
事業継続力強化計画をつくるとき、多くの担当者が最初に手が止まるのが「どの業務を止めてはいけないのか(重要業務)」の特定です。中小企業庁は、事業継続力強化計画を中小企業者等が策定する防災・減災の事前対策計画として認定する制度と説明しており、その認定は全国で積み上がっています。本記事では、記入欄を埋めるためだけでなく、災害時に会社を守る「止めない業務」を社内で合意するための考え方と手順を整理します。
中小企業庁の地域別認定件数一覧(2026年6月19日更新)では、2026年5月末時点の累計認定件数は99,860件とされています。制度としての広がりは一定程度あるものの、件数の多さ自体が自社の重要業務を決めてくれるわけではありません。重要業務の特定は、自社の売上・顧客・契約に沿って自分たちで判断する作業です。
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重要業務とは何か:主力事業とは限らない
重要業務とは、災害や設備停止などの緊急時であっても優先的に継続・早期復旧させるべき業務のことです。ここで見落としやすいのが、「売上が最も大きい業務=重要業務」とは限らないという点です。売上規模が小さくても、止まると顧客との約束を破る業務、法令・契約上の義務がある業務、地域への供給責任を負う業務は、優先度が高くなることがあります。
たとえば製造業の工場であれば、量産ラインだけでなく、出荷伝票の発行や受注データの管理が止まると納品全体が滞ります。診療所であれば、診療そのものに加えてカルテ・処方情報へのアクセスが止まると診療自体が続けられません。重要業務の特定は「何を作っているか」ではなく「止まると何が起きるか」で考えるのが出発点です。
重要業務を特定する5つの視点
重要業務は、次の5つの視点で棚卸しすると社内で議論しやすくなります。1つの視点だけで決めず、複数の視点で高い業務から優先順位を付けていきます。
| 視点 | 確認する問い | 重要業務になりやすいサイン |
|---|---|---|
| 売上・収益 | 止まると日次・月次の売上がどれだけ失われるか | 売上の大部分を占める、代替収益がない |
| 顧客約束 | 納期・稼働・応答をいつまでに守る約束か | SLA・納品日・営業時間の約束がある |
| 法令・契約 | 止めると法令違反や契約違反になるか | 許認可業務、供給契約、データ保管義務がある |
| 代替可否 | 他拠点・他社・手作業で肩代わりできるか | 特定の人・設備・システムに依存している |
| 復旧時間 | いつまでに戻せないと致命的か | 数時間〜数日で戻さないと顧客離脱・違約が発生 |
この表は、記入欄を埋めるための一覧ではなく「なぜその業務を優先するのか」を説明できるようにするためのものです。5つの視点でスコアを付け、上位の業務を重要業務として仮置きすると、部署をまたいだ合意が取りやすくなります。
なぜ「止めない業務」を先に決める必要があるのか
重要業務を決めずに対策を並べると、限られた人・お金・時間が薄く広く分散し、いざというときに何から動くのかが曖昧になります。ここで見過ごせないのが資金の論点です。関東経済産業局は、復興時に役立った対策の約8割が資金面の対策だった一方で、半数以上の事業者が災害発生時の対策資金を十分に把握していないと紹介しています。
つまり、止まると困る業務を特定することは、同時に「その業務を止めないため・早く戻すために、いくら必要になるのか」を見積もる作業でもあります。重要業務が定まると、必要な代替設備、外注費、当面の運転資金、そして保険で備える範囲が具体的に見えてきます。
特定の進め方:4ステップで棚卸しする
重要業務の特定は、次の順番で進めると迷いにくくなります。
- 業務の洗い出し:受注、製造、出荷、請求、問い合わせ対応など、日常業務を粒度をそろえて書き出します。
- 5つの視点で評価:上表の視点で各業務を見て、止まったときの影響を短く言語化します。
- 優先順位付け:影響が大きく、復旧に時間がかかる業務を上位に置きます。売上以外の視点で上がってきた業務を見落とさないようにします。
- 依存関係の確認:重要業務を支える人・設備・システム・仕入先を特定し、どこが止まると連鎖するかを押さえます。
この棚卸しの結果が、そのまま事業継続力強化計画の「事業活動に影響を与える自然災害等の想定」と「対策」の骨格になります。書き方の具体は事業継続力強化計画の書き方|認定で見られる項目も参考にしてください。
見落とされがちな論点:保険は自動では出ない
重要業務を決め、その復旧費用に保険で備えたとしても、保険金は事故が起きれば自動的に支払われるものではありません。ここに、保険代理店が日々向き合っている知識の非対称があります。実際の請求では、保険を掛けている側(被保険者)が、対象となる事故が起きたこと、対象となる損害の内容、金額、事故と損害の因果関係、発生した時期、そして免責事由に当たらないことを、資料を添えて説明する必要があります。
重要業務を特定する段階で、どの業務が止まるとどんな損害(休業損失・復旧費用・追加費用)が発生するのかを言語化しておくと、いざというときの説明資料の下地になります。逆に、業務と損害の対応関係が曖昧なままだと、被害を受けた直後に因果関係や金額の裏付けを一から用意することになりかねません。重要業務の特定は、補償設計と請求時の説明力の両方に効いてくる作業だといえます。
ポイント:重要業務ごとに「止まると発生する損害の種類」を一言でも書き添えておくと、補償の過不足チェックと、事故後の請求資料づくりの両方が進めやすくなります。
経済合理性:計画づくりが呼び込む備え
重要業務を特定して事業継続力強化計画にまとめる過程は、優遇措置とも結び付きます。中小企業防災・減災投資促進税制では、2026年7月時点で特別償却16%の措置が示されています。対象となる設備、取得の時期、認定の時期などの条件確認が前提であり、適用可否は個別の状況によって異なります。
あわせて、計画の実施期間は最大3年です。満了後も続ける場合は新たな計画として申請し、2回目以降は実施状況報告書の内容も論点になります。重要業務を一度きりの記入で終わらせず、事業の変化に合わせて見直す前提で設計しておくと、更新時の負担が軽くなります。更新の考え方は事業継続力強化計画の更新|再申請と実施報告で詳しく整理しています。
相談後に一緒に確認するチェックリスト
支援機関や代理店に相談したあと、次の項目を一緒に確認していくと、重要業務の特定と計画づくりがスムーズになります。
- 主要な業務を粒度をそろえて書き出したか
- 各業務について「止まると何が起きるか」を一言で書けるか
- 売上以外(顧客約束・法令契約・代替可否・復旧時間)の視点で見直したか
- 重要業務を支える人・設備・システム・仕入先を把握しているか
- 重要業務ごとに発生しうる損害の種類(休業・復旧費用・追加費用)を想定したか
- 災害時に当面必要となる資金の概算を把握しているか
- 現在加入している保険が、想定する損害をカバーしているか未確認の点はどこか
手続きの流れと逆算
重要業務が固まったら、計画本体の作成と申請に進みます。中小企業庁の申請方法ページでは、申請は原則電子申請とされ、gBizIDプライムが必要で、取得には約2週間程度を見込む旨が示されています。さらに、申請から認定までの標準処理期間は約45日とされています。設備導入や優遇措置のスケジュールがある場合は、これらの期間を逆算して動くのが安全です。
全体像は事業継続力強化計画ガイド|申請・書き方・無料支援、対象確認は事業継続力強化計画の対象企業とは?申請前の確認、期間の逆算は事業継続力強化計画の期間|認定45日と逆算手順を参照してください。
那由他保険テクノロジーズによる重要業務別の休業損害・復旧費用補償の照合
5つの視点で重要業務を仮置きし、依存関係まで書き出しても、社内だけでは決めきれない論点が残ります。「その業務が止まったときに発生する休業損失・復旧費用・追加費用を、いま加入している契約のどの条項が、どこまで、いつまで負担するのか」です。ここが未確認のまま計画を提出すると、対策欄には保険と書かれているのに、実際の補償範囲と復旧時間の想定がずれたままになります。
那由他保険テクノロジーズでは、法人リスクコンサルティングと保険プログラムの見直しの一環として、火災保険・企業財物保険と利益(休業)補償の保険証券・約款・特約条項を、棚卸しした重要業務の一覧と突き合わせ、次の項目を比較して整理します。
- 重要業務ごとに想定した損害(休業損失・復旧費用・臨時費用)と、証券上の補償対象・支払限度額・免責金額の対応関係
- 利益(休業)補償の支払対象期間、免責期間(待機日数)、約定復旧期間が、棚卸しで見積もった復旧時間と整合しているか
- 想定する災害(地震・水災・風災、電気的機械的事故など)ごとの担保の有無と、支払割合・除外事由の条件
- 依存関係で洗い出した仕入先・外注先・電力や通信の停止について、構外設備や取引先の被災に起因する休業を対象とする特約が付帯しているか
- 複数の保険会社・複数証券にまたがる補償の重複と不足、更新月と受付窓口の違い、そこから見える保険料の削減余地
照合の結果としてお渡しするのは、重要業務ごとに「自社の資金で持つ範囲(自己保有)」「保険で移す範囲」「条件変更や追加を検討する契約」「現行のまま据え置く契約」を区分した比較の整理です。証券と約款だけでは確定できない引受条件(特約の付帯可否、支払割合、事故時に求められる損害区分の立証資料)は保険会社への照会事項として書き出し、社内で確認する担当(生産管理・経理・情報システム・購買)と切り分けます。
補償の追加や条件の変更は保険会社の引受審査の結果によるため、保険料が下がることや補償が適正化されることを保証するものではありません。中小企業防災・減災投資促進税制の適用可否は税理士等へ、認定要件や申請手続の詳細は中小企業庁および支援機関の最新の公表情報でご確認ください。次回更新まで契約を変更せず、重要業務の整理だけを先行させる判断もあり得ます。重要業務の一覧や現在の保険証券が整理できていない状態でもご相談は始められ、重要業務の整理と証券の照合は、ご相談のあとに那由他と一緒に進めます。
重要業務の洗い出しから、損害の想定・補償の確認・認定申請まで。那由他保険テクノロジーズの無料支援で、保険代理店の視点を交えてご相談いただけます。
事業継続力強化計画の無料支援を見るよくある質問
Q1. 重要業務と主力事業は同じものですか?
A. 原則としてしも同じではありません。売上が大きい業務が重要とは限らず、止まると顧客約束や法令・契約上の義務を破る業務、他で代替できない業務は、売上規模が小さくても重要業務になり得ます。「止まると何が起きるか」で判断します。
Q2. 重要業務はいくつに絞ればよいですか?
A. 決まった数はありません。多すぎると対策が分散し、少なすぎると連鎖する業務を見落とします。まず売上・顧客約束・法令契約・代替可否・復旧時間の視点で上位に来た業務を仮置きし、依存関係を確認しながら現実的に動ける範囲へ絞り込みます。
Q3. 売上が小さい業務でも重要業務になりますか?
A. なり得ます。許認可に関わる業務、供給契約やデータ保管義務のある業務など、止めると法令違反・契約違反や信用低下につながる業務は、金額の大小にかかわらず優先度が高くなることがあります。
Q4. 事業継続力強化計画の認定にはどれくらい時間がかかりますか?
A. 中小企業庁の申請方法ページでは、申請から認定までの標準処理期間は約45日とされています。加えて電子申請に必要なgBizIDプライムの取得に約2週間程度を見込むとされているため、余裕をもって逆算して進めるのが安全です。
Q5. 重要業務を決めて保険に入れば、災害時に保険金はすぐ支払われますか?
A. 保険金は自動的に支払われるものではありません。被保険者の側で、対象となる事故・損害の内容・金額・因果関係・発生時期・免責事由に当たらないことを資料で説明する必要があります。重要業務ごとに発生しうる損害を整理しておくと、請求時の説明資料の下地になります。
Q6. 重要業務の特定や計画づくりの相談に費用はかかりますか?
A. 那由他保険テクノロジーズの事業継続力強化計画策定支援は無料でご相談いただけます。重要業務の洗い出しから損害の想定、補償の確認、申請準備までを一緒に整理します。詳しくは無料支援のご案内をご覧ください。
参考一次情報・公的資料
- 中小企業庁:事業継続力強化計画(制度概要・認定件数)
- 中小企業庁:申請方法(電子申請・標準処理期間 約45日)
- 事業継続力強化計画 電子申請ポータル
- GビズID(gBizIDプライムの取得)
- 中小機構:事業継続力強化計画 支援ポータル
- 関東経済産業局:リスクファイナンス(災害時の資金把握)
- 日本損害保険協会:中小企業向け保険の解説
情報確認日:2026年7月6日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月6日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。制度要件、補助金、税制、融資、保険金支払、保険料、引受可否は、最新の公表情報、約款、契約条件、個別事情により変わります。法務・税務・労務・会計の判断は、必要に応じて専門家へご確認ください。