企業型DCのマッチング拠出とは?2026年改正後の上限と導入判断

企業型DC(企業型確定拠出年金)のマッチング拠出とは、会社が出す事業主掛金に、従業員本人が自分の掛金を上乗せして積み立てる仕組みです。導入して効果が出るかどうかは、自社の事業主掛金の水準と、iDeCo(個人型)併用を認めるかどうかで結論が分かれます。2026年4月1日には「加入者掛金は事業主掛金以下」という制限が撤廃され、事業主掛金が小さい企業ほど上乗せ余地が広がりました。ここでは仕組み、限度額ルール、iDeCoとの選び方、導入前に確認する資料を実務目線で整理します。

Summaryこの記事のポイント

  • マッチング拠出は、事業主掛金に加入者が自分の掛金を上乗せする任意加入の仕組みで、加入者掛金は給与天引きで企業型DCの口座に積み立てます。
  • 2026年4月1日に「加入者掛金は事業主掛金以下」という制限が撤廃され、事業主掛金と加入者掛金の合算が拠出限度額以内であればよい形に変わりました。
  • 拠出限度額は他の企業年金がない企業型DCで月額55,000円、2026年12月からは月額62,000円へ引き上げが予定されています。
  • マッチング拠出とiDeCoは加入者本人がどちらか一方を選ぶ仕組みで、事業主掛金の水準によって上乗せ枠の大きさが変わります。
  • 加入者掛金は小規模企業共済等掛金控除の対象という制度上の扱いですが、手取りへの影響額は各人の課税状況によるため個別確認が前提です。

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マッチング拠出とは何か(加入者掛金を上乗せする仕組み)

企業型DCは、会社が毎月掛金を拠出し、加入者である従業員が自分でその運用を行う退職金・年金制度です。マッチング拠出は、この事業主掛金に従業員が自分の掛金(加入者掛金)を上乗せできる仕組みで、希望する従業員だけが任意で利用します。会社が制度を用意しても、加入者が申し込まなければ上乗せは始まりません。ここが「導入すれば福利厚生が厚くなる」と単純に言えない理由で、制度を入れるかどうかと、加入者に使われるかどうかは別の判断になります。

加入者掛金は給与天引きで企業型DCの口座に入り、事業主掛金と合算して運用されます。積み立てた資産は原則60歳まで引き出せず、運用結果は加入者本人が負う設計です。制度の枠組みは厚生労働省「確定拠出年金制度」で確認できます。マッチング拠出を採用するかどうかは規約で定めるため、まず自社の企業型DC規約に加入者掛金の定めがあるかを見るのが出発点です。

加入者掛金の上限と限度額ルール(2026年7月時点)

マッチング拠出の上限は次のように整理できます。従来あった「加入者掛金の額は事業主掛金の額を超えてはならない」という制限は、2026年4月1日施行の改正で撤廃されました。現在は、事業主掛金と加入者掛金の合算が企業型DCの拠出限度額以内であれば、加入者は事業主掛金を超えて掛金を設定できます。この撤廃は厚生労働省「2025年の制度改正」で公表され、根拠はe-Gov「確定拠出年金法」にあります。

2026年7月時点のマッチング拠出の上限ルール
項目2026年7月時点の扱い
加入者掛金と事業主掛金の関係2026年4月1日に「事業主掛金以下」の制限が撤廃。事業主掛金を超えて設定できる
合算の上限事業主掛金+加入者掛金が企業型DCの拠出限度額以内に収まること
拠出限度額(他の企業年金なし)月額55,000円
拠出限度額(確定給付企業年金などを併用)月額55,000円から他制度の掛金相当額を控除した額
2026年12月以降の予定拠出限度額を月額62,000円へ引き上げ(2026年12月1日施行予定)。あわせて第2号加入者のiDeCoの拠出限度額も、企業年金と共通の月額6.2万円の枠に一本化される予定

制度設計の立場から言える分かれ目はここです。事業主掛金が月1万円の企業を例にとると、改正前は加入者掛金も最大1万円までに抑えられ、合算しても月2万円しか積み立てられませんでした。撤廃後は、他の企業年金がなければ限度額の月5.5万円まで枠が残るため、加入者は差額の4.5万円を上限に上乗せできます。つまり事業主掛金が小さい企業ほど、この撤廃で広がる余地が大きいという逆転が起きます。改正前は「事業主掛金が少ない会社ではマッチング拠出を入れても意味が薄い」と判断していた企業も、いまは再検討の対象になります。最新の限度額は厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」で確認してください。

マッチング拠出とiDeCo併用はどちらを選ぶか

従業員が自分で上乗せする方法には、マッチング拠出のほかに、企業型DC加入者がiDeCoに加入する道もあります。この二つは同時には使えず、加入者はどちらか一方を選びます。2022年10月からは企業型DC加入者のiDeCo加入について企業型DCの規約の定めが不要になったため、会社が規約で決められるのはマッチング拠出を用意するかどうかまでで、用意した場合にどちらを使うかは加入者本人が選びます(厚生労働省リーフレット「企業型DC加入者がiDeCoを利用しやすくなります」)。判断は下の基準で比べると速くなります。

マッチング拠出とiDeCoの判断基準(2026年7月時点)
判断のポイントマッチング拠出iDeCo
掛金を出す主体と経路加入者本人が給与天引きで拠出加入者本人が自分の口座からiDeCoへ納付
上乗せ枠の決まり方事業主掛金と合算で企業型DCの限度額以内2026年7月時点は月額2万円を上限に、事業主掛金などとの合算で限度額以内に調整。2026年12月1日施行の改正で、この2万円枠は企業年金と共通の月額6.2万円の枠へ一本化される予定
口座管理手数料企業型DCの枠組みを使うため加入者の追加口座管理料は基本的に不要iDeCo側の口座管理手数料が別途かかる
手続の窓口会社と運営管理機関で完結しやすい加入者本人がiDeCoを申し込む
向きやすいケース事業主掛金にまとまった水準があり会社側で一括管理したい加入者が運用先を自分で選びたい、運用商品の幅を広げたい

事業主掛金が大きいほどiDeCoの併用枠は圧縮されやすく、逆に運用商品の選択肢を広げたい加入者にはiDeCoが向くことがあります。会社が決めるのはマッチング拠出を規約に置くかどうかで、置いた場合はどちらを使うかを加入者が選びます。加入者層の希望と会社の管理コストを並べて、マッチング拠出を用意するかを決める設計判断です。両者の違いを人ごとに詰めたいときは企業型DCとiDeCoの違いを整理した記事もあわせて確認すると、検討が進みます。

導入・変更で必要な手続と対象外になりやすいケース

マッチング拠出を新たに採用したり、加入者掛金の上限設定を見直したりするときは、企業型DCの規約変更と労使合意、運営管理機関との手続が要ります。加入者掛金の下限や刻み、対象者の範囲も規約で定めるため、制度導入と同時に運用ルールを固めておくと後の混乱を防げます。既存規約に「事業主掛金以下」の文言が残っている企業は、撤廃を反映して枠を広げるのか、当面は現行のまま据え置くのかも、あわせて決めておく論点になります。

対象外や効果が限定的になりやすいのは、次のようなケースです。事業主掛金がすでに限度額に近い水準だと、合算の余地が小さく上乗せできる額が限られます。確定給付企業年金などを併用していて他制度の掛金相当額が大きい企業も、控除後の枠が狭くなります。加入者にとっては、直近で住宅資金や教育資金など短中期の支出が控えている人は、60歳まで引き出せない資金を増やす判断がしにくくなります。誰にとっても得とは言い切れない制度なので、対象者と枠の残りを先に押さえておくのが安全です。導入前の注意点は企業型DCのデメリットと対処法をまとめた記事でも確認できます。

加入者の可処分所得と税制上の位置づけ

加入者掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象という制度上の扱いです。制度としては課税所得から差し引かれる位置づけですが、実際にどれだけ手取りに影響するかは、各人の所得水準や他の控除の状況によって変わります。会社が説明資料でこの点を断定的に「得になる」と示すと誤解を招くため、税負担の影響は各自で確認する前提を添えるのが安全です。控除の根拠はe-Gov「確定拠出年金法」および所得税法の小規模企業共済等掛金控除にあります。

もう一つ見落としやすいのが、可処分所得への当面の影響です。加入者掛金は給与天引きで積み立てに回るため、その分だけ毎月の手取りは減ります。老後資産は増えても、生活費とのバランスを取れる範囲で掛金を設定できるよう、加入者が自分で金額を調整できる制度説明が要ります。任意加入である以上、内容が伝わらなければ利用は進みません。控除の仕組みと60歳まで引き出せない点を、誤解のない資料で示すことが定着の条件になります。制限撤廃で枠が広がったぶん、上限まで拠出できると案内するのではなく、無理のない水準から始められる設計にしておくと、加入者の離脱を防げます。

数字で見る企業型DCとマッチング拠出の広がり

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は74.9%でした。さらに、退職年金制度がある企業のうち確定拠出年金(企業型)を実施している企業の割合は50.3%で、確定給付企業年金などを上回り最も高い形態になっています(就労条件総合調査)。2026年7月時点で参照できる直近の同調査であり、企業型DCが退職給付の主流手段になったことを示します。その上乗せ手段であるマッチング拠出をどう扱うかは、多くの企業に関わる論点だと読み取れます。

これから企業型DCやマッチング拠出を検討する企業は、まず自社が退職給付をどの形態で用意しているか、上乗せ枠がどれだけ残るかを確認するところから始めると、判断の順序を組み立てやすくなります。中退共など他制度との比較は中退共と企業型DCの違いを整理した記事が参考になります。

マッチング拠出の判断で確認する項目(チェックリスト)

マッチング拠出の可否や効果を判断するときは、現状の制度内容を数値で押さえると、上乗せ枠の余地とiDeCoとの比較を具体的に検討できます。次の項目は、その検討で論点になりやすいポイントです。ご相談いただいた後に、那由他保険テクノロジーズが状況をうかがいながら一緒に確認・整理していきます。

  • 現行の企業型DC規約(事業主掛金の設定方法と加入者掛金の定めの有無)
  • 運営管理機関との契約条件と手数料体系
  • 事業主掛金の現在の水準と拠出限度額までの余地(合算枠の残り)
  • 確定給付企業年金など他制度の有無と掛金相当額
  • 従業員構成(年齢、人数、想定加入率)
  • 退職金や他の福利厚生制度との関係
  • iDeCoを利用している加入者の有無と、マッチング拠出を用意した場合の想定利用者数
  • 労使合意と規約変更に向けた社内手続の状況

企業型DCそのものの位置づけを先に押さえたいときは企業型DCの導入メリットと流れを解説した記事を確認すると、マッチング拠出の検討がしやすくなります。

制度選びで迷ったときの整理の進め方

導入を迷う理由の多くは、制度の一般論だけでは「自社の事業主掛金の水準で上乗せ枠がどれだけ残るか」「加入者にとってマッチング拠出とiDeCoのどちらが枠を最大化できるか」が見えないことにあります。ここで資料を数値化して整理すると効くのは、限度額の残り枠と対象者を具体的な金額と人数に落とし込めるからです。枠が数字で見えれば、上乗せの実効性と運営コストの見合いを比べて判断できます。2026年4月の撤廃で「うちは事業主掛金が小さいから対象外」と決めていた前提が崩れた企業ほど、この再計算の価値は大きくなります。

経済合理性の面では、加入者掛金はそのまま積み立てに回り、企業型DCの既存の枠組みを使うため加入者側で新たな口座管理手数料を増やさずに枠を活用できます。一方で事業主掛金が限度額に近い企業では上乗せ余地が小さく、iDeCoのほうが枠が広い加入者も出てきます。こうした損得は自社の条件を当てはめて初めて見えるため、一般論ではなく自社の実情に沿って方針を整えるのが近道です。那由他保険テクノロジーズでは、企業型DCの設計を退職金・他の福利厚生・従業員構成とあわせて整理し、掛金水準や加入者層まで踏まえて「自社ではどの設定が合うか」を一緒に詰めるご相談を承っています。マッチング拠出を用意するかどうかや上乗せ枠の考え方が固まっていない段階でも、お話をうかがいながら論点を一緒に整理していきますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

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よくある質問

マッチング拠出とiDeCoは両方使えますか?

加入者はマッチング拠出とiDeCoを同時には利用できず、どちらか一方を選びます。2022年10月からiDeCo加入に企業型DCの規約の定めは不要になっており、マッチング拠出を導入した会社では、どちらを使うかを加入者本人が選びます。どちらの上乗せ枠が大きいかは事業主掛金の水準によって変わるため、会社は規約でマッチング拠出を用意するかを設計段階で決めておきます。

2026年の改正で加入者掛金の上限はどう変わりましたか?

2026年4月1日に「加入者掛金は事業主掛金以下」という制限が撤廃されました。2026年7月時点では、事業主掛金と加入者掛金の合算が企業型DCの拠出限度額以内であれば、事業主掛金を超えて加入者が掛金を設定できます。

加入者掛金はいくらまで拠出できますか?

事業主掛金と加入者掛金の合算が拠出限度額以内であることが条件です。他の企業年金がない企業型DCの限度額は2026年7月時点で月額55,000円、確定給付企業年金などを併用する場合は55,000円から他制度の掛金相当額を控除した額になります。

導入や変更には何が要りますか?

企業型DCの規約変更と労使合意、運営管理機関との手続が要ります。加入者掛金の上限や対象者の範囲も規約で定めます。任意加入の制度のため、控除の扱いや60歳まで引き出せない点を含めた従業員への周知もあわせて準備します。

加入者掛金は税金の面でどう扱われますか?

加入者掛金は小規模企業共済等掛金控除の対象という制度上の扱いです。ただし手取りへの影響額は各人の所得や他の控除の状況で変わるため、実際の税負担は各自で確認する前提にしてください。

途中で引き出したり掛金を止めたりできますか?

企業型DCで積み立てた資産は原則60歳まで引き出せません。加入者掛金は任意のため、規約の範囲で金額の変更や拠出の停止はできますが、既に積み立てた分の途中引き出しは原則できない点を加入者に伝えておくと誤解を防げます。

参考一次情報・公的資料

情報確認日:2026年7月3日

執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月3日

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。保険商品の補償内容、引受可否、保険料、保険金の支払可否は、保険会社、商品、約款、契約条件、事故状況、個別事情によって変わります。税務・法務・労務・会計上の判断が必要になり得る事項は、税理士、弁護士、社会保険労務士など専門家にも確認してください。