
2026年10月5日、広告運用会社のGoogle広告マネージャーアカウントが第三者に乗っ取られ、配下の顧客アカウントからオンラインカジノへ誘導する広告が無断で配信されました。連絡が取れた顧客の約半数で広告費用の発生が確認されています。同じことが自社で起きたとき、その不正広告費は誰が負担するのか。顧客に請求できるのか、媒体は返金するのか、保険は使えるのか。広告代理店や広告運用会社の担当者が最初に突き当たる問いです。この記事では、公表されている2つの事故を手がかりに、広告代理店に固有の6つのサイバーリスクを整理し、サイバー保険で対象になりやすい損害と、対象外になりやすい損害を一般論として解説します。結論を先に言うと、保険が見るのは「顧客に対する賠償責任」と「自社の調査・対応費用」です。自社が立て替えた広告費そのものは原則として対象外ですが、顧客との契約の建付けによっては、顧客からの損害賠償請求という形で媒体費相当額が対象になる余地があります。この線引きを知っているかどうかで、契約の設計も事故後の動きも変わります。
なお、本記事は特定の保険会社、保険商品、保険契約や特約の内容を説明するものではなく、一般的な考え方の整理です。個別の保険金請求の可否は、ご契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。
Summaryこの記事のポイント
- 乗っ取りで発生した不正広告費の損害は、顧客に生じた損害への賠償、自社が負担する広告費、自社の調査・対応費用の3つに分かれる。サイバー保険が対象にするのは主に1つ目と3つ目で、2つ目は顧客との契約の建付け次第で1つ目に移る余地がある。
- 顧客情報の漏えいと委託先起因の事故は、多くのサイバー保険で基本の対象になる。預金の不正送金と著作権侵害は、上乗せや対象業務の特定を条件に対応する商品がある。
- 入稿ミスや予算設定ミスのようにサイバー攻撃を伴わない業務上の誤りは、サイバー保険では対象外とされるのが一般的で、顧客との契約で責任範囲を決めておく必要がある。
- 顧客との契約で無過失責任や定額の返金を約束すると、法律上の責任を超えた部分として保険の対象から外れやすい。責任を認める前に保険会社へ連絡する。
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広告代理店で実際に起きた2つの事故
広告アカウントの乗っ取りは、公表される事故としては数が多くありません。顧客との関係上、公表しない会社が大半だからです。その中で、経過を自社で公表した2件を公表文の範囲で整理します。原因の巧拙や会社の対応への評価は行いません。
| 項目 | Google広告の事例(2026年10月) | Meta広告の事例(2025年3月) |
|---|---|---|
| 公表した会社 | ソルティドッグ株式会社(インターネット広告の運用) | 株式会社sienca(広告会社、自社ブログで公表) |
| 起点 | 管理業務に使っていたGoogleアカウントの1つへの不正アクセス。パスキーとセキュリティキーによる2段階認証を設定していたが、侵入経路は特定できていない | 退職済み社員の個人Facebookアカウントの乗っ取りと推測。二段階認証は未設定で、広告マネージャへのアクセス権限が残っていた |
| 手口 | 14時02分に認めていない3件のユーザーが管理者権限で追加され、1分後に自社の管理者権限が取り消された。配下の顧客アカウントが外部のマネージャーアカウントにつなぎ替えられ、オンラインカジノへ誘導する広告が複数の形式で作成された。日予算は極端に高額 | 海外向けとみられる動画・画像広告が作成され、悪質なサイトへ誘導。「停止から30分後に自動再開する」ルールが仕込まれ、止めたキャンペーンが再開した |
| 費用の発生 | 連絡が取れた顧客の約半数で広告費用の発生を確認。残りは広告審査で不承認となり配信に至らず | 約10時間で利用金額3,124,580円。設定していた日予算は5万円 |
| 止めた方法 | 10分以内にGoogleの代理店担当者へ報告し、14時33分に不正アクセス報告フォームを送信。19時11分にGoogleから保護措置完了の連絡 | 全キャンペーン停止後も自動再開で拡大。決済に使っていたクレジットカードをカード会社に連絡して一時停止したことで止まった |
| 返金の経過 | 返金の可否と金額はGoogleの調査で決まり、調査に10〜15営業日程度。認められた場合は翌月の請求書に「サービス調整」として反映。同社からの補填は行わないと案内 | Metaのサポートからは、ハッキングが正式に認められない限り返金しないと説明。約2か月後にカード会社のチャージバックで返金 |
| 再発防止 | 管理用アカウントへの追加認証、アクセス権限の最小化、利用端末と環境の安全性確認、管理体制の見直し | 全ユーザーへの二段階認証の義務化、退職時の権限削除ルール、毎月のアカウント棚卸し、新カードへの日次利用上限 |
2件に共通する点が3つあります。1つ目は、起点が「人のアカウント」だったことです。退職者の個人アカウントも、2段階認証を設定した管理用アカウントも、乗っ取られれば配下の顧客アカウントごと操作されます。広告アカウント自体を守るだけでは足りません。2つ目は、お金が出ていく先がカードか媒体への請求かのどちらかで、止めるには媒体への報告と並行して決済手段そのものを止める必要があったことです。3つ目は、返金が媒体の調査次第で、しかも時間がかかることです。Googleの事例では10〜15営業日、Metaの事例では媒体からの返金はなく、カード会社のチャージバックで約2か月後に戻っています。この間、広告費を立て替えているのは代理店です。媒体が返金に応じない可能性も当然あります。その場合、手数料を収益の源泉とする広告代理店は、手数料の何倍にもなる不正広告費の立替損と顧客への損害賠償責任を同時に抱えることになり、吸収しきれない規模になることも考えられます。
広告代理店に固有の6つのサイバーリスク
広告代理店のサイバーリスクは、一般の会社と同じ情報漏えいに加えて、顧客の広告アカウントと広告費を預かる業態ならではの損害があります。相談で挙がることが多い6つを、どこで起きるか、誰が損をするかで整理します。
| リスク | 起きる場所 | 損害を受けるのは誰か |
|---|---|---|
| 1. 法人口座への不正アクセスによる不正送金 | 自社のインターネットバンキング、経理担当者のメール | 自社(預金そのもの) |
| 2. 広告アカウント乗っ取りによる広告費の不正消化 | 管理用アカウント、顧客アカウント、登録済みのカード | 顧客(顧客カードへの課金)と自社(自社カード・媒体請求の立替) |
| 3. 入稿ミス・予算設定ミスによる損害 | 運用担当者の操作 | 顧客(想定外の広告費、機会損失) |
| 4. 制作したクリエイティブの著作権・商標権侵害 | バナー、動画、LP、SNS投稿の素材 | 権利者(直接請求)と顧客(顧客経由の請求) |
| 5. 顧客情報・取引先情報の漏えい | LPのフォーム、CRM、LINE公式アカウント、配信用の顧客リスト | 本人と、情報を預けた顧客企業 |
| 6. 委託先の端末や認証情報の侵害 | フリーランスや外注先の端末、共有ID、外部SaaS | 顧客(元請けである自社に請求が来る) |
この表で見てほしいのは右の列です。損害を受けるのが「顧客」なら、自社に生じるのは顧客への賠償責任です。損害を受けるのが「自社」なら、自社の費用や損失です。保険ではこの2つを別の補償として扱うので、対象になるかどうかの結論も分かれます。
広告アカウント乗っ取りで発生する不正広告費の損害は3つに分かれる
広告アカウントの乗っ取りで最も相談が多いのが「不正広告費は保険で戻るのか」です。答えるには、ひとまとめに「不正広告費」と呼んでいるものを3つに分ける必要があります。分けないと、答えは出ません。
1. 顧客に生じた損害への賠償
顧客のカードが広告アカウントに登録されていて、不正広告費がそのカードに課金された場合、損害を受けたのは顧客です。顧客は代理店に「アカウント管理に過失があった」として損害賠償を求めます。代理店がこの請求に法律上の責任を負う場合、その賠償金はサイバー保険の賠償責任の補償で対象になり得ます。預かっていた顧客の認証情報が漏れた、あるいは代理店が管理する広告管理アカウントの管理に起因して顧客に損失が生じた、という整理です。不正アクセスはサイバー攻撃に当たるため、「誤発注」の類として免責になる扱いは通常受けません。
ただし、対象になるのは法律上の損害賠償責任に基づく金額だけです。顧客との契約で上乗せした責任、違約金、運用手数料の返還は対象になりません。また、顧客名義のアカウントに管理権限をもらって運用している形態では、「他人が使うシステムの管理」として基本の補償から外れ、対象業務を特定した補償の追加が必要になる商品があります。これは、保険会社・代理店に必ず伝えておくべき点です。
2. 自社が負担することになった不正広告費
自社のカードを広告アカウントに登録して立て替えている場合や、媒体から月次で請求を受けている場合、不正広告費はまず代理店に請求されます。顧客が「不正分は払わない」と言えば、代理店の負担です。ここが一番の誤解が起きる場所です。この損害は、顧客への賠償ではなく、自社の立替金の回収不能に近い性質です。サイバー保険の賠償責任の補償は「他人に対する法律上の損害賠償金」を対象にするので、ここには届きません。費用の補償にも、不正に発生した広告費そのものを補う項目は通常ありません。
ただし、出口がないわけではありません。顧客がいったん広告費を全額支払い、その後に代理店のアカウント管理上の過失による不正分が含まれていたと判明し、顧客が代理店に法律上の損害賠償を請求する。この形になれば、顧客が被った媒体費相当の損害は1つ目の「顧客への賠償」に移り、賠償責任の補償で検討する余地が生まれます。一方、請求の実態が請求書の訂正や過大請求分の返金、手数料の返還にとどまる場合や、契約で自動的に返金すると定めている場合は、業務の対価の返還として対象外です。代理店が本来負担すべき立替損を顧客経由で付け替えただけと評価されても、対象になりません。分かれ目は4つです。請求の法的根拠が損害賠償か返金か。顧客が代理店の過失を主張しているか。返還の対象が媒体費か報酬か。契約が法律上の責任を超えた義務を課していないか。この建付けは事故が起きてから作れるものではなく、業務委託契約と請求書の書き方を保険の約款に照らして事前に設計しておく、リスクマネジメントの問題です。
では預金の不正送金を補償する上乗せの補償で拾えるかというと、多くの商品で対象は「口座の預貯金が不正な指示で送金されること」に限られ、クレジットカードなどキャッシュレス決済の不正利用は対象外とされています。広告アカウントに登録済みのカードへの課金は、カード番号が漏れたのでも偽造されたのでもなく、正規に登録された決済手段が使われたものです。回収の手段は、実質的にカード会社のチャージバックに限られます。Metaの事例で約2か月かかったのは、この経路です。
3. 自社の調査・対応費用
侵入経路の調査、顧客への説明、弁護士への相談、再発防止のためのシステム対応。これらは事故が起きた会社自身の費用で、サイバー保険の費用補償の典型的な対象です。情報の漏えいが疑われる段階でも対象になる商品が多く、漏えいが確認できなくても調査費用は補償されるのが一般的です。保険会社の事前承認が必要な費目があるので、支出する前に連絡するのが原則です。
保険が機能するのは「顧客に賠償する場面」と「自社で調査・対応する場面」の2つです。立て替えた広告費は、そのままでは保険に乗りません。顧客との契約と請求の建付けを通じて「顧客への賠償」の形に整えられるかどうかが分かれ目で、ここは事前の設計次第です。
サイバー保険で対象になりやすいもの、なりにくいもの
6つのリスクについて、一般的なサイバー保険での扱いを整理します。商品によって条件が異なるため、個別の契約では約款と保険会社の確認が必要です。
| リスク | 対象になり得るもの | 対象外になりやすいもの |
|---|---|---|
| 1. 法人口座の不正送金 | 基本の補償ではなく、任意で追加する補償で預貯金の盗取・詐取に対応する商品がある。取引先を装ったメールで誤送金させられる被害を含むものもある | カードなどキャッシュレス決済の不正利用、暗号資産、従業員や契約先の犯罪、脅迫による送金。警察と金融機関への届出が条件になるのが一般的 |
| 2. 不正広告費(広告アカウント乗っ取り) | 顧客に生じた損害について自社が法律上の賠償責任を負う部分。顧客が支払った媒体費に不正分が含まれ、顧客から法律上の損害賠償請求を受けた場合の媒体費相当額(契約の建付けが前提)。自社の調査・顧客対応の費用 | 自社カードへの課金、媒体への支払い、顧客からの未回収分といった自社が負担する広告費そのもの。運用手数料の返還、契約で定めた自動返金 |
| 3. 入稿ミス・予算設定ミス | 設定ミスで顧客のシステムや受付が止まる、データが消えるといった事故は、対象業務を特定したうえで対象になる商品がある | サイバー攻撃を伴わない発注・設定の誤りによる広告費。業務のやり直し、追完、履行遅滞による損害 |
| 4. クリエイティブの著作権侵害 | デジタルコンテンツの表示・配信に起因する著作権・商標権などの侵害を、対象業務を特定したうえで一定の条件で補償する商品がある | 権利者に本来支払うべき使用料相当額。紙媒体や看板など画面上の表示・配信によらない成果物。特許権など対象に列挙されない権利。差し替えややり直しの費用 |
| 5. 顧客情報・取引先情報の漏えい | 本人と情報を預けた顧客企業への賠償。調査、通知、問い合わせ窓口、法律相談の費用。漏えいの「おそれ」の段階の対応費用 | 顧客との契約で上乗せした責任、違約金、罰金・課徴金 |
| 6. 委託先起因の侵害 | 自社が委託先に預けた顧客情報が委託先側で漏えいした場合の、顧客から自社への賠償請求。外部SaaS側の侵害も同様 | 委託先自身の賠償責任と対応費用(委託先は被保険者ではない) |
5の情報漏えいは、サイバー保険の中核です。LPのフォームで取得した問い合わせ情報、コンバージョン計測のための購入者データ、顧客のCRMの中の顧客情報、LINE公式アカウントの友だち情報、広告配信のオーディエンス作成用に預かる顧客リスト。広告代理店はこれらを「預かった他人の情報」として大量に扱います。預かった情報の漏えいで顧客企業から請求を受ける場面は、基本の補償が想定している典型的な事故です。
6の委託先起因も、考え方は同じです。預かった情報をフリーランスや外注先に渡して作業させていた、あるいはCRMや計測ツールなど外部のSaaSに置いていた。そこで漏えいが起きれば、顧客から見た責任の相手は元請けである代理店です。自社が管理を委託した他人の情報の漏えいとして、代理店の賠償責任は対象になり得ます。委託先に共有IDやアクセス権限を付与する行為自体は漏えいではありません。一方で、委託先自身が負う責任や委託先の対応費用は、委託先が被保険者でない以上、代理店の保険からは出ません。委託先には委託先の保険が必要です。
4の著作権侵害は、条件が最も込み入っています。著作権や商標権の侵害は多くの賠償責任保険で免責です。その例外として、画面上で表示・配信されるデジタルコンテンツに起因する侵害を、Webサイト制作やデジタルコンテンツ制作といった対象業務を特定したうえで補償する商品があります。この場合でも、権利者に本来支払うべき使用料相当額は対象外です。素材の無断使用で請求を受けたとき、正規のライセンス料に当たる部分は自社負担で、それを超える損害賠償金と争訟費用が補償の対象になる、という構造です。クリエイティブ制作をどの業務区分として申告するかで結論が変わるため、契約時に業務内容を具体的に伝える必要があります。
入稿ミスや予算設定ミスは、サイバー保険とは別の問題
日予算の桁を間違えた、キャンペーン終了後に停止し忘れた、管理画面上で別の顧客のアカウントに誤って入稿した。広告運用の現場で最も起きやすい事故ですが、これらはサイバー攻撃を伴わない業務上の誤りです。多くのサイバー保険は、商品やサービスの誤発注、業務のやり直しや追完、履行遅滞に起因する損害を免責にしています。日予算の入力ミスや停止漏れによる広告費の超過はこの免責に該当し得る、というのが保険会社の整理で、サイバー攻撃を伴わない限り対象外になると考えておくべきです。入っていれば運用ミスも安心、とはなりません。
例外的に、設定ミスの結果として顧客のシステムが止まる、問い合わせフォームが機能しなくなる、データが消えるといった事故は、対象業務を特定したうえで補償する商品があります。見ているのは広告費の超過ではなく、顧客の業務が止まったことによる損害です。
運用ミスの損害をどう扱うかは、保険より先に顧客との契約で決まります。予算超過の責任範囲、代理店の裁量の有無、責任の上限。契約書に定めがなければ、過失の程度と因果関係で個別に争うことになり、小規模な運用会社では手数料を大きく上回る負担が事業の継続に響きます。サイバー保険で埋まらない部分を契約で手当てしておく、という順番です。
乗っ取りを防ぐ、保険より先に効く4つの実務対策
2つの公表事例で、再発防止策として挙げられている内容は共通しています。いずれも費用はほとんどかかりません。保険の引受時に申告するセキュリティ体制の内容にもなります。
- 広告アカウントにアクセスする全員に二段階認証を義務付ける。社員だけでなく、フリーランスや外注先の担当者も含めます。Meta広告の事例では、二段階認証のない退職者の個人アカウントが起点でした。Google広告の事例ではパスキーとセキュリティキーを設定していても侵入されており、認証の強化は必要条件であって十分条件ではないことも示しています。
- 退職者と委託先の権限を即日削除し、毎月棚卸しする。管理用アカウントに紐づく顧客アカウントが数十件あれば、1つの権限の削除漏れが全顧客に波及します。管理者・ユーザーの一覧と、マネージャーアカウントとのリンク状況を定期的に確認します。
- 決済カードに日次の利用上限を設定し、緊急時の停止手順を決めておく。Meta広告の事例で被害の拡大を止めたのは、カード会社への連絡でした。媒体への報告は並行して行います。誰がどのカード会社に電話するかを、事故の前に決めておきます。
- 自動化ルールと予算の変更を監視する。「停止後に自動再開する」ルールの悪用や、日予算の極端な引き上げは、両事例に共通する手口です。予算変更やルール追加の通知を担当者以外にも届くようにしておくと、発見が早まります。
顧客との契約で注意したい点
乗っ取り事故の後、顧客との間で問題になるのは「不正広告費を誰が持つか」です。ここで契約の書き方が保険の結論を左右します。
前の節で触れたとおり、顧客が支払った媒体費に不正分が含まれていた場合、顧客からの損害賠償請求という形に整えば、賠償責任の補償で検討する余地があります。逆に、同じ金額でも「返金」「請求書の訂正」として処理すれば対価の返還となり、対象外です。契約書に何を書くか、請求書をどう切るかで、保険が使えるかどうかが変わります。
賠償責任の補償が見るのは、法律上の損害賠償責任です。顧客との契約で、代理店に過失がなくても賠償する、サイバー攻撃があれば当然に返金する、損害額を実損にかかわらず一定額とする、といった定めを置くと、法律上の責任を超えて特別に約束した部分として保険の対象から外れやすくなります。違約金やペナルティも同様です。顧客に安心してもらうために手厚い補償条項を入れるほど、保険でカバーできない自己負担が増える、という逆転が起きます。
もう1つは、媒体費と運用手数料の区分です。不正配信分の広告費に手数料を上乗せして請求していた場合、手数料部分は代理店の報酬の返還として扱われ、保険の対象になりません。契約書と請求書で媒体費と手数料を分けておくと、事故後に対象となる損害を切り分けやすくなります。
そして、事故が起きたら顧客に責任を認める前に保険会社へ連絡することです。保険会社の同意なく賠償責任を承認したり返金を約束したりすると、その分が保険金から差し引かれる場合があります。顧客対応を急ぐ気持ちは当然ですが、「調査中であり、結果に基づいて対応する」と伝えるにとどめ、先に保険会社へ事故の通知を入れる順番を守ります。
広告代理店がサイバー保険を検討するときに確認する点
日本損害保険協会の調査では、中小企業のサイバー保険加入率は8.8%にとどまります(出典:日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」2025年12月)。広告代理店は、顧客の情報と広告費を預かる業態でありながら、加入を検討する段階で「自社の業務がどの補償に当たるのか」を整理できていないことが多いのが実情です。検討時に確認しておきたい点を挙げます。
- 対象業務の範囲。広告運用代行、SNS運用、LP制作、LINE・CRM運用、データ分析のどれを行っているかで、基本の補償で足りるか、対象業務を特定した補償の追加が必要かが変わります。顧客名義のアカウントに管理権限をもらって運用する形態は、特に伝えておく必要があります。
- 委託先と外部SaaSの扱い。フリーランスへの委託やCRM・計測ツールの利用がある場合、委託先起因の事故が対象になるか、委託先自身は対象外であることを確認します。
- セキュリティ体制の申告。二段階認証の設定状況、権限管理、事故歴は告知の対象です。申告した内容と実態が違えば、事故の際に問題になります。実務対策を先に整えてから申告するのが順番です。
- 預金の不正送金への備え。基本の補償には含まれないことが多く、任意で追加する形になります。経理担当者がメールで振込先の変更指示を受ける業務フローがあるなら、検討の対象です。
那由他保険テクノロジーズが広告代理店のサイバーリスクでご支援できること
ここまでの整理は一般論です。実際には、自社の運用形態がどの補償に当たるのか、顧客との契約条項が保険の対象を狭めていないか、委託先やSaaSの構成でどこに穴があるか、といった会社固有の論点で結論が変わります。那由他保険テクノロジーズは、広告代理店や広告運用会社について、広告アカウントの管理形態と決済フロー、預かっている情報の種類、委託先の構成を起点にリスク構造を分析し、現在のご契約や検討中の商品の補償条件と突き合わせて、対象になる損害と対象外になる損害を切り分けます。そのうえで、顧客との業務委託契約と請求の建付けを保険の約款に照らして点検し、乗っ取りで発生した媒体費が賠償として補償の検討対象に乗る形になっているかを確認します。契約の見直し点の整理から、補償のギャップを埋める保険プログラムの設計、保険調達までを支援します。
相談の結果として得られるのは、「乗っ取りが起きたとき、どの損害が保険で、どの損害が契約で、どの損害が自己負担か」が一枚で分かる整理です。乗っ取りで発生した媒体費を保険請求できる可能性があるかどうかは、契約の建付け次第です。運用形態や契約内容が整理できていない段階でも構いません。分かっていることと困っていることを起点に、必要な確認事項を一緒に整理しますので、まずはお問い合わせください。
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資料請求・お見積もりは無料、入力は約1分です。お電話(050-1725-4773/受付:平日9:00〜19:00)でも承ります。
よくある質問
乗っ取りで発生した不正広告費を、顧客に請求してよいのでしょうか?
契約の建付け次第ですが、顧客が「代理店のアカウント管理に過失があった」と主張して支払いを拒む場面は想定しておくべきです。媒体の調査による返金やカード会社のチャージバックで回収できる分を除き、残った広告費をどちらが負担するかは契約書の定めと過失の有無で決まります。顧客が支払った後に、代理店の過失による不正分が含まれていたとして法律上の損害賠償を請求する形になれば、媒体費相当額が賠償責任の補償で検討の対象になる余地があります。単なる返金や請求書の訂正として処理すると対象外です。契約と請求の建付けを事前に設計しておく必要があります。
カード会社のチャージバックと保険は、どちらを先に進めればよいですか?
並行して進めます。自社カードへの課金分はチャージバックが実質的な回収手段で、保険の対象にはなりにくい損害です。一方、顧客から賠償請求を受けた場合や自社の調査費用は保険の対象になり得るため、事故を把握した時点で保険会社へ通知します。チャージバックで回収できた金額は損害から差し引かれます。
フリーランスに広告運用を委託していますが、委託先で事故が起きても自社の保険の対象になりますか?
自社が顧客から預かった情報を委託先に渡し、委託先側で漏えいした場合、顧客から自社への賠償請求は対象になり得ます。自社が管理を委託した情報の漏えいという整理です。ただし、委託先自身が負う賠償責任や委託先の対応費用は、委託先が被保険者でないため対象外です。委託先にも保険の加入を求めるか、委託契約で責任分担を定めておきます。
制作したバナーで著作権侵害の請求を受けました。サイバー保険の対象ですか?
著作権侵害は多くの賠償責任保険で免責ですが、画面上で表示・配信されるデジタルコンテンツに起因する侵害を、対象業務を特定したうえで補償する商品があります。対象になる場合でも、権利者に本来支払うべき使用料相当額は対象外です。自社の契約で制作業務が対象業務として特定されているかを、証券と保険会社に確認してください。
二段階認証を設定していなかった場合、保険金は支払われませんか?
二段階認証の未設定そのものを免責とする商品は一般的ではありません。ただし、契約時にセキュリティ体制を告知しており、告知した内容と実態が異なれば告知義務違反の問題になります。設定状況は正確に申告し、保険期間中に体制が変わった場合の通知の要否も確認しておきます。
参考一次情報
- ソルティドッグ株式会社「Google広告アカウントへの不正アクセスに関するお詫びと今後の対応について」(2026年10月6日公表、10月14日更新)
- 株式会社sienca「Meta広告アカウントの不正利用被害の記録」(2025年7月24日公開)
- 日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」調査報告書(2025年12月、Q16 加入状況 P.37)
- サイバー保険の専用サイト(那由他保険テクノロジーズ)
- サイバー保険とは(那由他保険テクノロジーズ ニュースルーム)
本記事は、広告代理店の担当者向けにサイバーリスクと保険の一般的な考え方を整理したもので、特定の保険会社、保険商品、保険契約、特約の内容を説明することを目的としたものではありません。記事中の「対象になり得る」「対象外になりやすい」といった記述は一般的な傾向を示すもので、実際に保険金が支払われるかどうかは、個々の保険契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。ご契約内容の詳細や個別の事故については、ご契約の保険会社または取扱代理店にお問い合わせください。