
「自社サービスの購入導線に補償を組み込みたい」と方針が決まったあと、最初に確定させるべきなのは補償内容でも料率でもありません。誰がそのリスクを引き受けるかです。引受主体が決まれば、適用される規制の枠組み、必要な体制、支払いの原資、事故が起きたときに誰が判断するかまでが芋づる式に決まります。逆にここを曖昧にしたまま画面設計や料率の議論を先に始めると、規制・原資・運用のどこかで必ず戻り作業が生じます。
この記事は、EC・SaaS・プラットフォーム・物流・サブスクなどの事業責任者、管理部門、CFOが、次の4点を自社で判断しきれる状態になることを目標に整理しています。
Summaryこの記事のポイント
- 保険型で組むか、保証型で組むか——最初に決まる分岐と、その判断軸
- 自社がどの立場に立つか——引受主体・募集/代理/媒介・保証提供者・運営者のどれか
- どの順で進めるか——構想から運用までの導入7ステップと、飛ばすと後戻りする箇所
- いくらで回るか——原資と付帯収益を、保険調達/自社履行の同じ項目で並べ、関係式と仮の数値を置いた計算例で概算する考え方
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組込型保険(Embedded Insurance)とは
組込型保険(Embedded Insurance)とは、ECサイト・アプリ・SaaS・決済といった自社サービスの購入・契約フローのなかに、保険や保証を最初から組み込んで提供する形態を指します。顧客が保険を別途探しに行くのではなく、購入ボタンを押す流れのまま補償が提示される、あるいは自動で付帯される点が特徴です。
典型例としては、次のような形が挙げられます。
- EC・家電の延長保証:メーカー保証終了後の修理・交換を、購入時に選べる形で提示する
- 旅行予約のキャンセル費用補償:予約フローのなかで、中止時の費用をカバーする補償を付ける
- 配送・物流の破損補償:荷物の破損・不着に備える補償を、配送オプションと同じ画面で提示する
- サブスク端末の交換保証:故障時の代替機提供を、月額料金に含める、または上位プランで付ける
ここで出発点として押さえておきたいのは、組込型保険は「保険を売る事業」ではなく「自社サービスの付帯価値」として設計するものだという点です。目的は保険手数料そのものではなく、購入時の不安を下げ、顧客体験と単価を高め、購入後の接点をつくることにあります。この立て付けを最初に共有しておくと、補償範囲を広げすぎて原資が崩れる、あるいは規制上の負担を必要以上に背負う、といった設計のブレを防げます。保険そのものの基本的な考え方は、金融庁「保険に関する情報」や日本損害保険協会「損害保険とは?」もあわせて確認できます。
用語を先に分ける|組込型保険・付帯保険・保証・延長保証・バックファイナンス
この領域は、近い意味の言葉が並走します。社内で議論が噛み合わない原因の多くは、同じ「保証」という一語を、参加者が別の構造で思い浮かべていることにあります。設計に入る前に、次の5語を分けておくと、以降の判断が速くなります。
| 用語 | 意味 | 誰が引き受けるか | どの場面で使う語か | この記事での位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| 組込型保険(Embedded Insurance) | 購入・契約フローに補償を組み込んで提供する形態そのもの | 形態を指す語であり、引受主体は設計により保険会社・少額短期保険業者・自社などに分かれる | 提供形態・体験設計を語るとき | 本記事の対象範囲全体を指す上位概念 |
| 付帯保険 | 保険会社が引き受ける保険を、事業会社の商品・サービスの接点に組み込んだもの | 保険会社(または少額短期保険業者) | 実際の商品としての形を語るとき | 組込型保険を「保険型」で実装した形 |
| 保証(保証サービス) | 事業会社が修理・交換・返金などを自ら顧客に約束する仕組み | 自社、または提携する保証提供者 | 約款ではなく保証規程・利用規約で組むとき | 組込型保険を「保証型」で実装した形 |
| 延長保証 | メーカー保証の終了後に、修理などを引き受ける保証の一類型 | メーカー・販売店・保証提供者(設計により保険が絡む場合もある) | 物販・耐久財の補償を語るとき | 保証型の代表的な一例 |
| バックファイナンス | 自社が負う保証の履行費用を、保険で裏付けて平準化する設計 | 表側は自社(保証)、裏側は保険会社 | 保証の原資・損益のブレを語るとき | 保証型を選んだ場合の原資手当ての選択肢 |
なお、同じ「保証」でも、経営者保証(融資に対する個人保証)や履行保証(工事等の契約履行を担保する保証)は、本記事が扱う領域とは別のものです。混同すると必要な検討がまるごと入れ替わるため、社内の議論では最初に切り離してください。
それぞれの詳細は、以下の記事でも整理しています。
- 付帯保険とは?自社サービスへの組み込み方——自動付帯・任意付帯・API連携の3方式の比べ方
- 商品付帯保険と保証サービスの違い——「誰がリスクを負うか」を軸にした切り分け
- 保証事業のバックファイナンスとは?——保証の履行費用を保険で裏付ける仕組み
なぜ購入導線への組込みが検討されるのか
背景にあるのは、決済・購買体験のデジタル化と、API連携によって外部機能を自社サービスへ取り込みやすくなった環境です。EC・SaaS・プラットフォーム事業者が、自社で持つ販売データと顧客接点を活かして、購入や利用に紐づくリスクをその場でカバーできるようになってきました。
事業者側で期待される効果は、おおむね次の3点に整理できます。
- コンバージョンへの寄与:「壊れたらどうなるか」「トラブル時はどうなるか」という購入時の不安に、その場で答えを提示できる
- 継続率への寄与:補償が付いていることがスイッチングの理由を減らし、購入後の接点をつくる
- 付帯収益:保険料・保証料という新たな収益源、あるいは単価向上につながる
ただし、これらの効果は商材・顧客層・補償設計によって大きく変わります。同じ延長保証でも、単価の高い耐久財と低単価の消耗品では、顧客が感じる価値も採算構造も別物です。効果の見立ては一般論ではなく、自社の販売実績・返品/修理の記録・顧客の問い合わせ内容から検証する前提で進めてください。この検証に使うデータは、そのまま次章以降の原資試算の材料になります。
保険型と保証型の違い|最初に決める分岐
組込みを検討するとき、最初に決めるべきなのが、提供するものが保険なのか保証なのかという点です。顧客から見た体験は似ていても、引受主体・規制・原資・運用の担い手がすべて異なります。
| 観点 | 保険型 | 保証型(延長保証・自社保証など) |
|---|---|---|
| 引受主体 | 保険会社・少額短期保険業者など | 自社、または提携する保証提供者 |
| 規制の枠組み | 保険業法・募集規制の対象になり得る | 設計により保険業法の枠外で組める場合がある |
| 自社の役割 | 募集・代理・媒介などになり得る | 保証の提供者・運営者 |
| 設計の自由度 | 商品・約款の制約を受ける | 比較的柔軟に組めるが、その分の責任も自社に残る |
| 原資の持ち方 | 保険料として引受主体へ移す | 保証料収入と自社の資力で履行する(保険で裏付ける設計も可) |
| 顧客への説明根拠 | 保険約款 | 保証規程・利用規約 |
どちらが適切かは、次の4点で分かれます。
- 補償したいリスクの性質:偶然の事故で、損害額を客観的に算定できるものは保険になじみます。発生が確実な消耗や、意図的に動かせる返金条件は保証・規約で受けるほうが自然です
- 想定単価と規模:一件あたりの損害が大きく、まれにしか起きないリスクほど、保険へ移す価値が出ます
- 許認可・体制を自社で負えるか:募集体制や登録要件を自社で整えるのか、それを持つ先と組むのか
- 提携先を使うか:既存の引受候補・保証提供者のスキームに乗るのか、自社で組み上げるのか
要点を一文にすると、保証型は柔軟に組める代わりに履行原資と査定運用が自社に残り、保険型は引受主体と募集体制の整備が要る、という交換関係です。どちらかが優れているのではなく、自社が抱えられる負担の形が違います。両者の境界をさらに詳しく確認したい場合は、商品付帯保険と保証サービスの違いで観点ごとに整理しています。
引受主体・募集規制・自社の役割を確定する
保険型と保証型の方針が見えたら、次に確定させるのが「誰が引き受け、自社はどの立場に立つのか」です。ここが決まると、必要な体制と説明のルールが具体的に見えてきます。
引受主体の選択肢
- 提携する保険会社:既存の商品・約款を前提に、自社の導線へ載せる。立ち上げは速い一方、補償設計の自由度は引受条件に依存します
- 少額短期保険業者:小口・短期のリスクを扱う枠組み。引受方針や商品の制約の中で組めるかを個別に確認します
- 保証提供者:保証スキームを持つ事業者と組む。自社は運営・取次ぎの立場になり、対価と最終的な支払義務の所在を契約で明確にします
- 自社(少額短期保険業の登録):自ら引き受ける選択肢。登録要件・業務範囲は金融庁「少額短期保険業者」で確認できます。自社保証を保険として継続提供したい場合の選択肢としても検討されます
自社の立場をどう置くか
保険型で組む場合、自社の行為が保険募集に該当するかどうかが論点になります。顧客に保険を案内・比較・推奨し、申込みへ誘導する行為は募集に当たり得るため、誰が・どの立場で・どこまで説明するのかを設計段階で確定しておく必要があります。募集に該当する行為を行うのであれば、保険業法上の体制整備が関わります。考え方は金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」および同「保険募集管理態勢」が参照点になります。
保証型で組む場合は、自社は保証の提供者・運営者にとどまります。ただし「保証」という名称だけで規制の枠外になるわけではありません。あらかじめ対価を受け取り、偶然の事象を条件に金銭給付を行う設計に近づくほど、保険業該当性の確認が必要になります。判断の考え方は金融庁「保険業法上の『保険』に関するQ&A」が手がかりになります。
説明・表示で押さえる点
保険型・保証型のどちらでも、顧客への説明と画面表示は同じ重さで設計します。
- 「必ず補償される」といった断定的な表現を避ける
- 免責金額(自己負担)、支払限度額、補償の対象外を、購入前に読める位置に置く
- 事故が起きたとき、いつまでに・どこへ連絡すればよいかを、加入時点で伝える
この3点は規制対応であると同時に、後述する運用フローの前提でもあります。購入時に伝えていない条件は、事故が起きてから顧客に納得してもらうのが難しくなります。
なお、自社の行為が保険募集に該当するか、少額短期保険業の登録が必要かといった法令上の該当性の最終判断は、弁護士および必要に応じて当局への確認を前提とします。設計の細部で結論が分かれる領域のため、境界に近い設計ほど早い段階で専門家に接続しておくと、後からの作り直しを避けられます。
導入7ステップ
組込型保険・保証の導入は、おおむね次の順序で進みます。各ステップで「決めること」と、「飛ばすと後戻りする箇所」を並べます。
- リスクと顧客課題の特定|決めること:自社サービスのどの場面で、どんなトラブルが起き、顧客が何に不安を感じているか。飛ばすと:補償範囲が「あれば喜ばれそうなもの」の寄せ集めになり、原資が読めなくなります
- 保険型か保証型かの方針決定|決めること:引受主体・規制・原資の観点から、自社が立つ位置。飛ばすと:画面や料率を先に作り込んだ後で、規制と原資の前提が変わり全面やり直しになります
- 引受・提携先の選定|決めること:保険会社・少額短期保険業者・保証提供者のどこと組むか、複数候補の条件差。飛ばすと:一社の条件を前提に設計が固まり、比較の余地がなくなります
- 補償設計と単価・原資の試算|決めること:補償範囲、免責、支払限度額、料率、自動付帯か任意選択か。飛ばすと:加入率が伸びても支払いと事務費で相殺され、付帯収益が残りません
- 体制・規程・約款の整備|決めること:説明・表示、苦情対応、保険金/保証金の支払い運用、担当部門の分担。飛ばすと:販売後に苦情対応の担当が決まらず、現場が都度判断で支払ってしまいます
- システム連携と表示の実装|決めること:購入導線への組込み、重要事項の表示位置、加入記録の管理。飛ばすと:加入したことが記録に残らず、事故時に契約の存否から確認する事態になります
- 運用とモニタリング|決めること:加入率・支払い実績・苦情・収支を見る頻度と、補償設計を見直す条件。飛ばすと:想定と実績のずれに気づくのが遅れ、料率も免責も動かせないまま件数だけが積み上がります
とくに手戻りが重いのは、2と5です。方針決定と体制整備は、画面実装より前に固めておくほど、後工程が軽くなります。
事故受付から支払までの運用フロー
組込型保険・保証の価値は、購入導線の滑らかさではなく、事故が起きてから支払い・履行までの体験で決まります。ここが整っていると「入っていてよかった」に変わり、整っていないと販売時の訴求ごと信用を損ないます。
| 段階 | 顧客に起きること | 自社が担う範囲 | 引受主体が担う範囲 |
|---|---|---|---|
| 一次受付 | まず商品・サービスを買った自社へ連絡してくる | 受付窓口の設置、状況のヒアリング、引受主体への取り次ぎ | 受付内容の引き継ぎと請求手続きの案内(保険型の場合) |
| 事実確認・証拠保全 | 写真・見積・購入記録などの提示を求められる | 購入日・型番・利用ログの提示、必要書類の案内 | 必要な証拠要件の提示 |
| 査定・判定 | 対象か対象外かの結論を待つ | 一次的な切り分け(自然故障か外的要因かなど) | 保険型は保険会社の査定部門が判断/保証型は自社が判断 |
| 支払い・履行 | 修理・交換・保険金の受け取りが行われる | 修理手配、代替品の提供、顧客への結果説明 | 保険金の支払い(保険型)/原資の負担(保証型は自社) |
| 記録と再発防止 | 次に同じことが起きにくくなる | 受付から支払いまでの記録、補償設計・料率の見直しへの反映 | 支払実績の共有、引受条件の見直し |
この表で最も注意したいのが、査定主体が保険型と保証型で入れ替わる点です。保険型では、対象か対象外かの判断は保険会社の査定部門が担います。保証型では、同じ判断を自社の窓口が下します。約款や保証規程に対象外を書いていても、実際に線を引いて顧客へ説明する運用がなければ、断り切れずに支払ってしまうか、断ってトラブルになるかのどちらかに傾きます。保証型を選ぶなら、この査定の負担が自社に残ることを、原資の試算と同じ表に並べて見ておく必要があります。
もう一点、通知期限と証拠要件は販売を始める前に決めておきます。故障からどれくらいの期間内に連絡してもらうか、何をもって対象と判断するかが決まっていないと、購入から相当な期間が経った申告や、原因を特定できない事象まで抱え込むことになります。期限と要件は、購入時の説明文と事故時の案内文の両方に、同じ言葉で載せておくのが実務的です。
原資と収益の試算項目
組込型保険・保証が事業として回るかは、次の項目を並べると見当が付きます。ここで大切なのは、保険として調達する場合と、保証として自社が履行する場合を、同じ項目で並べることです。同じ表に載せて初めて、どちらの負担が自社に合うかを比べられます。
| 試算項目 | 保険として調達する場合 | 保証として自社が履行する場合 |
|---|---|---|
| 想定取引件数 | 対象となる購入・契約の母数。引受条件の前提として提示する | 同じ母数。ここに加入率と事故率を掛けて履行件数を見込む(事故率の分母は加入件数) |
| 想定加入率 | 任意付帯なら選択率、自動付帯なら全件が母集団になる | 同左。任意付帯は加入者の偏りが出やすい点も織り込む |
| 客単価 | 補償額の設計と、保険料負担の許容水準を決める | 保証料をいくらまで乗せられるかの上限を決める |
| 保険料/保証料の水準 | 顧客が負担する保険料の水準と、自社が受け取る手数料。いずれも引受条件により変わる | 自社が受け取る保証料収入。想定損害+運営コスト+利益で積み上げる |
| 想定事故率と平均支払額 | 引受判断と料率の根拠として提示するデータ | そのまま自社の履行原価になる |
| 運営・事務コスト | 受付・説明・記録の工数(査定は引受主体側) | 受付・査定・修理手配・顧客説明までの工数 |
| 免責・支払限度の置き方 | 免責を上げれば保険料は下がり、そのぶん事故時の自己負担が残る | 免責・上限を置くほど履行費用は抑えられ、訴求力は下がる |
試算項目をつなぐ関係式
上の項目は独立した箇条書きではなく、次の式でつながります。自社の数字を入れれば、その場で概算に着手できます。
- 加入件数=想定取引件数 × 想定加入率(自動付帯なら加入率は全件として扱う)
- 想定支払額=加入件数 × 想定事故率 × 平均支払額(=想定取引件数 × 想定加入率 × 想定事故率 × 平均支払額)
- 保証料収入(保証型)=加入件数 × 1件あたり保証料/手数料収入(保険型)=加入件数 × 1件あたり手数料
- 粗利(保証型)=保証料収入 − 想定支払額 − 運営・事務コスト
- 粗利(保険型)=手数料収入 − 運営・事務コスト(保険料は顧客が引受主体へ支払い、事故時の支払いも引受主体が負担する)
保険型でも、自動付帯にして自社が契約者となり保険料を自社で負担する設計はあります。その場合は、収入を補償込みのサービス価格の上乗せ分として置き(顧客から受け取る保険料とは呼びません)、費用の側に引受主体へ支払う保険料を並べて、同じ式で計算します。
事故率は分母の置き方で結果が変わるため、加入件数に対する割合と決めてから集計します。取引件数に事故率を直接掛けると履行件数を大きく見誤るため、履行件数は必ず加入件数を経由して見込みます。免責金額を置く設計では、平均支払額を免責控除後の自社負担額に読み替えます。
仮の数値を置いた計算例
次の表は、式の使い方を示すための仮の数値による例です。実在の料率・事故率ではないため、自社の販売実績と故障・返品・キャンセルの記録に置き換えてお使いください。保険型は、顧客が保険料を引受主体へ負担し、自社は募集・取次ぎの手数料を受け取る手数料型で置いています。
この手数料型は、自社が損害保険代理店等として登録して募集体制を備えるか、引受主体(保険会社・その代理店)の管理下で行う紹介=募集関連行為として自社の行為を位置づけるか、そのいずれかを前提とした置き方です。登録も管理下の位置づけもないまま取次ぎの手数料を受け取れる、という意味ではありません。前掲「自社の立場をどう置くか」で自社がどの立場に立つかを確定し、受け取る対価の名目と根拠を引受主体との契約で決めたうえで、この例の手数料欄を自社の数字に置き換えてください。
| 項目(すべて仮の数値) | 保証として自社が履行する場合 | 保険として調達する場合(手数料型) |
|---|---|---|
| 想定取引件数(月) | 10,000件 | 10,000件 |
| 想定加入率(任意付帯) | 10% → 加入1,000件 | 10% → 加入1,000件 |
| 顧客が支払う保証料/保険料 | 500円 × 1,000件 = 500,000円(自社の収入になる) | 500円 × 1,000件 = 500,000円(引受主体の収入。自社の売上には立たない) |
| 自社の収入 | 保証料収入 500,000円 | 募集・取次ぎの手数料 100円 × 1,000件 = 100,000円(代理店登録等の募集体制、または引受主体の管理下での募集関連行為としての位置づけを前提) |
| 想定事故率(加入件数に対して) | 2% → 支払い20件(加入1,000件 × 2%。取引10,000件には掛けない) | 2% → 支払い20件(負担は引受主体) |
| 平均支払額 | 15,000円 → 想定支払額 300,000円 | —(引受主体が負担) |
| 運営・事務コスト(月) | 120,000円(受付・査定・修理手配・顧客説明) | 60,000円(受付・説明・記録) |
| 粗利 | 500,000 − 300,000 − 120,000 = 80,000円 | 100,000 − 60,000 = 40,000円 |
保険型でこの置き方をしているのは、保険型では保険料が引受主体の商品・約款に基づいて定まり、原資も引受主体へ移るからです。顧客から保険料を受け取って引受主体へ少ない額を渡し、その差額を自社の収益とする形は、前掲の比較表で示した保険型の前提(原資の持ち方・説明根拠)と噛み合わないため、試算の既定には置きません。自社が保険料を負担する自動付帯型で組む場合は、前項のとおり収入をサービス価格の上乗せ分として置き換えて計算します。
この例から読めるのは、平常時の粗利は保証型のほうが大きい一方、実績が想定からずれたときの振れ幅も保証型に残ることです。仮に事故率だけが2倍(4%)に振れると、保証型の想定支払額は600,000円となり、粗利は−220,000円の赤字に転じます。保険型は、事故時の支払いを引受主体が負担し、自社の収入は手数料で固定されているため、同じ月でも粗利は40,000円のままです(引受条件そのものの見直しは、次の更新時の論点になります)。
試算項目の表と計算例を自社の数字で埋めていくと、判断のポイントが2つ見えてきます。ひとつは、免責・支払限度の置き方が、費用と顧客価値を同時に動かすこと。もうひとつは、保証型を選んだ場合に、支払いが特定の時期に集中したときの負担が自社に残ることです。後者に備える設計が、前述のバックファイナンス(保証の履行費用を保険で裏付ける仕組み)です。詳しくは保証事業のバックファイナンスとは?で扱っています。
なお、料率や保険料の水準は、提供者・プラン・引受条件によって変わります。ここで置くべきは他社の数字ではなく、自社の故障・返品・キャンセルの発生記録から導いた数値です。粗い概算でも、前提(母数の定義、事故率の分母)がそろっていれば、引受候補との協議は具体的に進みます。
スキーム選択の判断材料
ここまでの論点を、自社の状況に当てはめる段階では、次の項目が判断材料になります。すべてが整っている必要はありません。
| 確認項目 | 整理しておくこと |
|---|---|
| 対象サービス | どのサービス・どの購入導線に組み込むか |
| カバーしたいリスク | 破損・故障・キャンセル・賠償など、補償したい事象 |
| 想定規模 | 月間取引件数、想定加入率、客単価 |
| スキーム方針 | 保険型か保証型か、自社引受か提携か |
| 体制・人員 | 説明・苦情対応・支払い運用を誰が担うか |
| 既存契約・規約 | 現行の利用規約、既存の保証・保険契約、提携先との契約条件 |
この6項目のうち、最初に手が付けやすいのは「対象サービス」と「カバーしたいリスク」です。この2つだけでも決まっていれば、保険型と保証型の比較は始められます。逆に、規模や体制が未定のまま検討を止めておく必要はありません。検討がどの段階にあっても、対象サービスとリスクの話から着手できます。
那由他保険テクノロジーズが組込型保険・保証スキームの引受条件比較と設計でご支援できること
ここまでの論点を社内で整理しても、会社ごとに最後まで残る実務が3つあります。
- 保険型と保証型のどちらで組むかを決めきれない:自社の月間取引件数・客単価・想定加入率と、破損・故障・キャンセルの発生実績に照らして、どちらの負担が自社に合うのかが比べられていない
- 引受候補ごとの条件差が並んでいない:候補・提携先ごとに補償対象や免責、支払条件が異なり、どれが自社の購入導線にそのまま載る条件なのかが分からない
- 規約・約款と引受条件が突き合わされていない:利用規約や既存の保証約款で顧客に約束している範囲と、引受候補が示す条件のどこがずれるのかが、文書をまたぐため一覧になっていない
那由他保険テクノロジーズは、事業会社のサービスに保険・保証を組み込む組成型・付帯型保険ソリューションと、事業リスクと契約条件に沿った保険調達支援を担当領域としています。この記事の論点でご一緒するのは、次の作業です。
- 条件の照合:現行の利用規約・既存の保証約款・提携先との契約書・購入フローの画面設計を、引受候補が示す補償対象・支払限度額・免責金額・除外事由・事故通知の期限・更新条件と項目単位で並べ、どの条件ならそのまま組み込めるか、どの条件は規約・約款の書き換えが必要かを整理します
- 原資と付帯収益の試算:想定加入率と客単価から必要な原資と付帯収益の見込みを試算し、保険として調達する場合と保証として自社が履行する場合の負担を、同じ項目で比較できる形にします
- 運用の切り分け:一次受付・査定・支払い・苦情対応を、自社と引受主体・提携先のどちらが担うのかを段階ごとに割り付け、事故受付フローに必要な記録項目まで落とします
- 照会先の切り分け:保険会社・少額短期保険業者へ照会すべき引受条件と、そのために必要な取引データの項目を文書化し、社内のどの部門が回答する項目かを分けた状態でお渡しします
ご相談後には、保険型と保証型それぞれで自社に残る負担がどう違うか、引受候補の条件のうち何が自社の導線に載り何が載らないか、次に誰へ何を照会すればよいかという判断材料が手元に残ります。補償範囲の重複や不足が生じている条項、引受候補ごとの免責・支払限度額の差、購入画面での表示位置と担当区分といった論点を、文書名・項目名の単位まで特定した状態で持ち帰っていただく時間です。
なお、自社の行為が保険募集に該当するか、少額短期保険業の登録が必要かといった法令上の該当性判断は弁護士および必要に応じて当局、保証料・保険料の税務会計上の取扱いは税理士・公認会計士の領域です。当社が担うのは、その判断材料となる契約条件と運用実態の整理・比較と、設計・調達の支援であり、特定の引受条件や収支の結果を保証するものではありません。
利用規約も、既存の保証約款も、想定取引データも、そろっていない段階で構いません。何から手を付けるか決まっていない状態からご一緒するのが前提です。現状をうかがいながら、どの資料をどの粒度で見ればよいかの整理から一緒に進めますので、保険型と保証型の比較からお気軽にご相談ください。
よくある質問
組込型保険と延長保証はどう違いますか?
延長保証は保証型の一例で、メーカーや販売店が故障時の修理などを引き受ける仕組みです。組込型保険はより広く、保険会社等が引き受ける保険を自社の購入導線に組み込む形も含む、提供形態を指す言葉です。引受主体と規制の枠組みが異なるため、設計段階でどちらに当たるかを整理することが重要になります。
自社サービスに保険を組み込むには許認可が必要ですか?
自社が保険募集に該当する行為を行うか、自ら引受主体になるかによって、必要な対応が変わります。提携先の保険会社等を通じて提供する場合と、少額短期保険業として自ら引き受ける場合では要件が異なるため、想定スキームに応じた確認が必要です。
保険型と保証型は、どの時点で決める必要がありますか?
導入7ステップの2番目、引受・提携先を選ぶ前です。ここが決まらないまま補償設計や画面実装を進めると、規制・原資・運用の前提が後から入れ替わり、料率も約款も作り直しになります。逆に言えば、対象サービスとカバーしたいリスクが決まっていれば、この分岐の検討は始められます。
事故が起きたとき、顧客はどこへ連絡することになりますか?
実態としては、まず商品・サービスを購入した自社へ連絡が来ます。保険型で最終的な支払い判断を保険会社が持つ場合でも、一次受付は自社になるのが通例です。誰が受け付け、どこへ取り次ぎ、何を記録するかを販売開始前に決めておくと、顧客体験と支払いまでの速さが安定します。
小さな取引規模でも組込型保険は始められますか?
始められます。保証型から着手する、提携先の既存スキームを活用するなど、規模に応じた選択肢があります。重要なのは、補償したいリスクと、原資・運用体制が見合っているかどうかです。まずは対象サービスと想定件数を整理したうえで、無理のない範囲から設計するのが現実的です。
原資と収益は何から試算すればよいですか?
想定取引件数・想定加入率・客単価という売上側の3項目と、想定事故率・平均支払額・運営コストという費用側の3項目を、同じ表に並べるところから始めます。6項目は、想定支払額=取引件数×加入率×事故率×平均支払額、粗利=収入−想定支払額−運営コスト、という2本の式でつながります。事故率の分母は加入件数と決め、取引件数に事故率を直接掛けないことだけ守れば、概算でも引受候補との協議は具体的になります。式の展開と、保険型で手数料を受け取る場合の置き方(代理店登録等の募集体制、または引受主体の管理下での募集関連行為としての位置づけを前提とします)は、本文「試算項目をつなぐ関係式」で確認してください。
参考一次情報・公的資料
- 金融庁「保険に関する情報」
- 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」
- 金融庁「保険募集管理態勢」(保険会社向けの総合的な監督指針)
- 金融庁「少額短期保険業者」
- 金融庁「保険業法上の『保険』に関するQ&A」(保険業該当性)
- 日本損害保険協会「企業のための保険ナビ」
- 日本損害保険協会「損害保険とは?」
- 日本損害保険協会「損害保険代理店とは」
情報確認日:2026年9月4日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年9月4日
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の保険商品の勧誘を目的としたものではありません。補償内容、引受可否、保険料、保険金の支払いは、商品・約款・契約条件および個別の事情により変わります。保険業該当性・保険募集該当性は個別の設計により判断が分かれるため、法務および必要に応じて当局に、税務・会計上の取扱いは税理士・公認会計士等にご確認ください。