
海上保険でICC(A)を付けていても、戦争危険とストライキ危険は通常のICC条件とは別の約款で担保され、戦争危険の責任期間は倉庫までの通常輸送期間と一致するとは限りません。寄港停止や迂回、積替港変更の通知を受けたら、航路名だけで補償の継続を判断しないでください。本船、寄港地、積替え地、保管の有無、出荷日、貨物価額を証券と航路通知で照合し、出荷前に保険会社へ確認する順序を先に固めます。
Summaryこの記事のポイント
- 通常のICC(A)(B)(C)、協会戦争約款、協会ストライキ約款は別建てで、担保する危険原因も責任期間の考え方も同じとは限りません。
- 損保ジャパンの現行案内では、戦争危険は原則として貨物が本船上にある間に限られ、陸上の保管や通常輸送の全期間とはずれます。
- 航路変更は戦争危険だけでなく、積替え、通常輸送過程ではない保管、遅延、変更・解約通知、制裁確認まで動かします。
- 解約・変更予告の日数(7日前や48時間など)は保険会社・契約・仕向地で変わるため、自社証券と受領した通知の文言で確かめます。
- 制裁は財務省リストの掲載有無だけで判断せず、外為法、輸出管理、銀行・保険会社の審査を分けて確認します。
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航路変更通知を受けたら証券とBookingを照合する
寄港停止や迂回、積替港変更の通知が届いたとき、保険契約の確認で最初にすることは、手元の証券と手配情報が新航路の内容と一致しているかを突き合わせることです。証券が旧航路や申込時点の条件で発行済みなら、本船名、寄港地、積替え地、出荷予定日がBookingや船会社通知とずれていないかを確認します。出荷を続けるか止めるかを決める前に差分を書き出しておくと、担当者ごとの認識のばらつきを減らせます。
物流はBookingと船会社通知、貿易はInvoiceとB/L案・契約納期、保険担当は証券とOpen Policy・個別Certificateを持ち寄り、経営が最終的な出荷継続・保留を判断します。ここで押さえたいのは「航路名が変わったか」ではなく、本船、寄港地、積替え地、保管の有無、貨物価額といった、補償の前提になる個別要素がどう変わったかです。
下の表は、通知を受けてから出荷判断までに誰が何の資料をどこへ渡すかを、固定時間ではなくBooking締切と出荷前を基準に並べたものです。
| 順番 | 担当 | そろえる資料 | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 1 | 物流・フォワーダー | 航路変更通知、新旧Booking、船会社サービス変更案内 | 船会社・フォワーダー |
| 2 | 貿易 | Invoice価額、B/L案、契約納期・契約先の付保要求 | 取引先・契約書 |
| 3 | 保険担当 | 証券、Open Policy、個別Certificate、変更・解約通知 | 保険会社・代理店 |
| 4 | 法務・コンプライアンス | 取引当事者、船舶、寄港地、決済銀行の一覧 | 財務省リスト・社内規程 |
| 5 | 経営 | 上記を集約した差分メモ | 出荷継続・保留の判断 |
この順で資料がそろったら、保険担当は保険会社へ渡す差分メモに、変更前後の本船と寄港地、積替え地、保管の予定を明記して照会します。
外航貨物海上保険の基本的な仕組みや用語を先に押さえたい担当者は、外航貨物海上保険とはで全体像を整理してから本記事の照合に進むと、証券欄の意味を取り違えにくくなります。
通常ICC条件と戦争・ストライキ条件を分ける
補償の継続を判断するときにつまずきやすいのは、ICC(A)を付けていれば戦争もストライキも同じ範囲・同じ期間で守られる、という思い込みです。実務では、通常の物的損害を扱う2009年協会貨物約款(A)(B)(C)、戦争・捕獲・抑留等を扱う協会戦争約款、ストライキ・暴動を扱う協会ストライキ約款は、それぞれ別の約款で、担保する危険原因も責任期間の考え方も分かれています。三井住友海上の案内でも、ICC(A)(B)(C)とは別に協会戦争約款・協会ストライキ約款で補償する危険が示されており、四つを同じものとして扱えないことがわかります。
危険原因を軸に、どの約款が対応し、責任期間の考え方と確認資料がどう違うかを並べてみます。ここを先に整理しておくと、航路変更の通知が来たときに「どの約款のどの区間の話か」を切り分けやすくなります。
次の表は、四つの危険区分を同じ軸に載せ、混同しやすい約款と責任期間を分けたものです。
| 危険原因 | 適用される約款 | 責任期間の考え方 | 主な確認資料 |
|---|---|---|---|
| 通常の物的損害 | 2009年協会貨物約款(A)(B)(C) | 倉庫から倉庫までの輸送期間が基本 | 証券のICC条件欄、Open Policy |
| 戦争危険 | 協会戦争約款(貨物) | 損保ジャパン概要では原則として貨物が本船上にある間 | 戦争約款の版、特別約款、変更通知 |
| ストライキ・暴動危険 | 協会ストライキ約款 | 通常の貨物輸送期間と同一の考え方で案内 | ストライキ約款の版、SRCC条件 |
| 遅延・滞貨・間接損害 | 原則として担保外(不払例) | 対応する責任期間なし | 証券の免責条項、特約の有無 |
自社の案件で問題になっているのがどの行かを特定し、その約款の付帯有無と責任期間を証券で確かめてから、保険会社への質問を組み立てます。
ICC(A)(B)(C)そのものの担保範囲の違いを詳しく確認したいときは、ICC(A)(B)(C)の違いを参照すると、本記事で扱う戦争・ストライキとの切り分けが理解しやすくなります。
戦争危険の責任期間と変更・解約通知を確認する
戦争危険の責任期間は、通常物損の「倉庫から倉庫まで」とは別の考え方で設計されています。「on board only」は、戦争危険を貨物が本船に積み込まれてから荷卸しされるまでの海上区間に限って担保するという一般的な言い回しで、陸上の保管や内陸輸送を含まないことを指します。損保ジャパンの現行案内では、協会戦争約款は戦争、捕獲、抑留等を貨物が本船上にある間に限って補償する概要とされています。戦争危険は原則として陸上にある間は担保されず、責任期間は本船への積込みから荷卸しまで、または最終荷卸港等への到着日の午後12時から15日を経過したときまでの、いずれか早い時までと説明されています。
この15日という終期は損保ジャパンの概要であって、単純に15日間補償されるという意味ではありません。約款の版、輸送方法、荷卸しの状況、特別約款、証券記載によって扱いが変わるため、自社証券の戦争約款条項に戻して読み直します。
変更・解約の予告についても、期間は契約と仕向地で変わります。東京海上日動の包括契約用重要事項説明書(2021年4月版)では、戦争・ストライキ等危険を相互に7日前の予告で解約できること、米国向けまたは米国からの輸送のストライキ等危険は48時間前となることが示されています。これは同社の特定版・包括契約用資料の数字であり、全保険会社・全契約の共通期限でも、企業側の初動連絡期限でもありません。自社証券と実際に受領した変更・解約通知の文言・発効時刻を、通知ごとに読み合わせます。
次のチェックリストは、証券・約款・変更通知のどこを読むかを分けたものです。
- 証券のICC条件欄と、戦争約款・ストライキ約款の付帯有無
- 戦争約款の版と、on board onlyの記載・終期の考え方
- 変更・解約の予告日数と、仕向地(米国向け等)による差
- 危険の著しい変更・増加、証券記載以外の輸送用具を使うときの通知義務
- 受領した変更・解約通知の発効時刻と、対象となる本船・航海
各項目を自社証券の文言で埋めたうえで、空欄や解釈が割れる箇所を保険会社への質問として書き出します。
迂回・積替え・一時保管で追加する確認項目
航路の迂回や積替港の変更は、戦争危険だけの問題ではありません。積替えの回数、通常の輸送過程に含まれるとはいえない保管、その保管の目的・日数・管理者が変わると、通常物損の担保や滞貨・遅延の扱いも動きます。三井住友海上の案内でも、遅延に起因する損害や間接費用、陸上にある間の戦争危険、通常の輸送過程ではない保管中のテロ危険等が主な不払例として挙げられており、迂回後の保管を通常輸送と同じ感覚で扱えないことがわかります。
下の表に自社の通知内容を書き込み、変更前後で何がずれたかを抜き出します。数値は自社の通知から転記し、架空の値は置きません。
| 項目 | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 本船名・航海番号 | (記入) | (記入) |
| 寄港地・仕向港 | (記入) | (記入) |
| 積替え地・積替え回数 | (記入) | (記入) |
| 一時保管の場所・目的 | (記入) | (記入) |
| 保管日数・管理者 | (記入) | (記入) |
| 出荷予定日・到着予定日 | (記入) | (記入) |
埋めた表のうち、積替えが増えた行と、通常輸送から外れる保管が生じた行を保険会社に示し、その区間の戦争危険・通常物損・滞貨の扱いを一つずつ確認します。
三井住友海上と東京海上日動の公開案内では、遅延に起因する損害や違約金等の間接損害が主な不払例に挙げられています。迂回で到着が遅れた場合も、貨物の物的損害とは切り分けて自社証券を確認します。契約先の付保要求に遅延関連の補償が含まれているかどうかも、この段階で貿易担当と確かめておきます。
制裁と引受制限は出荷前に個別確認する
制裁の確認は、法令上の可否と保険の引受・支払可否という二つの判断を分けて進めます。財務省の経済制裁対象者リストに載っていないことは、外為法上の一つの確認材料にすぎず、それだけで出荷できると結論づけることはできません。同ページは2026年7月15日現在の表示を2026年7月16日に確認したもので、出荷時には更新後のリストを再確認します。輸出管理、他国の制裁、決済銀行の審査、保険会社の引受・支払判断はそれぞれ別に動くため、国名だけで判断せず、取引当事者、船舶、決済銀行、貨物、寄港地を個別に確かめます。
次の表は、法令判断と保険判断を混ぜないよう、確認対象ごとに一次的な確認先と参照資料、出荷判断への戻し先を割り当てたものです。
| 確認対象 | 一次的な確認先 | 参照資料 | 出荷判断への戻し先 |
|---|---|---|---|
| 取引当事者・荷受人 | 法務・コンプライアンス | 財務省 経済制裁対象者リスト、外為法 | 経営の出荷継続・保留 |
| 船舶・船会社・寄港地 | 物流・フォワーダー | Booking、船会社通知 | 経営の出荷継続・保留 |
| 決済銀行・信用状 | 財務・銀行担当 | 銀行の審査、L/C条件 | 経営の出荷継続・保留 |
| 保険引受・支払可否 | 保険会社・保険担当 | 証券、約款の制裁条項 | 経営の出荷継続・保留 |
各行の確認結果を経営に集約し、法令上の判断と保険の引受・支払の見通しを分けて示すと、出荷を続けるか止めるかの判断材料が整います。
出荷継続・保留を決める資料を一つにまとめる
ここまでの照合結果は、担当ごとに散らばったままだと出荷判断に使えません。証券とOpen Policy・個別Certificate、Booking/B/L、航路変更通知、旧新の寄港地、積替え地、出荷日、貨物価額、契約先の付保要求を出荷判断の材料として一つに集約し、不足している情報と、解釈が割れている条項を明示します。集約の途中段階でも個別照合を並行して進めると、保険会社への質問が具体的になり、回答も証券に紐づいた形で返ってきます。
航路変更後の補償境界は、次の項目を証券に紐づけて確認していきます。Nayutaは、通知を受けた直後の段階からご相談を受け、確認の順序を一緒に決めます。
- 証券(Open Policy・個別Certificateを含む)と付帯している戦争・ストライキ約款
- Booking、B/L案、船会社の航路変更・寄港停止通知
- 旧新の寄港地・仕向港、積替え地、出荷予定日
- Invoice価額・保険金額、契約先の付保要求
- 受領した変更・解約通知の文言と発効時刻
航路名だけで補償の継続を判断せず、本船、寄港地、積替え地、保管、出荷日、貨物価額を一つずつ照らし合わせると、出荷継続・保留の判断に足りない情報が見つかります。判断に迷う点が一つでもあれば、Nayutaが状況を伺い、出荷判断に必要な確認を一緒に進めます。まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
ICC(A)に戦争危険は含まれますか
ICC(A)は広い範囲の物的損害を担保しますが、戦争危険は協会戦争約款、ストライキ・暴動危険は協会ストライキ約款という別の約款で扱われます。ICC(A)を付けているという理由だけで戦争危険まで同じ範囲・同じ期間で担保されるとは限らないため、証券に戦争約款・ストライキ約款が付帯しているかを個別に確認します。
戦争危険のon board onlyとは何ですか
戦争危険を、貨物が本船に積み込まれてから荷卸しされるまでの海上区間に限って担保するという一般的な言い回しです。損保ジャパンの現行案内でも、戦争危険は原則として陸上では担保されず、本船上にある間が中心とされています。陸上保管や内陸輸送の扱いは約款の版・特別約款・証券記載で変わるため、自社契約の条項に戻して確認します。
航路変更後も自動的に補償されますか
航路名が変わっても自動的に同じ補償が続くとは限りません。本船、寄港地、積替え地、保管、出荷日が証券やBookingとずれると補償の前提が動き、危険の著しい変更・増加や証券記載以外の輸送用具を使うときには通知義務が生じることもあります。出荷前に差分を保険会社へ確認します。
迂回中の積替えや倉庫保管は補償されますか
積替えの回数や、通常の輸送過程に含まれるとはいえない保管の有無・目的・日数によって扱いが分かれます。通常の輸送過程ではない保管中の危険が不払例として案内されることもあるため、迂回後の保管を通常輸送と同一視せず、保管区間ごとに担保の有無を確認します。
遅延や違約金は補償されますか
三井住友海上と東京海上日動の公開案内では、遅延に起因する損害や違約金等の間接損害が主な不払例に挙げられています。迂回で到着が遅れても、貨物の物的損害とは切り分けて考え、契約先の付保要求に遅延関連の補償が含まれるかを別途確認します。
追加保険料はいくらになりますか
戦争・ストライキ危険の保険料率は政治・社会情勢によって変わり、本船の積地出帆日等の料率が適用されるという案内もあります。固定の相場を示すことはできず、金額は貨物・航路・時期・証券条件で決まるため、具体的な条件を提示して保険会社へ見積りを確認します。
参考一次情報・公的資料
- 損害保険ジャパン「各契約に適用される約款」
- 損害保険ジャパン「保険期間」
- 三井住友海上「外航貨物海上保険 保険条件」
- 東京海上日動「外航貨物海上保険(包括契約用)重要事項説明書」(2021年4月版)
- 東京海上日動「補償内容」
- 財務省「経済制裁措置及び対象者リスト」
情報確認日:2026年7月16日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月16日
本記事は一般的な情報提供であり、補償・引受・保険料・保険金の支払は商品・約款・契約条件・個別の事情によって決まります。制裁・輸出管理・契約・法務・会計・税務にかかわる判断は、それぞれの専門家や関係機関への確認が必要になり得ます。紛争・航路・制裁に関する情報は時期により変わるため、出荷判断の前に自社証券と最新の一次情報を確認してください。