
2026年10月15日、ハンバーガーチェーンの公式アプリで会員情報約1,118万件の漏えいが公表されました。その10日前には焼肉チェーンのアプリで1,078万件、さらにその1週間前には北海道のコンビニエンスストアチェーンのアプリで57万件。3週間のあいだに、会員アプリだけで2,200万件を超える会員情報が漏えいした計算です。
いずれも決済情報は含まれていないと公表されていますが、氏名、電話番号、メールアドレスが会員番号とひもづいた状態で外に出れば、会員への通知、問い合わせ窓口、店舗での対応、本部の原因調査が同時に始まります。
この記事では、2026年に公表された4件の事故を手がかりに、会員アプリ、POS、決済端末、FC本部と加盟店という多店舗運営に固有のサイバーリスクを整理し、サイバー保険で対象になりやすい損害と対象外になりやすい損害を一般論として解説します。
結論を先に言うと、保険が見るのは「会員や取引先への賠償責任」と「自社の調査・通知・窓口の費用」で、会員に配るお詫びのポイントやクーポン、不正利用されたポイントの穴埋めは、そのままでは保険に乗りにくい領域です。この区別を知っているかどうかで、委託契約の設計も事故当日の判断も変わります。
なお、本記事は特定の保険会社、保険商品、保険契約や特約の内容を説明するものではなく、一般的な考え方の整理です。個別の保険金請求の可否は、ご契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。
Summaryこの記事のポイント
- 2026年に公表された事故は、自社アプリの会員管理システムへの不正アクセスと、POS連携アプリの提供元での漏えいの2つの型に分かれる。会員から見た責任の相手はどちらも本部になる。
- 会員情報の漏えいは、原因が不正アクセスでも誤送信や持ち出しでも、多くのサイバー保険で基本の対象になり得る。設定不備の扱いは契約時に確認する。通知費用は件数に比例する。
- お詫びのポイント付与、会員への返金、不正利用されたポイントの穴埋めは、対価の返還や見舞いの性質として対象外になりやすい。会員から賠償請求を受けた場合の扱いは契約時に確認する。
- FC加盟店は本部の契約の被保険者にできないのが一般的で、加盟店には加盟店の保険が要る。本部と加盟店のどちらが情報の管理者かは、FC契約のシステム利用条項で決まる。
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飲食・小売チェーンで実際に起きた事故
当該企業が公表した文書で経過を確認できる2026年の4件を、公表文の範囲で整理します。原因の巧拙や会社の対応への評価は行いません。焼肉きんぐの事案は別の記事で費用の構造まで扱っているため、ここでは表の1列にとどめます。
| 項目 | ハンバーガーチェーンのアプリ(2026年10月) | 焼肉チェーンのアプリ(2026年10月) | コンビニチェーンのアプリ(2026年9月) | POS連携アプリの提供元(2026年1月) |
|---|---|---|---|---|
| 公表した会社 | 株式会社ビーケー・ジャパン(バーガーキング) | 株式会社物語コーポレーション(焼肉きんぐ) | 株式会社セイコーマート | 株式会社スマレジ(POSの提供元)と、連携アプリの提供元である合同会社coastline |
| 公表日 | 2026年10月15日 | 2026年10月5日(10月20日に強化策) | 2026年9月29日に第一報、10月5日に第四報 | 2026年1月8日に初報、1月13日に続報、3月9日に最終報告 |
| 起きたこと | 会員情報を管理するシステムに10月2日から7日にかけて第三者が不正アクセス。10月13日に漏えいが判明し、通信元を遮断 | 10月2日に会員管理システムへの不正アクセスを確認し、通信遮断と防御措置。10月3日に漏えいを確認 | 9月24日夜に不正なクラブカード退会処理が1件。9月28日夕方にアプリのサーバー経由の不正アクセスの可能性が判明し、同日20時に接続を停止 | 連携アプリの提供元が管理するデータベース環境に第三者が不正アクセスし、連携設定をしていた8社の店舗の顧客情報が取得・公開された。POS本体の侵害は確認されていない |
| 件数 | 約1,118万件 | ユーザー登録数10,808,784件のうち10,788,963件 | アプリに登録したことがある会員のうち574,647人分(第四報) | 氏名110,359件、電話番号100,293件(最終報告) |
| 漏えいした項目 | 会員ID、メールアドレス、登録種別、都道府県、性別、生年月日、氏名(漢字・カナ)、電話番号、モバイルオーダー履歴の有無、メールアドレス認証の有無 | 会員番号、氏名(アプリ登録名)、メールアドレス、電話番号 | 姓名、性別、生年月日、住所、電話番号、メールアドレス、クラブカードの入会・退会年月日(閲覧された可能性がある情報) | 店舗の顧客の氏名と電話番号 |
| 含まれないとされた情報 | クレジットカード番号は保持しておらず漏えいしていない。ログインパスワードの漏えいは確認されていない | ログインパスワード、生年月日、性別、郵便番号、保有ポイントを含む店舗利用履歴。決済情報は保持していない | パスワードと購買履歴は漏えいしていない。クレジットカード情報は保有していない | メールアドレスや決済情報は対象に含まれていない |
| 原因 | 不正アクセスが可能となった経緯と詳細な原因は、外部専門機関と連携して調査中 | 不正アクセスが可能になった経緯は調査中 | 外部調査会社と警察等との連携のため、手口の詳細は開示していない | 提供元は、外部からのアクセスに対する設定および運用管理体制の不備と判断 |
| 対応 | 暫定対策、対策本部の設置、個人情報保護委員会への報告、対象者へのメールによる案内 | 個人情報保護委員会への報告、警察への被害届、専用コールセンターの開設。10月20日にグループ11アプリで氏名と電話番号を保持しない仕組みへ移行する方針を公表 | 行政当局への報告。アプリとWebでの新規入会・会員情報変更を終了し店舗受付に変更。全アプリ会員に対象の有無をアプリで通知 | POS提供元は当該アプリを非公開化して遮断し、対象店舗へ個別にメールで通知。提供元は個人情報保護委員会へ報告 |
4件に共通する点が3つあります。1つ目は、漏れたのが決済情報ではなく「会員台帳」だったことです。それでも、氏名と電話番号とメールアドレスが会員番号とひもづいていれば、チェーンの名前をかたるSMSやメールの材料になります。
ビーケー・ジャパン、物語コーポレーション、セイコーマートの3社が自社を装った連絡への注意を呼びかけているのはそのためです。2つ目は、件数の桁が店舗数ではなくアプリの登録者数で決まることです。店舗が数百店でも会員は1,000万人を超え、通知や窓口の費用はこの件数に比例します。3つ目は、起点が自社のシステムとは限らないことです。
POS連携アプリの事例では、チェーン側のPOSにも店舗にも侵害はなく、連携先の提供元で漏えいが起きました。それでも顧客に通知したのは、連携設定をしていた8社の店舗です。同じ9月には、POS提供元のEC基盤でも管理画面のログイン機能の脆弱性を突かれた事故が公表されています。外部システムのどれが起点になっても、会員から見た責任の相手はチェーンです。
飲食・小売チェーンに固有の6つのサイバーリスク
多店舗を運営する会社では、会員アプリ、POS、決済端末、FC加盟店、SVの端末と、情報の置き場所が店舗の数だけ分かれています。相談で挙がることが多い6つを、どこで起きるか、誰が損をするかで整理します。
| リスク | 起きる場所 | 損害を受けるのは誰か |
|---|---|---|
| 1. 会員アプリの会員管理システムからの大量漏えい | アプリのバックエンド、会員データベース、運営を委託した開発会社の環境 | 会員本人と、通知・窓口・調査を負担する本部 |
| 2. ポイント・電子マネー残高の不正利用 | アプリのログイン、ポイント交換、残高移行の機能 | 残高を失った会員と、補填を判断する本部 |
| 3. POS・決済端末・券売機の侵害 | 店舗のPOS端末、決済端末、店舗ネットワーク、保守用のリモート接続 | カード情報を盗まれた来店客と、レジが止まった店舗 |
| 4. 連携アプリ・SaaS・開発委託先での漏えい | POS連携の請求書アプリ、予約台帳、モバイルオーダー、CRM、EC基盤 | 店舗の顧客(責任の相手は本部や店舗) |
| 5. FC加盟店の端末・アカウントを起点にした侵害 | 加盟店の店舗PC、本部システムへの共有ID、店長の私物スマートフォン | 本部システム全体と他の加盟店。会員からの請求は本部へ |
| 6. 本部システムの停止による営業への影響 | 受発注、勤怠、本部サーバー、本部が契約するクラウド | 全店舗と、加盟店からの請求を受ける本部 |
損害を受けるのが「会員」や「来店客」なら、自社に生じるのは本人への賠償責任と対応費用です。「店舗」や「本部」なら自社の費用や売上減少、「加盟店」なら加盟店から本部への請求という第三の形になります。保険はこの3つを別の補償として扱うので、1つの事故でも結論は分かれます。
損害は3つに分かれる
「いくらかかるのか」と聞かれたら、相手に払うお金、自社で使うお金、入ってこなくなるお金の3つに分けて答えます。この区分がそのまま保険の区分になります。
1. 会員や取引先への賠償
会員本人から損害賠償を求められる場面です。1人あたりの金額は小さくても、1,000万件の桁になれば集団での請求や訴訟の形を取り得ます。この賠償金と弁護士費用や訴訟費用は、サイバー保険の賠償責任の補償が見る典型的な損害です。
同じ原因で多数の会員から請求を受けた場合、一連の請求として最初の請求時にまとめて1つの事故として扱われるのが一般的で、会員の数だけ補償が増えるわけではありません。FC本部が加盟店の顧客情報を一括管理していれば、加盟店から「本部の管理に起因して自店の顧客に迷惑をかけた」と請求を受ける可能性もあります。
委託先で起きた漏えいでも、会員から見た責任の相手は情報を預かったチェーンで、自社が管理を委託した情報の漏えいとして賠償責任は対象になり得ます。
対象になるのは法律上の損害賠償責任に基づく金額が基本で、会員規約や加盟店契約で上乗せした責任、違約金、罰金や課徴金は対象外になりやすい領域です。
2. 自社の調査・通知・窓口の費用
原因と範囲の調査、報告に向けた法律相談、会員への通知、問い合わせ窓口の開設と運営。これらは事故を起こした会社自身の費用で、サイバー保険の費用補償が想定している中心です。漏えいが確定する前の「おそれ」の段階で動いた調査や通知も、対象になる商品が多くあります。
多店舗運営で特有なのは、この費用が本部と店舗の2か所で発生することです。コンビニチェーンの事例では新規入会と会員情報変更の受付が店舗に切り替わりました。店舗の人件費の増加分や店長やSVが対応に割いた時間は、費用補償の対象として整理が分かれる部分です。一方、本人への通知費用は件数に比例します。
1,000万件に郵送すれば郵便代だけで億の単位になり、アプリ内通知やメールで済むかどうかで桁が変わります。見舞金や見舞品は条件付きで対象にする商品がありますが、会員全員に配るお詫びのポイントやクーポンは、販売促進や対価の値引きとして扱われる余地があり、対象になると決めてかかれません。
3. 自社の逸失利益
アプリや本部システムが止まり、ポイント付与や予約受付、モバイルオーダーができない期間の売上減少です。自社が所有・使用・管理するシステムやクラウドサービスの停止による喪失利益と営業継続費用を、任意で追加する補償で対象にする商品があります。一定時間以上の停止が条件で、補償される期間に上限があります。
通信販売を主たる業務として申告する場合は付けられない商品があるため、業種区分の申告と合わせて確認します。注意したいのは、アプリが止まっても店の営業は続くことです。コンビニチェーンの事例でも、電子マネーの利用やポイント付与は継続されていました。アプリ停止による売上減をどこまで喪失利益として扱えるかは、商品や契約条件によって分かれます。契約時に確認する点です。
サイバー保険で対象になりやすいもの、なりにくいもの
6つのリスクについて、一般的なサイバー保険での扱いを整理します。商品によって条件が異なるため、個別の契約では約款の確認が必要です。
| リスク | 対象になり得るもの | 対象外になりやすいもの |
|---|---|---|
| 1. 会員アプリからの大量漏えい | 会員本人への賠償。調査、通知、問い合わせ窓口、法律相談、争訟の費用。「おそれ」の段階の対応費用。見舞金・見舞品(条件あり) | 会員規約で上乗せした責任、違約金、罰金・課徴金。全会員へのお詫びのポイントやクーポン(対価の値引き・販売促進の性質)。店舗スタッフの対応時間は商品により整理が分かれる |
| 2. ポイント・残高の不正利用 | 不正利用の原因が自社システムの侵害にあり、会員から法律上の損害賠償を請求された場合の賠償金。原因調査と会員対応の費用 | 自社の判断で行うポイントの補填や残高の復元(対価の返還の性質)。会員側のID・パスワードの使い回しで自社に過失がない場合の補填 |
| 3. POS・決済端末の侵害 | 来店客のカード情報が自社端末から漏えいした場合の本人への賠償と対応費用。端末の改ざんの調査費用 | 決済端末そのものの修理・交換費用。回線や電力など自社の管理下にないインフラの障害による決済停止。決済代行会社の経営破綻による未入金 |
| 4. 連携アプリ・委託先での漏えい | 自社が預けた顧客情報が委託先や連携先で漏えいした場合の、顧客から自社への賠償請求と対応費用 | 委託先・連携先自身の賠償責任と対応費用(委託先は被保険者ではない) |
| 5. FC加盟店起点の侵害 | 本部が管理する情報が漏えいした場合の本部の賠償責任と費用。国内子会社は同じ契約に含める方法がある | 加盟店自身の賠償責任と費用(FC加盟店は本部の契約の被保険者にできないのが一般的)。加盟店の端末の復旧費用 |
| 6. 本部システムの停止 | 任意で追加する補償で、自社が使用・管理するシステムやクラウドの停止による喪失利益と営業継続費用を見る商品がある | 一定時間に満たない停止。補償期間を超える部分。加盟店に生じた売上減少(加盟店からの賠償請求として整理できるかは契約次第) |
1の情報漏えいは、会員アプリを持つチェーンで最も起こりやすい事故です。原因が不正アクセスであることは要件ではなく、会員データの誤送信や紛失、従業員の持ち出しも、他人の情報の漏えいまたはそのおそれとして対象事由になるのが一般的で、事故例にも挙げられています。POS連携アプリの事例のような設定の不備による漏えいも同じ整理になると見込まれますが、商品により扱いが分かれるため契約時に確認する点です。
4の委託先起因は、多店舗チェーンでは避けて通れません。アプリの開発会社、POSの連携アプリ、予約台帳やモバイルオーダーのSaaS。どこで漏えいが起きても、会員が請求する相手はチェーンです。一方、委託先自身が負う責任や対応費用は、委託先が被保険者でない以上、チェーンの保険の対象にはならないのが一般的です。
求償できる金額が委託契約の責任上限で頭打ちになる場合、差額を自社の保険で見るのか自己負担かは、契約時に確認しておく点です。
2のポイント不正利用は、線引きが細かい領域です。会員のポイントが第三者に使われた場合、会社が補填することが多いのですが、その補填金が「会員への賠償」なのか「自社の判断で行う対価の返還」なのかで、保険上の扱いが変わり得ます。
自社システムの侵害が原因で会員から法律上の損害賠償を請求された形なら賠償責任の補償で検討する余地がありますが、会員のID・パスワードの使い回しによるログインで、会社に過失がないまま顧客対応として補填した分は、対象から外れやすいと考えておくべきです。
ポイント補填を賠償として扱えるかは、商品や契約条件によって扱いが分かれるため、契約時に保険会社へ確認する点として置いておきます。
5のFC本部と加盟店の関係は、保険の前に、誰が情報の管理者かで決まります。会員情報を本部が一括で持っていれば、漏えいの責任を負うのは本部です。加盟店が独自に顧客台帳を持っていれば、その漏えいは加盟店の事故で、本部の保険の対象にはなりにくいと考えられます。
FC本部が加盟店の事故を理由に会員や加盟店から請求を受けた場合にどこまで対象になるかは、商品や契約条件によって扱いが分かれるため、本部契約の設計時に保険会社へ確認する点です。
3の決済端末には別の問題もあります。2026年7月には決済代行会社の破産で飲食店のカード売上の未入金が発生しました。これはサイバー攻撃ではなく取引先の信用の問題で、サイバー保険が想定する事故とは別物です。決済代行会社の破綻と未入金の記事で整理したとおり、決済の停止には「攻撃で止まる」場合と「取引先が止まる」場合があり、備える保険が違います。
保険より先に効く実務対策
4件の公表文で再発防止策として挙げられている内容は方向が揃っていて、保険の引受時に申告するセキュリティ体制の中身にもなります。
- 持たない情報を決める。焼肉チェーンの事例では、公表から2週間後に、グループ11のアプリで氏名と電話番号を保持しない仕組みへ移行する方針が公表されました。持っていない情報は漏えいせず、通知の対象にもなりません。登録項目を1つ減らすことが、通知件数を減らすことに直結します。
- 連携アプリと委託先の棚卸しを半年に1回行う。POSに何がつながっているか、予約台帳はどこのSaaSか、開発会社はどこで会員データを扱っているか。連携先ごとに「どの情報が渡っているか」「誰が解除できるか」を一覧にし、使っていない連携は切ります。事故のとき、連携を切る判断を本部が即日できる体制にしておきます。
- 本部システムへのアクセスを人ごとに分け、退職と閉店で即日止める。加盟店や店長が共有IDで本部システムに入っている状態は、1つの店舗の端末が侵害されたときに全店に広がります。多要素認証をかけ、閉店やオーナー交代、SVの異動のたびに権限を見直します。保守会社のリモート接続も同じ扱いです。
- 事故当日に誰が何をするかを店舗単位で決めておく。公表文を読むと、通信遮断、関係機関への報告、会員への通知が数日のうちに動いています。本部の対策本部は決めていても、店舗で来店客に何と答えるか、SVが何を確認するかまで決めているチェーンは少数です。会員に責任を認める前に保険会社へ連絡する順番も、手順の最初に書いておきます。
顧客・取引先との契約で注意したい点
損害を誰が持つかを決める契約は3種類あります。FC契約、アプリ運営の委託契約、決済代行契約です。
FC契約のシステム利用条項には、本部が提供する会員アプリやPOSについて、加盟店がどこまで管理責任を負うかが書かれています。加盟店の端末を起点に侵害が起きたとき本部は加盟店に求償できるのか。本部のシステム障害で加盟店の営業が止まったとき加盟店は本部に請求できるのか。この条項で、本部と加盟店それぞれの保険で見る損害の境目が決まります。条項がないまま事故が起きると、本部と加盟店で責任を争うことになり、どちらの保険も動きにくくなります。
アプリ運営の委託契約では、責任上限の条項を確認します。多くの開発・運用契約は、賠償の上限を委託料の数か月分に置いています。会員1,000万人分の通知費用や賠償を求償しても頭打ちになり、差額は本部の負担です。委託先に保険の加入を求める条項、事故時の通知・協力義務、調査費用の分担も、事故の前にしか決められません。
決済代行契約と加盟店規約では、店舗の決済端末からカード情報が漏えいした場合にカード会社や決済代行会社からどのような請求を受けるかを確認します。規約に基づく費用負担が法律上の損害賠償責任と同じ扱いになるかは、契約の文言と約款の両方を読まないと答えが出ません。
いずれの契約にも共通するのは、会員や加盟店に「過失の有無にかかわらず補償する」「一律に返金する」と約束すると、法律上の責任を超えて約束した部分として保険の対象から外れやすくなることです。事故が起きたら、会員や加盟店に責任を認めるより先に保険会社へ通知します。保険会社の同意なく賠償を約束すると、その分が保険金から差し引かれる場合があります。
飲食・小売チェーンがサイバー保険を検討するときに確認する点
日本損害保険協会の調査では、中小企業のサイバー保険加入率は8.8%にとどまり、卸売業・小売業では6.4%、サービス業では7.0%とさらに低い水準です(出典:日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」2025年12月)。
一方で警察庁の統計では、2026年上半期のランサムウェア被害報告は123件で半期として最多となり、業種別では製造業に次いで卸売・小売業が上位に入り、復旧に総額1,000万円以上を要した組織が6割です(出典:警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」2026年9月)。
個人情報保護委員会への漏えい等報告は2025年度に17,139件で、本人の数が1,000人を超える事案が883件です(出典:個人情報保護委員会「令和7年度個人情報保護委員会年次報告」2026年7月)。会員アプリを持つチェーンの事故は、この「1,000人超」の枠に入ります。検討時に確認しておきたい点を挙げます。
- 会員数と保持している項目。売上高や事故歴に加えて、アプリの登録者数と、氏名・電話番号・住所・生年月日のどれを持っているかを整理します。通知件数が極めて大きい場合に通知の手段と費用の扱いをどう整理するかは、契約時に保険会社と確認する点です。
- 委託先と連携先の構成。アプリの開発会社、POSの提供元、連携アプリ、予約やモバイルオーダーのSaaSを一覧にし、委託先起因の事故が対象になるか、求償の差額をどう扱うかを確認します。
- FC加盟店と子会社の扱い。国内子会社は同じ契約に含める方法がありますが、FC加盟店は被保険者にできないのが一般的です。加盟店に保険の加入を求めるか、FC契約で手当てするかを決めます。本部が加盟店の事故を理由に請求を受けた場合の扱いも、契約時に確認する点です。
- ポイント・残高の扱い。ポイントや電子マネー残高の不正利用で会員へ補填した分を賠償として扱えるかは商品や契約条件で分かれます。補填の社内ルールと合わせて確認しておきます。
- セキュリティ体制の申告。多要素認証、権限管理、バックアップの状況は告知の対象です。申告と実態が違えば事故の際に問題になります。実務対策を先に整えてから申告します。
那由他保険テクノロジーズが飲食・小売チェーンのサイバーリスクでご支援できること
ここまでの整理は一般論です。実際には、会員数と保持項目、開発会社やPOS提供元との契約条項、FC契約の条項といった会社固有の条件で結論が変わります。那由他保険テクノロジーズは、飲食・小売チェーンについて、会員データがどこに置かれ、誰が管理し、どの契約で責任が分かれているかを起点にリスク構造を分析し、現在のご契約や検討中の商品の補償条件と突き合わせて、対象になる損害と対象外になる損害を切り分けます。
そのうえで、委託契約の責任上限とFC契約の条項を約款に照らして点検し、求償で埋まらない部分や本部と加盟店の間に落ちる部分を明らかにします。契約の見直し点の整理から、補償のギャップを埋める設計、保険調達までを支援します。
相談の結果として得られるのは、「会員アプリで漏えいが起きたとき、どの損害が保険で、どの損害が求償で、どの損害が自己負担か」を本部と店舗で共有できる一覧です。会員数が数万人の段階でも構いません。分かっていることと困っていることを起点に、必要な確認事項を一緒に整理しますので、お問い合わせください。
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資料請求・お見積もりは無料、入力は約1分です。お電話(050-1725-4773/受付:平日9:00〜19:00)でも承ります。
よくある質問
会員アプリの開発と運用を外部に委託しています。委託先で漏えいが起きた場合、本部の保険の対象になりますか?
自社が会員から預かった情報を委託先に渡し、委託先側で漏えいした場合、会員から自社への賠償請求と自社の対応費用は対象になり得ます。ただし、委託先自身が負う賠償責任や委託先の対応費用は、委託先が被保険者でないため対象外になるのが一般的です。委託先への求償が責任上限で頭打ちになった差額の扱いは、契約時に保険会社へ確認してください。
会員のポイントが不正に使われました。会社が補填した分は保険で戻りますか?
補填金の性質によります。自社システムの侵害が原因で、会員から法律上の損害賠償を請求された形であれば、賠償責任の補償で検討する余地があります。一方、会員側のID・パスワードの使い回しによる不正ログインで自社に過失がないまま補填した分や、自社の判断で行う残高の復元は、対価の返還の性質として対象外になりやすい領域です。扱いは商品や契約条件で分かれるため、補填の社内ルールを決める段階で保険会社に確認しておきます。
FC加盟店の店舗PCがウイルスに感染し、本部システム経由で会員情報が漏れました。加盟店は本部の保険で守られますか?
FC加盟店は本部の契約の被保険者にできないのが一般的で、加盟店自身の賠償責任や復旧費用は本部の保険の対象にならないのが一般的です。加盟店には加盟店の保険が要ります。本部が加盟店の事故を理由に請求を受けた場合にどこまで対象になるかは、商品や契約条件で扱いが分かれるため、本部契約の設計時に確認してください。
会員全員にお詫びのポイントを付与しました。この費用は見舞金として対象になりますか?
見舞金や見舞品を条件付きで対象にする商品はありますが、会員全員に一律に配るポイントやクーポンは、販売促進や対価の値引きの性質として扱われる余地があり、対象になると決めてかかれません。支出する前に保険会社へ連絡し、見舞品として整理できる範囲と条件を確認してください。
会員情報の漏えいで1,000万件に通知する必要があります。通知費用はどこまで見てもらえますか?
本人への通知費用は、サイバー保険の費用補償が対象にする典型的な項目です。ただし、件数が極めて大きい場合に、郵送、メール、アプリ内通知のどの手段で行うか、その費用をどう整理するかは、商品や契約条件によって扱いが分かれます。会員数と保持項目を契約時に伝え、通知の手段と費用の扱いを確認しておきます。
参考一次情報
- 株式会社ビーケー・ジャパン「不正アクセスによる公式アプリ会員情報漏えいに関するお詫びとお知らせ」(2026年10月15日)
- 株式会社物語コーポレーション「『焼肉きんぐ』公式アプリ 会員管理システムへの第三者からの不正アクセスによる個人情報漏えいに関するお詫び」(2026年10月5日)
- 株式会社物語コーポレーション「『焼肉きんぐ』公式アプリにおける今後のセキュリティおよび個人情報保護強化策について」(2026年10月20日)
- 株式会社セイコーマート「『セイコーマートアプリ』への不正アクセスによる個人情報流出の可能性に関するお詫びとお知らせ」(2026年9月29日、第一報)
- 株式会社セイコーマート「『セイコーマートアプリ』への不正アクセスによる個人情報の閲覧に関するお詫びとお知らせ(第四報)」(2026年10月5日)
- 株式会社スマレジ「【重要】外部アプリにおける個人情報流出について(続報)」(2026年1月13日)
- 株式会社スマレジ「【重要】外部アプリにおけるデータ流出について(最終報告)」(2026年3月9日)
- 合同会社coastline「不正アクセスによる個人情報の流出に関する最終報告」(2026年3月)
- 株式会社スマレジ「スマレジECにおける不正アクセスについて」(2026年9月25日)
- 警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年9月)
- 個人情報保護委員会「令和7年度個人情報保護委員会年次報告」(2026年7月)
- 日本損害保険協会「中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2025」(2025年12月、Q16 加入状況 P.36〜37)
- 焼肉きんぐアプリ1,079万件漏えいに学ぶ調査・謝罪・賠償の費用と保険(那由他保険テクノロジーズ ニュースルーム)
- 全東信破産の飲食店への影響(那由他保険テクノロジーズ ニュースルーム)
- サイバー保険の専用サイト(那由他保険テクノロジーズ)
- サイバー保険とは(那由他保険テクノロジーズ ニュースルーム)
本記事は、多店舗を運営する飲食・小売チェーンの担当者向けにサイバーリスクと保険の一般的な考え方を整理したもので、特定の保険会社、保険商品、保険契約、特約の内容を説明することを目的としたものではありません。記事中の「対象になり得る」「対象外になりやすい」といった記述は一般的な傾向を示すもので、実際に保険金が支払われるかどうかは、個々の保険契約の約款と事実関係に基づいて保険会社が判断します。ご契約内容の詳細や個別の事故については、ご契約の保険会社または取扱代理店にお問い合わせください。