の5 | 国は2年度ごと。定期受付は前年11月〜1月 |
| 4 入札 | 公告を確認し、入札保証金(または免除手続き)を整えて入札 | 会計法29条の3・29条の4、地方自治法234条 | 国の公告は入札期日の少なくとも10日前 |
| 5 落札→契約締結 | 契約書案を提出し、契約保証を付して締結 | 各発注者の入札心得・契約規則 | 落札から5〜10日程度(発注者による) |
| 6 契約保証 | 契約保証金の納付、または保証・保険の証券提出 | 公共工事標準請負契約約款4条、会計法29条の9 | 契約締結と同時 |
| 7 前払金 | 保証事業会社の前払金保証を付けて請求 | 公共工事の前払金保証事業に関する法律、地方自治法施行規則附則3条 | 請求から14日以内に支払(標準約款35条) |
表の1〜3は「受注する資格を整える」段階、4〜7は「案件ごとに動く」段階です。
建設業許可:500万円以上の工事を請け負う前提
建設業許可は公共工事に限った制度ではありません。工事1件の請負代金が500万円以上(建築一式工事は1,500万円以上、または延べ面積150平方メートル以上の木造住宅)の工事を請け負うには、公共・民間を問わず許可が必要です(建設業法3条1項、施行令1条の2)。許可は5年ごとに更新を受けないと効力を失います(同法3条3項)。
公共工事との関係では、経審の対象工事の金額基準も同じ500万円(建築一式1,500万円)で、経審は許可を受けた「建設業者」が受けるものなので、経審対象の公共工事を元請で受注するには許可が前提になります。また、下請に出す金額が1件あたり合計5,000万円以上(建築工事業は8,000万円以上)になる元請工事を受けるには、一般建設業ではなく特定建設業の許可が必要です(施行令2条、2025年改正後の金額)。
経営事項審査(経審):毎年受けて「1年7か月」を切らさない
経審は、国・地方公共団体・公共法人等が発注する500万円以上(建築一式は1,500万円以上)の建設工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が受けなければならない審査です(建設業法27条の23第1項、施行令45条)。災害時の応急工事などは対象外です。下請として入るだけなら受審義務はありません。
審査の流れは3段階
経審は、登録経営状況分析機関が行う「経営状況分析」、許可行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)が行う「経営規模等評価」、そして受審者の請求により許可行政庁が通知する「総合評定値(P)」の3段階で構成されます(同法27条の24、27条の26、27条の29)。申請の前に決算変更届(事業年度終了届)を出しておく必要があります。国土交通大臣が行う場合の手数料は、経営規模等評価が8,100円に審査対象建設業1業種につき2,300円を加えた額、総合評定値の請求が400円に1業種につき200円を加えた額です(施行令46条)。
審査基準日から1年7か月が「工事を請け負える期間」
建設業法施行規則18条の2は、公共工事の請負契約を締結する日の「1年7か月前の日の直後の事業年度終了の日以降」に経審を受けていることを求めています。実務では「審査基準日(直前の事業年度終了日)から1年7か月」が有効期間と呼ばれ、国土交通省の競争参加資格審査の手引き(令和9・10年度版)も、この期間が切れ目なく続くよう毎年受審することを求めています。関東地方整備局は申請時期の目安を「毎年、決算終了後4ヶ月以内」(3月決算なら7月末日まで)としています。
3月決算の会社なら、審査基準日3月31日から翌年10月末までが請負契約を締結できる期間です。翌年の経審が遅れると、名簿に載っていても契約を結べない空白ができます。
令和8年7月1日施行の改正で点数の範囲が変わった
経審の項目と基準は国土交通大臣告示で定められ、令和8年2月6日公布・同年7月1日施行の改正(令和8年国土交通省告示第262号)が現行の基準です。主な変更は次の4点です。
- 社会保険(雇用保険・健康保険・厚生年金保険)の加入有無に関する減点項目(各40点)を削除(2020年10月以降は社会保険加入が許可要件のため)
- 「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」の宣言状況を加点項目として追加(5点)
- 加点対象の建設機械に不整地運搬車とアスファルト・フィニッシャを追加
- 建設キャリアアップシステムによる就業履歴蓄積措置の配点を見直し(全工事15点→10点、全公共工事10点→5点)
改正後の総合評定値の最高点は2,159点、最低点は163点です(国土交通省「経営事項審査の主な改正内容」2026年)。この改正に合わせて国土交通省は、改正後の基準で総合評定値を取り直した者を対象に令和7・8年度の競争参加資格の再認定(希望制、受付は令和8年7月1日〜12月21日)を実施しており、経審の点数が入札参加資格の格付けに直結していることが分かります。
入札参加資格:発注者ごとに申請して名簿に載る
入札参加資格は、発注者(国の各省庁、都道府県、市区町村、独立行政法人等)が契約の種類と金額に応じて定める資格で、申請を受けて審査し、有資格者の名簿を作ります(予算決算及び会計令72条、地方自治法施行令167条の5・167条の11)。経審が「会社の経営を数値化する審査」なら、入札参加資格は「その数値などをもとに、発注者が自分の名簿に載せるかどうかを決める審査」です。経審を1回受けても、発注者ごとに申請しなければ入札には参加できません。
国の建設工事は2年度単位、令和9・10年度の定期受付が進行中
国土交通省をはじめとする国の機関の建設工事の資格は、「令和7・8年度」のように2年度単位です。定期受付は前年の11月〜1月に行われ、地方整備局などではインターネット一元受付が原則です。令和9・10年度の一元受付の期間は令和8年11月2日(月)から令和9年1月15日(金)までで、パスワード発行申請は12月28日(月)までです(国土交通省「資格審査」ページ、2026年11月2日確認)。参加機関は国土交通省の各地方整備局のほか、法務省、財務省財務局、農林水産省、防衛省、高速道路会社、都市再生機構、水資源機構など23機関です(国土交通省 申請書作成の手引き《建設工事》令和9・10年度版)。
定期受付に間に合わないと令和9年4月1日に資格が認定されず、終了後は各機関への随時申請になり、認定まで1か月〜1か月半程度かかります。申請に使う経審の総合評定値通知書は、審査基準日が申請日の1年7か月前の日以後の最新のものに限られ、令和9・10年度の一元受付では令和7年6月16日以降を審査基準日とするものが必要です(国土交通省 申請書作成の手引き《建設工事》)。
調達ポータルの「全省庁統一資格」は建設工事とは別区分
国の調達ポータル(p-portal)で申請する「全省庁統一資格」は、各省庁が定める「物品の製造・販売等」に係る競争参加資格で、令和7・8・9年度のように3年度単位です(デジタル庁 調達ポータル、2026年11月2日確認)。建設工事の資格は国土交通省等の一元受付で2年度単位に別建てで運用されており、関東地方整備局の案内でも「物品・役務の提供等」と「建設工事・測量等」は別の項目です。統一資格だけを取っても、工事の名簿には載りません。
都道府県・市区町村は団体ごとに周期と格付けが違う
都道府県や市区町村の建設工事の入札参加資格は、各団体が地方自治法施行令167条の5に基づいて定めます。沖縄県土木建築部は2年ごとに審査を行い、客観点数(経審の総合評定値P)と主観点数(発注者独自の評価点)の合計で特A〜Dの等級(土木・建築の場合)に格付けし、12月に申請、3月末に結果通知、4月以降に新名簿で発注という流れです(令和7・8年度 審査及び等級格付基準概要)。一方、長野県の名簿は令和7・8・9年度の3年度単位です。格付けと発注金額の対応も発注者ごとに公表されており、関東地方整備局の令和7・8年度の等級区分では、一般土木工事はA等級(総合点数3,040点以上)が予定価格8.2億円以上、D等級(1,660点未満)が7,000万円未満の工事に対応します。初めての会社は、狙う発注者を2〜3に絞り、それぞれの定期受付の時期、周期、格付けに使う点数の構成を確認することから始めてください。
入札から落札まで:一般競争入札が原則、入札保証金は国で5%以上
国の契約は公告して申込みをさせる一般競争入札が原則で、指名競争入札や随意契約は政令で定める要件に当たる場合に限られます(会計法29条の3)。地方公共団体も同じ構造です(地方自治法234条、施行令167条)。国の公告は入札期日の前日から起算して少なくとも10日前に行われます(予決令74条)。
落札者は予定価格の範囲内で最低の価格を入れた者が原則ですが、その価格では契約内容に適合した履行がされないおそれがあると認められるときは、低入札価格調査を経て次順位者が落札者となることがあります(会計法29条の6第1項)。価格以外の要素も評価する総合評価落札方式は、会計法29条の6第2項・予決令91条2項、地方自治法施行令167条の10の2が根拠で、あらかじめ定めた落札者決定基準で運用されます。
入札保証金は国で見積金額の5%以上、免除の運用が多い
国の競争に参加する者は見積もる契約金額の5%以上の入札保証金を納めるのが原則です(会計法29条の4)。ただし、保険会社と国を被保険者とする入札保証保険契約を結んだとき、または資格を有する者による一般競争で落札者が契約を結ばないおそれがないと認められるときは免除できます(予決令77条)。国土交通省の直轄工事では、入札保証金の納付を求める試行の対象を予定価格3億4,000万円以上の一般土木・建築工事などの大型工事に限っており(国土交通省通知 平成24年3月19日、令和6年12月20日改正。令和7年4月1日以降の契約分)、中小規模の工事では入札保証金は免除されることが多くあります。
地方公共団体は規則で定める率または額の入札保証金を納めさせることとされ、免除の要件も各団体の規則で定めます(地方自治法施行令167条の7)。沖縄県の入札保証金関係説明書では、入札保証保険契約の証書を提出する場合は免除されますが、過去2年間に国・地方公共団体と同種同規模の契約を2件以上誠実に履行した実績による免除は「建設工事に係る競争入札を除く」とされており、建設工事では実績免除が使えない発注者があります。入札公告には入札保証金に関する事項が記載されるので(予決令75条)、案件ごとに要否を確認してください。
落札から契約締結までは何日あるか:発注者別の例
落札後に契約書案を提出して契約を締結するまでの日数は、会計法にも地方自治法にも定めがありません。国の契約は契約担当官等と相手方が契約書に記名押印しなければ確定せず(会計法29条の8第2項)、期限は各省庁の入札心得や自治体の規則で定められています。原本で確認できた例を表にします。
| 発注者 | 契約締結(契約書案提出)の期限 | 出典 |
|---|---|---|
| 国土交通省関東地方整備局 | 落札決定の日の翌日から起算して7日以内(行政機関の休日を含まない) | 競争契約入札心得12条 |
| 茨城県 | 落札の通知を受けた日から5日以内(土日祝日を含む) | 茨城県建設工事執行規則8条、常陸大宮土木事務所の案内 |
| 島根県(松江県土整備事務所) | 落札決定通知の翌日から起算して7日以内(土日祝を含む) | 「落札者の方へ」令和7年1月版 |
| 神戸市 | 落札決定の日から10日以内(令和6年4月に5日から延長) | 神戸市契約規則の一部改正について |
| 上越市 | 落札決定日の翌日から起算して7日以内 | 「電子契約の流れ」 |
期限内に契約書案を提出しないと落札はその効力を失います(関東地方整備局入札心得12条2項、茨城県執行規則8条2項)。契約保証は、関東地方整備局では「契約書の案の提出と同時に」契約保証金またはそれに代わる担保を納付・提供し、履行保証保険や公共工事履行保証証券で免除を受ける場合はその証券を提出します(同心得10条)。茨城県の土木事務所も、保証の日付を落札日から5日以内に取るよう案内しています。
一定額以上は議会の議決が必要で、仮契約の様式を使う発注者がある
地方公共団体では、予定価格が一定額以上の工事請負契約は議会の議決が必要です(地方自治法96条1項5号)。基準は都道府県5億円、指定都市3億円、市1億5,000万円、町村5,000万円を下回らない額を条例で定めます(施行令121条の2の2、別表第三)。該当する案件では、議決を経るまで仮契約とし、議決を経たときに本契約として成立する契約書様式を使う発注者があります(熊本市の契約書案の例)。仮契約の段階で契約保証を付すのか本契約時なのかは発注者ごとに確認してください。
契約保証:契約締結と同時に5つの方法から選ぶ
契約保証は、受注者が契約上の義務を履行しない場合に備えて発注者が求める担保で、公共工事標準請負契約約款4条(A)は受注者に「この契約の締結と同時に」次の5つのいずれかを付すことを求めています。
- 契約保証金の納付
- 契約保証金に代わる担保となる有価証券等の提供
- 契約による債務の不履行により生ずる損害金の支払いを保証する銀行または発注者が確実と認める金融機関等の保証
- 契約による債務の履行を保証する公共工事履行保証証券による保証
- 契約による債務の不履行により生ずる損害をてん補する履行保証保険契約の締結
2号・3号は「契約保証金に代わる担保の提供」として扱われ、4号・5号を付したときは契約保証金の納付が免除されます(同条5項)。前払金保証を扱う保証事業会社の契約保証は、3号の「発注者が確実と認める金融機関等の保証」として運用されています。5号の履行保証保険を選んだ場合は、保険契約の締結後、直ちに保険証券を発注者に寄託します(同条1項ただし書)。
保証の額は国で契約金額の10%以上、低入札では30%の例
国と契約する者は契約金額の100分の10以上の契約保証金を納めるのが原則で(会計法29条の9第1項)、履行保証保険契約を結んだとき、または保険会社・銀行等と工事履行保証契約を結んだときは免除できます(予決令100条の3)。国土交通省直轄の工事請負契約書も「請負代金額の10分の1以上」です。標準約款の本文は「請負代金額の十分の〇以上」で、「一」は注書きの例示にすぎません。地方公共団体は規則で定める率または額とされ(地方自治法施行令167条の16)、確認できた福岡県・三重県・長野県の規則はいずれも「百分の十以上」でした。
低入札価格調査を受けた者との契約では、国土交通省直轄は10分の3以上に読み替えます(国地契第85号)。秋田県・和歌山県・高知県・横浜市など、同様に10分の3(100分の30)とする自治体も複数あります。役務的保証(保証人が代替業者を手配して工事を完成させる型)を求める場合の付保割合も10分の3が例示されています。
契約保証を求めない金額の基準も発注者で異なり、国は250万円以下(契約書の作成を省略できる契約)、自治体では100万円未満(長野県)から500万円未満(高知県・沖縄県など)まで幅があり、茨城県のように建築一式工事1,000万円未満・その他の工事500万円未満と工事の種類で分ける例もあります。
現金以外の方法が大半を占める
国土交通省が公表した令和6年度の直轄工事の履行保証実績によると、合計12,659件のうち履行保証を免除した案件が4,306件、保証を付した案件では保証事業会社の保証4,600件、金融機関の保証1,975件、公共工事履行保証証券1,091件、履行保証保険499件に対し、契約保証金の現金納付は185件でした(国土交通省「各部局工事契約状況等(統合版)」令和6年度)。直轄工事に限った数字ですが、現金で納める受注者は少数で、保証や保険で代える運用が定着していることが分かります。
入札前に済ませておく審査と、証券の提出方法の確認
履行保証保険や公共工事履行保証証券では一般に、保険会社が引受の前に受注者の財務内容(決算書等)を審査し、保証の上限額(引受限度額)を設定します。落札から契約書案提出までが5〜10日程度であることを考えると、この審査は入札参加の予定が立った段階で済ませておくのが順当です。保証事業会社や銀行の保証を使う場合も、それぞれの審査があります。
もう1つ確認しておくのが証券の提出方法です。日本損害保険協会は2025年12月1日から、公共工事履行保証証券・履行保証保険・入札保証保険の証券を電磁的方法で提出する「保証証券等確認システム」の運用を始め、PDF証券をメールで送る旧運用は2026年4月30日で終了しました。受注者は、システムからメールで届く閲覧用URLと、保険会社・取扱代理店から伝えられる閲覧用パスワードを受け取り、発注者に通知します。ただし発注者によって対応状況が異なり、紙の証券を求める発注者もあるため、協会も事前に提出方法を発注者へ確認するよう求めています。発注者が履行保証保険に「定額てん補特約付き」を指定する例も多いので、契約書案や入札説明書の保証条項は入札前に読んでおきます。
前払金保証と契約保証は別の制度
公共工事では契約後に請負代金の一部を前払金として受け取れますが、そのために付ける前払金保証は、契約保証とは目的も根拠法も別です。前払金保証は、受注者が債務を履行せず発注者が契約を解除したとき、前払いした額のうち出来高を超える部分の返還を保証事業会社が保証する制度で(公共工事の前払金保証事業に関する法律2条2項)、保証事業会社は国土交通大臣の登録を受けた北海道建設業信用保証、東日本建設業保証、西日本建設業保証の3社です。標準約款でも契約保証は4条、前払金は35条と条文が分かれています。
前払金の割合は国と地方で根拠が違う
国の工事では、予算決算及び会計令臨時特例2条3号・4条に基づき各省庁が財務大臣に協議して割合を定め、令和8年度の国土交通省分は1件300万円以上の土木建築工事について「請負代価の10分の4以内」です(国官会第22442号、令和8年3月26日)。地方公共団体では、地方自治法施行規則附則3条が工事1件50万円以上の土木建築工事について材料費・労務費等の「4割を超えない範囲内」と定め、工期の2分の1を経過し出来高が2分の1以上などの要件を満たした場合の中間前払金は「2割を超えない範囲内」です(導入していない自治体もあります)。標準約款35条(A)は「請負代金額の十分の〇以内」(注書きの例は四)で、請求を受けた日から14日以内に支払うとしています。
保証事業会社は前払金保証に附随する事業として契約保証(3号の保証)も扱っているため、前払金保証と契約保証を同じ会社で手配する受注者もいれば、契約保証だけを履行保証保険や公共工事履行保証証券で用意する受注者もいます。どれを選べるかは発注者の指定で決まります。
初めての受注前に揃えるものチェックリスト
経審を取った会社が、最初の入札までと落札後の数日間のために確認しておく項目です。顧問の行政書士がいる会社では、許可・経審・入札参加資格の申請日程を行政書士が、落札後の契約保証と前払金の手配を自社が担うことが多いので、どちらが見るかも決めておきます。
- 建設業許可: 受審した業種と許可業種の一致、一般・特定の区分、次回更新の期限。
- 経審: 直近の審査基準日とその1年7か月後の日付。翌年の決算変更届と経審の申請予定。
- 入札参加資格: 狙う発注者ごとの定期受付の期間(国の建設工事は令和8年11月2日〜令和9年1月15日)、名簿の有効期間(2年度か3年度か)、格付けに使う点数の構成。
- 入札: 公告に書かれた入札保証金の要否と免除要件。総合評価の場合の落札者決定基準。
- 落札後の期限: 契約書案の提出期限(落札日から何日か、休日を含むか)。議会の議決が要る規模かどうか。
- 契約保証: 保証の割合(10分の1か10分の3か)、指定される方法と特約(定額てん補特約など)、証券の提出方法(紙か保証証券等確認システムか)、事前の審査に必要な決算書等。
- 前払金: 保証事業会社との保証契約、発注者が定める前払金の割合、中間前払金の有無。
那由他保険テクノロジーズが初めての公共工事の契約保証でご支援できること
那由他保険テクノロジーズは、損害保険について特定の保険会社の代理店として、公共工事の契約保証に関するご相談をお受けしています(比較推奨販売方針)。初めて公共工事に参加する会社からのご相談では、入札を予定している案件の契約書案や入札説明書の保証条項を一緒に読み、保証の割合、指定された方法(履行保証保険か公共工事履行保証証券か、定額てん補特約の指定の有無)、証券の提出方法(紙か電子か)、契約締結の期限を書き出すところから始めます。
そのうえで、落札から契約書案提出までの日数から逆算して、入札前に済ませておく保険会社の審査の時期と、用意する決算書等を整理します。保証事業会社や銀行の保証を含め、発注者が認める方法の中でどれを選ぶかは会社の資金繰りと発注者の指定で決まるので、保険以外の選択肢も含めて並べたうえで判断いただきます。ご相談のあとには、その案件の契約締結期限から逆算した準備日程、保証の方法ごとに必要になる資料、発注者に確認すべき事項の一覧が手元に残ります。
初めての公共工事・契約保証の準備
入札予定の案件の契約書案から、契約保証の方法と準備の順番を一緒に整理します
発注者の保証条項・保証割合・提出期限と自社の決算内容をもとに、落札後の数日間で慌てない段取りを確認します。
よくある質問
経審を取れば、すぐに公共工事の入札に参加できますか?
いいえ。経審は会社の経営状況を数値化する審査で、入札に参加するには発注者ごとに入札参加資格を申請し、資格者名簿に登載される必要があります(予算決算及び会計令72条、地方自治法施行令167条の5)。国の建設工事の定期受付は前年11月〜1月で、令和9・10年度分は令和8年11月2日〜令和9年1月15日です。定期受付を逃すと随時申請になり、認定まで1か月〜1か月半程度かかります。
経審は毎年いつまでに受ければよいですか?
建設業法施行規則18条の2により、契約締結日の1年7か月前の日の直後の事業年度終了日以降の経審が必要です。審査基準日(直前の事業年度終了日)から1年7か月が、公共工事の請負契約を結べる期間になります。関東地方整備局は申請の目安を「毎年、決算終了後4ヶ月以内」(3月決算なら7月末日まで)とし、申請前に決算変更届を提出するよう案内しています。
国の入札参加資格は、調達ポータルの全省庁統一資格で足りますか?
足りません。全省庁統一資格は各省庁が定める「物品の製造・販売等」に係る競争参加資格で、令和7・8・9年度のように3年度単位です。建設工事の競争参加資格は国土交通省など23機関のインターネット一元受付で2年度単位に別建てで審査されており、関東地方整備局の案内でも物品・役務と建設工事・測量等は別の項目です。建設工事を受注するには建設工事の資格を申請してください。
落札してから契約保証を準備しても間に合いますか?
契約書案の提出期限は発注者ごとに決まっており、落札日から5日以内(茨城県)、落札決定日の翌日から起算して7日以内(国土交通省関東地方整備局、休日を含まない)、10日以内(神戸市)などの例があります。契約保証はこの契約書案と同時に提出するのが一般的な運用で、履行保証保険や公共工事履行保証証券では保険会社が事前に財務内容を審査して引受限度額を設定します。落札後に審査を始めると期限に間に合わないおそれがあるため、入札参加の予定が立った段階で審査を済ませておくのが現実的です。
契約保証金は現金で納めなければなりませんか?
公共工事標準請負契約約款4条は、契約保証金の納付のほか、有価証券等の提供、銀行または発注者が確実と認める金融機関等の保証、公共工事履行保証証券による保証、履行保証保険契約の締結の5つの方法を受注者の選択に委ねています。公共工事履行保証証券または履行保証保険を付したときは契約保証金の納付が免除されます(同条5項、国は予算決算及び会計令100条の3)。国土交通省直轄工事の令和6年度実績では、保証を付した8,353件のうち現金納付は185件で、保証や保険による方法が大半でした。
前払金保証を付ければ契約保証は不要ですか?
いいえ。前払金保証は前払いした額のうち出来高を超える部分の返還を保証事業会社が保証する制度(公共工事の前払金保証事業に関する法律2条2項)で、契約保証は債務不履行による損害を担保する別の制度です。標準約款でも4条(契約の保証)と35条(前金払)に分かれています。保証事業会社は附随する事業として契約保証も扱っているため、同じ会社で両方を手配することはできますが、前払金保証だけで契約保証に代えることはできません。
参考一次情報・公的資料
- 建設業法(昭和24年法律第100号)第3条・第27条の23〜27条の29(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 建設業法施行令(昭和31年政令第273号)第1条の2・第2条・第45条・第46条(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)第18条の2(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 国土交通省「経営事項審査の主な改正内容(令和8年2月6日公布・令和8年7月1日施行)」(2026年、2026年11月2日確認)
- 国土交通省 報道発表「令和7・8年度 国土交通省発注工事に係る競争参加資格(建設工事)の再認定について」(2026年6月26日、2026年11月2日確認)
- 国土交通省「資格審査(建設工事、測量・建設コンサルタント等業務)」令和9・10年度インターネット一元受付(2026年11月2日確認)
- 国土交通省「競争参加資格審査申請書作成の手引き《建設工事》」令和9・10年度版(2026年、2026年11月2日確認)
- 九州地方整備局「令和7・8年度定期競争参加資格審査について(お知らせ)」(2024年10月、2026年11月2日確認)
- 関東地方整備局「経営事項審査制度の概要について」(2026年11月2日確認)
- 関東地方整備局「令和7・8年度 等級区分別総合点数」(2026年11月2日確認)
- 関東地方整備局「資格審査関係」(建設工事・測量等と物品・役務の区分、2026年11月2日確認)
- 関東地方整備局「競争契約入札心得」第10条・第12条(2022年10月版、2026年11月2日確認)
- デジタル庁 調達ポータル「全省庁統一資格について」(2026年11月2日確認)
- 沖縄県土木建築部「令和7・8年度 建設工事入札参加資格審査及び等級格付基準概要」(2024年、2026年11月2日確認)
- 長野県「建設工事等入札参加資格者名簿(令和7・8・9年度)」(2026年11月2日確認)
- 会計法(昭和22年法律第35号)第29条の3〜29条の9(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)第72条・第74条・第77条・第91条・第100条の3(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 予算決算及び会計令臨時特例(昭和21年勅令第558号)第2条・第4条(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 地方自治法(昭和22年法律第67号)第96条・第234条(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第121条の2の2・第167条の5・第167条の7・第167条の10の2・第167条の16(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 地方自治法施行規則(昭和22年内務省令第29号)附則第3条(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和27年法律第184号)第2条(e-Gov法令検索、2026年11月2日確認)
- 国土交通省「公共工事標準請負契約約款」(令和7年12月2日改正版、2026年11月2日確認)
- 国土交通省「低入札価格調査制度調査対象工事における契約の保証の額について」(国地契第85号、最終改正 令和5年12月27日、2026年11月2日確認)
- 国土交通省「国土交通省直轄工事等契約関係資料 令和7年度版(6年度実績)」1. 各部局工事契約状況等(統合版)「令和6年度 履行保証実績(工事)」(2026年11月2日確認)
- 国土交通省土地・建設産業局建設業課「前払金保証事業」(2015年1月21日、2026年11月2日確認)
- 国土交通省「入札保証金の取扱いに関する試行について」(平成24年3月19日)および一部改正(令和6年12月20日)(2026年11月2日確認): 資料1、資料2
- 国土交通大臣から財務大臣への協議「公共工事の代価の前金払について」(国官会第22442号、令和8年3月26日。建設コンサルタンツ協会サイト掲載、2026年11月2日確認)
- 茨城県建設工事執行規則 第4条・第8条(令和5年7月31日施行版、2026年11月2日確認)
- 茨城県常陸大宮土木事務所「契約保証の取得期限について」(2015年、2026年11月2日確認)
- 島根県松江県土整備事務所「落札者の方へ」(令和7年1月10日版、2026年11月2日確認)
- 神戸市「神戸市契約規則の一部改正について(概要)」(2023年12月、2026年11月2日確認)
- 上越市「電子契約の流れ」(2025年11月、2026年11月2日確認)
- 熊本市 設計・施工請負契約書(案)「議会の議決を要する契約についての特約」(2023年8月、2026年11月2日確認)
- 沖縄県「入札保証金関係説明書」(2026年、2026年11月2日確認)
- 日本損害保険協会「公共工事履行保証証券等における保証証券等確認システム(WEBプラットフォーム)」公式ページ(2026年8月20日更新、2026年11月2日確認)
- 日本損害保険協会 ニュースリリース「保証証券等確認システムの運用開始について」(2025年11月17日、2026年11月2日確認)
本記事は特定の保険会社、保険商品、保険契約や特約の内容を説明するものではなく、公共工事の契約保証制度に関する一般的な考え方の整理です。個別の引受や保険金支払の可否は、ご契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。制度の運用は発注者ごとに異なるため、実際の手続きは各発注者の契約書・入札公告・規則をご確認ください。
情報確認日: 2026年11月2日