
GLTD(団体長期障害所得補償保険)を検討するとき、商品説明から入って見積条件を選ぶと、「自社に本当に足りない部分はどこか」が最後まで曖昧なまま契約に進みがちです。順序を入れ替えて、従業員が就業できなくなった後の所得を、休職開始から長期化・復職後まで時系列で並べ、公的給付・社内制度・既存団体保険がどこまで支えるかを先に確認すると、埋めるべき空白と、逆に重複している範囲が見えてきます。この記事は、中堅・大企業の人事・福利厚生担当者が、その空白を埋めるためにGLTDを何の目的でどう設計・運用するかを、自社の次の社内作業として判断できるよう、時系列・目的・設計・運用の順で整理します。
Summaryこの記事のポイント
- GLTDは病気やケガで長期に就業できなくなったときの所得減少を補償する団体保険で、休職制度・復職支援・労災上乗せ・医療保険とは役割が分かれます。
- 就業不能後の所得は、給与・有給・病気休暇、傷病手当金、障害年金、労災、既存団体保険が時期ごとに担い手を替えるため、時系列で並べて初めて空白が見えます。
- 傷病手当金や障害年金は、就業不能なら誰でも同じ条件で受け取れるものではなく、要件・期間・金額が定められています。
- 導入判断は「給付終了後の長期所得減少・休職中の不足・復職後の収入減のどれを埋めるか」という目的の言語化から始めます。
- 補償割合・支払対象外期間・補償期間・精神障害の扱いは商品ごとに異なるため、自社の目的と規程に沿って条件を確かめます。
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GLTDとは何か──就業不能時の長期所得を補償する団体保険
GLTDはGroup Long Term Disabilityの略で、日本語では団体長期障害所得補償保険と呼ばれます。従業員が病気やケガで長期間働けなくなったとき、失われた所得の一定割合を、あらかじめ定めた期間にわたって給付する団体保険です。Chubbは、従業員が病気やケガで仕事ができなくなったとき、所得の減少額の一定割合を長期間にわたり毎月支払う保険と説明しています(Chubb「団体長期障害所得補償保険」)。所得補償保険について、日本損害保険協会は、ケガや病気によって就業不能となった場合の所得の喪失を補償する保険と説明しています(日本損害保険協会「所得補償保険とは」)。
所得補償として何をカバーし、何をカバーしないか
GLTDがカバーするのは、就業できなくなったことによる所得の減少です。治療そのものにかかる費用や、入院・手術に対する所定の給付を主目的とする医療保険とは補償対象が異なります。給与や公的給付、既存保険との関係で実際の支払額がどう決まるかは、契約条件を確認する必要があります。
就業障害の定義、支払対象外期間、補償割合、補償期間、精神障害や妊娠に伴う身体障害・天災の扱い、復職後に所得が下がった場合の扱いは、基本補償に含むか特約か対象外かを含め、商品ごとに異なります。東京海上日動の現行約款でも、所得喪失率、回復所得額、免責期間、てん補期間などが契約上の定義として置かれています(東京海上日動「総合生活保険(GLTD)の約款」)。「給与の何割」「何歳まで」「精神疾患も補償」といった前提を一律に当てはめず、各商品の条件で確かめます。
GLTDと休職制度・復職支援・労災上乗せ・医療保険との役割の違い
GLTDは所得補償であって、就業上の配慮や復職判断そのものを代替するものではありません。隣接制度との役割を分けると、GLTDに何を期待し、何を別に整えるかが決まります。
| 制度・保険 | 主な目的 | GLTDとの違い |
|---|---|---|
| GLTD | 長期の就業障害による所得減少の補償 | 所得減少を契約条件に沿って補償する |
| 休職制度・給与継続 | 雇用を維持しながら療養期間を確保する | GLTDは社内規程の代替ではない |
| 復職支援・両立支援 | 治療と仕事の両立、職場復帰の判断・配慮 | 就業上の配慮や復職判定はGLTDとは別に行う |
| 労災上乗せ | 業務上の傷病への法定外補償等 | 対象事由や給付条件が異なる |
| 医療保険 | 入院・手術等に対する所定の給付 | 所得減少ではなく入院・手術等を給付事由とする |
厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」(2026年4月適用)は、主治医情報、就業継続の可否、望ましい就業上の措置、通院時間などの配慮を踏まえた社内支援を示しています(厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」)。GLTDは所得面を支える一要素であり、復職プランや再発防止そのものを担うわけではありません。業務災害への備えは、業務災害総合保険の解説もあわせて確認してください。
従業員が就業できなくなった後の所得を時系列で並べる
空白を定義するには、「就業できなくなった後、いつ・何が・どの程度支えるか」を時間軸で並べます。担い手が時期ごとに替わるため、一時点だけを見ても不足は見えません。
休職開始から長期化・復職後までの収入推移
就業できなくなった直後は有給休暇や病気休暇、会社の給与継続が支えることがあります。その後、給与が止まる時期に公的給付が入り、療養が長期化すると公的給付にも期間や要件の境界があります。復職しても、以前と同じ職務・時間に戻れず所得が下がる局面も考えられます。この「初期」「中期」「長期」「復職後」で担い手が入れ替わる構造を押さえます。
休職・病気休暇・給与継続の内容は企業ごとに異なります。厚生労働省は、年次有給休暇とは別の病気休暇制度について、取得要件や期間は労使協議や使用者の決定によることが一般的と説明しています(厚生労働省「病気療養のための休暇」)。自社の規程を確認したうえで並べます。
給与・休暇、傷病手当金、障害年金、労災、既存団体保険が担う範囲
- 傷病手当金:協会けんぽでは、業務外の病気やケガで会社を休み、十分な報酬を受けられないなどの要件を満たす場合に支給されます。支給期間は支給開始日から通算1年6か月、1日当たりの支給額は原則として標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2です(協会けんぽ「傷病手当金」)。加入する健康保険の制度を確認してください。
- 障害年金:病気やケガによって生活や仕事が制限される状態となり、障害状態・初診日・保険料納付などの要件を満たす場合に請求できます(日本年金機構「障害年金」)。
- 労災保険:業務上または通勤による傷病に対する給付で、業務外の私傷病とは制度上の入口が異なります。
- 給与・有給・病気休暇:自社の就業規則・休職規程・病気休暇規程が定める範囲です。
- 既存の団体保険:すでに所得補償の一部を担っている場合があるため、保険証券・約款で確認します。
自社に残る所得減少の空白と重複を定義する
担い手を並べたら、時系列の各区分で「残りやすい空白」と「確認すべき重複」を書き出します。数値は自社の規程・給与水準・加入制度で埋めてください。
| 時系列区分 | 主な担い手の例 | 確認する空白 | 重複・調整の確認 |
|---|---|---|---|
| 初期 | 有給・病気休暇・給与継続 | 給与が減り始める時点 | 給与と公的給付の調整 |
| 中期 | 傷病手当金等 | 従前所得との差額 | 既存団体保険や社内給付との関係 |
| 長期 | 障害年金等(要件を満たす場合) | 公的給付の要件・期間の外に残る所得減少 | GLTDの他給付との調整条項 |
| 復職後 | 時短・配置転換後の給与 | 従前より所得が下がる期間 | 回復所得の扱いと支払条件 |
この表を雇用区分ごとに作ると、中期に差額が残る区分、長期の所得減少が大きい区分、既存制度と重なる区分が具体的に見えます。
何のためにGLTDを導入するか──導入目的を言語化する
ギャップ表で見えた空白のうち、会社としてどこを埋めるのかを言葉にします。ここが曖昧なまま補償割合や期間を選ぶと、費用の説明も条件比較も難しくなります。
- 公的・社内給付の終了後に残る長期所得減少を埋める
- 休職中の給与と公的給付では足りない差額を埋める
- 復職後の時短勤務・配置転換等による収入減に備える(対象可否は商品条件で確認)
採用・定着や健康経営への好影響を導入目的として説明する場合も、効果を保証する表現は避けます。まずは「自社のどの所得空白を、どの範囲で埋めるか」を主目的に置くと、社内合意と制度設計をつなげやすくなります。
目的に沿って設計条件を判断する
対象者と雇用区分の範囲を決める
正社員、契約社員、再雇用者、出向者、海外勤務者、役員など、どこまでを制度対象とするかを決めます。「社内制度として対象にしたい範囲」と「保険の被保険者要件」を分けて確認し、両者のずれを防ぎます。
支払対象外期間・補償割合・補償期間などを比較する
| 条件 | 確認すること |
|---|---|
| 就業障害の定義 | どの状態を支払対象とし、復職後をどう扱うか |
| 支払対象外期間 | 給付開始までを社内制度や公的給付で支えられるか |
| 補償割合 | 他の給付を踏まえ、どの所得水準を目標とするか |
| 補償期間 | どの程度の長期所得減少を対象にするか |
| 精神障害等の扱い | 基本補償・特約・対象外のどれか |
| 復職後の所得減少 | 回復所得と保険金の計算方法 |
| 他給付との調整 | 給与、公的給付、既存保険等との関係 |
財源と雇用区分間の公平性を説明する
会社負担、従業員の任意加入、両者の組み合わせなど、利用できる方式を商品・団体条件で確認します。雇用区分・給与水準・拠点によって給付差が生じる場合は、その理由を従業員に説明できる設計にします。費用相場や一人当たり保険料は団体条件で変わるため、実際の見積条件で比較します。
導入後に運用できるかを確認する
- 入退社、雇用区分変更、給与改定を加入者情報へ反映する担当と頻度
- 休職開始・復職情報を人事、産業保健、給与、請求窓口間で連携する手順
- 給与データの提供主体、範囲、更新方法
- 公的給付とGLTDの請求を従業員へ案内する時期と担当
- 本人同意・告知、健康情報を含む個人情報の取扱範囲
- 更新時に雇用区分、社内規程、既存保険との重複を見直す手順
人事・労務・産業保健・給与・法務・コンプライアンス・労働組合など、関係者の役割を導入前に決めます。GLTDは導入して終わる福利厚生ではなく、異動・請求・説明・更新を継続して回す制度です。
導入判断に向けた社内作業と、那由他保険テクノロジーズによる所得ギャップ照合・GLTD補償条件の比較支援
商品比較の前に、まず自社側で次の順に要件を固めます。
- 就業規則・休職規程・病気休暇規程を確認し、時系列の担い手を並べる。
- 雇用区分ごとに所得補償の時系列ギャップ表を作り、空白と重複を書き出す。
- どの空白を会社として埋めるか、導入目的を言語化する。
- 目的に沿って対象者・補償条件・財源を比較する。
- 導入後の異動・請求・説明・更新を運用できるか確認する。
社内規程や集計が未整理のままでも、相談は始められます。時系列ギャップ表や雇用区分別の整理が途中の段階からご相談いただき、規程や既存契約の確認は相談後に一緒に進めていけますので、検討の初期段階でもお気軽にお問い合わせください。
那由他保険テクノロジーズでは、社内で並べた休職規程・給与継続・公的給付・既存の団体保険を、就業不能後の所得の時系列に照合し、残る不足と重複を所得ギャップとして整理します。そのうえで、対象者・雇用区分の範囲、支払対象外期間、補償割合、補償期間、精神障害等の扱い、復職後の所得減少といったGLTDの補償条件を、言語化した導入目的と予算に沿って比較し、制度設計と保険調達を支援します。就業規則・休職規程の整備や復職判定といった社内で行う判断を代替するものではなく、導入効果、保険料削減、引受、保険金支払、採用・定着効果を保証するものでもありません。
よくある質問
GLTDに入れば、就業できなくなった従業員は必ず給付を受け取れますか
就業障害の定義、支払対象外期間、対象外事由など、契約条件を満たした場合に支払われます。就業できなくなれば無条件に支払われるものではありません。
傷病手当金や障害年金があれば、GLTDは不要ですか
公的給付には要件・金額・期間があります。自社の給与継続や既存保険も含めて時系列で並べ、残る所得減少を会社として補う必要があるかを判断します。
精神疾患による休職も補償されますか
精神障害の扱いは、基本補償、特約、対象外のいずれかが商品ごとに異なります。検討する商品の約款・特約で確認してください。
GLTDは労災上乗せ保険や医療保険と何が違いますか
労災上乗せは業務上の傷病に関する法定外補償等、医療保険は入院・手術等の所定給付、GLTDは就業障害による所得減少を主な対象とします。ただし、業務上・業務外の補償範囲は商品・契約条件で異なるため、名称だけで判断せず確認してください。
契約社員や再雇用者も対象にできますか
社内制度としての対象範囲と、保険側の被保険者要件を突き合わせて判断します。区分間で給付差が出る場合は、その理由を説明できるようにします。
参考一次情報・公的資料
- 日本損害保険協会「所得補償保険は、どのような保険ですか」
- Chubb「団体長期障害所得補償保険(GLTD)」
- 全国健康保険協会「傷病手当金」
- 日本年金機構「障害年金」
- 厚生労働省「病気療養のための休暇」
- 厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」
- 東京海上日動「総合生活保険(GLTD)の約款」
情報確認日:2026年8月1日
執筆:中村 祐太朗(那由他保険テクノロジーズ株式会社 Risk & Benefits事業 執行役員/損害保険・生命保険募集人)|編集:那由他保険テクノロジーズ株式会社 編集部|最終更新日:2026年8月1日
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。補償の範囲、引受の可否、保険料、保険金の支払、公的給付の要件・金額は、商品・約款・契約条件および個別の事情によって決まります。法務・税務・労務・会計に関わる判断は、必要に応じて専門家の確認をお願いします。