歯科・美容クリニックで予約サイトの停止や患者情報の漏えいが起きたときの損害を、患者や加盟院への賠償、自院の調査・通知費用、予約停止期間の逸失利益の3つに分け、サイバー保険で対象になりやすいものと対象外になりやすいものを整理した図

2026年10月5日、歯科医院を加盟院とするフランチャイズ本部のホワイトエッセンス株式会社が、予約サイトと基幹システムへの不正アクセスで約105万アカウントの個人情報が外部に持ち出されたと公表しました。起点は予約サイトのプログラムの脆弱性で、8月12日に止めたシステムの再開は10月に入っても安全性を確認できた範囲にとどまります。

同じ10月には、医療機関向け予約システム「アットリンク」の運営会社が不正アクセスを公表し、10月28日時点でもWeb予約・患者向けアプリ・Web問診・レセコン連携が止まったままです。個々の医院が攻撃されたわけではありませんが、患者から見た窓口は受診した医院で、予約の電話や問い合わせを受け、必要なら通知を出すのは加盟院や利用医院の側です。

この記事では、3つの公表事例をもとに、クリニックとFC本部・加盟院に固有のサイバーリスクを整理し、サイバー保険で対象になりやすい損害と対象外になりやすい損害を一般論として解説します。

結論を先に言うと、保険が見るのは「患者や加盟院に対する賠償責任」と「自院の調査・通知・窓口の費用」で、予約停止期間の売上の落ち込みは任意で追加する補償の領域です。治療や施術そのものに起因する賠償はサイバー保険では対象外とされるのが一般的で、別の保険の領域です。病院の立入検査と保守契約の話は既存記事に譲り、ここでは小規模クリニックとFCに絞ります。

なお、本記事は特定の保険会社、保険商品、保険契約や特約の内容を説明するものではなく、一般的な考え方の整理です。個別の保険金請求の可否は、ご契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。

Summaryこの記事のポイント

  • クリニックの事故の入口は、院内のカルテより先に、外から見える予約サイト・Web問診であることが多い。自院が攻撃されなくても、ベンダや本部の事故で患者対応と予約停止を引き受ける。
  • 問診票、施術写真、受診の事実は個人情報保護法の要配慮個人情報に当たり得る。件数が少なくても通知・窓口・法律相談の費用は発生し、多くのサイバー保険で費用補償の対象になり得る。
  • 治療・施術に起因する患者からの請求は、医師等の資格に基づく行為としてサイバー保険では対象外とされるのが一般的で、医師賠償責任保険の領域。同じ患者からの請求でも原因で保険が分かれる。
  • FC加盟院は本部の契約の被保険者にできないのが一般的で、加盟院には加盟院の契約が要る。本部の契約で加盟院の事故をどこまで扱えるかは商品で分かれ、契約時に確認する点になる。

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歯科・美容クリニックで実際に起きた事故

クリニック自身が事故を公表する例は多くありません。公表の主体は予約システムの運営会社やFC本部になりがちです。2026年に経過を公表した3件を公表文の範囲で整理します。原因の巧拙や会社の対応への評価は行いません。

表1:歯科・美容クリニックとクリニック向け予約システムの事故の公表事例(公表文ベース、2026年10月28日時点)
項目歯科FC本部の事例(2026年8月〜10月)予約システムの事例(2026年10月)美容クリニックの事例(2026年3月〜6月)
公表した会社・施設ホワイトエッセンス株式会社(歯科医院を加盟院とするフランチャイズ本部。予約サイトと基幹システムを運営)株式会社メドレー(医療機関業務支援システム「@link(アットリンク)」、患者向けアプリ、周辺サービスの運営会社)一般社団法人日本美容医療研究機構(リゾナスフェイスクリニック東京の運営法人)
起点自社が運営する予約サイトのプログラムに存在した脆弱性を悪用され、これを起点として基幹システムに不正アクセスされた第三者が2026年9月下旬から10月中旬にかけて、不正に設置したプログラムを通じてデータベースにアクセスし情報を取得。手法は非公表法人が管理・運用するクラウドサーバーへの、ランサムウェアを用いた外部からの不正アクセス
時系列8月5日に不正アクセスを確認。8月12日にシステムを一時停止して公表。10月5日に情報の持ち出しを公表。安全性を確認できた範囲から再開10月11日に外部の専門機関から情報提供を受けて調査開始。10月14日深夜からサービスを一時停止し、15日に公表。23日に漏えいの確認を公表。28日に一部医療機関で院内機能のテスト利用を開始3月11日に検知し、同日中に外部通信を遮断。3月18日に個人情報保護委員会へ報告。4月6日に第1報、6月5日に調査完了を公表
漏えいした情報顧客は氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、性別、勤務先、ログインIDとパスワード(暗号化された状態)、サービスの利用・対応に関する情報など。加盟院関係者・本部社員等は加えて業務上のメモ、医院の診療体制・掲載情報など氏名、フリガナ、誕生月日、メールアドレス、アプリ・Web予約のログインIDとパスワード、利用した医療機関の名称、利用登録日、最終来院日。オンライン決済の利用者は決済日・金額の履歴。対象数は調査継続中患者369名の個人情報の一部。項目は対象者への個別通知で案内し、Web上では掲載を控えた。監視の結果、外部への流出・流通は確認されていない
加盟院・利用医院への影響マイページからの予約の確認・変更・キャンセルを停止。各医院での電話予約対応と本部コンシェルジュデスクでの初回予約受付を案内。対象は約105万アカウントWeb予約・患者向けアプリ・Web問診・電子カルテやレセコンとの連携・オンライン決済などが停止。運用マニュアルと医療機関ごとの予約一覧ファイルを配布し、新規予約と予約変更は各医療機関で対応。停止期間中の利用料金は11月を目途に返金予定当該システムの稼働を停止し、安全な環境へ復旧。対象者全員に個別に連絡
再発防止と報告先脆弱性への対処、不正な通信の検知・遮断、認証方式・システム構成・権限設定の見直し、監視の強化。個人情報保護委員会へ報告し、警察に相談再開にあたり全機能を開発し直し、認証とアクセス制御の強化、パスワードの保管方法の見直し、監視の強化。個人情報保護委員会と厚生労働省に報告認証と検知体制の強化、保管データの保護、第三者によるセキュリティ診断、全スタッフへの教育。警察、厚生労働省、個人情報保護委員会へ報告

3件に共通する点が3つあります。1つ目は、入口が診療室のカルテではなく、患者が外から触れる予約サイトやクラウドだったことです。2つ目は、漏えいした項目に「受診の事実」が含まれることです。アットリンクの事例では利用した医療機関の名称と最終来院日が漏えい項目に挙がっています。

美容クリニックや矯正歯科なら、医院名が分かるだけで何の治療を受けていたかが推測されます。3つ目は、止まっている時間の長さです。歯科FC本部の事例では8月12日の停止から10月に入っても一部機能の停止が続き、予約システムの事例では10月14日の停止から2週間後の10月28日時点でWeb予約と問診が止まったままです。

同じ10月には、別の予約システムの運営会社である株式会社ファインズが予約者情報1,536,322件が対象になり得る不正アクセスを公表し、同システムを2025年3月まで使っていた医療機関の四谷メディカルキューブ(歯科・美容ではない外来診療所)が患者の氏名・電話番号・メールアドレスの漏えいを自院名義で公表しています。乗り換えた後も、過去の予約データは委託先に残っていることがあります。

歯科・美容クリニックに固有の5つのサイバーリスク

クリニックのサイバーリスクは、診療情報を扱い、予約と会計の多くを外部システムに頼る業態ならではの形をしています。相談で挙がることが多い5つを整理します。

  1. 予約サイトとWeb問診が、外から見える入口になっている。予約サイト、Web問診、LINEやアプリからの予約。患者のために外へ開いた窓は、攻撃者から見ても窓です。歯科FC本部の事例は予約サイトのプログラムの脆弱性が起点で、予約サイトが基幹システムやカルテと連携していれば、届く先は診療情報です。
  2. 問診票・施術写真・受診の事実が、要配慮個人情報に当たる。個人情報保護法は病歴を要配慮個人情報とし、施行令は医師等による診療や調剤が行われたこと自体も含めています。医療・介護関係事業者向けのガイダンスは、診療録の病歴や診療の過程で医療従事者が知り得た診療情報を例示しています。施術前後の写真、矯正の経過写真、既往歴と服薬を書いた問診票は、氏名と住所の名簿とは重さが違い、件数が少なくても通知と窓口と法律相談は一式必要になります。
  3. 予約システム・レセコン・カルテのベンダが止まると、自院も止まる。予約システムの事例では、Web予約だけでなく電子カルテやレセコンとの連携、オンライン決済まで止まりました。自院の端末は無事なのに、予約が入らず、問診が取れず、会計が手作業になる。厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」は、歯科診療所を含む医療機関等に対し、委託の責任分界を書面で明確にすることを経営層の遵守事項としています。賠償を求める相手はベンダですが、利用規約には責任の上限が書かれているのが普通です。
  4. 受付端末とスタッフの操作が狙われる。歯科・美容ではありませんが、個人開業クリニックの例として、訪問診療を行うSKYファミリークリニックは、2026年4月1日に受付事務用の端末に偽の警告画面が表示され、指示に従って連絡した結果、外部からの遠隔操作を約40分間許した状態になったと公表しています。端末から閲覧できた患者の氏名・患者ID・住所は、持ち出しの形跡は認められなかったものの画面上で閲覧された可能性は否定できないとして、個人情報保護委員会と厚生労働省へ報告しています。受付は患者対応をしながら端末を操作する場所で、退職したスタッフや技工所と共有するIDが残っていることも珍しくありません。
  5. FC本部と加盟院で、情報も損害も分かれる。歯科FC本部の事例では、顧客の情報だけでなく、加盟院関係者の氏名・連絡先・業務上のメモ・医院の診療体制も漏えいしました。本部のシステムが止まれば加盟院の予約受付は電話に戻り、患者が問い合わせるのは加盟院です。加盟院から見れば自院が預けた患者情報を本部で漏えいされた委託先起因の事故、本部から見れば加盟院とその患者から請求を受ける事故で、同じ事故で2つの会社に別々の損害が生じます。

損害は3つに分かれる

「予約サイトが止まって、患者情報が漏れた」と一言で言っても、クリニックに生じる損害は性質の違う3つに分かれます。保険はこれを別々の補償で見るので、分けないと答えが出ません。

1. 患者や加盟院に対する賠償

漏えいした患者本人からの損害賠償請求、情報を預けていた加盟院から本部への請求。相手が他人で、法律上の損害賠償責任を負う場合、その賠償金と争訟費用はサイバー保険の賠償責任の補償で対象になり得ます。原因が不正アクセスである必要はなく、問診票の誤送付、検査結果のメール誤送信、USBの紛失、スタッフの持ち出しも、他人の情報の漏えいまたはそのおそれとして対象事由になるのが一般的です。

ここで線を引いておくべきなのが、治療や施術そのものに起因する請求です。埋入した人工歯の不具合、施術後の腫れや瘢痕、抜歯の際の神経損傷。これらは医師・歯科医師が資格に基づいて行う行為に起因する賠償責任で、サイバー保険では対象外とされるのが一般的です。医師賠償責任保険や歯科医師賠償責任保険の領域で、施術写真が漏えいしたことへの請求はサイバー保険、施術の結果への請求は医師賠償、という切り分けです。

2. 自院の調査・通知・窓口の費用

侵入経路と被害範囲の調査、患者本人への通知、問い合わせ窓口、弁護士への相談、監督官庁への報告の準備、見舞金や見舞品。これらは事故が起きた医院自身が支出する費用で、多くのサイバー保険で費用補償の典型的な対象です。漏えいが確定していない「おそれ」の段階の調査費用も対象になり得ます。

個人情報保護法は、要配慮個人情報を含む漏えいについて個人情報保護委員会への報告と本人への通知を義務付け、委託先で事故が起きた場合は委託元への通知で足りる建付けです。予約システムの事例で運営会社が「利用医療機関と連携して順次通知を行います」としているのはこの構造で、通知の名義と費用の分担はベンダ任せにせず契約で決めておく話です。見舞金・見舞品には条件があり、支出前に保険会社の承認が要る費目もあるため、動く前に連絡するのが原則です。

3. 予約停止期間の逸失利益と営業継続費用

Web予約が止まって新患が減った、紙運用でスタッフの残業が増えた、臨時の電話回線と受付の人員を手配した。これは誰かへの賠償ではなく、自院の売上と費用の問題です。サイバー保険では、自院が所有・使用・管理するシステムやクラウドサービスの停止による喪失利益と営業継続費用を、任意で追加する補償で対象にする商品があります。

医療業はこの追加ができる業種に含まれるのが一般的ですが、一定時間以上の停止が条件になり、補償される期間にも上限が置かれるのが通例です。他社が運営する予約システムの停止が「自院が使用するクラウドサービス」に含まれるかは商品の定義によるため、利用している予約システムの名前と構成を伝えたうえで確認します。介護事業はこの追加補償を付けられない商品があるため、介護事業所を同じ法人で運営している場合は分けて考えます。

サイバー保険で対象になりやすいもの、なりにくいもの

5つのリスクにFC本部と加盟院の切り分けを加えた6つの論点について、一般的なサイバー保険での扱いを整理します。商品によって条件が異なるため、個別の契約では約款と保険会社の確認が必要です。

表2:歯科・美容クリニックの6つの論点とサイバー保険の対応(一般論)
リスク対象になり得るもの対象外になりやすいもの
1. 予約サイト・Web問診経由の患者情報の漏えい患者本人への賠償。調査、通知、問い合わせ窓口、法律相談、見舞金・見舞品(条件あり)の費用。漏えいの「おそれ」の段階の調査費用罰金・課徴金。患者との契約で上乗せした責任。再発防止のためのシステム更新は商品により扱いが分かれる
2. 誤送信・誤送付・紛失・持ち出しによる漏えいサイバー攻撃を伴わなくても、他人の情報の漏えいまたはそのおそれとして1と同じ扱いになるのが一般的従業員の故意による持ち出しは商品により扱いが分かれる。漏えいに至らない事務の誤りのやり直し費用
3. 予約システム・カルテベンダ起因の事故自院が預けた患者情報がベンダ側で漏えいし、患者から自院へ請求を受けた場合の賠償と対応費用ベンダ自身の賠償責任と対応費用(ベンダは被保険者ではない)
4. 予約停止期間の売上減と紙運用の費用任意で追加する補償で、自院が使用するシステム・クラウドの停止による喪失利益と営業継続費用を対象にする商品がある。医療業は追加できるのが一般的一定時間に満たない停止。補償期間の上限を超える分。インターネット回線や電力など自院の管理下にないインフラの障害
5. 治療・施術に起因する患者からの請求施術写真や診療情報の漏えいに対する請求は1と同じ医師・歯科医師が資格に基づいて行った診療・施術の結果に対する賠償責任。再施術や返金は業務の追完・対価の返還
6. FC本部と加盟院の事故本部で漏えいした患者情報について加盟院が患者から請求を受けた場合の加盟院の賠償と対応費用(加盟院自身の契約で)。本部が患者や加盟院から請求を受けた場合の本部の賠償と対応費用(本部の契約で)本部の契約での加盟院自身の損害(加盟院は被保険者ではない)。FC契約で本部が加盟院に約束した補填のうち法律上の責任を超える部分

1と2は、クリニックが最初に確認したい部分です。クリニックの情報漏えいは、不正アクセスに限らず、検査結果を別の患者に渡した、問診票を車に置いたまま盗まれた、といった形でも起きます。多くのサイバー保険は原因を問わず「他人の情報の漏えいまたはそのおそれ」を対象事由にしており、入口が違っても通知と窓口と法律相談の費用の構造は変わらないのが一般的です。

3のベンダ起因は、クリニックにとって最も現実的な事故です。患者から見た相手は医院で、医院が管理を委託した他人の情報の漏えいとして、医院の賠償責任は対象になり得ます。ベンダから医院への補償は利用規約の責任上限の範囲に限られるのが普通で、そこから先は医院の保険で見ることになります。

5の医療行為は、クリニックに特有の線引きです。電子カルテが暗号化されて治療の予定が狂い、結果として患者の症状が悪化した、という請求は、サイバー事故が引き金でも、どちらの保険で扱うかは事実関係と商品によって分かれます。両方の保険会社に事故の通知を入れ、どちらで扱うかの判断を仰ぐのが実務です。

保険より先に効く実務対策

公表事例で再発防止策として挙がっている内容は、認証の強化、権限と構成の見直し、監視、スタッフ教育です。引受時に申告するセキュリティ体制の内容にもなります。

  • 外から見える入口を棚卸しする。予約サイト、Web問診、LINE予約、オンライン決済のどれが院内のカルテやレセコンとつながり、患者のどの情報が置かれているかを一覧にします。使っていない予約サービスの契約と、乗り換え前のシステムに残った過去データの削除も確認します。ファインズの事例では、2025年3月に別システムへ移行した医療機関の2016年からの予約データが対象になりました。
  • カルテとレセコンのバックアップと、紙で診療を続ける手順を決めておく。厚生労働省のガイドラインは、バックアップの確保と復旧手順、BCPの整備と訓練を経営層の責任としています。予約システムの事例では、運営会社が医療機関ごとの予約一覧ファイルを配布して院内運用を支えました。自院で予約一覧を定期的に出力しておけば、ベンダを待たずに動けます。
  • 受付端末の権限と、偽の警告画面への対応を決めておく。受付端末で管理者権限を使わない、表示された電話番号には掛けない、不審な画面が出たらネットワークから外して院長に報告する。SKYファミリークリニックの再発防止策もこの3点です。あわせて、退職した歯科衛生士や非常勤医師、技工所や検査会社と共有していたIDを棚卸しし、多要素認証を設定します。
  • FC本部と加盟院で、事故時の連絡と患者対応の分担を決めておく。本部のシステムで事故が起きたとき、加盟院は何を患者に言い、何を本部に回すか、通知の名義と窓口の費用はどちらが持つか。歯科FC本部の事例では、各医院での電話予約対応と本部コンシェルジュデスクの初回予約受付という分担が初報の段階で案内されました。

顧客・取引先との契約で注意したい点

クリニックのサイバー事故で、保険で埋まらない部分の大きさを決めるのは、予約システムの利用規約とFC契約です。利用規約には、ベンダの責任の上限、事故時の通知義務、データの保管場所と削除の条件が書かれています。責任の上限が月額利用料の数か月分なら、それを超える患者対応の費用は医院持ちです。契約を結ぶ前に、事故時に誰が患者へ通知するのか、ベンダは自社の保険に入っているのか、解約後のデータをいつ消すのかを確認します。

FC契約では、本部のシステムを加盟院が使う条項と、事故時の費用分担を見ます。本部が加盟院に「事故が起きたら全額補填する」と約束していると、法律上の責任を超えて特別に約束した部分として本部の保険の対象から外れやすくなります。

逆に、加盟院が本部の責任を一切問わない条項を受け入れていれば、加盟院は患者対応の費用を自院で持ちながら本部に求償できません。本部の契約に加盟院を被保険者として含めることはできないのが一般的なので、加盟院には加盟院の契約が必要です。

患者との関係では、施術写真や問診票の利用目的を同意書で明示しておくと、事故時の説明が楽になります。要配慮個人情報の取得には原則として本人の同意が必要で、何を何のために預かっていたかが説明できれば、漏えいの通知文もその範囲で書けます。

そして、事故が起きたら患者や加盟院に責任を認める前に保険会社へ連絡することです。保険会社の同意なく賠償責任を承認したり補填を約束したりすると、その分が保険金から差し引かれる場合があります。患者には、原因を調べていることと、分かり次第連絡することだけを伝え、補償の約束はその前にしないことです。

歯科・美容クリニックがサイバー保険を検討するときに確認する点

日本損害保険協会の調査では、中小企業のサイバー保険加入率は8.8%にとどまります(出典:日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」2025年12月)。クリニックは「カルテがクラウドだからベンダが守ってくれる」という前提で検討が止まりやすい業態です。

  • システムの構成と預けている情報。予約システム、Web問診、電子カルテ、レセコンがクラウドか院内サーバーか、どのベンダか、患者のどの情報があるかは告知の内容で、ベンダ起因の事故が対象になるかの前提にもなります。
  • 法人の範囲と院の数。医療法人と関連会社、複数の分院、介護事業所をどの契約で扱うかを整理します。
  • 利益損害の追加の要否。Web予約が新患の主な入口になっている医院ほど、予約停止の影響は大きくなります。追加補償の対象に他社運営の予約システムの停止が含まれるか、停止時間の条件と補償期間の上限を確認します。
  • セキュリティ体制の申告。多要素認証、バックアップ、権限管理、事故歴は告知の対象です。申告と実態が違えば事故時に問題になります。
  • FC本部と加盟院の切り分け。本部の契約で加盟院の事故に起因する本部の責任をどこまで扱えるか、予約サイトのベンダ起因の事故で本部が加盟院や患者から請求を受けた場合の扱い、要配慮個人情報の漏えいで見舞金・見舞品の条件が変わるかは、商品や契約条件によって扱いが分かれるため、契約時に保険会社へ確認する点です。

那由他保険テクノロジーズが歯科・美容クリニックのサイバーリスクでご支援できること

ここまでの整理は一般論です。実際には、予約システムとカルテの構成、FC契約と利用規約の責任条項、扱っている情報の種類、分院や介護事業の有無といった医院固有の論点で結論が変わります。

那由他保険テクノロジーズは、歯科・美容クリニックとFC本部について、予約サイトからカルテまでの情報の流れと委託先の構成を起点にリスク構造を分析し、現在のご契約や検討中の商品の補償条件と突き合わせて、対象になる損害と対象外になる損害を切り分けます。医師賠償責任保険との境界やFC本部と加盟院の分担など、保険会社への確認が必要な論点は私たちが照会します。

相談の結果として得られるのは、「予約サイトが止まり、患者情報が漏れたとき、どの損害がサイバー保険で、どの損害が医師賠償で、どの損害が契約で、どの損害が自己負担か」を、医院のシステム構成に沿って書き出した一覧です。システム構成や契約内容が整理できていない段階でも構いませんので、まずはお問い合わせください。

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よくある質問

予約システムの運営会社が攻撃されて患者情報が漏れました。当院に責任はあり、保険の対象になりますか?

患者から見た相手は、情報を預けた医院です。医院が管理を委託した他人の情報の漏えいとして、患者から医院への損害賠償請求と、医院が行う通知・窓口・法律相談の費用は、多くのサイバー保険で対象になり得ます。運営会社自身の賠償責任や対応費用は、運営会社が被保険者ではないため医院の保険の対象外になりやすく、利用規約の責任の上限を超える部分は医院の負担になるため、医院自身の契約が必要です。

自院のカルテは無事ですが、予約サイトが止まって新患が減りました。この売上は保険で見られますか?

誰かへの賠償ではなく自院の逸失利益なので、基本の補償ではなく任意で追加する補償の領域です。自院が使用するシステムやクラウドサービスの停止による喪失利益と営業継続費用を対象にする商品があり、医療業は追加できるのが一般的ですが、一定時間以上の停止が条件で、補償される期間にも上限があります。他社運営の予約システムの停止が含まれるかは商品の定義によるため、システム名を伝えて確認してください。

施術のトラブルで患者から請求を受けました。サイバー保険で対応できますか?

医師・歯科医師が資格に基づいて行った診療や施術の結果に対する賠償責任は、サイバー保険では対象外とされるのが一般的で、医師賠償責任保険や歯科医師賠償責任保険の領域です。施術写真や問診票の漏えいに対する請求であればサイバー保険の対象になり得ます。原因が判然としない場合は、両方の保険会社に事故の通知を入れて判断を仰ぎます。

FC本部がサイバー保険に入っていれば、加盟院は入らなくてよいですか?

FC加盟院は本部の契約の被保険者にできないのが一般的です。本部のシステムで事故が起きても、加盟院が患者から請求を受けた場合の賠償や患者対応の費用は、加盟院自身の契約で備える必要があります。本部の契約で加盟院に起因する本部の責任をどこまで扱えるかは商品によって分かれるため、FC契約の費用分担の条項と合わせて保険会社に確認してください。

問診票をメールで別の患者に送ってしまいました。不正アクセスではありませんが対象になりますか?

多くのサイバー保険は原因を問わず「他人の情報の漏えいまたはそのおそれ」を対象事由にしており、メールの誤送信や書類の誤送付も含まれるのが一般的です。問診票は要配慮個人情報を含むため、1件でも本人への連絡、個人情報保護委員会への報告要否の確認、法律相談が必要になります。これらの費用は対象になり得ますが、見舞金・見舞品には条件があるため、支出前に保険会社へ連絡してください。

参考一次情報

本記事は、歯科・美容クリニックとFC本部・加盟院の担当者向けにサイバーリスクと保険の一般的な考え方を整理したもので、特定の保険会社、保険商品、保険契約、特約の内容を説明することを目的としたものではありません。記事中の「対象になり得る」「対象外になりやすい」といった記述は一般的な傾向を示すもので、実際に保険金が支払われるかどうかは、個々の保険契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。ご契約内容の詳細や個別の事故については、ご契約の保険会社または取扱代理店にお問い合わせください。