D&O保険の免責事項|免責事由と免責金額・対象外リスクの確認点

D&O保険(会社役員賠償責任保険)で「この請求は補償されるのか」を左右するのは、約款の免責条項と加入している特約の組み合わせです。故意・犯罪行為・私的利益の供与・既知の事情に基づく請求などは補償対象外(免責事由)になりやすく、同じ株主代表訴訟でも対会社訴訟担保特約が付いているかどうかで結論が分かれます。まず押さえたいのは、補償されない事象を指す「免責事由」と、自己負担額を指す「免責金額」がまったく別物だという点です。

Summaryこの記事のポイント

  • 「免責事由」は補償されない事象、「免責金額(控除免責金額)」は保険金支払時の自己負担額で、意味がまったく違う
  • 故意・犯罪行為・私的利益の供与・既知の事情・一部の対会社訴訟は、免責事由として列挙されやすい除外リスク
  • 同じ請求内容でも、遡及日(リトロアクティブデイト)や特約の設定しだいで補償の可否が分かれる
  • 役員に賠償責任が生じても保険金は自動では支払われず、期限内の事故通知と証拠の提出が前提になる
  • 証券・特約一覧・付保履歴・役員名簿・想定シナリオが自社条件を判断する材料になり、手元が未整理のままでも相談でき、那由他と一緒に整理しながら判断を詰められる

D&O保険(会社役員賠償責任保険)とは、会社の役員が職務上の行為に起因して損害賠償を請求されたとき、役員が負う賠償金や、争訟にかかる防御費用を填補する保険です。もっとも、その填補は約款が定めた範囲のなかでの話で、免責事由に当たる請求や、免責金額に満たない部分は対象から外れます。「免責事項」という言葉は、この二つをまとめて指すこともあれば、どちらか一方だけを指すこともあるため、自社のケースを持ち込む前に両者を分けておくと話が速くなります。

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「免責事由」と「免責金額」を最初に切り分ける

D&O保険の「免責」という言葉は、文脈によって二つの意味で使われます。ここを混同すると、相談時に論点がかみ合わなくなります。先に両者を分けておきます。

補償されない事象を指す「免責事由」

免責事由は、保険会社が保険金を支払わない事象のことです。故意による法令違反、犯罪行為、不正な私的利益の供与など、約款に列挙された除外リスクがこれにあたります。本記事で主に扱うのはこちらで、「そもそも保険金が出るか出ないか」を決める境界線になります。

自己負担額を指す「免責金額(控除免責金額)」

免責金額は、支払対象となる損害のうち契約者側が自己負担する金額(ディダクティブル)です。この額を超えた部分が保険金の支払対象になります。免責事由とは別の概念で、設定額が大きいほど保険料は下がる一方、実際に受け取る保険金は目減りします。両者の違いを一枚に整理すると次のとおりです。

「免責事由」と「免責金額」の違い
観点免責事由免責金額(控除免責金額)
意味補償されない事象保険金支払時の自己負担額
決まる場所約款の免責条項・除外事由契約時に設定する自己負担額
結果への影響保険金が出るか出ないかを左右する受け取る保険金額が設定分だけ減る
確認の起点除外条項と特約を突き合わせる証券記載の設定額を読む

補償対象外になりやすい免責事由はどこで確認するか

保険会社や商品によって文言は変わりますが、D&O保険で免責とされやすい代表的な除外リスクは次のとおりです。自社約款の該当条項を探す出発点として使ってください。

D&O保険で確認したい代表的な免責・除外リスク
区分想定される事由確認のポイント
故意・違法性故意による法令違反、犯罪行為、不正な私的利益の供与違法性が確定判決で認定されたときの扱い、判明前の防御費用の取り扱い
既知の事情契約開始前に役員が認識していた紛争や請求の予兆告知内容と「既知」の判定基準、遡及日の設定
対会社訴訟会社自身が役員を訴える類型(特約で扱いが変わる)対会社訴訟担保特約の付帯状況と適用条件
身体・財物損害身体障害や財物損壊に起因する賠償(他保険の領域と重複)賠償責任保険など他契約との切り分け
属地・属人海外での提訴、特定法域での請求、退任後の請求地域条項、退任役員・新任役員の担保範囲

ここで押さえたいのは、これらが「常に支払われない」と断定できるわけではない点です。たとえば故意や犯罪行為に関する事由でも、違法性が確定するまでの防御費用は先行して支払われ、後に違法性が認定された時点で返還を求める設計になっていることがあります。文言と運用は商品ごとに変わるため、約款での読み込みが前提です。

約款のどこを見れば免責事由にたどり着けるかも、あらかじめ知っておくと調べる手間が減ります。多くの商品では、保険金を支払わない事由を列挙した条項、用語の定義を定めた条項、そして個別の特約条項という三か所に、免責の手がかりが分かれて置かれています。証券の表面に印字された填補限度額や免責金額だけを眺めても、対象外の輪郭はつかめません。表面の数字と、約款本体の除外条項、付帯した特約の三点をひと組で読むのが起点になります。列挙された事由のなかでも判断が割れやすいのが、罰金・課徴金・制裁金、懲罰的な性質を帯びた賠償、環境汚染に起因する請求といった項目です。これらは一律に対象外というより、商品や特約によって扱いが分かれる灰色の帯として残ります。自社の業種で起こりやすい請求がこの帯に入るのかは、約款の文言を一語ずつ照らし合わせないと見えてきません。社内では法務・総務・経理が別々に証券や約款を保管していることも多く、まずどの部門が原本を持っているかを確かめるところから始めると、後の照合が速く進みます。他の法人保険との住み分けを整理したいときは、法人向け損害保険の種類と選び方もあわせて読むと、どの補償がD&O保険の守備範囲かを切り分けやすくなります。

時間軸と人の除外リスクは自社契約でどう変わるか

免責事由の一覧だけを追っていると、「いつの行為か」と「誰への請求か」という二つの軸を見落としがちです。この二つは、同じ事故でも契約条件によって補償の可否が分かれる代表例です。

遡及日(リトロアクティブデイト)と既往リスク

多くのD&O保険は、請求がなされた時点を基準にする請求事故方式(クレームズメイド方式)で設計されます。契約開始前に発生していた事由や、すでに認識していた紛争の予兆は「既知の事情」として除外されることがあります。保険を切り替えた経緯があるときは、遡及日の連続性が途切れていないかが分かれ目です。ここが一年でも空白になっていると、在任中の同じ行為が、旧契約でも新契約でも拾えないという事態が起こり得ます。さらに、更新のたびに前年までの告知内容がそのまま引き継がれるとは限らず、切替時に新しい保険会社へ改めて告げた内容が、その後の「既知の事情」の線引きに使われます。ここで言い落とした紛争の芽が、後日の請求で争点として蒸し返されることもあるため、告知書の控えは契約年度ごとに残しておくのが安全です。

退任役員・新任役員・子会社役員の担保範囲

誰が被保険者に含まれるかも、見落としやすい除外リスクです。退任後に提起された請求、契約後に就任した新任役員、買収で傘下に入った子会社の役員などが担保範囲に入っているかは、被保険者の定義条項や特約で変わります。組織再編やM&Aを予定しているなら、担保範囲の確認を先に済ませておくと安全です。とくに退任やM&Aの局面では、契約を解約したあとに、過去の在任期間の行為について請求が届く事態への備えが要ります。クレームズメイド方式では、証券が切れたあとに来た請求は原則として拾えないため、一定期間の報告を認める延長報告期間やランオフ特約を手当てしておくかどうかが分かれ目になります。会社を買収した側では、買収先の役員が過去に負った行為をどこまで引き継いで担保するのかも、被保険者の定義と特約で個別に決まります。役員個人のリスク全体を見直すなら、D&O保険(会社役員賠償責任保険)の選び方で補償設計の考え方も確認できます。

代理店の立場から申し添えると、同じ株主代表訴訟でも、旧契約と新契約のどちらの遡及日に引っかかるか、そして告知の時点で紛争の芽をどう書いたか、この二つで結論が反対に振れる例を実務では何度も見てきました。約款の一般論をいくら読んでも、自社の証券に印字された遡及日と、過去に提出した告知書の控えを並べて初めて、どちらの契約で拾えるのかが見えてきます。ここは一般解が効かない領域で、自社の書面を突き合わせて初めて答えが定まります。

なぜD&O保険が役員個人のリスクに効くのか

そもそもD&O保険が要るのは、役員個人が負う賠償額と、個人資産で払える額とのあいだに大きな開きがあるためです。株主代表訴訟や第三者からの請求では、認定される賠償額が個人の資力を大きく超えることがあり、防御のための弁護士費用も長期にわたります。ここを個人資産だけで受け止めるのは現実的ではありません。

企業が負う賠償責任のリスクがどれだけの規模で保険に託されているかは、業界統計からもうかがえます。日本損害保険協会「種目別統計表(2025年4月〜2026年3月)」によると、賠償責任保険の2025年度の元受正味保険料は789,313百万円(前年同期比0.5%増)です(2026年7月時点、出典)。D&O保険やPL保険を単体で示す数字ではありませんが、企業が負う賠償責任の領域が、保険料収入の面で大きな市場になっていることは読み取れます。

一方、同じ統計表では、賠償責任保険の2025年度の元受正味保険金は359,859百万円(前年同期比8.4%減)です(2026年7月時点、出典)。保険料を見るときは、金額の安さだけでなく、実際にどの請求・どの費用が支払対象になる設計かまで確認する理由があります。

ここで押さえておきたいのが、会社が役員の費用や損害を肩代わりする補償契約(会社法第430条の2)との役割分担です。会社補償の仕組みがあっても、会社自身が役員を訴える局面や、会社が経営破綻して補償の原資を欠く局面では、その仕組みは働きません。役員個人へ直接効く備えとしてD&O保険が要るのは、まさにこの会社補償が届かない領域を埋めるためです。導入の可否を保険料の絶対額だけで測ると、この住み分けを見落とします。

会社法は、会社が役員のためにこうした保険料を負担する「役員等賠償責任保険契約」(会社法第430条の3)を、所定の手続きを経て締結できる枠組みを定めています。つまりD&O保険は、優秀な人材に役員を引き受けてもらうための土台として、制度上も位置づけられた手段です。導入をためらう声として「保険料に見合うのか」という問いが挙がりますが、判断の軸は保険料の多寡ではなく、一度の重大な請求で会社と役員個人が被る損失の大きさとの比較です。損害保険の基本的な考え方は日本損害保険協会「企業のための保険ナビ」でも確認できます。だからこそ、会社補償が届かない領域を自社の証券がどこまでカバーしているかを、対会社訴訟や倒産時の担保まで含めて点検し、そのうえで補償の可否を分ける免責事由と免責金額を押さえ、自社に要る特約を組む順序が合理的です。

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保険金は自動では出ない。請求で整える準備

役員に賠償責任が生じたとしても、保険金が自動で振り込まれるわけではありません。クレームズメイド方式では、請求を受けた事実を保険会社へ期限内に通知することが支払の起点になります。通知が遅れると、それ自体が支払上の争点になり得ます。請求の局面で慌てないために、次の準備を整えておくと判断が速くなります。

  • 訴状・請求書・警告書など、請求の内容と時期がわかる書面
  • 問題とされた意思決定の議事録や稟議記録など、行為の経緯を示す資料
  • いつ何を認識したかを示す時系列メモ(既知の事情との線引きに使う)
  • 保険会社への事故通知の控えと、通知した日付の記録
  • 防御にあたる弁護士とのやり取り、費用の見積書や請求書

通知のほかにも、支払までにはいくつかの関門があります。弁護士を自社の判断だけで選び、費用を先に使ってしまうと、事前の同意がなかったとして費用の一部が支払対象から外れることがあります。相手方との和解も、金額を固める前に保険会社の承諾を得ておくのが原則です。さらに、一つの請求のなかに免責事由へ当たる部分と対象になる部分が混在するときは、保険金がその割合に応じて按分され、請求額の全額が出るとは限りません。これらはいずれも、請求を受けてから初めて動くと不利に傾きやすい論点で、通知の窓口や承諾を取る手順を平時に決めておくと、いざというときの動きが変わります。上に挙げた書面は、免責事由へ当たるかどうかを見極める材料であると同時に、支払対象となる損害の範囲を確定するための証拠にもなります。雇用に関する請求が絡む場面では、使用者賠償と雇用慣行賠償の備え方で扱う保険との切り分けも論点になります。

免責の射程を左右する確認観点と資料

自社の証券だけで免責の射程を読み切るのは難しく、判断を分けるのは次の観点です。すべてが手元で整理できていなくても構いません。分かる範囲のままご相談いただければ、残りは那由他が一緒に確認していきます。

  • 加入中のD&O保険の約款・特約一覧がそろっているか
  • 填補限度額と免責金額(自己負担額)の設定値を把握しているか
  • 対会社訴訟担保特約など、追加特約の付帯状況を確認しているか
  • 遡及日(リトロアクティブデイト)と過去の切替経緯を整理しているか
  • 退任役員・新任役員・子会社役員の担保範囲を把握しているか
  • 海外提訴や特定法域での請求リスクの有無を洗い出しているか
  • 株主代表訴訟や第三者請求など、想定する紛争シナリオがあるか

実際の読み込みでは、次のような資料を照らし合わせます。どこまで確認できているかにかかわらず、相談のなかで那由他が一緒に突き合わせ、自社条件に即した精度の高い読み込みにつなげます。

D&O保険の免責確認に用いる主な資料
資料確認できること
保険証券・約款填補限度額、免責金額、免責条項の文言
特約条項一覧対会社訴訟担保・退任役員担保などの付帯状況
過去の付保履歴遡及日の連続性、切替時の空白期間の有無
組織図・役員名簿被保険者の範囲、子会社・新任役員の扱い
想定シナリオ資料株主代表訴訟・第三者請求など具体的リスクの整理

保険募集や約款の運用に関する行政の考え方は、金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」で確認できます。免責の射程は、約款の文言・特約の組み合わせ・個別の請求内容の三つを突き合わせて初めて見えてきます。ここまで見てきたとおり、故意や既知の事情に当たるか、対会社訴訟の特約が効くか、遡及日が連続しているか、そして請求が期限内に通知されているか、この四つは自社の証券と約款、告知書の控えを並べないと結論が出せません。一般論だけでは「自社のこのケースが対象か」までは読み切れないのが、免責という論点の残された宿題です。那由他保険テクノロジーズでは、証券・約款・特約条件・過去の告知や通知義務までを横断して照らし、自社の紛争シナリオに即した見立てをご案内しています。

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よくある質問

D&O保険では故意の不正行為は一切補償されないのですか

故意の違法行為や犯罪行為は、免責事由として列挙されているのが一般的です。ただし、違法性が確定するまでの防御費用については、商品によって先行支払と後日返還の設計になっていることがあります。自社約款の文言と運用を突き合わせたうえで判断する論点です。

株主代表訴訟は補償の対象になりますか

株主代表訴訟は対象として想定されている類型ですが、対会社訴訟に関する特約の付帯状況や、請求内容に故意・違法性が含まれるかで扱いが変わります。特約条項と具体的なシナリオを突き合わせて確認することをおすすめします。

退任した役員への請求も補償されますか

退任役員が担保範囲に含まれるかは、被保険者の定義条項や退任役員担保特約の有無で決まります。在任中の行為に起因する請求であっても、契約条件によって扱いが変わるため、約款と特約での確認が欠かせません。

免責金額(自己負担額)はどう設定すればよいですか

免責金額を高く設定すると保険料は下がりますが、実際に請求を受けたときの自己負担は増えます。想定する請求規模と、自社が一時的に負担できる資金余力のバランスで決めるのが基本です。填補限度額とセットで、証券記載の設定値を確認してください。

免責事由に当たった請求は、他の保険でカバーできますか

身体障害や財物損壊に起因する賠償など、D&O保険の対象外でも、賠償責任保険といった他の契約が受け皿になることがあります。ただし補償範囲は契約ごとに変わるため、どの保険がどのリスクを担うのかを一度に見取り図として整理しておくと、抜け漏れを防ぎやすくなります。

賠償責任が認められれば保険金は自動的に支払われますか

自動では支払われません。請求を受けた事実を期限内に保険会社へ通知し、請求内容や損害を示す資料を提出したうえで、免責事由に当たらないかの確認を経て支払が判断されます。通知が遅れると支払上の争点になり得るため、早い段階での連絡が肝心です。

参考一次情報・公的資料

情報確認日:2026年7月3日

執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月3日

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。補償の有無、引受の可否、保険料、保険金の支払は、商品・約款・契約条件・個別事情によって変わります。法務・税務・労務・会計にわたる判断は、弁護士・税理士・社会保険労務士などの専門家に確認してください。