
非上場企業でも、D&O保険は検討対象になります。判断の分かれ目は上場しているかどうかではなく、取締役や監査役などの役員個人に損害賠償請求が向いたとき、その防御費用を誰の予算で出すのかという点です。会社法429条1項は上場・非上場で線を引かず、従業員・取引先・債権者といった第三者からの請求は非上場企業でも起こります。まず「役員個人の名前で請求が届いたら、初動の弁護士費用と調査費用をどこから出すか」を確認するところから始めます。
Summaryこの記事のポイント
- D&O保険は、上場企業の株主代表訴訟だけでなく、非上場企業の役員個人に対する損害賠償請求や争訟費用にも関わる保険です。
- 会社法429条1項は、役員等が職務について悪意または重大な過失により第三者へ損害を与えたときの責任を定めており、対象を上場会社に限っていません。
- 厚生労働省の個別労働紛争解決制度の施行状況では、令和7年度の総合労働相談件数が1,198,010件、「いじめ・嫌がらせ」の相談が55,614件と公表されており、労務判断は役員責任に波及し得る経営テーマです。
- 保険金は請求すれば自動で出るものではなく、被保険者側が請求内容・損害・金額・職務との関係・発生時期を示す資料を提出し、保険会社が約款、事実関係、免責事由の有無を調査したうえで支払対象を判断します。
- 会社の顧問弁護士・会社補償・D&O保険は役割が異なり、見積り前に役員名簿、取締役会議事録、資金繰り表、労務相談履歴を整理すると論点が絞れます。
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非上場でもD&O保険を検討する理由
非上場企業でD&O保険を検討するかどうかは、株主代表訴訟の有無ではなく、役員個人に請求が向いたときの「防御費用の空白」で判断します。上場企業の株主が起こす訴訟をイメージすると、非上場企業には縁遠く見えます。しかし実際に問題化するのは、従業員・取引先・債権者・遺族など、会社の外にいる第三者からの請求です。
見落とされやすいのは、請求の宛先です。トラブルが起きた当初は「会社の問題」に見えても、内容証明や訴状の宛先に代表取締役・担当取締役・監査役・退任役員の氏名が記載されると、そこから先は役員個人の防御という別の論点に変わります。この瞬間に、会社の顧問弁護士費用、役員個人の弁護士費用、会社が役員を補償できる範囲、D&O保険で扱える範囲を切り分けることになります。
役員個人の防御費用とは、請求を受けた役員が事実関係を調査し、反論し、和解や訴訟に対応するためにかかる弁護士費用・調査費用・鑑定費用などを指します。ここで実務的に重いのは、費用が「会社に一括で一つ」ではなく、役員一人ひとりに発生し得るという点です。代表取締役、担当取締役、監査役の三名が同じ事案で名指しされ、それぞれ利害が食い違えば、別々の代理人を立てる展開になり、着手金・報酬金・実費が人数分積み上がります。会社の資金で立て替えればよいと考えがちですが、会社と役員の利害が対立する局面では、会社の費用でそのまま役員個人を守り切れないことがあります。D&O保険は、この初動の空白を、役員個人を被保険者として埋める手段の一つとして位置づけられます。
会社法429条1項は何を問題にするのか
会社法429条1項は、役員等が職務を行うについて悪意または重大な過失があったとき、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う、という構造です。ここでいう第三者は株主に限られません。従業員、取引先、債権者、顧客、遺族などが請求主体になり得ます。会社の規模や上場区分ではなく、経営判断・労務管理・資金繰り・説明義務の失敗が役員個人の責任として争われ得る点が、この条文の要点です。
役員責任をめぐる会社法の条文は、役割ごとに読み分けると混同しません。まず423条1項は、役員等が任務を怠って会社に損害を与えたときの、会社に対する責任を扱います。これに対して429条1項は、悪意・重過失を要件に、第三者に対する責任を扱います。つまり「会社への責任」と「会社の外の第三者への責任」は別々の入口です。非上場企業で身近に問題化しやすいのは、後者の第三者責任のほうです。
非上場企業で見落とされがちなのは、誰が対象になるかという範囲です。常勤で経営に関与している役員だけでなく、親族を頭数合わせで登記した非常勤取締役、名前だけを貸した名目的な取締役、監査を実質的に行っていない監査役も、登記上の役員である以上は429条1項の対象から外れるわけではありません。「自分は名前だけだから関係ない」という前提が、いざ請求が届いたときに最も崩れやすい部分です。取締役会に出ていない、報告を受けていないという事情が、かえって監視義務を怠った重過失の主張材料にされることもあります。
費用を誰が負担するかは、さらに別の条文が関わります。430条の2は会社が役員等を補償する「補償契約」を、430条の3は会社が保険料を負担する「役員等賠償責任保険契約(D&O保険)」を定めています。責任の有無を決めるのが423条・429条で、その費用と賠償金を会社や保険でどう受け止めるかを決めるのが430条の2・430条の3、という関係です。誤解しやすい境界は、悪意・重過失があれば当然に保険で全額まかなえる、という理解です。実際には、責任の成否と保険金の支払いは別の判断であり、故意・犯罪行為・不正利得などは対象外に整理されます。
最初に見るべきなのは株主の数ではなく、役員個人の名前で請求を受けたときに防御費用を出せる体制があるかどうかです。
非上場企業で該当しやすい場面
役員個人への請求が問題になりやすいのは、会社の判断と個人の判断が外から見て分かれにくい場面です。たとえば従業員50人規模の会社で、長時間労働の管理、ハラスメント相談、主要取引先への説明、資金繰り悪化時の支払判断を、社長と管理部長だけで回しているとします。事故やトラブルの後には「役員として何を把握し、何を放置したのか」が問われ、把握の履歴が残っていないと、説明そのものが難しくなります。
| 場面 | 役員個人に波及する論点 | 先に見る資料 |
|---|---|---|
| 長時間労働・過労・安全配慮 | 労務管理体制を役員が把握し、是正していたか | 勤怠記録、産業医面談記録、取締役会議事録 |
| ハラスメント・不当解雇 | 相談窓口、調査、再発防止が機能していたか | 就業規則、相談履歴、懲戒・面談記録 |
| 資金繰り悪化・取引先対応 | 支払不能を認識しながら取引を継続し説明したか | 資金繰り表、金融機関資料、取引先説明資料 |
| M&A・事業承継・社外役員招聘 | 買収後の偶発債務、説明責任、社外役員の防御費用 | DD資料、株主間契約、役員就任承諾書 |
この表は、自社の直近12〜24か月の予定と照らして、どの行が当てはまるかを確認するために使います。一つでも当てはまれば、役員個人への請求と防御費用を具体的に想定する段階に入っていると読み替えられます。特に資金繰り悪化の局面は要注意で、支払不能を認識しながら仕入れや発注を続けたと後から評価されると、取引先や債権者から代表者個人へ429条1項に基づく請求が向かう典型例になります。事業承継やM&Aでは、売り手側の役員が退任後に、在任中の説明や偶発債務をめぐって買い手や新株主から追及されることがあり、退任したから終わりとはなりません。
日本損害保険協会「経営者・役員のリスク」では、長時間労働を原因とする死亡事案で約8,000万円の支払いが命じられた例、職場いじめをめぐり代表取締役への請求で慰謝料約300万円・弁護士費用約100万円が問題になった例が紹介されています。ここで見るべきなのは金額の大きさだけではなく、労務トラブルが「会社の人事問題」から「役員個人の防御費用」へ切り替わる瞬間です。これらの事例額は、役員個人が負い得る責任額の幅を具体的に示す資料として読むもので、保険料の水準とは切り離して見ます。保険料が見合うかどうかは、対象役員と想定請求を踏まえた個別の見積りを取ったうえで判断します。M&Aや事業承継では、買収後に発覚した偶発債務や、金融機関出身の社外役員を迎えた際の防御体制が、就任判断そのものに影響します。
労務リスクはD&Oとどこで交差するか
労務トラブルは、多くの場合まず会社と従業員の紛争として始まります。役員個人の責任へ波及するのは、安全配慮義務、ハラスメント対応、再発防止、取締役会への報告といった「役員が把握・是正すべき点」を怠ったと評価される局面です。ここが、会社法429条1項の悪意・重過失と労務リスクが交差する条件になります。相談を受けた後の調査、是正指示、その経過を記録しておけば、役員が何を把握し、どう対応したかを事実に沿って説明する資料になります。防御は保険だけで完結せず、日々の記録が初動の事実確認を支えます。
厚生労働省の個別労働紛争解決制度の施行状況によると、令和7年度の総合労働相談件数は1,198,010件で、18年連続で100万件を超えています。また、民事上の個別労働関係紛争における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は55,614件で、14年連続で最多とされています。これらの相談すべてが役員個人への請求になるわけではありませんが、労務が争点化する入口が身近であることを示す数字です。
この図はD&O保険の市場規模ではなく、非上場企業でも役員判断が労務・組織運営を通じて問われ得ることを示すための数字です。総合労働相談や雇用割合はそのまま役員個人への請求件数を表すものではなく、争点化の入口の広さを見る近接指標として読みます。
中小企業庁の2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要は、中小企業が雇用の約7割を担うと整理しています。人員増、賃上げ、労務管理といった判断は、非上場企業の役員の説明責任と切り離せません。役員が「労務は現場任せ」「総務が見ているはず」という状態のまま事故に至ると、安全配慮義務やハラスメント対応、取締役会への報告の有無を問われたときに、説明を裏づける資料が残っていないことがあります。D&Oの議論は、保険だけでなく、役員がどの管理資料を見ていたかという証拠の問題でもあります。なお、ハラスメントや不当解雇のような雇用に起因する請求は、D&O保険では対象外や別枠とされ、雇用慣行賠償責任(EPL)保険・特約で受ける設計が一般的です。労務が入口の請求は、どの証券で受けるのかを契約前に決めておかないと、請求が届いてから受け皿がなかったと気づくことになります。
会社の補償だけで足りるか
非上場企業でよくある誤解は、「会社が役員を守ればよいから、D&O保険はいらない」という考え方です。実務では、会社と役員の利害が常に一致するとは限りません。会社に対する責任追及と役員個人に対する責任追及が同時に起きると、同じ顧問弁護士が会社と役員個人の双方をそのまま代理しにくい局面が出てきます。顧問弁護士はふだん会社の立場で助言する立場であり、会社が役員の責任を主張する側に回れば、その役員個人の代理人にはなれません。
会社補償にも会社法上の枠があります。430条の2の補償契約で会社が立て替えられるのは、あくまで一定の範囲の防御費用や賠償金であり、その制限は防御費用と賠償金とで別々に置かれています。防御費用については、役員等が自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的、または会社に損害を加える目的で職務を執行したことを会社が後から知ったときに、補償した金額の返還を請求できる、というのが430条の2第3項の建て付けです。一方、第三者への賠償金や和解金は、役員等が職務を行うにつき悪意または重大な過失があったことでその責任を負う場合、同条2項3号によりそもそも補償の対象にできません。悪意・重過失があれば防御費用の補償まで当然に巻き戻ると読むと、会社補償で守れる範囲を実際より狭く見積もることになります。それでも、「会社が払うから安心」と考えていた費用が事後に役員個人へ跳ね返る場面があること自体は変わりません。さらに、補償が最も要る資金繰り悪化や倒産局面では、会社にその原資が残っていないことが少なくありません。会社が支払えない、あるいは支払ってはならない場面でも、役員個人を被保険者とするD&O保険は、会社の懐とは別の財源として機能し得ます。ここが会社補償とD&O保険の役割が重ならない核心です。
| 手段 | 使える場面 | 詰まりやすい点 |
|---|---|---|
| 会社の顧問弁護士 | 会社として事実整理・初動対応を行う場面 | 会社と役員個人の利害が分かれると代理関係が難しくなる |
| 会社による役員補償 | 会社として役員の費用負担を予定する場面 | 補償契約、社内承認、会社法上の手続の整理が要る/防御費用は図利加害目的が判明したときに返還請求、賠償金・和解金は悪意・重過失なら補償対象外 |
| D&O保険 | 役員個人に請求が向き、争訟費用や賠償金が問題になる場面 | 対象者、対象請求、免責、既知事情、EPLとの境界、支払限度額を確認する |
この表の目的は、どれか一つを選ぶことではありません。初動は会社の顧問弁護士、費用負担は役員補償と社内承認、役員個人宛請求の防御費用はD&O保険というように、費用の出口を重ならせず分けておくことが、実務的な読み方です。会社が役員の費用を負担する場合も、会社法上の補償契約や社内承認の整理が前提になり、加えて会社法430条の3は、株式会社が役員等賠償責任保険契約の内容を決定する際、株主総会または取締役会設置会社では取締役会の決議によることを求めています。保険証券だけでなく、誰が、どの範囲の役員を、どの条件で守ると決めたのかを議事録に残しておくことが、いざというときの前提になります。
D&O保険で何でも守れるわけではない
D&O保険は役員個人の責任追及に備える有力な選択肢ですが、万能ではありません。故意、犯罪行為、違法に得た利益(不正利得)、保険加入前から把握していた事情(既知事情)、一定の雇用慣行リスクなどは、約款や特約で対象外または個別判断になりやすい領域です。悪意・重過失で第三者責任が認められることと、その費用が保険で支払われることは、別の判断だという点は押さえておきます。
ここで代理店として最もお伝えしたいのは、保険金は請求すれば自動的に振り込まれるものではない、という前提です。被保険者側は請求書面、損害額、職務行為との関係、発生・請求時期を示す資料を提出します。その後、保険会社が約款と事実関係を調査し、免責事由を含む契約条件に照らして支払対象を判断します。D&O保険をはじめ賠償責任保険の多くは、損害の発生時ではなく「請求がなされた時」を基準に対象を判定する請求ベース(クレームメイド)の設計が一般的で、いつ請求を受け、いつ保険会社へ通知したかで結論が変わります。通知が遅れる、あるいは加入前にすでに紛争の芽を把握していた(既知事情)と判断されると、責任があっても支払いの対象から外れ得ます。
だからこそ、初動の証拠保全が防御費用の可否を左右します。請求のきっかけになったメール、稟議、取締役会議事録、勤怠、相談記録を、上書きや廃棄の前に確保しておくことが、後から因果関係と発生時期を説明する材料になります。特にハラスメント、不当解雇、差別的取扱いなどは、D&O保険だけでなくEPL保険・雇用慣行賠償責任特約との切り分けが要点で、日本損害保険協会も、経営者・役員のリスクに備える保険としてD&O保険を、差別的行為・ハラスメント・不当解雇等に備える保険としてEPL保険・特約を分けて説明しています。どの保険がどの請求を受けるのか、支払限度額と自己負担額(免責金額)はいくらか、複数役員・複数請求で限度額を食い合わないかを、契約前に証券で確認しておきます。
| 証券の項目 | 確認する理由 | 社内で持つ資料 |
|---|---|---|
| 被保険者の範囲 | 役員、社外役員、退任役員、重要な使用人が入るか | 役員一覧、職務分掌、登記 |
| 争訟費用・支払限度額 | 請求初期の弁護士費用・調査費用の扱いと、限度額の食い合いを把握する | 通知フロー、弁護士選任ルール |
| 免責条項・既知事情 | 故意、犯罪行為、不正利得、加入前の紛争などの除外を確認 | 過去の紛争、事故、調査履歴 |
| 通知義務・請求ベース | 請求や事情をいつ保険会社へ知らせるか、いつの請求が対象かを確認 | インシデント報告フロー、契約日・遡及日 |
| 会社訴訟担保 | 会社から役員への請求をどこまで扱うか | 取締役会議事録、社内承認ルール |
この表は、既存または見積り予定の証券を一項目ずつ突き合わせるために使います。特に被保険者の範囲と通知義務は、後から「対象外だった」「通知が遅れた」となりやすいため、契約前に確認しておくと安心です。
相談後に一緒に確認する観点
D&O保険の相談は、保険料だけを聞くと浅くなります。「誰を守るべきか」「どの請求を想定するか」「EPLやサイバー保険とどこで分けるか」という論点を那由他と一緒に確認していくと、話が具体的に進みます。保険料、支払限度額、免責金額、対象役員の範囲に加えて、役員個人が自腹で弁護士を探す状態を避けられるかを並べて見ます。
- 現在の役員名簿、退任役員、社外役員、子会社・関連会社の役員兼務状況
- 定款、株主構成、取締役会設置会社かどうか、直近の取締役会議事録
- 既存のD&O保険証券、約款、見積書、支払限度額、免責金額、契約日・遡及日
- 雇用慣行リスクに関するEPL保険・特約の有無
- 過去3〜5年の労務トラブル、ハラスメント相談、訴訟・内容証明・事故報告の履歴、勤怠・相談履歴
- 資金繰り表、金融機関資料、M&AのDD資料、株主間契約など今後12〜24か月の経営イベント資料
これらは、ご相談のあとに那由他と一緒に確認していく項目です。効いてくるのは見積りの精度だけではありません。過去の紛争履歴は既知事情の有無を、契約日・遡及日は請求ベースでどこまで遡って守れるかを、役員名簿は誰が被保険者に入るかを、それぞれ左右します。つまり一つずつ確認していく作業そのものが、保険で拾える請求と拾えない請求を切り分ける作業になります。ここは商品パンフレットを読むだけでは判断しにくく、既存証券の文言と自社の事情を突き合わせる専門的な確認が要るところです。補償の境界は自社だけでは断定しにくいため、まずは那由他へお気軽にお問い合わせください。ご相談いただく場合は、D&O保険の保険料を並べるだけでなく、役員個人の防御費用、会社補償、EPL・サイバー保険との境界、取締役会決議に残すべき内容まで整理します。入口は「D&Oに入るべきか」ではなく、「役員個人に請求が来たとき、会社としてどこまで守る仕組みにするか」です。何がどこまで論点になるか整理できていない段階から、対象者と想定請求を一緒に洗い出すところから始められます。
FAQ
非上場企業でもD&O保険は必要ですか?
必要性は会社規模ではなく、役員個人へ請求が向く場面があるかで判断します。従業員を雇用している、取引先への説明責任が重い、資金繰り判断を役員が担っている、社外役員や後継者を迎えるといった会社では検討の余地があります。
会社法429条1項とD&O保険はどう関係しますか?
会社法429条1項は、役員等が職務上の悪意または重大な過失により第三者へ損害を与えたときの責任を定めています。D&O保険は、そうした役員個人への損害賠償請求や争訟費用に備えるための保険です。ただし責任の成否と保険金の支払いは別の判断で、支払いは約款・免責・事故内容によります。
会社の顧問弁護士や会社補償があればD&O保険は不要ですか?
顧問弁護士は初動対応で欠かせませんが、会社と役員個人の利害が分かれる場面では、同じ弁護士が双方を代理しにくいことがあります。会社補償も、補償できる範囲や社内承認、会社法上の手続の整理が前提です。会社法430条の2では、防御費用は役員等が自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的、または会社に損害を加える目的で職務を執行したと会社が知ったときに返還を請求され、第三者への賠償金・和解金は職務を行うにつき悪意または重大な過失があったことで責任を負う場合にそもそも補償できない、というように要件が分けられています。D&O保険は、会社の懐とは別に役員個人の防御費用をどう確保するかという論点を扱います。
保険に入っていれば請求時に自動で支払われますか?
自動では支払われません。被保険者側が届いた請求、損害と金額、職務との関係、発生・請求の時期を示す資料を提出し、保険会社が約款と事実関係、免責事由の有無を調査します。多くは請求ベース(クレームメイド)のため通知の時期も結論に影響し、通知の遅れや既知事情の指摘があると支払対象から外れることがあります。
ハラスメントや不当解雇もD&O保険で対応できますか?
商品や特約によって扱いが分かれます。雇用慣行リスクはEPL保険・特約で扱う設計が一般的なため、D&O保険だけで判断せず、既存契約のEPL、使用者賠償、サイバー保険との役割分担を確認します。
会社法429条1項と423条1項は何が違いますか?
423条1項は、役員等が任務を怠って会社に損害を与えたときの、会社に対する責任を扱います。429条1項は、悪意または重大な過失を要件に、従業員・取引先・債権者などの第三者に対する責任を扱います。非上場企業で身近に問題化しやすいのは、後者の第三者責任です。
参考一次情報・公的資料
- e-Gov法令検索「会社法」
- 法務省「会社法の一部を改正する法律について」
- 日本損害保険協会「経営者・役員のリスク」
- 厚生労働省「個別労働紛争解決制度の施行状況」
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 中小企業庁「2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要」
情報確認日:2026年8月3日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年8月3日
本記事は一般的な情報提供であり、特定の保険契約、保険金支払い、法的責任、コスト削減の結果を保証するものではありません。補償・引受・保険料・保険金の支払いは、保険商品、約款、契約条件、個別事情によって変わります。会社法、労務、税務、会計の判断は、弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士等の専門家への確認が必要になり得ます。