地主・専業オーナーの相続と生命保険|売らず納税資金を作る不足額の考え方

結論からお伝えします。地主・専業の不動産オーナーの相続対策は、「保険に入るかどうか」より先に、誰に・いつ・いくらの現金が必要かを分けることから始めます。保有不動産の評価額は大きくても、年間の手残りは薄い――この流動性ギャップを埋めないまま保険金額だけを決めると、備えが過不足になりやすいためです。

本記事では、必要な現金を「相続人個人の相続税」「不動産を承継する人が払う代償金」「法人の事業継続資金」「資産管理会社株式の承継・買取資金」の4つに分け、個人契約と法人契約で資金がどの口座に届くかを整理します。そのうえで、物件を全部残す前提を固定せず、二重計上しない不足額表から保障額を逆算する考え方を、2026年8月時点の一次情報にもとづいて解説します。生命保険は「節税商品」ではなく、約款に定める支払条件を満たすことを前提に、受取人側へ現金を用意するための資金調達手段として扱います。

Summaryこの記事のポイント

  • 必要な現金は、相続税・代償金・法人の事業資金・株式承継の4つに分けて考えます。
  • 「全部残す」を前提にせず、計画売却候補を先に決めると必要保障額は下がります。
  • 個人契約は個人の口座に、法人契約は会社の口座に現金が届きます。到着先が違います。
  • 個人用資金と法人用資金は別表で作り、同じ預金・保険金・借入枠を二重計上しません。
  • 「新築は簿価評価」「オフィスは住宅より高評価」「法人保険料は全額損金」はいずれも一律には言えません。

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地主・専業オーナー特有の課題:資産は大きいのに現金が薄い

評価額と年間手残りのギャップが相続で問題になる理由

本記事が対象とするのは、貸地・貸家・賃貸マンションなどに資産が偏り、相続税評価額は大きい一方で、家賃から諸経費・借入返済・税金を差し引いた後の年間手残りが相対的に薄い状態にあるオーナーです。すべての地主・専業オーナーが必ずこの状態にあるわけではありませんが、この構造に当てはまる場合は、流動性ギャップが相続時の資金課題になりやすくなります。不動産は上場株式のように市場ですぐ現金化できるとは限らず、買い手や価格の調整に時間がかかるためです。

ところが相続税は、この「売りにくい・現金化しにくい資産」の評価額も含めて課税されます。しかも申告・納付には期限があります。国税庁 No.4205「相続税の申告と納税」によれば、相続税の申告と納付は原則として被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。評価額は大きい/手残りは薄い/期限は区切られている――この3つが重なる点に、生命保険で流動性を用意する意味があります。

「保険に入るか」より先に決める4つの資金の宛先

保険金額を先に決めると設計を誤りやすくなります。まず、相続時に必要になる現金の「宛先」を分けてください。宛先が違えば、必要額の性質も、受け取るべき主体も変わります。

  • 相続人個人が納める相続税:不動産を含む相続財産全体にかかる税額。
  • 不動産をまとめて承継する人が払う代償金:分けにくい収益物件を一人が承継し、他の相続人へ渡す現金。
  • 法人の事業継続資金:賃貸法人・資産管理会社の借入返済、空室対応、修繕などの運転資金。
  • 資産管理会社株式の承継・買取資金:会社株式を後継者へ集約する、または後継者以外から買い取る資金。

まず物件を分ける:残す物件と計画売却候補の切り分け

「全部残す」を前提にしない

相続対策というと「保有物件をすべて残したまま、納税資金を別に用意する」と考えがちです。しかし所有物件のなかには、収益性・修繕負担・立地・後継者の意向から見て、あえて残す物件と、計画的に売却する候補が混在しているのが通常です。全部残すことを前提に置くと、必要保障額はその分だけ大きくなります。

売却候補を先に決めると必要保障額が下がる理由

納税や代償金に充てる原資として、あらかじめ売却する物件を決めておくと、その手取り見込み額の分だけ、保険で用意すべき現金は減ります。相続発生後に慌てて売る場合、時間の制約から不利な価格になりやすいのに対し、事前に候補を決めておけば売却時期や価格の交渉余地を確保できます。

ポイントは、「残す物件」と「計画売却候補」を先に切り分けたうえで、売却候補の手取り(譲渡費用・所得税等控除後)を不足額の計算に織り込むことです。これにより、必要保障額は「全部残す前提」より下がります。どの物件を残すかは、収益率・借入残高・修繕予定・後継者の運営意向をそろえて判断します。

必要現金を4つに分解する

相続人個人が納める相続税

相続税は個人に帰属する税です。不動産・現預金・有価証券・法人株式などを合算した相続財産全体に対して課税され、納めるのは会社ではなく相続人個人です。土地・貸家の評価は用途名ではなく、固定資産税評価額や路線価、借地権割合・借家権割合・賃貸割合などの要件で決まります。実額は税理士の試算で確認します。

不動産をまとめて承継する人が払う代償金

収益不動産は物理的に等分しにくく、共有にすると将来の建替え・売却で全員の合意が必要になる場合があります。そこで一人がまとめて承継し、他の相続人へ現金で調整するのが代償分割です。このとき承継者が支払う代償金は、承継者個人の手元現金で用意する必要があります。相続財産に占める不動産の比率が高いほど、代償金が大きくなる可能性があります。

法人の事業継続資金

賃貸法人・資産管理会社を持つ場合、オーナーの死亡は会社の信用や運営体制にも影響します。借入返済、空室・原状回復への対応、想定外の修繕、当面の運転資金など、会社が必要とする一時的な資金需要があります。これは相続税とは別の、会社の口座に届くべき資金です。

資産管理会社株式の承継・買取資金

資産管理会社の株式も相続財産です。後継者へ株式を集約するため、後継者以外の相続人が相続した株式を、会社が自己株式として取得する、または後継者が買い取る資金が必要になる場合があります。土地・建物を会社が保有していると、その不動産評価が株式評価にも影響するため、土地と株式を二重に数えない整理が欠かせません。

資金の「到着先」が違う:個人契約と法人契約

誰の資金を作りたいのかが決まれば、契約形態はそこから逆算します。誰が保険料を負担し、誰を被保険者とし、誰が受け取るかの組み合わせで、資金の行き先も税金の扱いも変わります。

個人契約:相続人個人の口座に現金が届く

相続人個人の納税資金や代償金を作りたい場合は、個人契約が選択肢になります。被相続人を被保険者とし、相続人を受取人にする形では、死亡保険金は相続人個人の資金として納税・代償金に充てられます。被相続人が保険料を負担し相続人が受け取る場合、500万円×法定相続人の数の非課税限度額が適用されます。保険料負担者・被保険者・受取人の組み合わせが変わると、相続税ではなく所得税や贈与税の対象になる点に注意が必要です。

法人契約:会社の口座に現金が届く

法人の事業継続資金や、資産管理会社の自己株式取得・死亡退職金の原資を用意したい場合は、法人契約を検討します。この場合、死亡保険金は会社の資金として会社の口座に届きます。会社の運転資金や借入対応、株式買取の原資には充てられますが、そのままでは相続人個人の納税資金にはなりません。

法人資金を個人へ回す経路は別論点

会社が受け取った保険金は会社の資金であり、相続人個人の納税資金へ自動的には移りません。会社から個人へ資金を移す方法として死亡退職金の支給・自己株式取得・配当・貸付などがありますが、いずれも単純な選択肢ではなく、それぞれ支給決議、分配可能額、課税関係、返済可能性などの確認を要する取引です。実行の可否と条件は税理士等の専門家に確認してください。

個人契約と法人契約で資金の到着先を比べる表
確認項目個人契約の例法人契約の例
実際の保険料負担者被相続人(オーナー本人)賃貸法人・資産管理会社
被保険者オーナー(被相続人)オーナー
受取人(資金の到着先)相続人会社
課税確認この例では相続税。非課税枠の適用要件を確認法人税上の処理を確認。個人の非課税枠は対象外
主な資金用途相続税、代償金事業継続資金、自己株式取得、死亡退職金
個人へ回す経路―(直接個人へ)死亡退職金・自己株式取得・配当・貸付など別取引

表は被相続人が保険料を負担する個人契約の一例です。保険料負担者・被保険者・受取人が変わると課税関係も変わります。どちらが有利かではなく、必要資金の主体と受取主体が一致しているかで判断します。

二重計上しない不足額表の作り方

必要保障額の判断式

保険で備える候補額は、必要資金の総額ではなく、既存の資金や制度適用後の不足額から逆算します。目安の式は次のとおりです。

個人用不足額 = 相続人個人の想定納税額 + 代償金 + 個人保有物件の相続直後の修繕・運転資金 - 個人が期限までに使える現預金 - 納税期限までの確度の高い個人の手残り - 事前に決めた個人資産の売却手取り - 個人で実行可能な借入余力

法人用不足額 = 法人の一時資金需要(事業継続資金・自己株式取得原資・死亡退職金原資など) - 法人が使える現預金 - 法人の確度の高い手残り - 法人で実行可能な借入余力

手残りは確度の高いものだけを、借入は返済原資と実行可能性が確認できる範囲だけを差し引きます。個人用不足額と法人用不足額は資金の帰属が異なるため、片方の余力でもう片方の不足を差し引かないでください。

個人用資金と法人用資金は別表にする

最も誤りやすいのが二重計上です。同じ預金・保険金・借入枠を、個人の納税欄と法人の事業資金欄の両方に入れてはいけません。また、会社が保有する不動産の評価と、その不動産を反映した株式評価を重ねて数えないよう、個人保有不動産と会社保有不動産、会社株式を区別します。個人用資金と法人用資金は別表に分け、受取人と用途が一致する欄にだけ資金を入れてください。

個人用・法人用に分けた不足額表の例
資金の宛先必要資金の例差し引く既存資金保険で補う候補
個人:相続税不動産・株式を含む相続税期限までに使える現預金、計画売却の手取り、相続人受取の既存保険金差引後の不足額
個人:代償金他の相続人へ渡す現金承継者個人の現預金、実行可能な借入差引後の不足額
法人:事業継続資金借入返済、空室・修繕、運転資金会社の余裕資金、会社受取の既存保険金、実行可能な融資差引後の不足額
法人:株式承継・買取自己株式取得または後継者の買取対価会社または後継者に帰属する資金主体別の差引後不足額

保険金額は想定納税額だけで決めない

不足額表で求めた金額は、加入額の決定ではなく比較の出発点です。実際の保険金額は、保険料負担の継続余力、健康状態・年齢、保険期間、受取人、既存契約との重複を同時に確認して決めます。想定納税額に金額を合わせるだけでは、払い続けられない設計や、用途とずれた受取人になりかねません。

誤解しやすい3つの前提を確認する

「新築後は簿価評価」ではない

「新築賃貸物件は相続時に簿価で評価される」という説明は不正確です。国税庁の財産評価基本通達によれば、完成済みの家屋は原則として固定資産税評価額を基礎に評価し、建築中の家屋は費用現価の70%が基本です。「新築後数年間は簿価」という一般ルールがあるわけではありません。固定資産税評価額が付されていない場合などには個別論点があるため、税理士へ確認します。

「オフィス賃貸は住宅より常に高評価」ではない

「オフィスとして貸すと住宅より相続税評価が高い」とは一律に断定できません。貸家・貸家建付地の評価は用途名ではなく、固定資産税評価額、借地権割合、借家権割合、賃貸割合などで決まります。居住用の区分所有財産には別ルールがあり、小規模宅地等の特例も利用区分で結論が変わります。用途のラベルだけで高い・低いを判断しないでください。

「法人保険料は全額損金」ではない

「法人契約なら保険料は全額損金になる」も契約ごとの判断です。国税庁 No.5364-2によれば、最高解約返戻率が50%を超える一定の定期保険等は、保険料の一定額を一定期間資産計上します。損金算入の時期は契約条件で異なります。さらに損金は資金が増えることを意味せず、解約・死亡時の益金や役員退職金等の支出まで含めた手取りキャッシュで比較すべきものです。

貸家・貸家建付地・小規模宅地等は要件で結論が変わる

貸家建付地は自用地価額・借地権割合・借家権割合・賃貸割合で評価します。小規模宅地等の特例のうち貸付事業用宅地等は、一定要件の下で200㎡まで50%減額ですが、自宅用や貸付以外の事業用とは区分・限度面積・要件が異なります。適用可否は物件ごとの実態と要件で決まるため、個別に確認します。

延納・物納・借入と生命保険を比較する

延納は担保・利子税を伴う

相続税は一括金銭納付が原則です。国税庁 No.4211「相続税の延納」によれば、一定の要件を満たせば延納は可能ですが、原則として担保の提供が必要で、利子税もかかります。物納も認められる場合がありますが、要件や財産の順位、収納価額の論点があります。延納・物納は自由に選べる資金調達ではないため、使える前提で不足額を減らさないようにします。

生命保険は死亡時に受取人側へ現金を届ける手段

借入は返済原資と実行可能性が前提になり、相続後の状況によっては使いにくいことがあります。生命保険は、契約が有効に継続し、告知義務違反や免責事由に該当せず、約款に定める支払事由を満たしたうえで、受取人が所定の請求手続きを行うことを前提に、受取人側へ現金を届ける手段です。これらの条件を満たさない場合は保険金が支払われないことがあり、支払いを確実に保証するものではありません。延納・物納・借入・計画売却と排他ではなく、これらを検討したうえでなお残る不足額を保険で補う順序で組み合わせます。

那由他保険テクノロジーズが地主・不動産オーナーの「不足額から逆算する保険設計」でご支援できること

那由他保険テクノロジーズは、保険金額のご提案から入りません。次の順序でご一緒します。

  • 4つの宛先をご自身の資産構成に当てはめ、個人用と法人用に分けた不足額表の骨組みを会話の中で組み立てます。
  • いまご加入の生命保険を、実際の保険料負担者・被保険者・受取人・保険金の到着先という軸で棚卸しし、4つの宛先のどこをすでにカバーしていて、どこに重複・受取人のずれ・不足があるかを可視化します。
  • 棚卸しで見えた不足について、どの論点をどの順序で確定させれば設計が前に進むか、その場の会話で並べ替えます。

ご相談のあとにお手元に残るのは、契約ではなく判断材料です。

  • 宛先別(個人:相続税・代償金/法人:事業継続・株式承継)に分けた不足額表のたたき台。会話の中で埋まった欄と、税理士の試算を待つ空欄が区別された状態です。
  • 「全部残す前提」と「計画売却候補を織り込んだ場合」の2パターンで、必要保障額の幅がどう変わるかの比較。
  • 契約形態の候補比較。契約者・被保険者・受取人の組み合わせごとに、保険金がどの宛先の不足を埋めるのかを、既存契約も同じ軸の上に載せて並べます。
  • 税理士・弁護士へ確認すべき論点と、保険側で決められる事項の切り分け。
  • 保険料を負担し続けられる水準から見た、宛先ごとの優先順位の考え方。

数字が固まっていない、家族と売却の話をまだしていない、何から手を付けるべきかも分からない。その状態が普通ですし、そのままご相談いただいて構いません。状況が整理できていない段階から、お話を伺いながら順序を一緒に付けていきます。

なお、相続税額や不動産・株式の評価の確定は税理士、代償分割や遺留分などの法的判断は弁護士の領域です。那由他保険テクノロジーズは保険契約の設計と、その前提となる資金の宛先整理を担い、必要に応じて顧問税理士等と連携しながら進めます。

「どの宛先の現金が足りないのか分からない」。その一言だけで、ご相談は始められます。

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初回のご相談・現契約の診断は無料です。お電話(050-1725-4773/受付:平日9:00〜19:00)でも承ります。

よくある質問

保有する賃貸物件を売らずに相続税を払う方法はありますか。

物件を残したまま納税するには、相続人個人が現金を用意する必要があります。既存現預金、納税期限までの確度の高い手残り、実行可能な借入、相続人個人が受け取る生命保険などが候補です。計画売却候補を先に決め、その手取りを差し引いた不足額を保険で補うか検討します。

法人で生命保険に入れば、相続人はそのまま相続税を払えますか。

法人契約の死亡保険金は会社の資金であり、相続人個人の納税資金へ自動的には移りません。会社から個人へ資金を移すには、死亡退職金の支給や会社による自己株式取得など別の取引が必要で、それぞれ会社法・税務の論点があります。

法人契約の保険料は全額損金になりますか。

一律には全額損金になりません。最高解約返戻率が50%を超える一定の定期保険等は、保険料の一定額を一定期間資産計上します。損金算入の時期は契約条件で異なり、解約・死亡時の益金や退職金等の支出まで含めた手取りキャッシュで比較します。

オフィスとして貸すと住宅より相続税評価は高くなりますか。

用途名だけで高い・低いは決まりません。貸家・貸家建付地の評価は固定資産税評価額、借地権割合、借家権割合、賃貸割合などで決まります。居住用区分所有財産には別ルールがあり、小規模宅地等の特例も利用区分と要件で結論が変わります。

新築したばかりの賃貸物件は簿価で評価されますか。

「新築後は簿価評価」という一般ルールはありません。完成済みの家屋は原則として固定資産税評価額を基礎に評価し、建築中の家屋は費用現価の70%が基本です。固定資産税評価額が付されていない場合などは税理士へ確認します。

参考一次情報・公的資料

情報確認日:2026年8月1日。本記事は一般的な情報であり、個別の税務・法務判断を示すものではありません。不動産・株式の評価や税額は税理士、代償分割・遺留分等の法的判断は弁護士にご確認ください。制度の要件・数値は変更される場合があります。