
企業型DC(確定拠出年金)の導入でまず決めるのが、事業主掛金をいくらにするかです。掛金に唯一の正解はなく、2026年7月時点の拠出限度額の範囲内で、自社の退職金水準・賃金制度・従業員構成・原資の続けやすさから逆算して設計します。分岐はシンプルで、確定給付企業年金(DB)など他制度を併用していない会社は月55,000円の枠をそのまま使え、併用している会社はその枠が「55,000円−他制度掛金相当額」まで下がります。どちらに当たるかを最初に押さえると、その後の金額設計の判断が速くなります。制度の全体像は企業型DCとは何かもあわせてご覧ください。
Summaryこの記事のポイント
- 事業主掛金は2026年7月時点で月額55,000円が上限。ただしDB等を併用すると「55,000円−他制度掛金相当額」まで枠が下がる。
- 「限度額まで出せる」と「限度額まで出すべき」は別問題。原資を続けられる水準から逆算するのが実務的。
- 定額・定率・等級別・退職金原資の振替は目的が違う。退職金制度全体の中で位置づけて選ぶ。
- 一度決めた掛金の引き下げは労働条件の不利益変更に当たり得るため、無理のない水準から始める。
- 金額設計の判断材料は退職金規約・賃金台帳・従業員構成・原資計画。手元で整理できていない状態でも相談でき、那由他と一緒に材料をそろえながら具体的なシミュレーションに進めます。
事業主掛金とは、企業型DCで会社が加入者(従業員)のために毎月拠出する掛金のことで、その水準と決め方が本記事のテーマです。
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事業主掛金の拠出限度額は2026年7月時点でいくらか
企業型DCの事業主掛金は、確定拠出年金法にもとづく拠出限度額の範囲内で設定します。2024年12月の制度改正後、企業型DCだけを実施している事業所の限度額は月額55,000円です。DB等の他制度を併用している事業所は「月額55,000円から他制度掛金相当額を控除した額」が上限になります。まず自社がどの枠に当たるかを見極めるところが出発点です。
限度額や他制度との調整ルールは改正されることがあり、2026年12月にもさらなる見直しが予定されています。金額を最終確定させる前に、厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」とe-Gov「確定拠出年金法」で最新の内容を照合してください。
| 自社の企業年金の状況 | 事業主掛金の拠出限度額(月額) | 補足 |
|---|---|---|
| 他の企業年金なし(企業型DCのみ) | 55,000円 | マッチング拠出・iDeCo併用時は合算で判定 |
| DB等の他制度を併用(確定給付企業年金・厚生年金基金など) | 55,000円 − 他制度掛金相当額 | 控除後が27,500円を下回るときは27,500円とする経過措置あり |
| 加入者がiDeCoを併用する場合 | iDeCo掛金は「55,000円 −(事業主掛金+他制度掛金相当額)」かつ月2万円まで | 併用の可否・条件は規約による |
普及の広がりも設計の前提になります。運営管理機関連絡協議会がまとめ厚生労働省が公表する確定拠出年金統計資料(2025年3月末)では、企業型DCの加入者数は約862万人でした(2026年7月時点で公表されている最新値)。多くの従業員が制度の対象となっており、掛金設計の巧拙がそのまま将来の給付水準に反映される規模だといえます。
他の企業年金を併用すると限度額はどう変わるか
設計で最初につまずきやすいのがここです。企業型DCだけなら月55,000円という分かりやすい上限ですが、DBや厚生年金基金を併用していると、その掛金相当額が55,000円から差し引かれます。同じ役職・同じ給与でも、他制度の有無で使える枠が変わるという非対称があるため、限度額を語る前に自社の退職給付制度の全体像を棚卸しする作業が欠かせません。
この他制度掛金相当額は自社の書類から手繰れます。確定給付企業年金なら、年金数理にもとづく掛金や、運営管理機関・信託銀行から届く掛金計算の通知に金額の手がかりがあり、厚生年金基金なら基金規約と掛金率が拠りどころになります。DB規約と直近の掛金額の資料を手元に置けば、55,000円からいくら差し引かれるのかを自社で試算でき、控除後の枠が27,500円の経過措置に触れるかどうかも見当がつきます。ここが曖昧なまま定率で組むと、昇給後に枠へ収まらず設計をやり直すことになりがちです。
改正前はDB併用なら一律27,500円でしたが、現在は控除方式に切り替わっています。控除後の額が27,500円を下回るときに27,500円を維持できる経過措置も設けられていますが、新規実施や規約変更のタイミングで経過措置が終わることがあります。既存制度を持つ企業ほど、ここは社会保険労務士や運営管理機関を交えて枠を固めておくと安全です。
マッチング拠出・iDeCo併用との関係
事業主掛金に従業員が自己負担を上乗せするマッチング拠出を導入すると、事業主掛金と加入者掛金の合算が拠出限度額に収まること、かつ加入者掛金が事業主掛金を超えないことが条件になります。つまり事業主掛金を低く抑えすぎると、従業員が上乗せできる枠も小さくなります。iDeCoとの併用可否を含め、制度の組み合わせは企業型DCとiDeCoの違いで整理したうえで、どこまで従業員側の自助努力を織り込むかを設計します。
掛金の設計パターンをどう選ぶか
事業主掛金の決め方には典型的なパターンがあります。それぞれ狙いと負荷が違うので、自社の人事ポリシーに照らして選びます。次の表は、どの設計が自社の目的に合うかを素早く見極めるための比較です。
| 設計パターン | 概要 | 向いているケース | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 定額制 | 全員に同額を拠出 | シンプルに福利厚生を底上げしたい | 役割・貢献度との連動が弱い |
| 定率制(給与比例) | 基本給等に一定率を掛けて算定 | 賃金体系と整合させたい | 高給者ほど限度額に達しやすい |
| 役職・等級別 | 等級ごとに掛金テーブルを設定 | 人事制度と連動させたい | 制度設計・規程整備の負荷が大きい |
| 退職金原資の振替型 | 既存退職金の一部をDCへ移行 | 退職給付債務を平準化したい | 移行設計と従業員説明が要る |
パターンは退職金制度全体から考える
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査(2023年)では、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は74.9%、従業員30〜99人規模では70.1%でした(2026年7月時点で公表されている最新の調査結果/就労条件総合調査)。退職給付制度は多くの企業が備える一方、中小規模ほど未整備が残っており、企業型DCがその受け皿になり得ることを示します。だからこそ企業型DCは単独ではなく、退職一時金やDB、あるいは中退共など既存制度の一部として位置づけ、掛金設計は退職金制度全体の再設計とセットで進めるのが実務的です。
掛金水準を決める判断軸と給与・選択制の論点
具体的な金額に落とし込むときは、次の観点を順に整理すると意思決定が進みます。
- 原資の持続可能性:景気変動があっても続けられる水準か。引き下げは従業員の不利益変更につながりやすく、慎重な対応が求められます。
- 退職金水準との整合:目標とする退職給付水準から逆算して掛金を設定できているか。
- 従業員構成:年齢構成・勤続年数・給与分布によって、同じ掛金でも到達する給付額は変わります。
- 採用・定着への効果:福利厚生としての訴求力とコスト負担のバランスが取れているか。
ここで論点になりやすいのが、給与の一部を掛金に振り替える選択制の扱いです。選択制は事業主の追加コストを抑えつつ従業員に自助の枠を渡せる一方、掛金にした分は給与ではなくなるため、社会保険料の算定基礎や将来の傷病手当金・年金額への影響を従業員に丁寧に説明する必要があります。役員を対象に含めるかどうかでも設計は変わり、給与設計と掛金設計は切り離せません。
制度設計に踏み込むからこそ見える境界がここにあります。選択制を採るなら、いくらを掛金に振り替えると標準報酬月額の等級が下がるのかを、賃金台帳と標準報酬月額の等級表で従業員ごとに当たっておくと判断を誤りにくくなります。等級が下がれば毎月の社会保険料は軽くなる一方、将来の老齢厚生年金や傷病手当金・出産手当金の基礎も下がり得るため、若手と高齢層では受け止めが変わります。役員を枠に含めるかも境界です。役員報酬は定期同額給与などの制約があり、掛金への振替が報酬設計に波及し得るため、役員分は税理士と設計方針をすり合わせてから組み込むのが安全です。
設定後に効いてくる注意点
掛金額そのものより、運用開始後に問題になりやすいのが次の論点です。導入前に企業型DCのデメリットと対処法も見ておくと、後戻りしにくい判断を避けやすくなります。
掛金の引き下げは原則として難しい
事業主掛金は労働条件の一部とみなされ得るため、いったん設定した水準の引き下げには従業員の同意や規程変更の手続が伴います。「業績が良いときに高く設定し、悪化したら下げる」という発想は実務リスクが高く、無理のない水準から始める設計が現実的です。
限度額の超過と他制度との調整
定率制で設計すると、昇給によって一部の従業員が拠出限度額を超えてしまうことがあります。限度額管理のルールと、他の企業年金があるときの調整を設計段階で織り込んでおきます。規約の作成・承認や労使合意といった手続も掛金設計に紐づくため、後から変えにくい前提で組み立ててください。
事業主掛金は税務上どう扱われるか
一般に、企業型DCの事業主掛金は損金算入の対象とされ、従業員側でも給与としての課税対象にはならない取り扱いとされています。ただし、これを確定した「節税メリット」として保証できるものではありません。他制度掛金相当額の計算、選択制での社会保険料の扱い、役員分の取り扱いなどは条件によって結論が変わり得ます。税務・会計上の判断は、根拠となる確定拠出年金法や関連通達を照合したうえで、税理士に個別確認することをおすすめします。
掛金設計の判断材料になる資料と論点
掛金設計を自社条件に即して詰めていくとき、判断材料になるのは次の情報です。手元にそろっていなくても相談は始められ、どこに何があるかの確認から一緒に進められます。
| 区分 | 設計判断に使う材料 |
|---|---|
| 既存制度 | 現行の退職金規程、確定給付企業年金など他制度の有無と掛金相当額 |
| 賃金・人事 | 給与規程・賃金テーブル、賃金台帳、等級制度、従業員の年齢・勤続・給与分布 |
| 原資計画 | 想定する年間拠出総額と、その持続可能性の見通し |
| 方針 | 定額/定率/等級別など、希望する設計の方向性 |
| 目標水準 | 目指す退職給付水準や、福利厚生としての位置づけ |
これらの資料は社内の別々の担当が持っていることが多く、給与規程・賃金台帳・賃金テーブルは人事・給与担当、退職金規程や既存制度の規約は総務・管理部門、原資計画は経理・財務が握っています。三者にまたがるぶん一人で集めるには手間がかかるため、どの部門に何があるかの確認から那由他が一緒に入り、限度額の枠取りと設計パターンの当てはめに必要な範囲から順にそろえていきます。
これらが突き合わせられると、限度額の枠取り、設計パターンの選択、想定コストのシミュレーションを一体で検討できます。設計が「迷う」のは、限度額・給与・既存制度・従業員説明という別々の条件が絡み合い、どれか一つを動かすと他が連動して変わるからです。この連動関係を前提に置ければ、原資を続けられる水準と従業員に説明できる根拠をそろえて設計できます。自社の賃金制度・退職金規程・従業員構成によって最適な掛金水準は変わるため、規程と実態をふまえた個別の検討が近道です。他制度掛金相当額の試算や選択制の社会保険への影響のように、給与設計・既存制度・限度額を横断して判断する論点が残っているなら、下記からご相談ください。
那由他保険テクノロジーズによる退職金規程・DB規約と企業型DC掛金設計の照合支援
ここまでの整理を踏まえても、会社ごとに残るのは次の3点です。第一に、DBや厚生年金基金を併用している場合の他制度掛金相当額をいくらと見るか。第二に、定額・定率・等級別・退職金原資の振替のどれが自社の等級制度と退職金規程に収まるか。第三に、選択制を採る場合に給与のいくらを掛金へ振り替えると標準報酬月額の等級が動くか。いずれも限度額・賃金制度・既存制度が連動するため、単独では結論が出しにくい論点です。
那由他保険テクノロジーズは、福利厚生制度の設計支援と企業型DCの導入支援を行っています。具体的には、退職金規程の支給算定式と勤続年数別の支給水準、確定給付企業年金の規約と運営管理機関・信託銀行から届く直近の掛金額の通知、給与規程と賃金テーブル、等級別の在籍人数と年齢・勤続の分布、経理・財務が見込む年間拠出原資を突き合わせます。そのうえで、55,000円から他制度掛金相当額を控除した後の枠、控除後が27,500円を下回る場合の経過措置の当否、定額・定率・等級別それぞれで置いたときの年間拠出総額と等級別の到達水準を並べて比較し、判断材料を整理します。運営管理機関へ確認すべき事項(他制度掛金相当額の算定根拠、定率制での限度額超過の管理方法、規約変更の手続と時期)も、社内で確定できる項目と切り分けて洗い出します。
資料は社内で分散していることが多く、退職金規程と確定給付企業年金の規約は総務・管理部門、給与規程・賃金テーブル・等級別人数は人事・給与担当、年間拠出原資の見通しは経理・財務が保有しています。手元に集まっていない状態でご相談いただいて構いません。どの部門に現に適用されている版があるかを確認するところから那由他が一緒に進め、照合に必要なものから順に突き合わせていきます。この照合を経ると、「限度額まで出せるか」ではなく「どの水準なら景気変動があっても続けられ、従業員にどう説明できるか」という順で意思決定できるようになります。既存の退職一時金や中退共を残したまま企業型DCを小さく始める、あるいは今回は導入を見送るという判断も、同じ材料の上で比較できます。
なお、掛金の損金算入や役員報酬との関係など税務上の取り扱いは税理士、選択制による社会保険料と将来の給付への影響や規程変更に伴う労使手続は社会保険労務士へ、それぞれ最終確認をお願いする領域です。那由他が行うのは制度設計に必要な条件の照合と比較・設計の支援であり、特定の掛金水準やコスト削減の結果を保証するものではありません。他制度掛金相当額の試算や選択制の社会保険への影響のように、給与設計・既存制度・限度額を横断して判断する論点が残っているなら、下記からご相談ください。
よくある質問
事業主掛金は最低いくらから設定できますか
下限の考え方や運営管理機関ごとの取り扱いがあり、一律の最低額が法令で決まっているわけではありません。実務上は、運用コストとのバランスや福利厚生としての意味合いから無理のない水準を検討します。自社の原資計画と運営管理機関の条件を確かめたうえで設定するのが現実的です。
掛金は全員同じ額にすべきですか
定額制は公平感が分かりやすい一方、役割や貢献度との連動は弱くなります。定率制や等級別にすると人事制度と整合しますが、限度額管理や規程整備の負荷が増えます。どちらが適切かは自社の人事ポリシー次第で、退職金制度全体から判断することをおすすめします。
後から掛金を変更することはできますか
引き上げに比べ、引き下げは従業員の不利益変更に当たり得るため、同意取得や規約変更などの手続が要り、慎重な対応が求められます。だからこそ当初から持続可能な水準で設計しておくことが大切です。変更を検討する際は、規程と労使合意の状況をふまえてご相談ください。
他の企業年金があると事業主掛金の限度額は下がりますか
はい。2026年7月時点では、DB等を併用する事業所の限度額は「月額55,000円から他制度掛金相当額を控除した額」となり、企業型DCのみの55,000円より枠が小さくなります。控除後の額が27,500円を下回るときの経過措置もあるため、自社の他制度掛金相当額を把握して枠を見積もってください。
マッチング拠出を導入すると事業主掛金はどう考えればよいですか
マッチング拠出では、事業主掛金と加入者掛金の合算が拠出限度額に収まり、かつ加入者掛金が事業主掛金を超えないことが条件です。事業主掛金を低く抑えると従業員が上乗せできる枠も狭まるため、自助を促したいなら事業主掛金の水準とセットで設計します。
事業主掛金は税務上どう扱われますか
一般には損金算入の対象とされ、従業員側でも給与としての課税対象にはならない取り扱いとされていますが、確定した節税効果を保証するものではありません。選択制での社会保険料の扱いや役員分など個別論点があるため、税理士に確かめたうえで判断してください。
参考一次情報・公的資料
情報確認日:2026年7月3日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月3日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。保険商品の補償内容、引受可否、保険料、保険金支払可否は、保険会社、商品、約款、契約内容、事故状況、個別事情によります。税務・法務・労務・会計上の判断が必要になり得る事項は、税理士、弁護士、社会保険労務士等の専門家にもご確認ください。