
日本企業がキャプティブ(自社グループのリスクを引き受ける保険子会社)を持つ場所として、まず名前が挙がるのはハワイです。ところが設立地の数で2番目に多いのは、マレーシアのラブアンです。フォーサイトリスクマネジメントが金融庁の金融審議会 保険制度ワーキング・グループ第1回(2026年10月1日)に提出した資料によると、1974年以降に設立された日本企業系キャプティブは累計181社(2026年9月15日集計)で、設立地別ではハワイの57社に次いでラブアンが30社です。ラブアンの規制当局であるLabuan FSAの市場報告書でも、2025年にラブアンのキャプティブが引き受けたアジア太平洋地域の保険料のうち58.1%を、インドネシアと日本の合計が占めています。
一方で2026年は、日本国内に再保険キャプティブの制度をつくる検討が始まり、ラブアン側も手数料を改定しました。この記事は、財務・リスク管理の担当者、東南アジアに子会社を持つ製造業・商社、税理士・会計士の方に向けて、ラブアンが選ばれてきた理由を公式統計と規制文書で確かめ、2026年の論点を整理します。他の設立地との比較はハブ記事キャプティブ保険のドミサイル比較で扱います。
本記事は一般的な解説であり、法的・税務上の助言ではありません。数値と制度は2026年10月29日に確認した一次資料によります。
Summaryこの記事のポイント
- ラブアンは日本企業系キャプティブの設立地でハワイに次ぐ第2位(累計30社)。Labuan FSAの統計でもアジア太平洋分の保険料の58.1%をインドネシアと日本が占める。
- 2025年末のキャプティブは69社とセル36、保険料はUSD7億2,600万。セル型とレンタキャプティブが伸びる一方、2025年は保険金が増えて引受利益が前年より25.1%減った。
- 日本所在のリスクは保険業法186条により海外のキャプティブへ直接付保できず、国内の元受保険会社が引き受けて再保険でキャプティブに移す構造が前提になる。
- ラブアンの低い税率は実体要件、日馬租税条約の適用除外、日本の外国子会社合算税制と一体で読む必要があり、税効果を設立の目的にすることは成り立ちにくい。
- 2026年は国内再保険キャプティブ制度の検討が金融庁で始まり、ラブアン側も年間免許料を改定した。どこに設けるか以前に、自社のリスクと保険の棚卸しが出発点になる。
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ラブアンとはどのようなキャプティブの設立地か
ラブアンは、マレーシアのラブアン国際ビジネス金融センター(Labuan IBFC)を指します。規制・監督は、1996年2月15日に設立されたLabuan FSAが単独で担います。Labuan Financial Services and Securities Act 2010(LFSSA)101条は、被保険者が関連会社や当局の承認した者であるラブアン保険業務をキャプティブ業務と定義しています。
現在の規制の中心は、2024年1月1日に施行された「Guidelines on Captive Insurance Business in Labuan IBFC」(2023年8月21日発出)です。2010年版を置き換え、外部レンタキャプティブ(XRAC)を新設しました。資本の基準は2021年施行の資本充実度ガイドラインと2025年11月14日付の補足通知が定めています。
押さえておきたいのは、ラブアンの保険業務は外貨建ての業務で、マレーシア国内の保険業務を含まない点です。マレーシア国内の直接リスクを引き受けるには国内当局の承認が必要で(ガイドライン6.6項)、リスク所在国の規制を守る責任はリスクの所有者にあるとされています(同7.15項)。
ラブアンIBFCは強みとして、実体を置きやすいこと、運営コストの低さ、クアラルンプールとの拠点併設、アジアの主要都市と近い時間帯、どの再保険会社からも再保険を調達できることを挙げています。日本との時差は1時間です。Labuan FSA長官は2026年9月の講演で、2024年のBusiness Insurance誌の調査でラブアンがアジア第2位、世界69の設立地中第22位だったと紹介しています。
公式統計で見るラブアンのキャプティブ市場(2023〜2025年)
Labuan FSAは毎年の市場報告書(Market Report)で社数と保険料を公表しています。直近3年分は次のとおりです。
| 項目 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| キャプティブ数 | 69社 | 71社 | 69社 |
| 内訳 | ピュア37、レンタキャプティブ17、PCC15(セル26) | ピュア36、レンタキャプティブ22、PCC13(セル31) | ピュア32、レンタキャプティブ22、PCC14(セル36)、タカフル・キャプティブ1 |
| キャプティブ保険料 | USD6億2,460万(前年比+9.4%) | USD6億7,740万(+8.5%) | USD7億2,600万(+7.2%) |
| 保険業全体に占める割合 | 一般保険料の34.7% | 一般保険料の35.6% | 保険業界全体の36% |
| 日本・インドネシアに関する記載 | 海外分は主にインドネシアと日本の市場 | アジア太平洋リスクの74.6%がインドネシア・日本に集中 | アジア太平洋分の保険料の58.1%がインドネシアと日本の合計 |
| 上位の保険種目 | エンジニアリング26.9%、一般賠償23.7%、火災9.2% | 賠償32.8%、エンジニアリング31.2%、火災9.3% | エンジニアリング・工事33.8%、賠償26.8%、火災10.1% |
| ネット保有率 | 64〜70% | 58.6% | 56.5% |
| 引受利益 | — | USD2億1,380万(+12.4%) | USD1億6,010万(−25.1%) |
第一に、社数は70社前後で横ばいですが、保険料は毎年7〜9%伸びています。2025年の新規10件のうち7件はPCCのセルで、セルは2022年の13から2025年の36に増えました(2026年第2四半期の社数は71社)。単独のピュア・キャプティブは減り、既存の器を借りるセル型とレンタキャプティブが増えています。
第二に、国別の社数は公表されず年により表現も異なりますが、海外分の中心が日本とインドネシアであることは毎年明記されています。2025年の保険料はマレーシア分がUSD3億760万、それ以外がUSD4億1,840万でした。
第三に、2025年は正味発生保険金が前年比52.6%増え、引受利益は25.1%減りました。事故が続けば負担はグループに戻り、収益は年により振れます。設立前に経営と共有すべき前提です。
ラブアンで設立できるキャプティブの形態と最低資本
2024年施行のガイドラインは、認められる形態を付属書で列挙しています(リストは網羅的ではないとされています)。
| 形態 | 概要 | 最低払込資本 | ソルベンシーの基本 |
|---|---|---|---|
| ピュア(シングル)・キャプティブ | 自社グループのリスクを引き受ける単独の会社 | RM300,000 | 資産超過額がRM300,000、正味収入保険料の10%、正味支払備金の10%の最大額以上 |
| グループ/アソシエーション・キャプティブ | 複数の関連会社や団体の構成員のリスクを引き受ける | RM300,000 | 同上 |
| マスター・レンタキャプティブ(MRAC) | 利用企業にキャプティブ機能を貸す母体 | RM500,000 | 基準額RM500,000で同様に判定 |
| サブシディアリー・レンタキャプティブ(SRAC) | MRACが50%以上を保有する子会社型 | 固定額なし | 正味収入保険料の10%と正味支払備金の10%の大きい方以上 |
| 外部レンタキャプティブ(XRAC) | MRACの保有が50%未満の型。2023年の改定で新設 | 固定額なし | 当面SRACと同じ |
| 保護セル会社(PCC)とセル | 1つの会社の中で利用者ごとにセルを分けて資産・負債を区分 | PCC全体でRM500,000(セルは固定額なし) | 各セルは正味収入保険料の10%と正味支払備金の10%の大きい方以上 |
| マルチオーナー・キャプティブ | 複数の所有者が共同で保有 | RM500,000 | ワーキングファンドRM500,000(2025年11月14日付補足通知で明確化) |
運営面では、ラブアンに運営管理事務所と保険の知識を持つ経営陣を置くか、免許を持つアンダーライティング・マネージャーを任命する必要があります。業界団体(LIIA)への加入、決算後6か月以内の監査済み財務諸表の提出、株主変更などの事前承認も必要です。PCCのセルは免許申請が不要で、開始の7日前までに通知し年間手数料を納めれば始められます。第三者のリスクを引き受けるにはLabuan FSAの承認が条件です。また、サイバーなどデジタル関連のリスクを引き受ける場合は被保険者側の管理戦略の確認が求められ(7.3項)、再保険はラブアン域内の再保険会社からの調達が奨励されています(7.4項)。
日本企業はどのような形でラブアンを使っているか
ラブアンの日本企業のキャプティブ数に公式の数字はなく、金融庁の資料も日本企業のキャプティブ全体について「公式な統計データはない」としています。文献上の社数は、業界のコンセンサスとして100社前後(柳瀬編著、2024年)、2022年12月時点で162社(浜田ほか、2023年)、そして累計181社(フォーサイトリスクマネジメント集計、金融審議会提出資料)で、ラブアンの30社は累計181社の内訳です。数え方と時点が違うので、引用には出典を添えるのが安全です。
手がかりは、Labuan IBFCが公表する保険関連事業者の一覧(2024年7月30日時点)です。公式名簿の連絡先から推定すると、キャプティブ区分のうち少なくとも17社が日本企業のものとみられます(連絡先が日本のドメインまたは日本人マネージャー。資本関係は未確認)。その多くはサブシディアリー・レンタキャプティブ(SRAC)として同じ管理会社の下に並んでいます。
これは統計で見たセル型・レンタキャプティブの増加と重なります。自前のピュア・キャプティブではなく既存の器の中に自社用の区画を持つ形で、最低資本の固定額がなく当局手数料も年USD1,000〜3,000のため、中堅企業が入りやすい経路です。金融審議会の提出資料には、売上高200億円・純利益2億円規模の企業がキャプティブを設立した例も紹介されています(社名・設立地は非公開)。
ラブアンのキャプティブにかかる費用
Labuan FSAは2025年11月6日付の通知で2026年からの手数料体系を改定し、ピュア・キャプティブの年間免許料をUSD3,000からUSD4,000に引き上げました(2026年1月1日から適用)。レンタキャプティブとPCCの手数料は据え置かれています。
| 区分 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 申請手数料 | USD350 | Form LIBで申請。ファストトラックは追加費用 |
| ピュア・キャプティブ(PCCを除く)年間免許料 | USD4,000 | 2025年まではUSD3,000。2026年1月1日から改定 |
| マスター・レンタキャプティブ(MRAC) | USD4,000 | — |
| サブシディアリー・レンタキャプティブ(SRAC) | USD1,000 | 据え置き |
| 外部レンタキャプティブ(XRAC) | USD1,000 | 据え置き |
| PCCコア | USD9,500 | 据え置き |
| PCCセル | USD3,000 | 据え置き |
支払期限は毎年1月15日です。これは当局手数料だけで、管理会社などサービスプロバイダーの費用は含まれないとLabuan IBFCの資料も注記しています。費用の大半は管理会社・アクチュアリー・監査法人への委託費と、実体要件を満たすための人件費・経費です。金融庁の資料は、キャプティブ一般について、設立時に資本金の払込みのほかフィージビリティ・スタディや申請書類の作成などで約1,000万円、設立後は委託費として年間数千万円が発生すると整理しています。
ラブアンの税制を正しく読む(実体要件・租税条約・日本の合算課税)
Labuan Business Activity Tax Act 1990(LBATA)は、キャプティブを含むラブアンの取引活動に対し、監査済み純利益の3%を課税します。ただし、この数字だけで判断すると読み誤ります。少なくとも次の4つを一緒に確認する必要があります。
| 論点 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ラブアンの実体要件 | 第一者キャプティブは常勤従業員2名・年間のラブアン内運営経費RM100,000、第三者キャプティブは3名・RM100,000。満たさない課税年度は純利益に24%課税 | LBATA 2B条、P.U.(A) 423/2021(2019年1月1日に遡って施行) |
| 日本・マレーシア租税条約 | 議定書5(b)により、ラブアンのオフショア事業活動を行う者は条約の免税・軽減の対象外 | 1999年2月19日署名の協定議定書(財務省の統合テキスト) |
| 日本の外国子会社合算税制 | 租税負担割合がペーパー・カンパニー等で27%未満、それ以外で20%未満の外国関係会社は合算課税の対象になり得る。保険業には「保険に係る事実上のキャッシュボックス」と非関連者基準の規定がある | 租税特別措置法66条の6 |
| グローバル・ミニマム課税 | マレーシアはFinance (No.2) Act 2023で法制化し、2025年1月1日以降の会計年度から連結売上高7.5億ユーロ以上のグループに適用。ラブアンの事業体も対象範囲に含まれると解説されている | マレーシア国内法(3%課税の具体的な扱いは一次資料で未確認) |
実体要件は2019年の税制改正でOECDの基準に合わせて導入され、OECDの有害税制フォーラムは改正後の制度を「有害ではない」と評価しています。裏返せば、3%の課税は人と経費をラブアンに置くことが前提で、名目だけの会社には24%が課されます。
日本の側では、外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)が原則として効いてきます。ラブアンの3%は合算の免除基準である20%を大きく下回ります。さらに2019年度の改正で、関連者以外からの収入保険料が全体の10%未満で、かつ関連者以外への支払再保険料が関連者からの収入保険料の50%未満の会社は「保険に係る事実上のキャッシュボックス」とされました。グループのリスクだけを引き受け外部にあまり再保険しないピュア・キャプティブは、これに当たりやすい構造です。保険業の非関連者基準(関連者以外からの収入保険料が50%以上)についても、最高裁は2024年7月18日の判決で、バミューダのキャプティブが関連者以外の保険会社から再保険を受けていても、実質的に関連者のリスクを担保していれば基準を満たさないと判断しました。税務専門誌の報道によれば、ラブアンのキャプティブについても、東京地裁2023年1月27日判決で租税負担割合が0%とされ合算課税が認められています。
実務家と研究者の見方も一致しています。金融庁の保険制度ワーキング・グループの事務局資料は、CFC税制の改正でキャプティブの留保所得は原則として親会社と合算されるようになり、「課税裁定の有無でドミサイルを選択することに意味がなくなった」とするマーシュブローカージャパン(2022年)の指摘を引き、浜田ほか(2023年)の、税金対策は本来の目的ではないとの趣旨の記述も紹介しています。前田(2020年)も、現地の租税が20%未満なら利益は日本で合算され租税回避のメリットはなくなったと指摘しています。税効果は設立の目的になりません。ラブアンを選ぶ理由は、アジアのリスクを扱う実務上の利便とコストの側に置くのが筋です。個別の判断は税理士等の専門家にご確認ください。
日本側の前提(保険業法186条と再保険キャプティブの構造)
海外にキャプティブを持つとき最初に確認すべきなのは、日本の保険業法です。186条1項は「日本に支店等を設けない外国保険業者は、日本に住所若しくは居所を有する人若しくは日本に所在する財産又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に係る保険契約(政令で定める保険契約を除く。)を締結してはならない」と定めています。ラブアンのキャプティブは日本に支店を持たない外国保険業者なので、日本の工場や在庫、日本で負う賠償責任などを直接引き受けることは原則としてできません。申込者が事前に許可を受ける道はありますが、日本で同等以上の条件の契約が容易に結べるなら許可されず(同条3項)、無許可の申込みは50万円以下の過料の対象になり得ます。規制の詳細は海外直接付保規制(保険業法186条)で解説しています。
そこで使われるのが再保険キャプティブの構造です。保険業法施行令19条1号は、186条の禁止から除外する契約の第一に「再保険契約」を挙げており、金融庁の資料も、日本企業は主に再保険キャプティブを設立していると説明しています。流れは次のとおりです。
- 企業グループが、日本で免許を受けた元受保険会社と通常の保険契約を結び、保険料を支払う。
- 元受保険会社は保険料の算定を行い、保険責任の一部をラブアンなどの再保険キャプティブに出再する。
- キャプティブは引き受けたリスクの一部を、さらに再保険市場へ出再する。
- 事故が起きたときは、元受保険会社が損害調査と保険金の支払を企業グループに対して行う。付保証明書も元受保険会社が発行する。
元受保険会社は、キャプティブから再保険金を受け取れなくても契約どおり保険金を支払う義務を負うため、キャプティブの資本や担保が十分かという元受保険会社の審査を通らなければ仕組みは成り立たない、と実務家は指摘しています。金融庁は、日本企業のグループで元受型のキャプティブを設立している例は確認できないとしています。
マレーシアやインドネシアの子会社のリスクも、各国の規制に沿って現地の保険を手配し、そこから再保険でキャプティブへ移すのが基本です。マレーシアの元受保険会社がラブアンのキャプティブに出再する一般再保険料は、マレーシアの税務上全額損金に算入できると当局は説明しています。
2026年の論点(国内再保険キャプティブ制度とラブアンの制度改定)
2026年に最も大きく変わったのは日本国内です。2026年7月21日閣議決定の日本成長戦略は自グループのリスクのみを引き受ける保険会社の制度創設の検討を掲げ、同日の金融戦略は、限定的なリスクを扱う特別専門保険会社(再保険キャプティブ)の制度を創設するための法案の次期通常国会提出に向けた検討を進めると明記しました。これを受けて金融庁の金融審議会 保険制度ワーキング・グループが2026年10月1日に第1回会合を開き、第2回は10月30日に予定されています。
第1回の事務局資料は、再保険キャプティブを損害保険会社の一類型としつつ免許審査基準と最低資本金を見直すこと、保険契約者の範囲を自社グループに限定すること、損害保険会社と比べて追加的な税制上の措置は前提としないこと、元受キャプティブは将来の課題とすること、の4点を方向性として示しました。通常の損害保険会社の最低資本金は10億円で、免許取得の負担の重さが、多くの企業が海外に子会社を設けてきた理由とされています。成長戦略は、為替変動や制度変更のリスクを理由に国内設立を望む声にも触れています。ただし制度は検討段階で、法案の内容や時期は決まっていません。国内制度の論点は国内再保険キャプティブ制度とはで詳しく扱います。
ラブアンの側では、年間免許料の改定に加え、マレーシアの2026年度予算(2025年10月10日国会提出)で、国のリスクをラブアンのキャプティブやタカフルで引き受けるMADANI Captive Insurance Programmeが打ち出されました(詳細は未公表)。Labuan FSAは2027〜2031年の戦略ロードマップで、アジアの主導的なキャプティブ・リスクファイナンスの中心地を目標に掲げています。
アジアの競争も強まっています。シンガポール金融管理局(MAS)は2026年7〜8月に保護セル会社(PCC)の法制について意見募集を行い、Insurance Asia News(2026年10月24日)は、シンガポールと香港もPCCの導入を検討していると報じています。ラブアンの強みだったセル型の入りやすさは、ほかの設立地でも選べるようになる可能性があります。
ラブアンが向く企業・慎重に考えたい企業
ラブアンが選択肢になりやすいのは、マレーシア・インドネシアなど東南アジアに拠点があり、工事・エンジニアリング、賠償、火災などのリスクをアジアでまとめて管理したい企業です。時差が1時間であること、セル型やレンタキャプティブで最低資本の固定額なしに始められること、当局の統計や規制が英語で公開され検証しやすいことは実務上の利点です。保険料と保険金のデータを数年分そろえ、自社でどこまでリスクを持てるかを数字で議論できる企業なら、検討の土台があります。
慎重に考えたいのは、税の効果を主な動機にしている場合(日本での合算課税を前提に採算を見直す必要があります)、自前のピュア・キャプティブで2〜3名の常勤者と年間RM100,000以上の経費を置く体制が組めない場合です。セル型は入りやすい反面、器を運営する管理会社への依存が大きく、その選定が成否を分けます。国内制度の検討が進む今は、その行方を見ながら準備を進める判断もあり得ます。
キャプティブで引き受けるのは自社のリスクそのものです。どのリスクをいくら保有し、どこから外部の保険に移すかを決めないままでは、設立地を比べても判断できません。まず現在の保険プログラムを棚卸しすることが最短の道です。
那由他保険テクノロジーズがキャプティブ検討前の保険プログラム整理でご支援できること
キャプティブの検討は、多くの場合「保険料が上がった」「更新で引受条件が厳しくなった」という声から始まります。けれども、証券は種目ごと・拠点ごとに分かれ、免責金額の考え方もばらばらで、どのリスクを保険に移し、どのリスクを自社で持っているのかが見えにくいのが普通です。那由他保険テクノロジーズは東京の保険代理店として、法人リスクコンサルティング(Risk & Benefits)でこの整理をご支援しています。
具体的には、事業と拠点から想定される財物・休業・賠償・工事などのリスクを洗い出し、現在の保険契約と照らして補償の重複や不足を確認します。種目ごとの保険料と補償範囲を並べて保険料コストの構造を整理し、免責金額の水準と自社で保有しているリスクの範囲を一覧にします。保険証券診断は、この工程を定型化したサービスです。
整理の結果、どのリスクの保険料負担が大きいか、どこに補償の空白や重複があるか、免責の引上げなどで保有を増やす余地があるか、といった判断材料が手元に残ります。キャプティブを設けるべきか、免責や補償の見直しで十分かを社内で議論する土台になり、キャプティブの検討に進む場合の基礎資料にもなります。
立場を明確にしておきます。那由他保険テクノロジーズは、損害保険については特定の保険会社の代理店として募集を行い、複数の保険会社の商品を比較して推奨する販売は行わず、保険仲立人でもありません。キャプティブの設立や再保険の手配は当社の業務ではありません。詳細は比較推奨販売方針をご覧ください。証券がそろっていない、どこから手を付けてよいか分からないという段階でも、一緒に整理するところから始めます。まずはお気軽にお問い合わせください。
よくある質問
ラブアンのキャプティブに日本の工場や在庫のリスクを直接引き受けてもらうことはできますか?
原則としてできません。保険業法186条1項により、日本に支店等を設けない外国保険業者は、日本に所在する財産や日本に住所・居所を有する人などに係る保険契約を締結できません。日本企業のキャプティブは、国内の元受保険会社が保険を引き受け、その一部を再保険として受ける構造をとります。再保険契約は施行令19条1号で186条の禁止から除外されています。
ラブアンの低い税率は日本の税負担にどう影響しますか?
ラブアンの課税は監査済み純利益の3%ですが、常勤2〜3名と年間RM100,000の経費という実体要件を満たさなければ24%になり、日本・マレーシア租税条約の恩典も受けられません。日本の外国子会社合算税制では租税負担割合20%未満(ペーパー・カンパニー等は27%未満)の外国関係会社は合算課税の対象になり得るため、税の効果を前提にした設立は成り立ちにくいとされています。
日本企業はラブアンにキャプティブを何社持っていますか?
公式の国別統計はありません。フォーサイトリスクマネジメントが金融審議会に提出した資料(2026年10月1日)では、日本企業系キャプティブの累計181社のうちラブアンは30社で、ハワイに次ぐ第2位です。Labuan IBFCの公式名簿の連絡先から推定すると少なくとも17社が日本企業のものとみられますが、資本関係は確認できていません。
中堅企業でもラブアンのキャプティブを利用できますか?
形態によっては入口があります。サブシディアリー・レンタキャプティブやPCCのセルには最低資本の固定額がなく、当局の年間手数料はSRACがUSD1,000、PCCセルがUSD3,000です。管理会社への委託費などは別で、金融庁はキャプティブ一般について設立時に約1,000万円、設立後に年間数千万円と整理しています。
国内の再保険キャプティブ制度ができるまで待つべきですか?
一概には言えません。2026年7月21日閣議決定の日本成長戦略・金融戦略で法案の次期通常国会提出に向けた検討が明記され、金融庁の保険制度ワーキング・グループが2026年10月1日に第1回会合を開きましたが、制度の内容や時期は決まっていません。どちらを選ぶ場合でも必要になる自社のリスクと保険の棚卸しを先に進めておくのが現実的です。
キャプティブを検討する前に、まず何から始めればよいですか?
現在の保険プログラムの全体像をつかむことです。保険料がどこにかかっているか、補償の重複や不足、免責金額と自社で保有しているリスクの範囲を一覧にすると、キャプティブが必要か、免責や補償の見直しで足りるかを議論できます。証券がそろっていない段階からでも整理できます。
参考一次情報
- Labuan FSA, Who We Are(2026年10月29日確認)
- Labuan FSA, Guidelines on Captive Insurance Business in Labuan IBFC(2023年8月21日発出、2024年1月1日施行。2026年10月29日確認)
- Labuan FSA, FAQs on Guidelines on Captive Insurance Business(2026年10月29日確認)
- Labuan FSA, Guidelines on Capital Adequacy Requirements for Labuan Captive Insurance and Takaful Business(2021年1月1日施行。2026年10月29日確認)
- Labuan FSA, Clarification Note for Guidelines on Capital Adequacy Requirements(2025年11月14日付。2026年10月29日確認)
- Labuan FSA, Notice on 2026 Annual and Licence Fees(2025年11月6日付。2026年10月29日確認)
- Labuan FSA, Labuan IBFC Market Report 2023(2026年10月29日確認)
- Labuan FSA, Labuan IBFC Market Report 2024(2026年10月29日確認)
- Labuan FSA, Market Report 2025(2026年4月28日公表。2026年10月29日確認)
- Labuan FSA長官 Asian Captive Conference 2026 基調講演(2026年9月10日。2026年10月29日確認)
- Labuan IBFC, List of Labuan Insurance and Insurance-Related Entities(2024年7月30日時点。2026年10月29日確認)
- Labuan IBFC, A Guide to Captive Insurance(2026年10月29日確認)
- Labuan IBFC, Tax Structure(2026年10月29日確認)
- Labuan Business Activity Tax (Requirements for Labuan Business Activity) Regulations 2021, P.U.(A) 423/2021(複製版。2026年10月29日確認)
- OECD, Harmful Tax Practices: Consolidated Peer Review Results on Preferential Regimes(2026年10月29日確認)
- 財務省 日本・マレーシア租税協定 MLI統合テキスト(議定書5(b)。2026年10月29日確認)
- 財務省 外国子会社合算税制の概要(2026年10月29日確認)
- 租税特別措置法 66条の6(e-Gov法令検索。2026年10月29日確認)
- 三浦法律事務所 最高裁2024年7月18日判決の解説(2026年10月29日確認)
- 新日本法規 T&A master 東京地裁2023年1月27日判決の報道(2026年10月29日確認)
- 保険業法 186条(e-Gov法令検索。2026年10月29日確認)
- 保険業法施行令 19条(e-Gov法令検索。2026年10月29日確認)
- 金融庁「免許を有しない外国保険業者の保険契約の勧誘について」2024年10月17日(2026年10月29日確認)
- 金融庁 金融審議会 保険制度ワーキング・グループ第1回 事務局説明資料(2026年10月1日。2026年10月29日確認)
- フォーサイトリスクマネジメント「国内再保険キャプティブ制度の創設に向けて」同ワーキング・グループ第1回 資料6(2026年10月1日。2026年10月29日確認)
- 金融庁 金融審議会 保険制度ワーキング・グループ第2回の開催について(2026年10月29日確認)
- MAS, Consultation on PCC Framework(2026年10月29日確認)
- Insurance Asia News, Asian regulators race to unlock the captive boom(2026年10月24日。2026年10月29日確認)
- キャプティブ保険のドミサイル比較(那由他保険テクノロジーズ)
- 国内再保険キャプティブ制度とは(那由他保険テクノロジーズ)
- 海外直接付保規制(保険業法186条)(那由他保険テクノロジーズ)