
本稿では、計画様式の各欄と証券項目を一枚で突き合わせ、地震・水災・休業で対象外に振れる分岐と必要資料を確かめ、自社の補償の境界を見極めるまでの手順を整理します。
この記事の要点
- 認定は防災・減災の事前対策を国が認定する制度で、保険金の増額や支払を約束するものではありません。
- 保険金は自動では支払われず、被保険者が事故・損害・金額・時期を示す資料を提出し、保険会社が約款と事実関係を調査して支払可否を判断します。
- 点検の勘所は「対象事故」「免責」「てん補期間」「補償の空白」の4点で、計画様式の各欄と証券項目を対応させて確かめます。
- 中小企業庁によると累計認定件数は99,860件(2026年5月末時点)で、認定を受けた後には計画の想定リスクと証券の条件を照らし合わせる作業が残ります。
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事業継続力強化計画で保険見直しが必要になる理由
中小企業庁は、事業継続力強化計画を、中小企業者等が策定する防災・減災の事前対策計画として認定する制度と説明しています。地震・水災・感染症などの発生に備え、自社のリスクを洗い出し、初動対応や資金繰りをあらかじめ決めておくものです。累計認定件数は99,860件(2026年5月末時点、中小企業庁)に達しています。認定で整理した想定リスクを自社の証券が受け止められるかは、証券側の条件を開いて確かめないと分かりません。
計画様式のなかでは「どのリスクに、どの資金で備えるか」を書きます。この資金手当ての中心にあるのが保険です。つまり計画づくりは、裏を返せば自社の証券が想定リスクに足りているかを確かめる作業でもあります。認定を終点にせず、証券を点検する起点として使えます。法人保険見直しの全体像は法人保険の見直し総合ガイドで確認し、本稿では事業継続力強化計画と保険証券の接続に絞ります。
制度の全体像は事業継続力強化計画ガイド、BCPとの違いは事業継続力強化計画とは?で整理しています。
「中小企業のリスク意識・対策実態調査2025」では、リスクへの対策として「損害保険への加入」が55.5%、事業継続力強化計画の申請・認定取得が9.0%と示されています(日本損害保険協会、2026年7月時点)。保険と計画は別々の施策に見えますが、災害時の資金手当てという一点でつながります。
認定後に保険金の支払条件を確認する
保険金は、契約していれば自動で振り込まれるものではありません。被害を受けた側(被保険者)は、事故通知とともに次の事実を示す資料を提出します。保険会社は、その資料、約款、必要な現地確認や聞き取りを踏まえ、免責事由を含む契約条件に照らして支払可否と損害額を判断します。
- その事故が契約の対象事故にあたること
- 発生した損害が対象となる損害であること
- 損害の金額と根拠
- 事故と損害の因果関係
- 損害が生じた時期とてん補期間との関係
- 保険会社の調査に必要な写真、見積書、帳簿、復旧記録
事故通知、損害資料の提出、調査への協力は、それぞれ約款上の位置づけが分かれます。どの事実をだれが示すかという立証責任の配分も、約款の定めや事案の内容で決まり、免責非該当をつねに契約者だけが負うわけではありません。だからこそ、証拠づくりの起点となる事故通知と資料の準備を、平時のうちに初動手順へ落としておく意義があります。
災害直後は、片付け・営業再開・従業員対応で手一杯になります。そのなかで上記を証拠とともに整理する負担は大きく、書類が揃わなければ支払いの判断も進みません。だからこそ、平時のうちに「自社の証券で、この説明ができる状態か」を点検しておく意味があります。事業継続力強化計画の認定後は、その点検にちょうどよい時期です。
計画と保険証券を比較して補償の空白を確認する
計画で「このリスクに備える」と書いていても、証券側の条件しだいで、実際には支払い対象にならない・足りない領域が生まれます。これを補償の空白と呼びます。代表的な区分ごとに、確認すべき証券項目と、空白になりやすい点を整理します。工場・クリニック・小売店・物流会社・SaaSチームなど、自社の業態に置き換えて読んでください。
| 補償区分 | 計画で想定する事象 | 証券で確認する項目 | 空白になりやすい点 |
|---|---|---|---|
| 財物(建物・設備・在庫) | 地震・水災・火災による被害 | 対象事故/水災担保の有無/地震補償の有無/免責金額/保険金額 | 水災不担保、地震は火災保険では対象外で別途手当てが要る |
| 休業損失(利益の減少) | 操業停止による売上・利益の減少 | 利益・休業補償の有無/てん補期間/約定填補率 | そもそも未加入、てん補期間が想定復旧期間に足りない |
| 営業継続費用(代替営業) | 仮店舗・外注・臨時人件費 | 営業継続費用特約の有無/支払限度額 | 特約が未付帯で費用が自己負担になる |
| 賠償(対人・対物・生産物) | 事故による第三者への損害 | 施設賠償・生産物賠償の対象/免責事由 | 事業内容の変化に証券が追随していない |
| サイバー | システム停止・情報漏えい | サイバー保険の有無/対象事故/待機期間 | 未加入、または事業停止(利益減少)が対象外 |
計画様式の各欄と証券項目を対応させる
この対応で自社の空白の当たりを付けておくと、検討すべき論点が具体的になります。
| 計画様式の記載欄 | 様式に書く内容 | 対応する証券項目 | 照合の着眼点 |
|---|---|---|---|
| 自社のリスク認識(ハザードマップ) | 想定する自然災害・事故 | 対象事故欄/特約の有無 | 計画で挙げた地震・水災が対象事故に含まれるか |
| ヒト(人員・安全)への対応 | 従業員の被災・けが・休業 | 労災上乗せ/傷害補償の対象 | 業務・通勤中や災害時の被災が補償範囲に入るか |
| モノ(設備・在庫)への対応 | 建物・設備・在庫の被害 | 保険金額/免責金額/評価方法 | 再調達価額か時価か、保険金額が実勢と合うか |
| カネ(資金繰り)への対応 | 復旧資金・運転資金の確保 | 休業・利益補償/てん補期間/約定填補率 | てん補期間が想定復旧期間に届くか |
| 情報(システム)への対応 | システム停止・情報漏えい | サイバー保険/対象事故/待機期間 | 事業停止(利益減少)が対象に含まれるか |
| 平時の推進体制・訓練 | 事故時の初動と連絡手順 | 事故通知義務/損害防止義務 | 通知期限と必要資料を初動手順へ組み込めているか |
対象事故をそもそも拾えているか
火災保険で水災が不担保になっている、地震による損害が対象外になっている、といったケースは珍しくありません。計画で地震・水災を主要リスクに挙げているなら、証券の対象事故欄と特約の有無を確認します。
免責金額と免責事由を確かめる
免責金額(自己負担額)が大きいと、小〜中規模の被害では手元に残る保険金が想定より少なくなります。あわせて、支払対象外となる免責事由も確認します。
てん補期間が復旧までの時間に足りるか
休業損失や利益補償には、保険金が支払われる期間(てん補期間)が定められています。想定復旧期間がてん補期間より長いと、後半の減収が空白になります。
区分のすき間に生まれる補償の空白
財物は手厚いのに休業や営業継続費用は薄い、賠償やサイバーは未加入、というように区分間でばらつくと、事業停止時に効く補償が抜けることがあります。
地震・水災・休業で対象外に振れる分岐と、そろえる資料
空白を詰めるには、対象外に振れる条件と、支払い判断に使う資料を押さえておくと確認が進みます。計画で主要リスクに挙がりやすい地震・水災・休業の三つについて、分岐と必要な資料を整理します。
地震による損害
地震・噴火・津波を原因とする損害は、火災保険の本体では対象外に振れ、地震保険や地震危険補償特約の付帯で扱いが分かれます。そろえる資料は、被災状況がわかる写真、罹災証明、修理・再調達の見積、被害個所と地震との関係を示す記録です。
水災による損害
水災を不担保にしていると台風・豪雨の浸水は対象外に振れ、担保していても床上浸水や地盤面からの一定の高さといった支払要件で分岐します。そろえる資料は、浸水深がわかる写真や記録、気象・河川の情報、被害個所ごとの見積です。
休業・利益の減少
物的損害を伴わない停止(停電・供給停止・感染症など)は利益補償の対象外に振れやすく、復旧がてん補期間を超えた後半の減収も対象外に振れます。そろえる資料は、過去の月次売上・利益、復旧工程の見通し、営業日報、仮店舗や外注など代替営業の費用明細です。
自社点検・代理店・専門家の選択肢を比較する
点検の進め方は主に三つです。第一に、自社で証券と計画を突き合わせる方法。費用はかかりませんが、約款の読み解きに時間がかかります。第二に、加入先の保険代理店に相談する方法。証券の内容には詳しい一方、計画の想定リスクとの整合まで見るかは相手しだいです。第三に、事業継続力強化計画の支援と保険の両方を扱う相談先を使う方法。計画で洗い出したリスクを起点に、証券の空白まで一体で確認できます。自社の体制と時間に合わせて選んでください。
比較するときは、成果物を先に決めます。「計画の想定リスクと証券項目の対応表」「空白と重複の一覧」「更新までに確認する資料と担当者」の三点を同じ形式で受け取れるかを確認してください。複数拠点、海外取引、新規事業など約款の確認範囲が広い場合は、現契約の説明だけでなく他の設計案も並べられる相談先かを見ます。
現契約で足りているかを判断する
「毎年更新しているから大丈夫」「代理店に任せている」という声はよくあります。ただ、証券の内容は加入した時点の事業規模・拠点・取引条件に合わせたものです。設備を増やした、拠点を移した、ECや受託を始めた、取引先から賠償やBCPを求められた、といった変化に証券が追随していないと、知らないうちに空白が広がります。認定を機に一度棚卸しする価値はここにあります。
判断には、保険証券だけでなく、保険金額明細、特約一覧、直近の異動・変更手続、事故通知と支払履歴を使います。計画に記載した拠点、設備、取引、復旧目標と一行ずつ照合し、事業が変わった日と証券を更新した日を並べると、代理店へ追加告知や条件確認を依頼すべき箇所が分かります。
災害時の資金手当てと設備投資の税制を確認する
関東経済産業局は、復興時に役立った対策の約8割が資金面の対策だった一方で、半数以上の事業者が災害発生時の対策資金を十分に把握していないと紹介しています。資金の備えが復旧を左右するのに、その現在地が見えていません。証券に書かれた保険金額やてん補期間を確かめる作業は、この現在地を金額で把握する手がかりの一つになると当社は考えています。
また、中小企業防災・減災投資促進税制では、2026年7月時点で特別償却16%の措置が示されています。対象設備・取得時期・認定時期などの要件確認が前提で、適用の可否は個別に確かめる前提の数値です(適用を保証するものではありません)。設備投資と保険の見直しを同じ時期に検討すると、資金計画として整理しやすくなります。
点検は増額とは限りません。重複や過剰が見つかれば組み替えて総額を抑えられることもあります。まずは現状把握が目的です。
更新日から逆算する保険点検の手順
点検では、次の情報を手元で確認しながら進めます。
- 現在加入中の保険証券一式(火災・休業・賠償・サイバー等)
- 事業継続力強化計画の認定書と計画本体(想定リスクと初動)
- 主要拠点・設備・在庫のおおよその金額
- 想定復旧期間(数日/数週間/数か月)のイメージ
- 過去のヒヤリ・被害・保険金請求の経験
- 取引先から求められている賠償・BCPの要件
計画の期間や更新の考え方は認定45日と逆算手順や更新・実施報告もあわせてご確認ください。
那由他保険テクノロジーズは、事業継続力強化の認定に向けたご支援を、初回面談から認定取得まで費用をいただかずに行っています。成果報酬はなく、保険のご契約や他サービスのお取引も条件ではありません(費用がかからないのは、このご支援の範囲です)。補償の重複や空白の点検は、認定に向けたご支援とは別にご相談いただけます。気になっていることが漠然とした段階からお気軽にご相談ください。お話を伺いながら、どこから確かめるかを一緒に整理していきます。
よくある質問
Q1. 事業継続力強化計画の認定を受ければ、災害時の保険金は増えますか?
A. 認定は防災・減災の事前対策計画を国が認定する制度で、保険金の増額や支払いを約束するものではありません。保険金は加入している証券の対象事故・保険金額・免責・てん補期間などの条件に基づいて判断されます。認定は、その証券が想定リスクに足りているかを点検するきっかけとして活用できます。
Q2. 保険の見直しは、計画の認定前と認定後のどちらで行うとよいですか?
A. どちらの時期でも意味がありますが、認定後は想定リスクが計画として整理された直後のため、証券との突き合わせがしやすい時期です。計画づくりで洗い出したリスクを起点に、対象事故・てん補期間・補償の空白を確認する流れがスムーズです。
Q3. 「対象事故」「免責」「てん補期間」とは、点検で何を見ればよいですか?
A. 対象事故は、その契約でどの災害・事故が支払いの対象になるか(例:水災・地震が含まれるか)です。免責は自己負担額と支払対象外の事由です。てん補期間は、休業損失などで保険金が支払われる期間です。計画の想定リスクと想定復旧期間に対して、これらが足りているかを確認します。
Q4. 補償の空白は、どうやって見つければよいですか?
A. 財物・休業損失・営業継続費用・賠償・サイバーといった区分ごとに、計画で想定した事象と証券の補償を並べて突き合わせます。対象事故から外れている、てん補期間が復旧期間より短い、特約が未付帯、といった箇所が空白になりやすいポイントです。区分間のばらつきにも注目します。
Q5. 保険料が上がるのが不安です。見直し=増額になりますか?
A. 見直しは増額とは限りません。点検の目的は現状把握で、重複や過剰が見つかれば組み替えて総額を抑えられることもあります。増額を検討する場合も、優先度の高いリスクから段階的に判断できます。保険料や引受の可否は個別の条件により異なります。
Q6. 状況が整理できていなくても相談できますか?
A. はい。気になっていることが漠然とした段階からご相談いただけます。お話を伺いながら、補償の重複や空白がどこに出やすいかを一緒に整理し、自社で判断できる点と保険会社へ照会する点を切り分けていきます。
Q7. 那由他保険テクノロジーズに相談すると何をしてくれますか?
A. 事業継続力強化の認定に向けたご支援と、補償の重複や空白の点検を扱っています。このうち認定に向けたご支援は、初回面談から認定取得まで費用がかからず、成果報酬もありません。保険のご契約や他サービスのお取引も条件ではなく、認定に向けたご支援だけでもご利用いただけます(費用がかからないのは、このご支援の範囲です)。補償の点検は、認定に向けたご支援とは別にご相談いただけます。気になっている段階から一緒に論点を整理し、必要に応じて保険会社への照会や条件の比較・設計まで進めます。特定商品の推奨ではなく、現状を把握することを先に置いています。
参考一次情報・公的資料
- 中小企業庁:事業継続力強化計画(制度概要・累計認定件数)
- 中小企業庁:認定事業者一覧(地域別認定件数)
- 中小企業庁:申請方法(電子申請・GビズID・標準処理期間約45日)
- 事業継続力強化計画 電子申請システム
- 中小機構:事業継続力強化計画(強靭化ポータル)
- 関東経済産業局:リスクファイナンスに関する資料(約8割が資金面の対策)
- 日本損害保険協会:中小企業向け保険情報
情報確認日:2026年7月17日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月17日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。補償の範囲、引受の可否、保険料、保険金の支払は、商品・約款・契約条件および個別事情によって決まります。制度要件、補助金、税制、融資、法務・税務・労務・会計に関わる判断は、必要に応じて公的資料や専門家にご確認ください。本記事は特定商品の推奨、税務上の効果、保険金支払、認定取得、補助金採択を保証するものではありません。