
退職金規程を作るときにまず決めるべきは、「誰に・いくらを・どの計算式で・どの財源から払うか」の4点です。中小企業ではこの設計が曖昧なまま企業型DC(確定拠出年金)や中小企業退職金共済(中退共)といった制度・商品の導入が先行し、規程と実態がずれてしまう事例が少なくありません。制度を選ぶのは、支給ルールと財源方針を文章で固めた後です。
この記事では、退職金規程に最低限盛り込む項目、支給額の決め方の型、DC・共済・保険といった財源手段の整理の仕方、そして設計の判断材料になる資料を実務目線で整理します。自社の就業規則や賃金体系によって最適解は変わるため、最終的には規程・契約条件・運用実態を確認しながら設計することをおすすめします。
企業型DC・退職金制度の導入をご支援しています
試算・ご相談は無料です
退職金規程で最初に決める4つの論点
退職金規程は「制度を作るか・作らないか」の議論から入ると迷子になります。先に決めるべきは、次の4つの基本論点です。
1. 対象者の範囲
正社員のみか、契約社員・パートを含めるか。勤続年数の下限(例:勤続3年以上)をどう置くか。試用期間や定年後再雇用の扱いも整理します。対象範囲は将来の総支給見込み額に直結するため、最初に固めます。
2. 支給額の算定方法
後述する「基本給連動型」「ポイント制」「定額制」などから、自社の賃金体系に合う型を選びます。算定方法は財源計画の前提になります。
3. 財源(どう積み立て、どう払うか)
社内引当のみか、中退共・企業型DC・養老保険などの社外積立を併用するか。財源の選び方は税務処理にも影響するため、顧問税理士と並走して検討します。
4. 支給制限・不支給事由
懲戒解雇時の減額・不支給、自己都合と会社都合での支給率の差などを明文化します。ここを曖昧にすると、後の紛争リスクになります。
支給額の決め方|3つの代表的な型
支給額の算定方法は、大きく次の3型に分けられます。自社の人事ポリシーと管理負荷で選びます。
| 方式 | 計算の考え方 | 向いている企業 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 基本給連動型 | 退職時基本給 × 勤続年数別係数 × 退職事由別係数 | 賃金テーブルが整っている企業 | ベースアップが将来債務を押し上げやすい |
| ポイント制 | 勤続・等級・役職ごとのポイント累計 × ポイント単価 | 貢献度を反映したい企業 | ポイント設計と運用管理に手間がかかる |
| 定額制(勤続年数別) | 勤続年数に応じた定額表で支給 | シンプルに運用したい中小企業 | 役割・貢献の差を反映しにくい |
いずれの方式でも、退職事由(自己都合/会社都合/定年)による支給率の差を表で明示しておくと、運用時の判断がぶれにくくなります。
財源の選択肢|社内引当・中退共・企業型DC・保険
支給ルールが固まったら、それを「どの財源で賄うか」を検討します。代表的な手段の特徴を整理します。
| 手段 | 積立の性格 | 確認すべき観点 |
|---|---|---|
| 社内引当 | 社内に資金を留保 | 資金繰りと将来債務の見える化 |
| 中小企業退職金共済(中退共) | 社外積立・国の制度 | 加入要件・掛金・運用条件 |
| 企業型DC(確定拠出年金) | 社外積立・運用は加入者 | 規約・運営管理・従業員説明 |
| 養老保険など | 保険を活用した積立 | 契約条件・経理処理・解約時の扱い |
企業型DCは掛金の拠出方法や運用商品のラインナップ、従業員への投資教育まで設計が必要です。制度の概要は厚生労働省の確定拠出年金制度の概要を確認してください。保険を財源に使う場合の経理処理や契約条件は、商品や契約形態によって扱いが異なるため、証券と契約条件を見ながら個別に判断する必要があります。一般的な保険の仕組みは金融庁の保険についての解説も参考になります。
規程と他制度の整合を取る
退職金規程は単独では完結しません。次の関連書類との整合を必ず確認します。
- 就業規則・賃金規程:算定基礎となる賃金の定義が規程間でずれていないか
- 労使協定・労働者代表の意見聴取:規程の作成・変更時の手続を踏んでいるか
- 各制度の規約・約款:中退共・企業型DC・保険の条件が規程の支給ルールと矛盾しないか
特に「規程上の支給額」と「社外積立で準備できる額」にギャップがある場合、その差をどう埋めるかを設計段階で決めておくことが重要です。
退職金設計の判断材料になる資料
退職金制度の設計や見直しでは、次の資料が判断材料になります。規程と名簿で支給ルールと対象者を、共済・DC・保険の書類と過去の支給実績で財源の現状を、人員計画で今後の負担を見るためのものです。
- 現行の就業規則・賃金規程・退職金規程(ある場合)
- 従業員名簿(年齢・勤続年数・雇用区分が分かるもの)
- 現在加入している中退共・企業型DC・保険の規約や証券
- 過去数年の退職金支給実績
- 今後の採用・人員計画と、想定する支給水準のイメージ
これらが並ぶと、現状の支給ルールと財源のギャップ、税務・経理上の確認点が具体的に見えてきます。ただし、手元で未整理のままでも相談は始められます。現状のままご相談いただければ、何から整えるべきかは相談後に一緒に整理します。
那由他保険テクノロジーズによる退職金規程と社外積立(中退共・企業型DC・養老保険)の突き合わせ
ここまでの整理を終えても、会社ごとに残りやすい実務が3点あります。1つ目は、退職金規程の支給率表で算定した勤続年数別の支給見込み額と、中退共の掛金月額・企業型DCの事業主掛金・養老保険の保険金額で準備できている額との差が、社員区分ごとに把握できていないことです。2つ目は、退職金規程が算定基礎とする「基本給」の定義と、賃金規程上の手当区分がずれたまま運用されていることです。3つ目は、養老保険を財源に使っている場合に、証券上の契約者・被保険者・満期保険金受取人・死亡保険金受取人の組み合わせが、規程に定めた支給事由(自己都合・会社都合・定年・死亡退職)と対応しているか確認されていないことです。
当社は福利厚生制度設計と企業型DC導入支援の立場から、この3点を具体的な資料で突き合わせます。退職金規程の支給率表と従業員名簿(生年月日・入社日・雇用区分)から、社員区分別・退職年度別の支給見込み額を並べます。そこに中退共の加入者別掛金納付状況、企業型DC規約に定めた加入対象者の範囲と事業主掛金額、養老保険証券の保険金額・満期日・払込満了日を重ね、区分ごとの不足額と、定年退職が集中する年度を特定します。証券や規約だけでは確認できない解約返戻金の推移、規程変更に伴う契約条件の変更可否、加入対象者の追加要件は、保険会社の法人窓口や運営管理機関への照会項目として書き出し、どちらの回答待ちかが分かる形で残します。
この突き合わせができると、規程の支給水準を据え置く、社外積立の掛金を積み増す、財源手段を組み替える、といった選択肢を、社員区分と退職年度ごとの不足額という同じ数字の上で比較できます。保険を追加せず社内引当と中退共だけで進める案も比較対象に含めますし、規程が未整備の段階で契約を急いで変更する必要はありません。なお、掛金や保険料の損金算入の可否と時期は顧問税理士、規程の変更手続や労使協定・意見聴取の要否は社会保険労務士の判断領域であり、当社は保険代理店として、規程の支給ルールと保険・共済・企業型DCの契約条件、運用実態を突き合わせ、その判断に必要な材料を整えたうえで、自社条件で何を整えるべきかを整理するところまでを担当範囲とします。積立額や保険料の削減余地についても、削減案の比較検討までを支援するもので、結果を保証するものではありません。企業型DCの活用検討については確定拠出年金の支援ページもご覧ください。制度や商品の有利・不利は個別条件で変わるため、断定はせず、証券・規程・契約条件を確認したうえでご提案します。
支給見込み額と積立額のギャップの確認から、まずはご相談ください。退職金規程が草案の段階でも、就業規則・賃金規程や中退共・企業型DC・保険の規約や証券が手元にそろっていなくても構いません。どの書類を見れば差が分かるかは、相談後に一緒に確認していきます。
よくある質問
退職金規程は必ず作らなければいけませんか
退職金制度の導入自体は法律上の義務ではありません。ただし退職金を支給する場合は、就業規則に支給対象・計算方法・支払時期などを定める必要があります。制度を設ける場合は規程として明文化することをおすすめします。
中退共と企業型DCはどちらを選ぶべきですか
一概にどちらが有利とは言えません。掛金の拠出方法、運用の考え方、従業員への説明負荷、自社の賃金体系との相性によって適した手段が変わります。自社条件と規程の支給ルールを踏まえて比較することをおすすめします。
保険を退職金の財源にすると損金になりますか
保険の経理処理は商品種類や契約形態によって扱いが異なり、一律には判断できません。損金算入の可否や時期は契約条件と税務上の取り扱いに依存するため、証券と契約条件を確認のうえ、顧問税理士と並走して検討することをおすすめします。
参考一次情報・公的資料
- 金融庁「保険に関する情報」
- 日本損害保険協会「企業のための保険ナビ」
- 日本損害保険協会「損害保険とは?」
- 金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」
- 金融庁「保険募集管理態勢」
- 日本損害保険協会「損害保険代理店とは」
- 厚生労働省「確定拠出年金制度」
- 厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」
情報確認日:2026年7月3日