企業型DC・中退共・iDeCoプラスの比較|中小企業の退職金制度の選び方

退職金や上乗せの福利厚生を整えたいが、企業型確定拠出年金(企業型DC)・中小企業退職金共済(中退共)・iDeCoプラス(中小事業主掛金納付制度)のどれにするかで手が止まる。よくある入口です。どれが最適かは一律に決まらず、従業員数・掛金の負担余力・運用や事務にかけられる運営体制・既存制度の有無で答えが入れ替わります。たとえば運用商品の選定や投資教育を担う体制を組めない会社では、事務負担の小さい中退共が現実的な起点になります。本記事は3制度を同じ軸で比較し、選ぶ順番と対象外条件、既存制度との重複、規程改定・従業員説明まで、自社条件に当てはめて判断するための基準を整理します。

退職金の枠組みは一度動かすと変更や中断が容易ではなく、規約・就業規則・掛金負担と連動します。導入の可否や組み合わせを決める前に、自社の退職金の現状と、今後どこまで負担を続けられるかを把握しておくことが、後悔しない選択の前提になります。

Summaryこの記事のポイント

  • 3制度は「掛金を誰が拠出し、運用リスクを誰が負い、退職時にどう扱うか」で性格が分かれます。
  • 比較は魅力からではなく、負担できる掛金の上限と対象要件から絞ると、感覚ではなく条件で候補が残ります。
  • iDeCoプラスは従業員300人以下かつ企業年金を実施していない事業主が対象で、条件を外れると選べません。
  • 制度を選んだ後には退職金規程・就業規則の改定と、手数料・運用商品を含む従業員説明が必ず伴います。
  • 税務・社会保険・運用成果は個別条件で変わるので、最終判断は規約・給与体系・対象者・説明資料の点検に着地させます。

厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」(2026年7月時点)では、企業型DCの拠出限度額は「55,000円/月からDB等の他制度掛金相当額を控除した額」と整理されています。この上限は2026年12月1日施行予定の改正で見直され、企業年金の有無による差を解消したうえで、共通の拠出限度額が月額6.2万円へ引き上げられます(厚生労働省「2025年の制度改正」)。退職金は長く続ける制度なので、現行額と改正後の額の両方で掛金を試算しておくと、施行後に設計を組み直さずに済みます。中退共、iDeCo+、企業型DCを比べるときは、税制や対象者だけでなく、この上限の内側で自社がどこまで掛金を出せるかを先に見ると、制度選択の議論が空中戦になりにくくなります。

同じ厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」では、運営管理機関が加入者に提示する運用商品は原則として3本以上35本以下とされています。企業型DCは運用商品を選ぶ制度なので、中退共のように会社が掛金を納めれば終わる制度とは、従業員説明と運用教育の負担が違います。

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掛金を誰が出し、運用リスクを誰が負うか

3制度はいずれも公的に整備された退職金・年金の仕組みですが、掛金を出す主体と運用リスクの所在が違います。まずはこの立ち位置を押さえると、後の比較表が読みやすくなります。

企業型DC(企業型確定拠出年金)

会社が掛金を拠出し、その運用は従業員自身が行う制度です。給付額は運用成果で変動し、運用リスクは従業員が負います。掛金は会社負担が基本で、規約により従業員が上乗せするマッチング拠出も設計できます。制度の全体像は厚生労働省の確定拠出年金制度の概要で押さえられます。導入の流れと注意点は企業型DCとは?中小企業が導入するメリット・流れ・注意点でも整理しています。

中退共(中小企業退職金共済)

国の機関である勤労者退職金共済機構が運営する、中小企業向けの社外積立型の退職金制度です。会社が毎月掛金を納付し、従業員の退職時には機構から本人へ直接退職金が支払われます。一定の要件のもとで国の掛金助成が受けられ、運用は機構側が行うため社内に運用ノウハウを持たなくても始められます。詳しい要件は中小企業退職金共済(中退共)を、企業型DCとの違いは中退共とは?メリット・デメリットと企業型DCとの違いを参照してください。

iDeCoプラス(中小事業主掛金納付制度)

従業員が加入する個人型確定拠出年金(iDeCo)に、会社が掛金を上乗せして拠出できる仕組みです。企業型DCのような独自の制度構築をせず、小さな体制で福利厚生を上乗せできるのが利点で、確定拠出年金法にもとづく制度です。従業員本人のiDeCo加入が前提になる点に留意します。企業型DCとiDeCoの役割の違いは企業型DCとiDeCoの違い|経営者・従業員別の最適解で確認できます。

一覧で比較する:自社のどこを見て選ぶか

制度名だけでは差が見えにくいため、対象・掛金拠出者・税制・事務負担・ポータビリティ・向くケースを同じ軸に並べます。数値や要件は制度改正で動くので、検討時点の最新情報を必ず確認してください。

企業型DC・中退共・iDeCoプラスの比較
観点企業型DC中退共iDeCoプラス
対象(導入できる企業)厚生年金の適用事業所(規模の上限なし)中小企業(業種別に資本金・従業員数の要件あり)従業員300人以下で企業年金を実施していない事業主
掛金の拠出主体会社(従業員の上乗せも可)会社会社+従業員本人
掛金の月額上限55,000円からDB等の他制度掛金相当額を控除した額従業員ごとに5,000〜30,000円(短時間労働者は2,000円からの特例あり)事業主掛金と本人掛金の合計で5,000〜23,000円
運用リスクの所在従業員運営機構側従業員
税制上の取扱い会社掛金は損金算入/従業員掛金は所得控除掛金は全額損金算入事業主掛金は損金算入/本人掛金は所得控除
社内の運用・事務負担比較的大きい小さい中程度
導入のしやすさ規約整備が必要で重い比較的容易従業員のiDeCo加入が前提
ポータビリティ(転職・退職時)移換して継続しやすい退職時に本人へ支給(中退共間は通算可)個人のiDeCoとして継続
従業員へのアピール大きい(自助努力の促進)安定した退職金個人の資産形成を後押し
向いているケース制度を本格的に整えたい企業シンプルに退職金を持ちたい企業小規模・段階導入したい企業

表を縦に読むと、運用リスクを会社と従業員のどちらに置くか、事務や運用にどれだけリソースを割けるかが分岐点だとわかります。採用力の強化を重視するなら設計自由度の高い企業型DC、堅実に退職金の枠組みを先に持ちたいなら中退共、というように目的から逆算すると整理しやすくなります。なお最上段の対象欄は見落としやすい境界です。企業年金を実施している会社や従業員が300人を超える会社ではiDeCoプラスは選べず、ここで候補が自動的に絞られます。表はおすすめの順位づけではなく、自社の数字を当てはめて残る制度を見つけるための道具として使ってください。

統計で見る中小企業の退職金の現状

制度選びの前提として、退職金がどこまで普及しているかを公的統計で押さえます。厚生労働省の令和5年(2023年)就労条件総合調査によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業は全体の74.9%でした。さらに同調査を企業規模別に見ると、従業員30〜99人規模では70.1%にとどまり、1,000人以上の90.1%より約20ポイント低い水準です(厚生労働省「就労条件総合調査」、2026年7月時点)。

この2つの数字を並べると、約4分の1の企業が退職給付制度を持たず、なかでも小規模ほど未整備が残ることが読み取れます。含意はシンプルで、制度の有無そのものが採用・定着の差につながりやすく、中小企業にとっては事務負担の小さい制度からでも枠組みを整えること自体が福利厚生の底上げになる、ということです。段階的な導入が現実解になりやすい理由もここにあります。

制度を選ぶ順番:負担上限から逆算する

比較表を眺めても決めきれないのは、見る順番が定まっていないからです。魅力の大きさから入ると、後で負担や対象要件に気づいて社内調整をやり直しがちです。次の順で絞ると、条件で候補が残ります。

  1. 負担できる掛金の年間上限を先に決める。業績が落ちても払い続けられる固定費の範囲を確定し、これを超える設計は最初に外します。
  2. 対象要件で足切りする。従業員300人超や企業年金を実施済みならiDeCoプラスは対象外です。中退共は業種別の資本金・従業員数の要件を満たすかを見ます。
  3. 運営体制で絞る。運用商品の選定・投資教育・規約管理を継続できないなら、事務の重い企業型DCは後ろに回ります。
  4. 目的を掛金の使い道に対応させる。採用・定着・自助努力の後押しのどれを狙うかを言語化し、残った候補から1つ、または組み合わせを選びます。

この順番なら、最後まで残った制度が自社の負担・対象・体制・目的のすべてを通過したものになります。上限と対象を先に置くほど、比較軸のどこを重視するかも自然に決まります。

判断を左右する4つの論点

一覧と選ぶ順番だけでは詰めきれない実務論点があります。次の4点を自社に当てはめて考えます。

1. 人件費としての持続性

退職金掛金は始めると継続的な固定費になります。業績が変動しても払い続けられる水準か、賞与・昇給とのバランスは取れているかを見ます。負担できる掛金の上限を先に決め、その範囲で制度を選ぶ順番が経済的に安全です。

2. 従業員の年齢構成とニーズ

若い世代が多ければ長期の資産形成を促す制度が響きやすく、定着重視であれば安定給付型が安心材料になります。誰に何を届けたいかを言語化すると、比較軸のどこを優先するかが見えてきます。

3. 事務・運用体制

企業型DCは運用商品の選定や従業員への投資教育など、継続的な運営が求められます。担当者を置けるか、外部委託で回せるかを見極めます。運営の重さを避けたい会社の注意点は企業型DCのデメリットと対処法|導入前に確認すべき7項目にまとめています。

4. 既存制度・保険との整合

すでに退職金規程や保険を使った積立があるなら、二重・過剰になっていないかを見ます。弔慰金・死亡退職金の枠組みは、総合福祉団体定期保険とは?中小企業が弔慰金・死亡退職金規程とセットで導入する手順を合わせて確認すると、退職金制度との役割分担が見えやすくなります。確定拠出年金の全体像は厚生労働省の確定拠出年金制度ページを参照してください。

事務負担・拠出主体・脱退時の扱いが選択を変える

制度設計に代理店として関わってきた実感では、3制度の分かれ目はメリットの大きさよりも「誰が事務と運用を担い、辞めるときにどうなるか」という非対称にあります。ここを取り違えると、導入後に運営が回らなくなります。

拠出主体で見ると、中退共は会社のみ、企業型DCは会社が主体で従業員上乗せも可、iDeCoプラスは会社と従業員本人の両方です。従業員本人の拠出が前提のiDeCoプラスは、本人がiDeCoに入っていないと会社が上乗せできません。事務では、中退共は掛金納付が中心で軽い一方、企業型DCは規約・運用商品・投資教育まで継続運営が要ります。同じ「導入」でも、社内に残る手間の重さがまるで違います。

退職時の扱い(ポータビリティ)も見落としやすい境界です。企業型DCとiDeCoは個人の資産として移換・継続しやすく、人の出入りが多い職場と相性が良い一方、中退共は退職時に本人へ支給され、転職先も中退共なら通算できます。手数料や運用商品への不安は企業型DC・iDeCoプラスで生じやすく、商品ラインナップと口座管理手数料を前もって押さえておくと従業員説明の質が上がります。こうした差が、自社の人員の動き方によって最適解を入れ替えます。

導入で必要になる規程改定と従業員説明

制度を選んだ後に必ず来るのが、社内規程の改定と従業員への説明です。ここを軽く見ると、良い制度を選んでも導入直前で止まります。

退職金規程や就業規則に制度を位置づけ、支給ルールと掛金の扱いを明文化します。既存の退職金規程がある会社は、新制度との関係が置き換えなのか上乗せなのかを整理し、労働条件の不利益変更にならないかを見ておきます。就業規則の変更に当たっては、従業員代表からの意見聴取など所定の手続きが伴います。

従業員説明では、企業型DC・iDeCoプラスのように従業員が運用リスクを負う制度ほど、口座管理手数料・運用商品のラインナップ・元本確保型の有無を具体的に伝える資料が要ります。とくに給与の一部を掛金に振り替える選択制の設計では、振替が社会保険料や将来の給付の算定に影響し得るため、賃金台帳や給与体系と突き合わせた説明が欠かせません。規程改定と説明資料の準備は、制度そのものの良し悪しとは別の実務コストです。この手間まで含めて比較しておくと、導入後に「思ったより回らない」という事態を避けられます。

制度は組み合わせも検討できる

3制度は二者択一とは限りません。中退共で基礎的な退職金を確保しつつ、企業型DCやiDeCoプラスで上乗せの自助努力を促す組み合わせも実務では検討されます。ただし併用には制度間の要件・同時加入の可否・掛金上限といった制約があり、設計を誤ると意図した効果が出ません。

退職金は人事・労務・財務にまたがる論点で、保険を含む福利厚生全体の中に位置づけると過不足が見えやすくなります。採用や上場準備を見据えた制度の揃え方はIPOを目指すスタートアップが揃えるべき福利厚生制度も参考になります。表どおりに単純に当てはめるのではなく、現行の規程・契約・運用実態を一度棚卸ししてから方針を固めるのが安全です。

検討時に整理する資料とチェックリスト

制度を比べるときは、次の項目を整理しておくと、判断の軸がはっきりします。

  • 現在の退職金規程の有無と、ある場合の支給ルール(勤続年数・算定方法)
  • 従業員数と年齢構成、今後の採用計画
  • 退職金にあてられる年間予算と、その持続可能性
  • すでに加入している保険・共済・積立の内容
  • 運用や事務にどれだけ社内リソースを割けるか
  • 制度導入で何を実現したいか(採用・定着・福利厚生の底上げなど)

あわせて、次の資料があると掛金水準や既存制度との重複まで具体的に詰められます。

検討時に確認したい資料
資料確認のねらい
退職金規程・就業規則現行ルールと改定の要否を把握する
賃金台帳・給与体系がわかる資料掛金の置き方と社会保険料への影響を見る
保険証券・共済の契約内容既存の積立・保障との重複を見る
直近の人員台帳・年齢構成表制度のフィット感と必要掛金を見積もる
過去数年の業績推移掛金負担の持続可能性を検証する
従業員への説明資料の案制度趣旨と手数料・運用商品を社内で伝えられるか確かめる

これらが揃うほど、自社ではどの制度が、どの掛金水準で、どんな組み合わせが妥当かを具体的に詰められます。税務上の取扱いや給付の条件は個別事情で変わるため、断定的な情報をうのみにせず、契約条件と規程に即して確かめることをおすすめします。

自社条件に当てはめて選ぶ

ここまでの比較軸に自社の数字を入れれば、候補はかなり絞れます。それでも最後に残りやすいのが、退職金規程の改定範囲、従業員の年齢構成に合う掛金の置き方、既存の保険・共済との重複、そして事務体制で無理なく回るかという、制度単体では答えの出ない横断的な判断です。これらは規程・賃金台帳・既存契約・人員台帳を突き合わせて初めて切り分けられます。負担できる掛金の上限と目的を先に固め、運営体制で無理のない制度を選ぶ順番なら、運用上も経済上も破綻しにくい設計になります。

那由他保険テクノロジーズでは、保険・共済との整合を含め、福利厚生と退職金の観点から、この横断的な棚卸しを一緒に進めています。どこから手をつけるか決まっていない段階でも構いません。いま気になっている点を伺うところから始められます。まずは気軽にご相談ください。

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よくある質問

中小企業に合う退職金制度は企業型DCと中退共のどちらですか

一概には言えません。運用や投資教育を含めた制度を本格的に整えたいなら企業型DC、社内の運用・事務負担を抑えてシンプルに退職金の枠組みを持ちたいなら中退共が候補になります。従業員構成・予算・運営体制で適した制度は変わるため、自社条件に当てはめて比較することをおすすめします。

3つの制度は併用できますか

要件や掛金上限、同時加入の可否といった制約はありますが、中退共で基礎を確保しつつ企業型DCやiDeCoプラスで上乗せするといった組み合わせが実務で検討されることはあります。併用の可否は個別条件で変わるので、現行制度を確認したうえで設計するのが安全です。

iDeCoプラスはどんな会社が使えますか

従業員300人以下で、企業年金(企業型DCや確定給付企業年金など)を実施していない事業主が対象です。従業員本人がiDeCoに加入していることが前提で、会社はその掛金に上乗せして拠出します。条件を外れると利用できないため、対象要件の確認が最初の関門になります。

転職や退職のときに退職金はどうなりますか

企業型DCとiDeCoプラスは個人の年金資産として移換・継続しやすく、転職の多い職場と相性が良い仕組みです。中退共は退職時に本人へ直接支給され、転職先も中退共に加入していれば掛金納付月数を通算できます。持ち運びの扱いが制度で違う点は、人員の流動性が高い会社ほど重視したい論点です。

企業型DCの手数料や運用商品が不安です。従業員は理解できますか

企業型DCとiDeCoプラスは従業員が運用リスクを負うため、口座管理手数料や運用商品のラインナップを前もって確認し、投資教育や説明資料を用意することが前提になります。理解が追いつかない懸念が強い会社は、運用を機構側に任せる中退共を基礎に据える設計も選択肢です。

検討にあたって何から手をつければよいですか

退職金制度で何を実現したいのか(採用・定着・福利厚生の底上げなど)と、継続して負担できる掛金の水準を決めるところからです。従業員の人数や年齢構成、既存の保険・共済との重なりは、そのあと順に見ていけば足ります。那由他保険テクノロジーズでは、方針が固まっていない段階から、重複や過不足が起きないよう論点を一緒に整理しています。

参考一次情報・公的資料

情報確認日:2026年7月3日

執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年7月3日

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の保険契約・保険募集に関する助言ではなく、補償内容、引受可否、保険料、保険金の支払は、保険会社の商品・約款・契約条件・個別事情によって決まります。法務・税務・労務・会計の最終判断は、弁護士・税理士・社会保険労務士などの専門家にご確認ください。