
2026年10月15日、カー用品店を全国展開する会社が、WEB作業予約システムへの不正アクセスで1,797,124名の会員情報が漏えいしたとする最終報を公表しました。初報の氏名、電話番号、メールアドレス、会員番号に加え、住所、生年月日、性別、ログインID、パスワードの漏えいが確認されています。
同じグループのバイク用品店でも4月に公表が始まり、6月の最終報で、アプリの仕組みを悪用した不正アクセスにより車両情報を含む3,179,454名分の会員データが取得されたと確定しています。車検やオイル交換の予約は、いまや予約システムとアプリから入ります。そこには氏名と連絡先だけでなく、車種、ナンバー、入庫履歴、車検満了日が積み上がります。
販売店や整備工場が「お客さまの車を預かる」ために持っている情報が、そのまま漏えいの対象になります。この記事では、公表された5つの事故を手がかりに、この業態に固有の5つのサイバーリスクを整理し、サイバー保険で対象になりやすい損害と対象外になりやすい損害を一般論として解説します。
結論を先に言うと、保険が見るのは「顧客に対する賠償責任」と「自社の調査・通知・窓口の費用」です。車そのものの損害、メーカーや販社のシステム側で起きた障害、予約が流れた分の返金は、別の問題として切り分ける必要があります。
なお、本記事は特定の保険会社、保険商品、保険契約や特約の内容を説明するものではなく、一般的な考え方の整理です。個別の保険金請求の可否は、ご契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。
Summaryこの記事のポイント
- 2026年に公表された自動車関連の事故は、予約システム、会員アプリ、販売店向け業務支援サービス、販社システムの委託先と、起点がすべて「車を預かるための仕組み」だった。
- 車両情報が漏えい項目に入るかはシステムの設計次第。ナンバーや車台番号だけで個人情報に当たるかは、他の情報と容易に照合できるかで判断される。
- 対象になりやすいのは顧客への賠償責任と、調査・通知・窓口・法律相談の費用。メーカー・販社のシステム障害そのもの、預かった車両の損害、予約キャンセルの返金は対象外になりやすい。
- API経由の大量取得、メーカー・販社システム経由の事故、車両情報の個人情報としての範囲は、商品や契約条件によって扱いが分かれる。契約時に保険会社へ確認する点として挙げておく。
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自動車販売・整備・カー用品の業界で実際に起きた事故
自動車関連の情報漏えいは、2026年に入ってから公表が続いています。当該企業が経過を公表した事故のうち、販売・整備・用品の店舗業務に関わる5件を公表文の範囲で整理します。原因の巧拙や会社の対応への評価は行いません。まず、自社の予約システムや会員アプリが起点になった3件です。
| 項目 | カー用品店のWEB作業予約システム(2026年8月〜10月) | バイク用品店の会員アプリ(2026年4月〜6月) | カー用品店の会員サーバー(2026年4月〜7月) |
|---|---|---|---|
| 公表した会社 | 株式会社イエローハット | 株式会社2りんかんイエローハット | トヨタモビリティパーツ株式会社(ジェームスの運営会社) |
| 起点と検知 | 「イエローハットWEB作業予約システム」に対する不正プログラムによる攻撃。8月18日朝に不正アクセスを検知し、外部接続を遮断 | 会員専用サーバーへの不正アクセス。最終報で「アプリの仕組み(API)を悪用した不正アクセスにより会員データが取得された」と特定 | 4月25日と26日に、同社が管理するサーバーへの不正アクセスを検知し、ネットワーク遮断などの緊急措置を実施 |
| 漏えいした(可能性のある)情報 | 初報は氏名、電話番号、メールアドレス、会員番号。最終報で住所、生年月日、性別、ログインID、パスワード(復元できない状態)が追加。カード情報と車両情報は当該システムで保持していない | 氏名、住所、電話番号、生年月日、性別、メールアドレス、会員番号、アプリユーザーID、アプリパスワード、ポイント残高、車両情報。カード情報は保持していない | 氏名、郵便番号、住所、電話番号、生年月日、性別、会員番号、メールアドレス。カード情報は保持していない |
| 件数 | 初報は最大1,801,499名。10月15日の最終報で1,797,124名と特定 | 第二報で最大3,455,754名分。6月19日の最終報で3,179,454名分と確定 | 公表文に件数の記載なし |
| 公表の経過 | 8月28日に初報、10月15日に第二報・最終報。個人情報保護委員会へ確報を提出、警察の捜査に協力 | 4月23日に初報、5月1日に第二報、6月19日に最終報。警察へ被害申告、個人情報保護委員会へ確報を提出 | 4月30日に公表。7月21日付で対象者へSMSと書面で個別連絡した旨を追記。個人情報保護委員会へ提出、警察へ被害申告 |
| 業務への影響と再発防止 | システムを停止して調査と対策を実施し、最終報の時点で稼働を再開。定期的な脆弱性診断を継続 | アプリの一部サービスを停止し、セキュリティ強化と通信の監視強化を含む再構築のうえ2026年10月を目途に再開予定 | 会員カードのアプリ登録・連携、機種変更時の再登録、登録情報の確認・変更を制限。アプリのセキュリティ強化と監視強化を実施 |
3件に共通するのは、起点が店舗ではなく、顧客がスマートフォンから触る「予約と会員管理の仕組み」だったことです。もう1つは、車両情報の扱いが分かれた点です。予約システムでは車両情報を保持していなかったため漏えい項目に入らず、アプリでは入っています。
そして、初報から確報まで1か月半から2か月の間に、調査、件数の確定、対象者への個別通知、問い合わせ窓口の運営、個人情報保護委員会への確報が並行して進んでいます。この期間に発生する費用が、サイバー保険で最初に問題になる損害です。
次に、販売店が使っている外部のシステムや委託先が起点になった2件です。販売店から見ると、自分では防げない場所で起きた事故で、自社の顧客や自社自身の情報が対象になっています。
| 項目 | 販社の顧客管理システムの委託先(2025年12月公表) | 中古車販売店向け業務支援サービス(2026年10月公表) |
|---|---|---|
| 公表した会社 | 日産自動車株式会社 | 株式会社リクルート(「カーセンサーnet」「C-MATCH」の運営会社) |
| 起点 | 販売会社の顧客管理システムの開発を委託していた会社のサーバーへの不正アクセス。委託先が2025年9月26日に検知し、10月3日に日産へ報告 | 2026年10月17日に「カーセンサーnet」関連システムへの外部からの不審なアクセスを検知。同日から関連サービスを一時停止 |
| 販売店に関わる対象 | 旧福岡日産自動車(現・日産福岡販売)で車両購入やサービス入庫をしたことがある顧客約21,000人。住所、氏名、電話番号、メールアドレスの一部、営業活動に使用する顧客関連情報 | 全体で最大3,709,551件。うち「C-MATCH」に登録する販売店の情報が483,168件で、代表者・担当者の氏名、電話番号、古物商許認可番号、ログインIDなど。個人事業主の販売店では引落口座情報を含む可能性 |
| 対応 | 個人情報保護委員会へ報告し、対象の顧客へ直接連絡。委託先への監視体制を強化 | 個人情報保護委員会へ速報。対象者へ順次個別に連絡し、問い合わせ窓口を設置 |
表2の2件が示しているのは、販売店の顧客情報は販売店のサーバーだけにあるのではなく、メーカー側のシステムや外部の業務支援サービスにも置かれている、ということです。そこで事故が起きても、顧客から見た窓口は販売店です。
自動車販売・整備業に固有の5つのサイバーリスク
自動車販売店、整備工場、カー用品店のサイバーリスクは、一般の会社と同じ情報漏えいに加えて、車を預かる業態ならではの情報の集まり方と、メーカー・販社・外部サービスとのつながり方に特徴があります。相談で挙がることの多い5つを整理します。
- 車検・点検予約と会員アプリに積み上がる顧客・車両情報。車検の見積依頼、オイル交換の予約、タイヤ保管、メンテナンスパックの登録。接点のたびに氏名、連絡先、車種、ナンバー、走行距離、車検満了日が入力され、入庫履歴と一緒に残ります。裏返せば「いつ、誰が、どの車で来るか」の一覧です。表1の3件はいずれも百万件単位でした。
- アプリの仕組み(API)を経由した大量取得。会員アプリや予約システムは、スマートフォンとサーバーの間でAPIと呼ばれる窓口を通じてデータをやり取りします。この窓口の認証や回数制限が甘いと、ログイン画面を破らなくても、正規の通信を装って会員データを順番に取り出せます。侵入の痕跡が残りにくく、気づくのが遅れやすい形の事故です。
- メーカー・販社システムと外部サービスへの接続。メーカー系の販売店は、受注、登録、保証、リコール案内を販社やメーカーのシステムで処理します。中古車販売店は在庫掲載と問い合わせ管理を外部の業務支援サービスに乗せ、整備工場も部品の発注や継続検査の予約で外部のシステムにつながっています。接続先で事故が起きれば自社の顧客情報が対象になり、逆に、販社システムのIDが自社の端末から漏れれば、販社側の事故の起点が自社になることもあり得ます。
- 店頭で預かる書類と、それを扱う端末。車検証、運転免許証の写し、名義変更の委任状と印鑑証明。店頭には本人確認書類が日常的に集まります。2023年1月に導入された電子車検証は、券面に所有者の情報が記載されず、ICタグにすべての自動車検査証情報が記録されています。指定整備工場はこのICタグを読み取って有効期間を更新する記録等事務代行サービスを担うため、読み取り端末に残るデータの管理が新しい論点になりました。
- 予約・受付システムの停止で入庫が止まる。システムが止まれば予約が受けられず、入庫予定の確認もできません。表1の事例では、アプリの停止が半年近くに及んでいます。車検満了日が決まっている顧客に「直るまで待ってください」とは言えません。紙台帳に戻して受付を続ける手間と、予約を受けられなかった分の売上が、漏えいとは別の形で積み上がります。
損害は3つに分かれる
損害を「漏えいの損害」と一語で済ませると、保険の答えは出ません。相手への賠償、自社の費用、自社の逸失利益の3つに分けると、保険での扱いが変わります。
1. 顧客や取引先に対する賠償
漏えいした顧客本人から、精神的苦痛や二次被害を理由に損害賠償を求められる場面です。件数が多ければ、1人あたりの金額は小さくても一連の請求として扱われます。もう1つの相手はメーカーや販社です。自社の端末やIDが起点となって販社システムの事故が起きた場合、求償があり得ます。
自社が法律上の賠償責任を負う部分は、サイバー保険の賠償責任の補償で対象になり得ます。ただし、契約で上乗せして約束した責任や違約金は、対象外になりやすい部分です。
2. 自社の調査・通知・窓口の費用
侵入経路と範囲の調査、対象者の特定、本人への通知、問い合わせ窓口の設置と運営、弁護士への相談、見舞品の送付。表1の3件の対応は、ほぼこの並びです。サイバー保険の費用補償が典型的に想定しているのがこの費用で、通知費用は件数に比例します。台帳が百万件あれば、郵送とSMSだけで相応の金額になります。
漏えいが確認できなかった「おそれ」の段階でも、調査や初動の費用は対象になり得るのが一般的です。保険会社の事前承認が必要な費目があるため、外部の調査会社に発注する前に連絡を入れるのが原則です。
3. 予約が止まった分の逸失利益
予約システムやアプリの停止で入庫が減った分の売上と、紙台帳で受付を続けるために増えた人件費。これらは自社の事業中断に伴う損害です。多くのサイバー保険では基本の補償ではなく、任意で追加する補償で、自社が所有・使用・管理するシステムやクラウドサービスの停止による喪失利益と営業継続費用を対象にする商品があります。
一定時間以上の停止であること、補償期間に上限があることなどの条件が付くのが一般的で、付けていない場合は停止中の売上減が自己負担になりやすい部分です。メーカーや販社のシステム、外部の業務支援サービスが止まった場合は、扱いが分かれます。
サイバー保険で対象になりやすいもの、なりにくいもの
5つのリスクについて、一般的なサイバー保険での扱いを整理します。商品によって条件が異なるため、個別の契約では約款と保険会社の確認が必要です。
| リスク | 対象になり得るもの | 対象外になりやすいもの |
|---|---|---|
| 1. 予約システム・会員アプリからの漏えい | 顧客本人への賠償。原因調査、本人への通知、問い合わせ窓口、法律相談、見舞品の費用。漏えいの「おそれ」の段階の調査費用 | 会員規約で上乗せした責任、違約金、罰金・課徴金。ポイントの補填など、サービスとして行う対応 |
| 2. API経由の大量取得 | 不正アクセスとして情報漏えいに当たる場合は1と同じ扱い | 取得された情報を使った第三者の詐欺で顧客が支払った金額を、自社が好意で補填する分。認証を突破していない取得の扱いは商品により分かれる(補足参照) |
| 3. メーカー・販社・外部サービス経由の事故 | 自社が預かった顧客情報を委託先に渡し、委託先で漏えいした場合の、顧客から自社への賠償請求。自社の顧客対応の費用 | 委託先・メーカー・販社自身の損害と対応費用(自社の保険の被保険者ではない)。自社の管理下にないシステムの障害そのもの |
| 4. 店頭の書類・端末からの漏えい | 車検証や免許証の写しの紛失、誤廃棄、誤送付、持ち出しなど、サイバー攻撃を伴わない原因による漏えいも「他人の情報の漏えいまたはそのおそれ」として対象事由になるのが一般的(従業員の故意の持ち出しは商品で扱いが分かれる) | 預かっていた車両そのものの損害。車両の損害は別の保険の領域 |
| 5. 予約・受付システムの停止 | 自社が所有・使用・管理するシステムの停止による喪失利益と営業継続費用を、任意で追加する補償で対象にする商品がある | 予約キャンセルに伴う返金や値引き(対価の返還)。回線や電力の障害。他社が運営するサービス側の停止は商品により扱いが分かれる |
1の情報漏えいは、サイバー保険が最初から想定している事故です。原因が不正アクセスである必要はなく、車検証のコピーを別の顧客に渡した、ダイレクトメールの宛名を間違えた、退職した整備士が顧客リストを持ち出した、いずれも「他人の情報の漏えい」として対象事由になるのが一般的です。ただし、故意の持ち出しは商品で扱いが分かれます。
一方、表1の事例にあるオイル会員の期限の無償延長のような、顧客への謝意として行うサービスは、損害賠償ではないため対象外になりやすい部分です。
3の外部システム経由は、自動車業界では避けて通れない論点です。考え方の軸は「誰の保険か」です。メーカーや販社のシステムで事故が起きれば、メーカーや販社は自社の保険で対応します。販売店の保険が見るのは、販売店が顧客から受ける請求と、販売店自身が行う顧客対応の費用です。
自社が預かった情報を委託先に渡して委託先で漏えいした、という整理に当てはまれば、顧客から自社への賠償請求は対象になり得ます。一方、メーカーや販社が用意したシステムに入力していた場合、自社が「委託した」と言えるかは契約の建付けによります。商品や契約条件によって扱いが分かれるため、契約時に保険会社へ確認しておく点です。
2のAPI経由の取得も、契約時に確認する点です。多くの商品は「不正アクセス」を対象事由の1つにしていますが、認証を突破せずに正規の窓口から順番にデータを取り出された場合に、どの要件を満たせば不正アクセスによる漏えいとして扱われるかは、商品によって文言が異なります。契約の段階で自社のアプリや予約システムがAPIを使っていることを伝え、この形の事故が対象事由に含まれるかを確認しておきます。
もう1つ、車両情報の扱いです。ナンバーや車台番号が単体で個人情報に当たるかを直接示した個人情報保護委員会のQ&Aは見当たりません。委員会のQ&Aは、住所や電話番号について「他の情報と容易に照合することにより特定の個人を識別することができる場合、当該情報とあわせて全体として個人情報に該当することがある」とし、携帯電話番号についても同じ考え方を示しています。
販売店や整備工場の車両情報は顧客台帳と一体で保存されているのが普通で、その状態で漏えいすれば個人情報の漏えいとして扱うことになります。保険上の対象事由としてどの範囲で扱われるかは商品によって異なり得るため、ここも契約時の確認点です。
保険より先に効く実務対策
表1の3社が再発防止として公表した内容は、アプリ本体のセキュリティ強化、通信の監視強化、定期的な脆弱性診断と共通しています。事故の前に同じことをしておけば、「気づくのが遅れる」事態は減らせます。保険の引受時に申告するセキュリティ体制の内容にもなります。
- 予約システムと会員アプリのAPIに認証と回数制限をかけ、脆弱性診断を定期化する。ベンダーのパッケージを使っている場合も、「APIの認証方式は何か」「1つのIDから短時間に大量の照会があったら検知できるか」「診断はいつ誰がやったか」を文書で確認します。回答がもらえないベンダーは、それ自体がリスクの情報です。
- 保存する項目と期間を棚卸しし、要らないものは消す。車検満了日の案内に必要なのは、氏名、連絡先、車両、満了日です。免許証の写し、印鑑証明、過去の見積書の添付ファイルまで同じサーバーに残す必要はありません。整備記録簿は法令で記載と保存が求められますが、それ以外は保存期間を決めて廃棄します。
- メーカー・販社・ベンダーとの事故時の連絡経路と役割分担を決めておく。表2の2件では、顧客への通知と窓口はメーカーや運営会社が行いました。自社のシステムでない場所で事故が起きたとき、誰が公表し、誰が顧客に通知し、販売店は何を案内するのか。平時に決めていないと、事故の初日に店頭が混乱します。
- 店頭の端末と共有IDを整理し、バックアップを切り離す。整備フロントの端末に販社システムと予約システムが同居し、店舗で1つのIDを使い回している運用は珍しくありません。退職者のIDと端末に残る顧客データを月に1度は確認します。警察庁の統計では、ランサムウェア被害の侵入経路はVPN機器が約5割、被害企業の約6割が中小企業で、復旧に総額1,000万円以上を要した組織が6割を占めています(出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」2026年9月)。バックアップを本番環境から切り離しておくことが、復旧費用を左右します。
顧客・取引先との契約で注意したい点
自動車販売・整備業の契約関係は、顧客との会員規約、メーカー・販社とのシステム利用契約や販売店契約、予約システムやアプリのベンダー契約の3層です。「誰が何を負担するか」はこの3層の契約で決まり、保険はその結果を受けて動きます。
メーカー・販社とのシステム利用契約では、販売店が入力した顧客情報の管理責任、販社システム側で事故が起きた場合の費用負担、販売店の端末やIDが起点になった場合の責任、事故時の報告義務と期限が定められているのが普通です。販売店側に「システムの利用に起因して生じた一切の損害を賠償する」といった包括的な条項が入っていないかを読み返します。法律上の責任を超えて約束した部分は、保険の対象から外れやすくなります。
予約システムやアプリのベンダー契約では、逆の立場になります。ベンダーの責任上限が契約金額の範囲に限られ、事故時のログ保全や調査協力の義務も通知の期限も書かれていない契約は、事故が起きたときに販売店が自力で原因を調べることになります。ベンダー自身の損害や賠償責任は販売店の保険では対象外になりやすいため、契約書に事故時の協力義務と通知期限を入れておきます。
顧客との会員規約では、漏えい時の対応を具体的に約束しすぎないことです。「漏えいが発生した場合は一律で見舞金をお支払いします」「ポイントを補填します」といった定めは、法律上の損害賠償ではなくサービスの提供として整理され、保険の対象外になりやすい部分です。
個人情報保護法では、1,000人を超える漏えいや不正の目的によるおそれがある漏えいは個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務で、速報は発覚から概ね3〜5日以内が目安、確報は30日以内(不正の目的による場合は60日以内)です。規約には、法令に従って通知する旨を書けば足ります。
そして、事故が起きたら顧客やメーカーに責任を認める前に保険会社へ連絡することです。保険会社の同意なく賠償責任を承認したり補填を約束したりすると、その分が保険金から差し引かれる場合があります。販社から責任での対応を求められても、「原因を調べているので、結果が出てから回答する」と伝えるにとどめます。
自動車販売・整備業がサイバー保険を検討するときに確認する点
日本損害保険協会の調査では、中小企業のサイバー保険加入率は8.8%にとどまります(出典:日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」2025年12月)。自動車販売店や整備工場は、店舗の規模に比べて預かる顧客情報の件数が多く、外部との接続も複雑です。検討時に確認しておきたい点を挙げます。
- 保有する件数と項目。会員、予約、入庫履歴のそれぞれに何件の個人情報があり、車両情報や免許証の写しを含むか。通知費用は件数で決まるため、件数の把握が補償設計の出発点です。
- 外部システムと委託先の構成。販社システム、予約システム、アプリ、業務支援サービスを、どの会社が提供し、どこにデータが置かれているか。委託先起因の事故が対象になるか、委託先自身は対象外であることを確認します。
- 利益損害の追加の要否。予約システムの停止で入庫が止まった場合の売上減を対象にしたいなら、任意で追加する補償の有無と条件、他社が運営するサービスの停止がどこまで含まれるかを確認します。
- セキュリティ体制の申告。多要素認証、バックアップ、権限管理、脆弱性診断の実施状況と過去の事故歴は告知の対象です。申告と実態が違えば、事故の際に問題になります。実務対策を先に整えてから申告するのが順番です。
- 商品によって扱いが分かれる3点。API経由の大量取得が不正アクセスによる漏えいとして扱われる要件、メーカー・販社システム経由の事故で自社が請求を受けた場合の扱い、車両情報が個人情報としてどの範囲で扱われるか。一般論で結論を書けないため、契約時に保険会社へ確認し、回答を書面で残しておきます。
那由他保険テクノロジーズが自動車販売・整備業のサイバーリスクでご支援できること
ここまでの整理は一般論です。実際には、販社システムとの契約条項、ベンダーの責任範囲、保有している顧客情報の件数と項目、端末とIDの運用といった会社固有の条件で結論が変わります。那由他保険テクノロジーズは、自動車販売店、整備工場、カー用品店について、顧客情報がどのシステムにどれだけあり、誰が管理しているかを起点にリスク構造を分析し、現在のご契約や検討中の商品の補償条件と突き合わせて、対象になる損害と対象外になる損害を切り分けます。
そのうえで、メーカー・販社との契約やベンダー契約が保険の対象を狭めていないかを点検し、補償のギャップを埋める保険プログラムの設計と保険調達までを支援します。
相談の結果として得られるのは、「予約システムから漏えいしたとき、販社システムで事故が起きたとき、アプリが止まったとき、どの損害が保険で、どの損害が契約で、どの損害が自己負担か」を1つの表に並べた整理です。分かっていることと困っていることを起点に、必要な確認事項を一緒に整理しますので、まずはお問い合わせください。
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資料請求・お見積もりは無料、入力は約1分です。お電話(050-1725-4773/受付:平日9:00〜19:00)でも承ります。
よくある質問
車のナンバーや車台番号だけが漏れた場合も、個人情報の漏えいになりますか?
単体で個人情報に当たるかを直接示した個人情報保護委員会のQ&Aは見当たりません。委員会は住所や電話番号について、他の情報と容易に照合して特定の個人を識別できる場合に全体として個人情報に該当するとしています。販売店や整備工場の車両情報は氏名と紐づいた台帳で保存されているのが普通で、その状態で漏えいすれば個人情報の漏えいとして扱うことになります。保険上の扱いは商品によって異なり得るため、契約時に確認してください。
メーカーや販社のシステム側で事故が起き、うちの顧客の情報が漏れました。自社の保険は使えますか?
メーカーや販社自身の損害と対応費用は、自社の保険の被保険者ではないため対象外になりやすい部分です。自社の保険で検討するのは、顧客から自社への賠償請求と、自社が行う顧客対応の費用です。
自社が預かった情報を委託先に渡して委託先で漏えいした、という整理に当てはまるかが分かれ目で、販社が用意したシステムに入力していた場合の扱いは契約の建付けと商品によって異なります。事故を把握した時点で保険会社に通知し、販社との契約書を手元に置いて相談してください。
予約システムが止まって車検の入庫ができなかった分の売上は、対象になりますか?
自社が所有・使用・管理するシステムの停止による喪失利益と営業継続費用を、任意で追加する補償で対象にする商品があります。一定時間以上の停止であることなどの条件が付くのが一般的です。他社が運営する予約サービスやアプリの停止がどこまで含まれるかは商品により扱いが分かれるため、システム構成を伝えて確認します。
漏えいの件数が多いと、通知だけで費用がかさみます。どこまで対象になりますか?
通知、窓口の設置と運営、原因調査、法律相談の費用は、サイバー保険の費用補償が典型的に想定している対象です。漏えいが確認できず「おそれ」の段階にとどまった場合でも、調査や初動の費用は対象になり得ます。一方、ポイントの補填のように顧客への謝意として行う対応は、損害賠償ではないため対象外になりやすい部分です。
整備記録簿や車検証の写しを紙で保管しています。紙の紛失もサイバー保険の対象ですか?
多くのサイバー保険は、情報漏えいの原因を不正アクセスに限定していません。紙の書類の紛失、誤廃棄、別の顧客への誤交付、従業員の持ち出しも「他人の情報の漏えいまたはそのおそれ」として対象事由になるのが一般的です。従業員が故意に持ち出した場合は、商品で扱いが分かれます。預かっていた車両そのものの損害は対象外になりやすく、別の保険の領域です。
参考一次情報
- 株式会社イエローハット「イエローハットにおける不正アクセスによる個人情報漏えいの可能性に関するお詫びとお知らせ」(2026年8月28日)
- 株式会社イエローハット「イエローハットにおける不正アクセスによる個人情報漏えいに関するお詫びとお知らせ【第二報・最終報】」(2026年10月15日)
- 株式会社2りんかんイエローハット「当社における不正アクセスによる個人情報漏えいに関するお詫びとお知らせ」(2026年4月23日初報〜6月19日最終報)
- トヨタモビリティパーツ株式会社「【お詫び】ジェームスにおける個人情報漏えいの可能性に関するご報告」(2026年4月30日、7月21日追記)
- 日産自動車株式会社「業務委託先への不正アクセスによる個人情報漏洩のお詫びとご報告」(2025年12月)
- 株式会社リクルート「『カーセンサーnet』、『C-MATCH』への不正アクセスに伴う個人情報漏えいに関するお詫びとお知らせ」(2026年10月21日)
- 警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年9月10日)
- 個人情報保護委員会 ガイドラインに関するQ&A Q1-3(住所や電話番号だけで個人情報に該当するか)
- 個人情報保護委員会 ガイドラインに関するQ&A Q1-25(携帯電話番号等と個人識別符号)
- 個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」
- 国土交通省「令和4年度 国土交通白書」コラム(電子車検証の導入)
- 日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」調査報告書(2025年12月、P.37)
- サイバー保険の専用サイト(那由他保険テクノロジーズ)
- サイバー保険とは(那由他保険テクノロジーズ ニュースルーム)
本記事は、自動車販売店、整備工場、カー用品店の担当者向けにサイバーリスクと保険の一般的な考え方を整理したもので、特定の保険会社、保険商品、保険契約、特約の内容を説明することを目的としたものではありません。記事中の「対象になり得る」「対象外になりやすい」といった記述は一般的な傾向を示すもので、実際に保険金が支払われるかどうかは、個々の保険契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。ご契約内容の詳細や個別の事故については、ご契約の保険会社または取扱代理店にお問い合わせください。